第42話
マルガ
マルガが着いた時、そこは地獄だった、至る所から炎が上がり、民の屍が転がる、兵士も市民も男も女も・・・子供たちも・・・
マルガの力が上がる、怒りのオーラが身を包む、悲鳴が聞こえた、
マルガが走る、目の前に敵がいる、民が襲われている、
襲撃者の振り被った腕が消える、
マルガの姿が見えたとき、襲撃者が二つに割れ、崩れ落ちる、
近くの兵がマルガに気付く、
「兵を集めろ! 民を守れ! 」
「はっ! 」兵士が声を上げる、
「マルガ様が来られた! 兵よ集まれ! 民を守れ! 」
あちらこちらから声が上がる、一瞬で兵の統制が戻る、
「盾兵を前に横一体勢! 魔法兵! 魔法防御! 突撃兵、剣兵、備えろ! 」
襲撃者が一斉に襲い掛かる、盾兵が防ぎ、魔法兵が身体強化を使う、残った魔法兵が負傷兵の回復を行う、
マルガが叫ぶ、「突撃! 」
一斉に押し返す、怯んだ隙に盾兵が進路を開け
その間から、槍兵が突撃する、襲撃者達が串刺になり絶命する、
その隙を逃さず、剣兵が追い討ちをかける、逃げる襲撃者を魔法兵の魔法が襲う、推されていた兵に冷静さが戻る、
各自が連携し、襲撃者を確実に仕留めていく、
襲撃者の顔から余裕が消える、既に逃走を始める者もいる、
マルガが叫ぶ「誰一人逃がすな! 」
その叫びに、襲撃者達に恐怖が走る、
形勢は逆転する、
そこにアクスが走ってくる、
「マルガ様! 」
「アクス、王はどうした? 」
「王からの命を、お伝えします」
はっ、とするマルガ、
「民を守りこの地を去れ・・・娘を頼む」と、
「くっ、王妃は? 」
「王と共に・・・」
「お嬢様は? 」
「アルベル様と近衛が共に」
マルガは大きく息を吸う、
『アルベルと近衛が居るなら・・・それにお嬢様にはノランも居る、今は民と共に』
「アクス、兵に伝令を、民を集めろ、この地を去る」
「わかりました! 」
アクスが走り出す、
『戦況はこちらが有利、しかし民がいる、無理は出来ない、間もなく夜も明ける、何処へ逃げる』
しばらく後、アクスが戻ってくる、
「マルガ様、兵には深追いはさせず、民の救出に回しました」
「それでいい、現状は? 」
「襲撃者は壊滅、一部逃走した者もいるかもしれませんが、戦意は残っていないでしょう、民は救出と治療を同時に行っております、移動は可能です、死者につ・・・」
マルガが遮る、
「いずれこの地は取り戻す・・・」
「はっ、必ず! 」
「よし、アクスお前の知恵が必要だ、民を何処へ逃がす? お嬢様の無事も確認したい」
「お嬢様については、隠し通路の出口は破壊されていました」
「ではまだ王宮内に? 」
「いえ、探知を使いましたが、王宮内には襲撃者達以外、誰も残っていません、それと気になることが一つ」
「何だ」
「隠し通路の途中が崩されており、そこから防壁都市に向かう穴を確認しました」
「穴? 」
「はい、僅かですが、シャリーン様のイニシャルが残っていました」
「敵の本拠に向かったと? 」
「はい、可能性は有ります」
その時波動が走る、
「これは結界魔法? 」
「マルガ様、シャリーン様とミーニャ様、それとジェルダ? イニシャルがあります! 方角は防壁都市! 」
「全員聞け! 移動を開始する、民を中心に密集体制で進む、兵は周りを固めろ、先頭は私が、皆続け! 」
「アクス何人か連れて先行しろ、それと兵に伝えよ、防壁都市を制圧すると」
「わかりました」
先行するアクス
いつもなら危険な森も、先の戦闘のおかげか魔獣がいない、ある程度の時間、走ったところで防壁が見える、
アクスが防壁を見て呟く、
「でかいな、やはり結界が張ってある」
「アクス様この結界は・・・」
「ああ、大結界セブンス・オフリミッツ・エリア、初めて見るが、これ程とは・・・」
先行していた偵察が戻ってくる、
「状況は? 」
「はい、結界は、この防壁都市全体を包んでいます、中では戦闘が継続中、遠目で確認しました、アルベル様とノラン様、それと近衛が数名、人族と交戦中、数はおよそ、残100弱、屋敷を拠点にしている様です」
「屋敷内は目視出来ませんでしたが、屋敷内にフォニア様と近衛が数名、確認できました」
「戦闘が継続中? 結界の中に、敵? 敵を殲滅するつもりか・・・」
「誰かマルガ様に報告を」
「では私が行きます」
「頼んだぞ、これは時間との勝負」
「わかりました」
「行け! 」
『いくらお二人と近衛が強いとは言え、既にどの程度戦闘をされたか分からん、限界は来る』
『マルガ様、間に合って下さい』
「何処か侵入出来る場所はあったか? 』
「いえ、全て結界に包まれています」
「結界? 結界には触れたか? 」
「いえ、念の為触れてはいません」
アクスが何かを考えている、
『以前聞いたことがある、大結界は敵味方を区別出来ると、もし、この結界が我らに影響が無かったとしたら』
「アクス様? 」
我に返り、アクスが聞く、
「門の厚みはわかるか? 」
「正確には分かりませんが、50cm+結界かと」
「打ち破れるか? 」
「我らでは難しいかと・・・」
アクスの動きが止まる・・・
「まずい!? 一体何処にいた? 」
一人が偵察に動く、その目に映る信じられない光景、アルベルとノラン、近衛はまだ戦っている、しかし何処からか現れた軍団が六人に向い進軍を始めている、
直ぐにアクスのもとに戻る、
「アクス様! 」
「現状は? 」
「部隊がいます、規模は中隊から大隊」
「部隊? 何処から? 」
「分かりません、急に現れたとしか」
「皆は? 」
「まだ、先の戦闘中です、こちらはすぐに殲滅出来るかと、しかし・・・」
『どうする、これ以上は時間がない』
「お前達・・・」
「はい」
「私を守ってくれ、門を破る・・・」
皆の顔に笑みが浮かぶ、
「お任せを、アクス様、皆を助けましょう」
アクスが頷く、
「行くぞ! 」
アクスを先頭に皆が飛びだし、門へ走る、結界が迫る、
『頼む、抜けてくれ』
わずかな抵抗とともに結界を抜ける、
アクスはそのまま加速、力を剣に込める、
防壁上から矢が降り注ぐ、
仲間が矢を薙ぎ払う、
アクスの一撃が門に打ち込まれる、
門の結界が剣を弾く、続けて打ち込む、結界が軋む、アクスが焦る、
『私の力はこの程度なのか、まだだ! 』
アクスが力を溜める、矢が降り注ぐ、
目の前に血飛沫が舞う、仲間が矢を自身の身で防ぐ、アクスを見て少し笑う、
『すまん』
アクスが渾身の一撃を撃ちつける、結界にひびが入り、アクスの剣が砕ける、砕けた剣を捨て拳を叩きつける、後ろから声が、
「アクス! そこをどけぇー! 」
聞き覚えのある声、
『まさか? 』
アクスが飛び退く、横を烈風が通り過ぎる、
「マルガ様! 」
マルガの剣が結界を砕く、そのまま門を貫き砕く、砕けた門が飛び散り、土煙が舞う、そこには動きの止まったマルガがいる、矢と魔法がマルガを襲う、
アクスと仲間がマルガを庇う、仲間の血飛沫が舞う、
マルガの目には、スローモーションの様に舞い上がる血飛沫と崩れる仲間達が映る、
アクスが言う、
「後をお願いします」
マルガが、一言だけ答える、
「任せろ」
マルガの力が上がる、白い光がマルガを覆う、マルガが叫ぶ、それはまるで竜の咆哮、
「ウゴァァァァ」
土煙を残し閃光が走る、閃光の先にはマルガ、
目に映るは、今まさに切り捨てられようとするアルベルとノラン、
閃光と咆哮が軍を貫き走り抜ける、
通り過ぎた後には、鎧がひしゃげ、紙のように破り捨てられ、飛び散る兵士たち、
アルベルとノランを風と咆哮が包む、
剣を振り上げた兵士が血煙となって消える、
兵士たちは動揺を抑え、マルガに斬りかかる、
そいつらを、剣を一閃斬り捨てる、団長と言われた男が前に出て大剣を構える、
マルガが剣を構え直す、
団長と呼ばれた男は、大剣を振り被る・・・
その剣が、振り下ろされることは無かった、両手、両足を切り飛ばされ、その場に崩れ落ちる、マルガはのたうつ団長を睨み口を開く、
「よくも仲間をなぶってくれたな」
流石に周りの兵士も動揺が隠せなくなる、
マルガの一瞥に、たじろいで下がって行く、
「貴様はそのまま、兵士達の最後を見届けろ」
兵士達の顔に恐怖が浮かぶ、既に戦意は消えた、逃走を始める兵士達、
その時後方から、剣戟の音が近づいてくる、
マルガに追いついた兵が、後方の兵士を、蹂躙する、
挟み撃ちにされた兵士達は、剣を捨て両手を上げる、
マルガの目が冷たく光る、
「せめて苦しまずに逝け」
マルガが剣を振った、




