第34話
今からクーマ様を洗います、手伝いなさい、
えっ! 目が点になっている、
口許がワナワナ震えている、
『そんなに怖いか? 』
震える声で、はい、と答える、
彼女は全てを諦めたようだ、
俺はシフォンに案内され浴槽の横に座る、
シフォンが俺の背中にお湯をかける、
「熱くないですか」
「はい、いい湯加減です」
「では」いきなり頭から湯をかけられる、
「ちょっと、いきなりはやめて下さい」
「心配させた罰です」
シフォンが前に回って、少し怒った顔をしている、少し目に涙が・・・
かなり心配していてくれたようだ、
「申し訳ありません、後でちゃんと説明しますね」
「はい」俺の頭に抱きつく
一緒に連れてこられた彼女は、俺を洗ってくれている、
『これはこれで申し訳ない』
一通り洗い終わった俺に流し湯をかけ、
シフォンと一緒に湯船に浸かる、
シフォンが寄り添ってくる、そっと肩を抱く、
少しピクッと体が震える、
シフォンは上目遣いで俺を見ている、瞳が潤んでいる、
『ヤバイ! 』
妄想を振り切り、シフォンのおでこにキスをする、
シフォンは少し拗ねた顔、でも目はしっかり笑っていた、
お互い笑い合ってどちらからともなく、風呂を上がる、傍に控えていた彼女はずっと待機していたようだ、
俺はシフォンに目配せする、シフォンは気がついたようで、彼女に、
「ご苦労さま、ゆっくり温まって下さい」と伝えた
彼女は「有難うございます」と言い
先に立って扉を開けてくれた
脱衣所に戻ると既に戻ってきていたノランが、俺に新しい服を渡してくれる、俺の脱いだ服はもうない
『血まみれだったからな、処分されたか』
服を着替え脱衣場から出ると衛兵が二人俺たちを待っていた、
「食事の用意ができています、ご案内いたします」
そう言って俺たちを食堂へ案内してくれる、
食堂には既に料理が用意されており、自分で好きなものを取って食べれるようになっていた、
俺は席に案内され座る、
すかさずシフォンが料理を取りに行く、
ノランが飲み物を用意してくれる、
シフォンが料理を皿に山盛り持って来て、小皿に取り分け俺の前に置き自分の分も取り分け俺の横に座る、
「どうぞお召し上がりください」
にっこりと笑う
「ありがとうございます」
感謝して食事を始める、
シフォンは俺が出発してから帰るまでを、かいつまんで話してくれた、
強大な魔力、魔獣の襲撃、門が破られた事、ポニーが、頑張った等々・・・
俺に何があったかは、あえて聞かないようにしているようだ、
話をしながらゆっくりと食事を終えると、
シフォンはノランに声をかけ、
食事が終わった事を告げに行かせる、
暫くすると先程の衛兵が迎えに来た、
「ご案内致します」
後について食堂を出て通された部屋には、
既にマルガリータとアクスが待っていた、
「ゆっくり出来たか? 」
マルガリータが声をかけてくれる、
「お気遣い有難うございます」
「さあ、座ってくれ」
俺は無言で席に着く、
俺の前にはマルガリータ、隣にはシフォンが座る、アクスが外の衛兵に声を掛けた後シフォンの前に座った、
マルガリータが俺が出ていってからの事を話してくれる、先ほどシフォンから聞いた内容の詳細版だ、
「君が出発してからはシフォンが騒がしくてな」
「お姉様! 」シフォンの顔が真っ赤になる、
「アハハハ」
マルガリータは笑いながらシフォンの行動を教えてくれる、
「門と詰所を行ったり来たりして」
(大丈夫でしょうか? 怪我はしてないでしょうか? いつ帰って来るのか? )
「ずっと独り言を呟いていた、日が暮れてからはもっと大変だった」
「お姉様もうおやめください! 」
顔を押さえ下をむいてしまった、
「分かったもうやめておこう、後はクーマ殿に直接話すんだな」
「クーマ殿、後で聞いてやってくれ」
そういったところでノックの音がする、
衛兵が飲み物を持ってきてくれたようだ、
コーヒーの香りがする、
「クーマ殿はコーヒーだったな? 」
「有難うございます」
「それでは話を聞かせていただけるかな」
「分かりました」
皆が俺、見る、
俺は門を出てからの話を始めた、
「壁沿いの道を暫く進み分岐についた辺りから、異変に気付きました、魔獣がいないのではなく必死で隠れていると・・・」
「小屋には寄らずそのまま岬へ、水辺を確認しながら岬の先まで来たところで、予定外のトラブルが発生しまして」
「トラブル? 」
「まあ、自分のミス、油断なんですが」
「何があったのですか? 」
「はい、強力な魔獣が隠れていたんです、しかも二匹・・・」
「だから他の魔獣が気配を隠していた・・・」
「もっと早く気づくべきでした」
「どんな魔獣でした!? 」
「一匹は白い巨大なヘビ、もう一匹は巨大なトカゲのような姿に硬そうな突起のある身体口はかなりデカかった」
「白いヘビ!? 」
「やはり存在していたんだな」
「もう一匹もゲーターだと思われます、どちらも超が付く強力な魔獣です、しかもヘビ、特に白いヘビは言い伝え通りであれば、魔法を使うと言われています」
「魔法を使うのですか? 」
「そうです、あくまで・・・言い伝え通りであればですが」
「かなりやばかったんですね」
「それでまさか戦闘をしたのですか? 」
「とんでもない、直ぐに逃げようと思ったのですが、既に私は岬の先まで来ており、二匹の魔獣は岬の麓で睨み合い、争い始めたんですよ」
「仕方なく岬にあった大木に身を寄せ気配を消して、二匹の争いが終わるのを待つ事にしました、
所がこの二匹どちらも引かず、争いは激化、どんどんこちらに近づいてきます、逃げるに逃げられず、大木に隠れていたのですが、噛みつかれたヘビがトカゲを振り回し大木に叩きつけた、当然、わたしも一緒に弾き飛ばされ湖に放り出されました」
「そのまま隠れれば良かったのですが、ヘビに見つかり、こちらに向かって来たので、慌てて陸に上がった所を、ヘビに襲われました、そこへ湖から上がって来た、トカゲが噛み付いた」
「間一髪私の数センチ横でしたよ、血が噴き出しヘビが私を放り出しました、幸いにも放り出された先は湖、小屋の近くだったので、そのまま泳いで小屋に上り気配を消し身を潜めていました」
「暫くは大きな音が聞こえていましたが、気がついた時には静かになっていました」
「私は袋に入れていた素材を使い身体を治療した後、念の為に現場を確認に行きましたが、双方共に死骸は有りませんでした、ですが、トカゲは多分食われてます、ヘビの方もかなりのダメージを受けていた様です、暫くは出てこないでしょう」
「その後、小屋に戻り安心したら眠ってしまったみたいですね、気がついたら朝でした」
「後はアクス様に迎えに来て頂いて、帰って来たと言うことです」
「そうか・・・まずは無事の帰還おめでとう」
マルガリータから、ねぎらいの言葉をもらう、
「いえ、こちらこそ皆さんに、ご迷惑をかけてしまって申し訳ない」
「それは気にしないでくれ」
記録を取っていたアクスが、
「大体のところはわかりました、奇跡の生還と言っても過言では無いでしょう」
「ええ、アクス様の姿を見たときは、ホッ、としました、有難うございます」
「それは、お嬢様とマルガリータ様に」
「そんなことは無いぞクーマ殿、アクスは私が言わなくても行っただろう」
「マルガリータ様・・・」
「アクス様、有難うございます」
「いえ、また手合わせをお願いしたいので・・・」
「お姉様」シフォンが声を掛ける、
「これでクーマ様のお話は終わりですね? 」
「ああ、そうだな」
「では、クーマ様を連れて行っても構いませんね? 」
「シフォン、そんなに急がなくても構わないだろ? 他の衛兵も話を聞きたいと思うぞ」
「お姉様! 」
ふくれっ面のシフォンが、マルガリータに抗議している、
「分かった、分かった」
(少し呆れているが目が笑っている)
「クーマ殿疲れているところ申し訳なかったな
いえ」
「こちらこそ、ご迷惑をお掛けしました」
「いや、気にしないでくれ、クーマ殿の話をもとに、此方でも追加調査し対策を考える、暫くは南の探索は中止して今日は屋敷でゆっくりしてくれ」
「分かりました」
シフォンが横でニコニコしている、
「それでは」
挨拶をして部屋を後にする、衛兵が建物の外まで案内してくれた、




