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第36話

ノランは廊下に出て執務室の扉を閉める、

一息ついたあと、早足で隣のアルベルトの書斎に行きノックもせずに部屋に入る、

アルベルトが、焦って何か言おうとするが、

それを、手を出して制止する、

アルベルトはノランの表情を見て何かを理解したようだ、

「クーマ様が来られました」

「えっ、何でだ? クーマ君の事は女王が対応されると・・・」

「アルベルト、迂闊ですよ」

「しまった、女王には内緒で」

「ほらまた」

「いかんな、つい、な」

「つい、ではありません、気をつけなさい」

「わかって・・・で、何で俺の所に」

「昨日の件を報告にと・・・」

「律儀だな」

「本当に、でも嫌いじゃありません」

「へー、あのノランが、ねー・・・」

「何ですか」少し顔が赤い・・・

「それよりもクーマ様です」

「シフォンは? 」

「ジェルダの折檻です」

「また何かやったのか」

「ええ、やらかしました・・・」

「「はぁ~」」

「あっ、クーマ様ほったらかし」

「と、取り敢えず、何とかしておく、ノランは早くシフォンを」

「わかりました、頼みましたよ」

ノランは部屋を飛び出し執務室へ、


しばらくして部屋の扉がノックされる、

ノランが部屋に戻ってきた、

「主人は少し時間がかかるようです、お待ち頂けますか? 」

「お忙しい所申し訳ありません、出直したほうが宜しいですか? 」

「いえ、直ぐに終わるそうですので、少しお待ちいただければ大丈夫とのことです」

「分かりましたそれでは少し待たせていただきます」

「分かりました、では、何かお飲み物を用意致します、ご希望はありますか? 」

「では」

「コーヒーですね」

「えっ、はい、お願いします」

「かしこまりました、しばしおくつろぎを」

そう言って部屋を出ていく、


部屋を出たノランはダッシュする・・・

『何で、こんな時に限って誰もいないの』

厨房に駆け込む、

「誰でもいいから、クーマ様にコーヒーを届けて」

「ノラン様、わかりました、お部屋で宜しいですか? 」

「執務室にお願い、所で、誰かお嬢様を見ましたか」

「いいえ、こちらには来られていません」

「わかりました、コーヒーよろしくね」

「はい」

『何処に言ったの』

屋敷を出た所でシフォンを発見、

「お嬢様」

「どうしたの? ノラン・・・クーマ様は? 」

「現在、執務室に」

「どうして執務室に? 」

「昨日の件を報告すると・・・」

「報告って、律儀ね・・・」

「本当に・・・」

「でも、クーマ様らしいわね」

「そうですね」

「ノラン急ぎましょう、お父様はうっかりものだから」

「はい」

「ところで、ジェルダはどうなりましたか? 」

「しっかり叱っておきました」

「申し訳ありません・・・」


しばらくして、ノックの音がして扉が開く、そこにはワゴンを押した、ノランとシフォンの姿が見える、

シフォンが俺の座っているソファに飛び込むように座り、寄り添ってくる、

「お嬢様はしたないですよ」と笑顔で注意している、

シフォンがペロっと舌を出す、子供みたいだな、思わず苦笑する、

ノランが近づき、コーヒーを用意してくれたいい香りがする、一口飲んだところで、またノックの音が・・・

『奥から? 』

アルベルトが入ってくる、

『なんでノックした』

シフォンが唖然としている、

暫くの沈黙・・・

沈黙を破ったのはシフォン、

「お父様何をしているんですか? 」

「あっ、すまんちょっと考え事をしていてな」

「待たせたなクーマ君、それで今件の報告と聞いたが」

「はい、マルガリータ様やアクス様の反応を見る限り報告をするべきかと思いまして」

「そうか、なら聞いておくべきだな、それでどうだった」

俺は先に報告した内容を繰り返す、

アルベルトは少し考えた後、

「湖周辺は貴重な薬草素材が多い、クーマ君が持ち帰った素材は大変貴重なものだ、しかしクインがいるとなると南は危険か・・・」

「その件なのですが、クインと呼ばれたヘビは、今回かなりのダメージを受けていると思います、ですので暫くは心配無いのでは」

「私も今回の件でヘビの気配は覚えました、次は早期発見できる自信があります、それに今回2匹の魔獣が争ったことで暫く他の魔獣も寄り付かないと思われます」

「一匹は食われましたし、ですので、そのクインにさえ注意していれば、素材採取はやりやすいかと、それに素材の採取場所も特定出来ています、今なら短期集中で集められます」

「しかしリスクは高いぞ」

「ハイリスクハイリターンなら、やる価値はあります」

「分かった」

「では継続で構いませんか? 」

「継続を許可しよう、但し決して無理はするな、いいな」

「分かりました、有難うございます」

アルベルトとの話も終わり、シフォンと一緒に執務室をあとにする、

ずっと黙っていたシフォンが口を開く、

「怖くないのですか? 」

「とんでもない怖いですよ、でも何もせずに野垂れ死ぬのはもっと怖い」

「それにアルベルト様の前ではあの様に言いましたが、そこまでハイリスクではありません、気配さえ覚えてしまえば、避ける方法はいくらでもあります、だからご心配なさらずに」

それでもシフォンは少し不満げだ、

「分かりました、食事まではまだ時間があります

ゆっくりお休みください」

「しかし素材の処理を任せっぱなしでは」

「お休み下さい! 処理はこちらにお任せください」

有無を言わせぬ真剣な顔だ、

「分かりました、お言葉に甘えます」

「はい」にっこり笑ってくれた

俺は部屋に戻り、

ソファに深く座る・・・

『昨日、今日と色々疲れたな』

ゆっくり目を閉じる、しばしの休息をとる事にする、


『誰かが俺の頭を撫でている・・・』

『撫でている? 』

目を開く、目の前にシフォンの顔がある

「お早うございます」

どうやら眠っていたようだ、

「お疲れですね、食事の用意が出来ましたが、此方に用意させましょうか」

「いえ、食堂に行きます」

「分かりました」

「どれぐらい寝てましたか? 」

「そうですね、ご用意したのは夕食です」

「そんなに、どうりでお腹が減っているわけだ」

「では行きましょう」

俺の手を取り腕を絡ませ食堂に向かう、

朝に引き続き晩飯も豪勢だ、

シフォンが横で世話をしてくれる、今回もアルベルトは同席していない、俺が来てからは仕事ができて忙しいようだ、

『申し訳ない』

夕食も食べ終わり食後のコーヒーを頂き、シフォンと別れ部屋にもどる、


ここは屋敷の廊下、

ワゴンを押しているシフォンとノラン、

シフォンの足が止まる、

「お嬢様どうなされました」

「別に、どうもしない・・・」

「では、早く行かないと冷めてしまいますよ」

「わかってる・・・」

「では、早く行きましょう」

「だって、ノラン達がクーマ様にあんな事言うから・・・」

「あんな事? 」

「私が、クーマ様が心配でうろちょろしてたとか、当たり散らしたとか・・・」

「それは、お嬢様が、適当に合わせろ、と言われましたから、少し大袈裟には言いましたが」

「少し? 」

「はいはい、かなりですね」

「開き直ったわね・・・」

「おやめになりますか? 」

「それは、無理ね・・・」

「そうですね・・・」

「クーマ様・・・」

部屋の前にはアルベルト達が気配を消して待機している、

「ノラン、行きましょう」

「はい、女王」

二人は顔を見合わせ、頷く、


ここはクーマの部屋、

窓辺で寛ぎ、街に戻った時の情景を思い出す、

『片付けてはいたが、かなり大きな戦闘があったようだ』

『多分、ハクジャとの戦闘が原因だろう、幸いにも死者は出なかったようだが、悪いことをした』

『シフォン達が、隠しているので、下手なことも言えんが・・・』

『そろそろ潮時かもしれんな、このままでは離れにくくなる・・・俺は旅人、だしな・・・』


窓辺でくつろいでいると、ノックの音、

「どうぞ」

「失礼します」

扉が開き、胸元の開いた薄い赤のナイトドレスを着たシフォンがワゴンを押して入ってくる、

「シフォンさんそれは? 」

「まだ寝るには少し早いので、一緒にコーヒーでもいかがですか? 」

『これは断っちゃだめなやつだな』

「有難うございます、いただきます」

「良かった」

そう言うとシフォンは楽しそうに、ふっかふかソファの前のテーブルに、コーヒーを用意してくれる、

そして自分の横の席を手で叩きながら、拗ねたような顔で俺を呼んでいる、

すこし苦笑いしながら、シフォンの横に腰を掛け

コーヒーを頂く、

「美味い! 」

「有難うございます」

笑顔で返してくれるが、少し様子が変だ・・・

「クーマ様」

「はい、なんでしょう? 」

「その飲み物に、毒が入っているとは思わないのですか? 」

『そいうことか・・・』

「私は、この街に来てから、シフォンさん、お父上、ノランさん始め各メイドさんに、大変良くして頂いております」

「なぜ疑う必要があります? 」

シフォンの雰囲気が変わった、

「あなたは何者? 」

「私はクーマ"F"ランク冒険者・・・」

「たぶん、この世界の者ではない・・・」

「この世界の者ではない、とは? 」

(一瞬驚いた顔)

「シフォン様、私は貴方に対し嘘はつきません」

「それを信じろと? 」


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