第37話
「それは貴方の自由です、どうされますか? 」
じっとシフォンを見つめる、
「信じましょう」
「では、お話しましょう、ノランさん達も一緒にどうぞ」
扉を開けてノランも入って来る、
アルベルト、マルガ、アクス、ジェルダもいる、
部屋の影からメイド達が姿を現す、
「いつから気づいていたのですか? 」
「部屋に来られたときからなんとなく」
「ところでこれに毒は? 」
一口飲む『やっぱり美味い! 』
「入っていません」
「それは良かった」お互い、ニッコリ笑う、
「先程、たぶん異世界と申し上げたのは、私には16週ほどの記憶しかないからです」
「16週? 」
「はい、それ以前の記憶はありません」
「なのに体は何かを覚えているようで、時々、自分自身にも違和感を覚えます、それに私の着ていた服は、この世界には無いのでは? 」
「それらを踏まえた上でお聞きください」
「わかりました」
俺は目覚めて? からの今日までを一部を除き出来るだけ正確に話した、話が終わる頃には、シフォンは俺に寄り添っていた、
他のメイドも集まり話を聴き、俺にコーヒーのお代わりを用意してくれた、どうやら信じてくれたようだ、
シフォンは改めて姿勢を正すと、
「私も、私たちについて真実をお話します」
少し悲しそうな顔をした、
「必要ありませんよ、興味がないと言う訳ではありません」
「しかし・・・」
「その話はいずれお聞かせください、今は、いい人たちそれでいいでしょう」
「わかりました」
ほっとした顔になる、
「この話は終わりです、それとクーマ様、私のことは”さん”ではなく呼び捨てでお願いします」
「いや、それは・・・」
「いいですね! 」
「あ~、はい」言い返せない、
「わかりました、そのようにします」
「皆、今後はそのように対処しなさい、アルベルトもわかりましたね」
「はっ、女王! 」
シフォンが睨む、
アルベルトが焦って口を押さえている、
シフォンがため息を吐く、
改めて立ち上り、俺に向かって姿勢を正す、今までとは違う凛々しい顔、
「私はシ・フォニア、夢魔族の女王です」
「えっ『女王だったか、上位の者とは思ったが、女王とは』」
「クーマ様は今後もシフォンとお呼びください」
「はい」
「マルガ、衛兵にも伝えなさい」
「畏まりました」
「さあ、皆仕事に戻りなさい」
「畏まりました、失礼いたします」
メイドたちは俺とシフォンを残し部屋を出ていった、
『敵でないことは認めてくれたか、まもなく日が変わる、さっさと寝て明日に備えよう』
シフォンを見る、先ほどの凛々しさは消え、少し俯く可愛い少女がそこにいる、
なんとなく頭を撫でてみる、
頬を染めこちらをまっすぐ見る、
「では寝ましょうか」
えっ、という顔をしたシフォンは、もじもじしながら、遠慮気味に、
「はい」と答える、
シフォンに部屋を出る気配はない・・・
『ありゃ、誤解させた? 』
「あのシフォンさん・・・」
拗ねた顔で俺を見たシフォンは潤んだ瞳でもじもじしている、
「”さん”ではなく呼び捨てで、と申しました」
「あっ、そうでしたね、それでは私も呼捨てで、お願いします」
「それは出来ません! 」ピシッと答える、
その後直ぐに真剣な顔で話しかける、
「クーマ様、今まで鑑定を受けたことはありますか」
「いえ、先ほどもお話したように・・・」
「そうでしたね・・・」
「クーマ様はこの世界の常識から少しズレているというか、おかしいというか・・・」
「おかしいですか? 」
「あっ、失礼しました」
「気にしていません、確かに少しズレているというか、よくわかっていないようです」
「よければ私が、少しお教えして良いですか」
「それは助かります」
「わかりました、それでは明日の作業はお休みください」
「いやそれは依頼の件もありますので」
「構いませんアルベルトより上位の私が言うのですから」
「そうでした・・・」
「あっ、少しお待ち下さい」
すくっと立ち上がり、扉に向かってスタスタと歩き始める、扉の前まで行き溜息をつく、
いきなり扉を開ける、
扉の前にはノラン他、数名のメイドがいる、
ノランはにっこり笑って、その後真面目な顔で、
「女王様、先に休ませて頂きます」
メイドたちは慌てて走っていく、
シフォンが一言、「廊下は走らない! 」
メイドたちが走るのをやめた、気配がする・・・
シフォンは大きなため息を吐くとこちらに振り向き、にっこり笑って戻ってくる
「すみません・・・」
「いえ・・・」
二人は顔を見合わせて笑った
「もうあの子達ったら・・・」フフフッと笑う、
「さて私は明日何をすれば? 」
「そうですね・・・取り敢えず今日は一緒に寝ましょう」
照れた顔で俺に抱きついた、
(長い夜はまた別の話で)
翌朝、
いい香りがする、
目が覚めた俺の横では、シフォンが寝息を立てている、昨日の夜はお互い頑張った・・・
寝ぼけた視界の隅に動くものが見える、
「ノランさん? 」
「おはようございます」
『なんでいる? 』
「朝食をご用意致します、今日はこちらにご用意いたしますので、お嬢様とご一緒にどうぞ」
すっ、とこちらに近づいてきて、シフォンの顔を覗き込む、
「あらっ幸せそうな寝顔、何時ぶりでしょうかこんな寝顔は・・・」
優しい顔で見ている、
「あ、クーマ様、私に、さん、は必要ありません、いいですね」
「はい」
「それとクーマ様、そろそろ起こしてあげてください、もうすぐ昼食の時間になります」
「えっ、もうそんな、すみませんすぐに支度します」
「いえ、ごゆっくりどうぞ、お嬢様が目覚めましたら、お呼びください」
そう言って部屋を出ていった、
『しっかり見られたな』
シフォンの頬に軽くキスをして、耳元に声を掛ける、
「シフォン朝ですよ〜」
「う〜ん」と一声、うっすら目を開ける、
「おはよ」
「おはよ」と返した後また目を閉じる、
すぐにぱっちり目を開け、真っ赤な顔を布団で隠す、非常に可愛い、
少し布団をめくり、長めのキス、
まだ少し寝ぼけているようだ、
「もうすぐ昼食の時間ですよ」
俺が言うと、あわてて飛び起きる、
自分の姿を見て、また、あわててシーツを体に巻きつけて、ベッドから落ちた、
シーツを巻いたまま、すくっと立ち上がり、
ニッコリ照れ笑い、
そのままテーブルの、上のベルを鳴らす、
すぐにノックの音が聞こえ、
ノランが姿を現す、後ろに数名のメイドを連れている、
ノランはシフォンに近づき、挨拶をする、その時、耳元で何かを囁いた、
「頑張りすぎです」
途端にシフォンの顔が耳まで真っ赤になって、
ノランに怒っていたが、顔は笑っていた、
ノランとメイドたちも一緒に笑っていた、
しばらく話をした後、
メイドたちは俺を窓際のテーブルに案内し、遅い朝食を準備し始める、
シフォンは部屋の衝立の影で服を着て、こちらへやってくる、
メイド達が用意してくれた朝食を、二人で食べながらシフォンが話し始める、
まずは俺の力について、
この屋敷に来た時に俺を鑑定したらしい、
結果だけをいえば鑑定できなかった、
アクスも何度か挑戦したが、鑑定できなかったと、
わかったのは、絶対に、"F"ランク冒険者ではないということ
最低でも"S"ランク以上の実力者であること、
理由については、
「いくら逃足が"A"ランク相当でも、
"S"ランクと"A"ランクでは次元が違います
"S"ランクとは、ある意味、化物なんです・・・」
「マルガには言わないでください、気にしていますから」
「なので探知を誤魔化すことは、不可能に等しいのです」
「そして魔法についてですが」
「確かにクーマ様の魔力は、わずかしか感じません、ただ、説明は難しいのですが魔力とは違う力を感じます」
「先日ジェルダが取り乱したのは、それを強く感じたみたいです、あの子は魔力感知に優れていますので」
「それらを踏まえた上で先日のお話を考えると・・・」
「え〜と・・・」
「先日の探索の話は、半分事実半分は嘘・・・ですね」
ジロッとこちらを見る、
『怒ってる』
「私に嘘はつかないと、おっしゃいましたよね!
」
「すみません! 」
「言い訳になりますが、お約束したのは昨晩です」
シフォンは暫く睨んでいたが、にっこり笑う、




