第46話
「マルガ、ポニーは左を、ハクジャは右を、行くぞ、遅れるな! 」
クーマ様が歩き出す、合わせるように魔獣たちが襲いかかる、
レプタイルは決して弱い魔獣ではない、群れになったときの強さは脅威だ、
しかも此処にいるのは亜種のルビーばかり、危険度は倍増する、しかも奥にはサファイアもいる、
ポニーが先陣を切る、一撃で数頭を薙ぎ払う、
『強い! ポニーはこんなに強いのか!? 』
ハクジャはまるで、踊る様に進んでいる、クーマ様は何も無いかのごとく普通に歩いている?
『何なんだ? 何を見ている? 』
ポニーの鳴き声が、置いていくぞと言わんばかりに、響く、
私は、我に返りポニーの後を追う、
次から次に襲いかかるレプタイルを切り捨てる、
ポニーのペースが落ちている、
私に襲いかかる数が増えてきた、見れば周りは殆どがサファイア、中には見慣れない黄色い奴がいる、『こいつ速い』
何度も剣を交わされる、当たっても致命傷にならない、
クーマ様とハクジャは何も変わらない、私はポニーと二人で遅れている、
ポニーも気付いている、私はポニーの横に並ぶ、ポニーも気付いた、
「ポニー行くぞ」
グアウ、
私はポニーの死角をカバーし、ポニーは私の死角をカバーする、だんだん連携がとれてくる、
『二人に追いついた、いや、二人が止まっている? 攻撃がやんだ? 』
目の前には、ひときわ大きなレプタイルがいる、美しい透けるような鱗、ハクジャの言っていた、目的の魔獣、いつの間にか周りには、見たこともない翠のレプタイル・・・囲まれている、
見ただけで分かる、今までの奴とは違う、こいつらは危険だ、逃げることは出来ない、どうする、
クーマ様は、
見ればゆっくり歩き出している、ハクジャは動かない、ポニーも動かない、透ける鱗の(アダマス)レプタイルが吠える、スマラグが私達に一斉に襲いかかる、
ポニーが腕で薙ぎ払う、弾き飛ばされるスマラグ、しかし大した傷はない、
ポニーがキョトンとして自分の爪を見ている、次のスマラグがポニーに飛びかかる、それを腕で受け、ポニーが唸る、
グルルァァー、反対の腕を上からスマラグの頭に叩きつける、
地面にめり込みスマラグは動かなくなった、
ポニーの戦い方が変わった、薙ぎ払わず叩きつける、次々と動かなくなるスマラグ、
対して私は苦戦していた、剣を躱され当たっても弾かれる、徐々に距離を詰められる、
周りでは皆が戦っている、ポニーは戦闘スタイルを変え、ハクジャは踊るように叩きつけている?
『叩きつける? そうか、剣が駄目なら』
全身の血が騒ぐ、口からは咆哮が上がる、
気がつけばスマラグを、殴り倒していた、一気に囲みを蹴散らす、既に剣は鞘に納めた、ひたすら殴り蹴り飛ばす、全身に力が漲る、気がつけばポニーが横にいた、お互いに連携して敵を倒していく、
気が付けば戦いは終わっていた、
「私はまだまだだな」
自分の姿を見て思わず苦笑する、腕も足も鎧が壊れ血まみれ、ポニーも白い毛が真っ赤に染まっている、
クーマ様はアダマスとまだ戦闘中、アダマスは素早く動き、攻撃をかわしている、
後ろを取ったアダマスが飛びかかる、次の瞬間クーマ様の剣が脇腹を抉っていた、崩れ落ちるアダマス、
クーマ様がこちらを向きニコッと笑う、
『終わった・・・もう、動けない』
その時アダマスが動いた、
クーマ様は避けれない、走り出そうとしたが足が動かない、
ポニーはジッとみている、
ハクジャも動かない?
クーマ様は何事もなかった様に腕を振り降ろす、
ゴシャッ、と音が鳴りアダマスが地面に叩きつけられる、有無を言わさず2撃、3撃、と頭を殴り倒す、
たまりかねて逃げようとするアダマスの首のあたりを掴む、ビキッと音がして指が鱗を突き破る、そのまま腕を引き上げ地面に叩きつける、ゴキッと音が鳴りアダマスは動かなくなった・・・
少し離れた藪の中から、ハクジャが少し鱗の透けたレプタイルを連れて来て、クーマ様の前に放り出す、
『いつの間に? 』
逃げようとする所を押さえつける、レプタイルは完全に怯えている、周りのレプタイルは既に戦意を喪失、動けなくなっている、
ハクジャがクーマ様に声を掛ける、
「いかが致しますか? 」
「お前に任せる」
「畏まりました」
ハクジャは、レプタイルの前に立ち睨見つける、その目は赤く冷たい宝石のよう、見ているだけで魂までもが凍りつきそうだ、
クーマ様がこちらへ歩いてくる、
ポニーは直ぐに頭を擦り付け、
クオッ、クオッ、と鳴きながら甘えている、全身は傷だらけ、それでも、まるで褒めてと言っているようだ、
「ポニーよくやった」
明らかに喜んでいる、
「少し待て」
クーマ様が手をかざす、ポニーの傷が見る見る消えていく、
『回復? 』
ポニーの力が上がっている、ポニーの頭に2本の角が現れる、ホーンベア本来の姿、身体も一回り大きくなったように見える、溢れ出す力が今までと違う、
そして私のもとへ、
「大丈夫ですか」
「はい、何とか『腕は血まみれ、鎧はズタボロですが』」
『いつものクーマ様だ、口調も戻った』
そこへハクジャが、やって来る、
クーマ様が聞く、
「どうなった? 」
「はい、遅くなりましたが、湖周辺を制圧致しました」
「そうか、ご苦労」
「時間がかかってしまい、申し訳ございませんでした」
「いや、良くやってくれた、」
「ありがたき御言葉、感謝致します」
ハクジャは私を見て、
「マルガよくやった、しかし自分の力が制御出来ておらん、出来ればもっと強くなる」
『なかなかに痛い所を突いてくる』
「はい、努力します」
「よい」
「それでは、マルガさん、失礼します」
「クーマ様何を? 」
首元に当てられた手から温かいものが広がる、それが全身を満たしていく、
『はぁ~気持ちいい』
その途端全身に快感が走る、「フニャァッ! 」
私は気を失った、
『揺れている、揺り籠? 』
薄っすら目を開く、陽の光が眩しい、
私は眠っていたのか、何とも言えない幸福感がからだをつつんでいる、
『眠っていた? 』
「目が覚めましたか? 」
『クーマ様? えっ、何で? ここは? ポニーの上? クーマ様の膝の上? 』
顔が真っ赤になる、
「すっ、すいません、もう大丈夫です、おっ、おろして下さい」
ポニーが立ち止まり、私は慌てて飛び降りる、
「すみません」
「かまいません、少し小屋に寄ってから帰るとしましょう」
「はい、わかりました」
落ち着け私、顔が熱い、慌てて周りを見ると既に小屋は、目の前にある、
『私はどれぐらい寝ていたのだろう』
今はすごく体調がいい、傷も痛みもない、先の戦いが嘘のように疲れがない、ズタボロになった鎧がなければ夢でも見ていたようだ、
いや、あの戦いで見たもの全てが夢のようだ、
私は先に立ち小屋の扉を開ける、
クーマ様が少し首を傾げ、
「有難う御座います」と中へ入る、ハクジャにも勧めるが、
「我はポニーと話がありますので」
と言いポニーのもとへ行く、
それを見送り私も小屋へ入る、するとクーマ様が、既にお湯を沸かせていた、
「すみません、後は私が」
「かまいません、お座り下さい、コーヒーしか持っていませんが、かまいませんか? 」
「あっ、有難う御座います、カップを用意致します」
「お願いします」
奥の部屋からカップを取り出しテーブルへ並べる、コーヒーの香りが漂ってくる、心が落ち着くのがわかる、
目の前でクーマ様の淹れるコーヒーを見つめている、『コーヒーを? 違う見つめているのはクーマ様、なんだろう目が離せない』
「どうぞ」声を掛けられ我に返る、
目の前にはパンに魔獣肉のロースト、溶けたチーズがのっている、そしてコーヒーが注がれている、
『手際が良い』「有難う御座います」
「いえ」(戦闘時の緊張感はもう無い)
「どうぞ」
コーヒーとチーズの匂いが鼻をくすぐる、一気にお腹が空いてきた、
パンを掴み口へ運ぶ、「美味い! 」
思わず出た大きな声に自分でも驚く、
クーマ様はそれを優しい目で見ている、その目が私の魂を優しく包む、今この瞬間が幸せでたまらない・・・
「マルガさん」遠くでクーマ様が呼んでいる、『遠くで? 』はっ、と我に返る、
目の前には私を覗き込むクーマ様の顔が、
「マルガさん、だいじょうぶですか? 」
「だっ、だいじょうぶです! すみません、ちょっと疲れたみたいで」
「ですね」
「これはクーマ様がお作りになったのですか? 」
「いえ、パンもローストもミーニャさんに頂きました、チーズも一緒に分けていただきました」
「そうなんですか、凄く美味しいです」
「運動したあとですからね」
「運動ですか? 」
「ええ、いつもなら逃げるんですけどね」
「そういえば大事な人への贈り物と、それはシフォンですか? 」
「ええ、それとノランさんに」
「ノランもですか? 」
「はい、シフォンさんに、おねだりされました」
「何を? 」
「二つの指輪と胸飾りを二人分と」




