第43話
マルガは膝をつき二人を抱き寄せる、
『間にあった・・・』
アルベルとノランは、全身傷だらけになりながらも、この場所を守りきった、
「間に合って良かった・・・」
アルベルが笑う、「もう動けません」
ノランも笑う、「遅いですよ」
マルガはもう一度二人を抱き寄せる、
「「痛いですよ」」
追いついた兵の一人が走り寄る、
「マルガ様、無茶はしないで下さい」
「すまなかった・・・」
「間に合って良かった・・・」
兵士が一言漏らす
「本当にな」
「マルガ様、貴方もですよ」
「そうか」マルガの目には、涙が浮かぶ、
魔法兵が数人駆け寄り、三人に回復魔法をかける、三人の顔に血の気が戻り傷が回復する、
少し離れたところで、アニー、アルマ、セルファが治療を受けている、
アルベルがノランを見る、
「ノラン、でかいな・・・」
ノランとマルガがアルベルを殴る、
「「バカタレ! 」」
三人が笑う、周りの兵も笑っている、
「そうだ、アクス達はどうなった? 」
「ご心配なくアクスと仲間は無事です」
「一名だけは間に合いませんでしたが」
「そうか・・・」
「アルベル、お嬢様は、他の者は・・・」
「大丈夫、皆、無事です・・・」
屋敷の方から声がする、マーリーが走ってくる、その後ろにフォニア、ポニー、ジェルダに支えられたミーニャが居る、
冒険者の見たもの
俺のパーティーは、屋敷の庭で警戒の任務を依頼されてた、
何の警戒かは聞かされてなかった、興味も無かった、報酬が良かったから、どうでも良かった、
俺たち以外も、多くのパーティーがいた、
殆どは防壁の方に回されていたし、例え侵入されても、屋敷のある、ここ迄は来れないだろう、それに雇い主、領主が行っていた、この防壁には最強の軍団を置いていくと、
まぁ、食い物も酒もある、ピクニックみたいなものだった、
それが起きるまでは・・・
屋敷の中から変な音がする・・・
屋敷周辺のパーティーが騒ぎ出した、
皆が集まり玄関の、扉を開けようとしたが開かない、
他の扉に向かった者も、帰ってこない、おかしいと思い、窓の隙間から中を確認すると、屋敷内の護衛がやられていた、
『敵? 一体何処から? 』
その時強力な魔力が走り抜けた、
何処かのパーティーの魔法士が、巨大な結界を張られたと言っていた、
『結界? 意味がわからん、俺達は此処にいる、俺達を閉じ込めた? 何のために? 』
考えていると、また誰かの声が聞こえた、屋敷の結界が消えたと、幾つかのパーティーがなだれ込んだ、他の奴らも一斉に飛び込んだ、
直ぐに悲鳴が聞こえる、大きな破壊音と剣戟の音、そして玄関から兵士が飛び出してくる、
とんでも無く強かった、あっという間に全滅した、
俺たちのパーティーは、塀の外に隠れ様子を窺っていた、
勝てるわけが無い、逃げるかどうか考えていたら応援が来た、
数は100人程、後からまだ来ている、遠くにも見える、流石に多すぎだろうと思った、
でも笑えなかった? 嫌な予感がする、応援に来たやつらが庭に入り、左右に分かれて敵を囲んでいく、
突然風が吹き荒れて、真っ赤な風に、それが炎の風になって冒険者たちを飲み込んだ、一瞬で終わった、
100人程いた冒険者が一瞬で消えた、真中にいた魔法士が、倒れるのが見えた、あんな魔法を使えば当然か、
しかし、これで勝った、敵は魔法支援を失った、俺の目には、新たに200人程の冒険者が見えた、
先頭の冒険者に伝える、魔法士はもう居ない、いるのは戦士だけだ、
「女か、楽しませてやるよ」
そう言って数名が走って行く、
一瞬女が揺らいだように見えた、
次に見えたのは、飛び散る肉片?
『何が起きた? 』
誰かが、叫ぶ、
「たかが女一人ビビってんじゃねえ」
そういった男の首が無い?
その後はひたすら蹂躙が続く、悲鳴が上がり、血飛沫が舞う、女の鎧は血で真っ赤に染まり、滴り落ちる、戻ってきた男も、同じ様に真っ赤だ、
そこにいるのは、人の姿をした伝説の悪魔、
戦闘を避け、屋敷に侵入した冒険者たちも、悲鳴しか聞こえない、
俺達は逃げた、後ろも見ずにひたすら逃げた、悲鳴しか聞こえない、
そこに鎧を着た一団が見えた、最強の軍団?
確かそう言っていた、やっと来たのか、これで奴らも諦めるだろう、
俺達はホッとした?
道を外れ岩陰に隠れる、
『何で隠れる? 軍隊だぞ』
胸騒ぎが収まらない、
屋敷にいた敵兵が走り寄る、
『やるのか? さっきまでとは違う、軍隊だぞ・・・』
戦闘が始まった、剣戟の音が響く・・・
団長
「雑魚相手とはいえ、よくこれだけ倒したものだ」
「しかし、もう戦えまい、加勢も来たようだが、たかが六人、しかも殆どが女」
「まぁ、冒険者程度なら十分か」
副官らしき者が声を掛ける、
「団長、どうされますか」
「数人で相手をしてやれ、殺すなよ、兵も楽しみたいだろうからな」
副官は下卑た笑いを浮かべ、十人の兵士を指名する、
「お前達楽しんでこい、殺すなよ」
「わかりました、いい具合に剥いておきます」
兵士たちが前に出る、後ろでは残った兵が高みの見物を決め込んでいる、
敵は動かない、兵士たちが煽る、
「何だもう動けないのか、少しは抵抗してみせろよ、俺達を楽しませてくれよ」
誰も何も言わない、動かない、
突然女が、にやっと笑ったみたいだった、十人の兵士は一瞬でその場に崩れた、
そのまま敵は突っ込んできた、
六人は強かった、あれだけの戦闘をした後で、兵士と戦っている、
しかし、動きが鈍い、一撃の威力が落ちている、
一人の兵士が倒れ込む、助けに入った女が蹴り飛ばされる、二人が動かなくなり、軍隊が群がる、他の四人が助けに行くが、こちらは兵士が邪魔をして近づけない、
剣戟の音が消え、何かを殴る音が聞こえる、
兵士たちが、敵を囲んで暴行を加えている、
『勝ったのか? 』
その時、門から大きな音と共に、
土煙が上がるのが見えた、
何かが来た、
門から光と竜の咆哮が向かってきた、
その何かは兵士を蹴散らし、
敵の周りにいた兵士も蹴散らした、
一瞬だった・・・
団長が、後から来た敵の前に立った、
剣を構え振り被った・・・
そのまま地面に転がった、
手足がなくなっていた、
また門の方が騒がしくなった、
敵兵が襲ってきた、そいつらも強かった、後方に居た兵士達が消えていく、
団長の周辺に居た兵士は武器を捨て降参していた、
しかし敵兵は冷たい目で剣を振った、
最強の軍団は消えた、
俺達はまた逃げた、気が付けば森にいた、
聞き終わったドラーラ
『そうか、それほどか・・・』
思わず拳に力が入る、奴らのことを舐めていた、これは俺の奢りだな、多くの魔獣や冒険者達から力を奪った、俺は確かに強くなった、その俺が王の力を奪えば部下の力も上がるはずだった、だが、あの力は奪えなかった、残念だ、悔しさが残る、しかし、王妃の回復の力は奪えた、この力があれば俺は無敵だ・・・
俺がいる限り部下も無敵・・・
今はこれで満足するしか無いか・・・
部下の底上げが必要か・・・
いいだろう、次は負けん、次は必ず全滅させる、復讐は一時お預けだ、
シフォンの昔話その後
幸いにもドラーラ達の追撃はなく、
私たちはこの都市を占拠致しました、
襲撃者の残党は、直ぐに都市から追放、
戦闘に参加しなかった者には、選択肢を与えました、出て行くか、ここに残るか、
戦闘に参加しなかった者は女性と少しの子供、それと一部の冒険者、
冒険者と女性の一部は程なく都市を離れました、
残った者達には今まで通り街で暮らす事を認めました、
こちらの者にも、普通に接するように命を出しました、
こちらに向かっていた故郷の民も追い付き、再会を喜び合い数日が経ち、皆が落ち着いた頃、私は、王となりました、
当時の私に王の力は使えず、情け無い思いで凄く辛かった、そんな私を皆は支え大事にしてくれた、
そんな民を、私は絶対に守り続けると誓った、その時初めて、王の力が目覚めました、まだ、前王ほどの力は出せませんでしたが、
その後も私の立場は暫くは公にせず、街のことはアルベルに任せました、
我々と街に残った人族の間には溝があり、小競合いも絶えませんでしたが、双方が歩み寄り、今の街になります、
「その後も色々ありましたが、双方が協力し世代を重ねて乗り越えました、ただ、25年に一度ドラーラ達はこの街を襲います」
「25年? 何故? 」
「はい、正確にはわかりませんが、ドラーラ達の襲撃は何時も二つの月が重なる時」




