第44話
「二つの月が重なる? 」
「はい、夜空に浮かぶ二つの月が、25年周期で重なります、襲撃は何時もその時でした」
「一度目は人族の軍隊、数名の吸生鬼が紛れていたようですが」
「二度目は魔獣暴走を装った夜襲」
「三度目は結界破りからの夜襲」
「四度目は? 」
「間もなくです」
「間もなく? 」
「はい、予定では2週弱かと」
「私との契約の後・・・」
「はい、申し訳ありません、試させて頂きました、ですのでクーマ様は早々に街を離れて下さい」
「何故? 」
「過去の経緯から、次の戦いは危険なものになります」
「ドラーラ達は襲撃ごとに力をつけています、
事実、前回の戦いでは多くの犠牲者を出しました、クーマ様を巻き込めません」
「シフォン、私の契約期間は3週、まだ10日程残っています」
「前にお話したように、この依頼は完遂させたいので、それが終わったら、ここで4週ほどのんびりしようと思っています」
「お父上にお願いしようと、思っていたところです」
「4週? それでは襲撃に遭ってしまいます、駄目です認めません」
「えっ、どうしてですか? 二つの月が重なるんでしょ、しかも25年に一度、こんなチャンス見逃せません、でしょ」
「私は、シフォンと二人で見たいのですが」
「えっ、クーマ様それは・・・」
「今は言えません、月が重なるその時まで」
「クーマ様、でも危険が・・・」
「危険は常にあります、私は旅人? 危険を避けては暮らせません、ですのでお気遣いなく」
「駄目です! 私は認めません」
「私と月を見るのは嫌ですか? 」
「違います! 出来れば一緒に見たい・・・
でも、クーマ様を危険にはさらせません」
「危険ですか? 」
「危険では無いかも・・・ですが、クーマ様には関係の無い事です」
「えっ〜、こんなに仲良くなれたのに、関係ないなんて」
「そうか、シフォンにはその程度だったのか、ざ〜んねん」
「ちょっ、ちょっと待ってください、クーマ様、何を言ってるんですか」
「ですからシフォンにはその程度なんだな、と」
「違います! 私はクーマ様が好きです! 離れたくありません! でも、危険なんです・・・」
「シフォン、目の前で私が危険にさらされる時、シフォンはどうしますか? 」
「もちろんこの魂にかけて護ります! 」
「同じですよ」
「はっ、そんな・・・ずるいです、クーマ様、ずるい・・・」
シフォンの目に涙が溜まる、
「ちゃんと言って下さい」
「えっ」
シフォンが、飛びついてくる、
「駄目! やっぱり駄目です言わないで下さい、
クーマ様は旅人ですよね・・・」
シフォンは真っ直ぐ俺を見る、その目にもう涙はない、
「クーマ様」
目を閉じるシフォンと口吻を交わす、
『俺は多分、この街に住む者が好きだ、中でも数名には愛情を感じている、平和に暮らす彼女達は、俺が守るべき者、決して見過ごせない』
「シフォン、私はここに残ります、良いですね? 」
「クーマ様は私が絶対に守ります」
「良かった、これで安心して依頼をこなせます」
「依頼ですか? 」
「はい、依頼を受けた以上は、絶対に終わらせます、それに、今のお話なら幾らあっても困らないでしょ」
「そっ、それはそうですが、無理をなさらずとも」
「大丈夫ですよ、今は従者もいますから」
「従者? 」
「はい」
「あっ、シロヘビ」
「そうですハクジャと名付けました、今は南の魔獣を制圧させています、一度会いに行きましょう」
「わかりました、ハクジャですか、クーマ様が名付けをした」
「まずかったですか? 」
「いえ、クーマ様に名を頂いた、羨ましい」
「えっ」
「なっ、何でもありません」
「クーマ様」真剣な顔で俺を見る、
「お願いがあります」
「はい、何でしょう」
「贈り物をおねだりしてもいいですか? 」
「はい、もちろん」
「有難う御座います、では2つの指輪と1つの胸飾りを2つご用意下さい」
「1つは私、もう一つはノランに」
「ノランさんにも? 」
「はい、おねだりします」
「わかりました2日下さい、それと作業場をお借りします」
「わかりました、楽しみにしています」
「はい、頑張ります、ところで指輪が2つ胸飾りが1つ、数に何か理由がありますか? それと素材の希望は? 」
「数には・・・特に理由はありません、素材はクーマ様が選ぶものであれば大丈夫です」
「わかりました」
ノックの音がする、
「ノランです」
「入って」シフォンが答える、
「お嬢様、そろそろお食事の時間ですが、いかがなさいますか」
「えっ、もうそんな時間・・・」
「わかりましたクーマ様と向かいます」
「クーマ様、宜しいですか? 」
「はい、もちろん」
「ノランちょっと」
「クーマ様少しお待ち下さい」
「お嬢様どうされたのですか」
「先にノランには言っておきます、クーマ様は、素材採取の依頼が終わり次第」
『やはり出て行かれるのか』
少し寂しそうな顔になる、
「4週の休暇をこちらで過ごされます」
「そうですか・・・えっ、女王様それは」
シフォンが、ノランを睨む、
「あっ」慌てて口を抑える、
「すみません、つい」
「ふ〜」少し笑って、かまいません、
「驚きますよね」
「はい」
「でも、クーマ様は、決められました」
「お話は? 」
「すべて話しました」
「では、ご承知の上で」
「そうです、そこで貴方にお聞きします、貴方はクーマ様をどう思っていますか? 」
「えっ、それは・・・言えません・・・」
「何故? 」
「それは・・・女王は分かっておられるはずです」
「そうね、分かっているから聞いているの」
「そんな、ここで? 」少しこちらを見る、
「ノラン、今は私のことは忘れなさい、私はクーマ様が好きです、この魂にかけてクーマ様を守ります、ノラン、貴方は」
「わ、私はクーマ様が好きです、この魂が尽きるまでクーマ様を守ります」
「いいでしょう」
「クーマ様、先ほどのおねだりは、こう言う事です」
「わかりました、二人のために頑張ります、シフォン、ノランこれからもよろしくお願いします」
「はい」二人が、同時に跪く
「ちょっと、それはやめて下さい」と言って二人を抱きしめる、
「今まで通りで、お願いします」
そう言うと二人は笑って答えてくれた、
「さぁ、クーマ様、食事に行きましょう」
「はい、そうしましょう」
「ノラン、行くわよ」
「は、はい」
「どうしたの? 」
「嬉しくて、その、立てなくて・・・」
「ノラン、放っていきますよ」(いたずらっ子の顔だ)
「お嬢様の意地悪」
「クーマ様、ノランが困っています」
俺はフッと笑いノランを抱き上げる、ノランが真っ赤になって抱きついてくる、俺と目が合って静かに目を閉じる、
俺は横目でシフォンを見る、シフォンはこちらに、背中を向けている、
俺はノランを降ろし、優しく抱き寄せ口吻を交わす、
ノランが俺から離れ、シフォンのもとに、
「有難う御座います」と小さな声でシフォンに話しかける、
シフォンは振り向き、
「これで一緒ね」と言ってノランに抱きついた、
「はい」
「でも皆にはまだ内緒よ、いいわね」
「あ~お嬢様、それは無理かもしれません」
「嬉しいのは分かるけど」
「いえ、そうでは無くて、その、後ろ・・・」
「何? 」と言って振り向く、部屋の扉が開いている、そこにはアルベルト、マーリー、アニー、アルマ、セルファ、コニー、ジェルダが笑顔で見ている、
シフォンは俯いてしまった、ノランも俯いている、耳まで真っ赤だ、
シフォンが立ち直った、
「クーマ様行きますよ! 」
ノランも立ち直った、
「あなた達準備はできているの!? 」
「早く行きなさい、私より遅かったら晩御飯抜きです」
「え〜」と言って、アルベルト以外が走り出す、
アルベルトが、俺の前に来る、俺をじっと見て手を伸ばす、その手を取り強く握り返す、
「お二人の思い、受け取ってくれたこと感謝する」
「こちらこそ」
「さぁ、飯にしよう」
四人で廊下を歩き出す、
その日の晩飯は皆で食べた、それこそ本当の無礼講だった、皆潰れるまで飲んでいた、日付が変わり、日が昇る頃、残っていたのは俺だけだった、
そこへミーニャがコーヒーを用意してくれた、
「クーマ様、有難う御座います、皆がこんなに楽しそうなのは久し振りです」
「こちらこそ皆さんには、感謝しています」
「お嬢様から、話は聞かれたのですね」
「はい、ミーニャさんの名前も出てきました」
「そうですか・・・クーマ様は此処に残られるとお聞きしました、それは我々と共に戦ってくださると言うことですか? 」




