第48話
御屋敷
「アルベル」
「うん、なんだ」
「なんだじゃない、おきろ! 」
「えっ、ミーニャ? 俺は? 」
「あんたはアルベル」
「それはわかっている、何でここに? 」
「あ~そうだ、昨日は皆で飲んでいて、そのまま寝てしまったか」
「皆も起きな! もう直ぐ昼になる」
マーリー、アニー、アルマ、セルファ、コニー、が目を覚ます、ジェルダ、は起きない、
「う〜ん、クーマ様ぁ〜」
「あっ、クーマ様だめです」
シフォンとノランはまだ夢の中だ、
『どんな夢を見ておる』
五人はまだ少し寝ぼけている、
アルベルが、声を掛ける、
「誰か、お二人を起こしてくれ」
「マーリー、ちょっと待ちな」
えっ、起こそうとしたマーリーの手が止まる、
「アルベル、誰か足らなくないか? 」
「えっ? 女王、ノラン、マーリー、アニー、アルマ、セルファ、コニー、ジェルダ、俺がいない」
「あほー! 」
アルベルは周りを見て・・・
「クーマ君がいない? ミーニャどこへ行った」
「散歩に行かれた」
「散歩? 」
「ポニーを連れてな」
「ポニーを連れて散歩か・・・」
「ミーニャ、それは本当に散歩か? 」
(声が震える)
「さぁ〜」
皆が後ずさる、
「お前達、取り敢えずお二人を起こせ」
「やですよ」
「何で? 」
「では、アルベル様がどうぞ」
「いや、俺は辞めたほうがいいかな」
そこへアクスがやって来る、
「おはようございます」
シフォンとノランが目覚める、二人は、ゆっくり目を開ける、そして、周りを見渡す、二人の顔つきが変わる、アクスには見えていない、
「クーマ様どこ? 」
「おはようございます、クーマ様はマルガ様とポニーを連れて散歩に行かれました」
周りの皆が止めようとしたが、間に合わなかった、
シフォンとノランがゆっくりと振り向く、目が据わっている、
「夕飯には戻ると・・・」(声が小さくなる)
「以上です! では、失礼します! 」
アクスがダッシュで逃げた、
マーリー達もそそくさと隠れる、
残ったアルベルがオロオロしながら逃げようとした所を、シフォンが呼び止める、
「アルベル説明を」
「え〜、何のですか? 」
「何故クーマ様が散歩に? 」
「何故ポニーとマルガを連れて? 」
「あ~、私も今聞いたところでして」
「それで許されると? 」
二人の目つきがヤバい、
「女王! ノラン! 」
ミーニャが一喝する、
シフォンとノランがビクッと跳ね、我に返る、
「クーマ様に言いつけますよ、ノランもです」
「やめて、ミーニャ、クーマ様に嫌われる」
「クーマ様はそんな事では嫌われません、分かっていますよね」
「はい・・・」二人が、シュンとなる、
クーマ様は出かける前に、やさしいお顔で、お二人の頭を撫でていかれました、お二人は幸せそうに寝てましたけど、
「えっ、嘘」
二人してにへら〜とにやけている、シフォンとノランは顔を見合わせ、皆に向き直り頭を下げる、「ごめんなさい」
「いえ、飲んでいたとは言え、誰も気づかなかったとは、面目ありません」
「それを言うなら私達もです」
「で、何でクーマ君は散歩に? 」
「さぁ、それはわからんが? 」
「あっ」
シフォンが気付いた、
「お嬢様・・・」
「先日クーマ様に何を言われたのですか? 」
「まさか・・・詰所に行きます! 」
シフォンが走り出す、
「お嬢様! 」
皆がノランの顔を見る、ノランが首を振る、
一斉に皆が走り出し、シフォンを追いかける、屋敷の玄関でシフォンが立ち尽くしている、追いついたノランが声を掛ける、
「お嬢様! 」
「ノランどうしよう私が、私がおねだりしたから、クーマ様に何かあったら、私、どうしたら」
女王が動揺している、
『おねだり? クーマ様に、何かお願いした、だから出かけた? ポニーとマルガを連れて? 何時も単独で行かれるクーマ様が共を必要とした? 』
ノランの顔つきが変わる、
「マーリー、馬を! 」皆が走り出す、
「お嬢様! しっかりして下さい! クーマ様は、大丈夫です」
「ノラン、どうしよう、私、クーマ様に、おねだりを・・・」
「お嬢様、クーマ様に、何をおねだりしたのですか? 」
「2つの指輪と胸飾り」
「えっ、それは・・・」
「それを私とあなたの分・・・」
えっ、ノランの顔が真っ赤になる、
「婚姻の証・・・」
「そうです、でもクーマ様には言っていません」
「言ってない? 」
「私は妻になる事を求めていません、だからクーマ様には言っていません、言うつもりもありません」
「貴方は? 私も言えません、クーマ様は旅人、自由は奪えません」
「私も同じです、でも魂は共にありたい」
ノランがシフォンを抱きしめる、
「クーマ様は大丈夫です」
「わかっています」
そばで聞いていたアルベルは、理解した、
『女王とノランは選ばれたのだな』
アルベルは空を見上げる、
マーリーたちが、馬を引いて戻って来た、
コニーがジェルダを引きずってくる、
「何ですか〜、まだ眠いんです〜」
「ジェルダ、クーマ様が、いません」
聞いた瞬間ジェルダが、バッと立上る、珍しくジェルダが真剣な顔をしている、
「クーマ様はどこへ」
「早くに散歩に出かけました」
「散歩? 」
「ええ、いつも単独のクーマ様がマルガ様とポニーを連れて」
「何処へ? 」
「多分、湖」
「皆さん早く行きますよ」と馬に飛び乗る、
皆が馬に乗る、
ジェルダが神力をつかう、身体強化と加速、馬が一斉に走り出す、
『速い! 』
ポニー程ではないが、信じられない速度で走る、
暫くして街の入口が見える、ジェルダが神力をゆっくり解除する、馬はそのまま街を駆け抜け詰所に、
「シフォンが叫ぶ」
「アクス! 出て来なさい! 」
詰所から出て来たアクスが身構える、顔が引きつり、今にも逃げようとしている、
いつの間にか、その後ろではジェルダが睨んでいる、シフォンとノランが詰め寄る、
「え〜皆さん、おはようございます」
(消えそうな声)
「アクス,話しなさい」
「はい、クーマ殿は今朝ポニーと共に来られ散歩に行く」と、
「それだけですか? 」
「マルガリータ様に、一緒に散歩に行かないか」と、
「本当に? それだけですか? 」
「あ~そういえば紹介しておきたいものがいるとか、言っておられたような・・・」
『紹介したいもの? 』
アルベルがそっと近づく、
「もしやシロヘビでは? 」
「・・・で、夕食には帰るとおっしゃったんですね」
「はい、そうおっしゃられました」
『シフォンが考えている、クーマ様が共を必要とした? 違う、クーマ様は共を必要としたのではなく、マルガとポニーをシロヘビに会わせるために、連れて行った』
「アクス、直ぐに部隊を、迎えに行く」
アルベルが、指示を出す、
「はっ、すぐに準備します」
「待ちなさい! 」
シフォンが止める、
「女王、何故? 」
「クーマ様は散歩に行かれました、夕食には帰ると、ならば、間もなく戻られるはず、ここで待ちます」
「いや、しかし」
「私はクーマ様を信じています、ここで待ちます」
ノランがそっと近づく、
「女王、私も、お供していいですか? 」
「ノラン・・・もちろんです、一緒に待ちましょう」
「皆に命じます、各自、部署に戻りなさい、アクス、ここは任せます」
「はっ、女王! 」
アクスが兵に声をかけながら走っていく、
「アルベル、何人か屋敷から呼んでください、多分必要になります」
「メイドが? 」
「さぁ、ですが、クーマ様が手ぶらで帰ると思いますか」
「あっ、確かに、準備させます」
シフォンとノランが門の前に移動する、ジェルダ達が何処からかテーブルと椅子を運んでくる、
「あなた達何を? 」
「クーマ様を待たれるのですよね」
「では、皆でお待ちするのは如何ですか、私も混ぜて欲しいです」
「ジェルダ・・・」
「女王、宜しいですか? 」
シフォンは身を正し言う、
「女王としては許しません・・・」
『やっぱりか〜』
「でも、シフォンとしては大歓迎です」
「良かった、ではお飲み物をご用意いたします」
「では、コーヒーをお願いします、ノランは? 」
「いえ、私も手伝います」
「まぁまぁ、たまには私達にお任せください、コーヒーで良いですね? 」
「ええ・・・」
「畏まりました、すぐに用意致します」
席に案内されると、
ジェルダ達がいつ用意したのかテーブルにクッキーを持ってくる、そしてカップにコーヒーを注ぐ、コーヒーの香りが心地良い、
暫く思いを馳せる、どれぐらい経ったのか、
気が付けば、周りにはテーブルが増え、屋敷から応援に来たメイド達が忙しなく動いている、
そばに来たアルベルが、
「ご一緒しても宜しいですか? 」




