第28話
詰所でコーヒーを飲みながら、
「そうだ、アルベルト様、食事の件、有難うございます、朝から食べ過ぎてしまいました」
「そうか、口にはあったか? 」
「はい、とても美味しかったです」
「昨日の晩は、美味そうに食べていたからな、朝食をミーニャに頼んでおいた」
「今日の晩飯も頼んであるぞ」
「そうなんですか、楽しみです」
『早く帰ってこよう』
「クーマ様・・・」シフォンが何故か拗ねている、
「お父上、早くミーニャをこちらに戻してください、皆が困っています」
「マルガリータ、すまんな、魚料理はやはりミーニャでないとな」
「それは、分かりますがこちらも困ります」
「わかった、明日には戻ってもらうようにしよう」
「お願いします」
ノックの音がする、
アクスが部屋に入ってくる、
「先ほど、調査隊が戻りましたので、簡単にまとめて参りました」
「ああ、報告を」
「はい、結果からお話します」
「防壁上からの調査ですが、東と北は何時もと変わらず、西と南には気配がありません」
「数名が分岐の先、湖方面も調査しましたが、全く気配を感じなかったと・・・」
「原因は分かるか? 」
「いえ、詳しい調査をしないとわかりません、が、嫌な予感はします」
「確かに、胸騒ぎがするな・・・」
「ここで話しても仕方がない、今後のためにも、はっきりさせておこう、アクス! 」
「はっ! 」
「調査隊の編成にどれくらいかかる」
「2日・・・いえ、1日頂ければ、準備します」
「わかった、直ぐに掛かってくれ」
「はっ! 」
「あの、宜しいですか」
「クーマ殿、何か策でも? 」
「いえ、策と言うほどでは、先行して私が調査しましょう、逃足には自信があります、いざとなれば逃げ帰ります」
「確かにクーマ殿であれば、可能だと思う・・・」
「お姉様! 」
「まぁ、待て」
「しかし・・・」
「シフォンさん、御心配有難うございます、でも、大丈夫ですよ」
「クーマ様・・・」
「わかった、何人か付ける、クーマ殿、お願いする」
「マルガリータ、それは防衛隊からの正式な依頼だな? 」
「お父上・・・」
「クーマ君は冒険者だ、ギルドとしては無視できない」
「確かに、ギルドマスター、防衛隊から正式に依頼いたします」
「わかった、クーマ君はこの依頼を受けるかね? 」
「喜んで」
「クーマ様・・・」
「シフォンさん今日は魚料理でしょ、早く帰りますよ」
「本当に・・・」
「ええ、本当に・・・」
「わかりました、約束ですよ」
「はい、約束です」
「では、ギルドマスター、依頼内容を確認します、湖周辺の魔獣調査、可能であれば、現状の原因調査で、宜しいですか? 」
「構わん、報酬はしっかり、ふんだくっておく、楽しみにしてくれ」
「はい、有難うございます、それと、マルガリータ様、護衛は不要です」
「何! それは危険だ! 」
「マルガリータ様、失礼を承知で申します、私より速い者がいますか? 」
「ぐ、確かにいない・・・」
「私は置き去りにして逃げれません」
マルガリータは、はっ、となる・・・
「わかった、全て一任する」
「有難うございます、それでは早く終わらせましょう」
皆で門へ向かう、途中でアクスに出会う、
「マルガリータ様どちらへ、まさか、クーマ殿・・・」
「マルガリータ様、何人つけますか? 」
「必要無い、クーマ殿の希望だ・・・」
「しかし」
「クーマ殿の足手まといになる、わかるな」
思わず拳を握りしめる・・・「はい」
「お前は一刻でも早く部隊の編成を」
「はっ! 急ぎます、クーマ殿、無茶はだめですよ」
「わかっています、シフォンさんとも約束しましたから」
マルガリータが合図を送る、静かに門が開き始める、
シフォンとポニーが走り寄って来る、
ポニーが外に向かって威嚇しようとしている、
「ポニー待て」
怪訝そうな顔で、俺の顔を見る、
「お前は、シフォンを守れ、いいな」
クオーン、
「シフォンさん行ってきます」
「クーマ様、行ってらっしゃい」
俺の後ろで門が閉じる、
『さて、行きますか・・・』
俺は気配を探りながら、なれた道を歩く、
『やはり気配はない? 』
「いや、違う、気配が無いんじゃない、気配を隠してる? いや、必死で隠れている? 」
それを考慮してもう一度気配を探る、なんてことだ、うようよいやがる、
むしろ普段の何倍もいる、
珍しい大型魔獣もいる、
こいつはかなり強いはずだが、
しかも水辺に潜むタイプ、
何でこんな所に・・・
どういう訳か、襲って来る気配も無い、試しに射程内に入ってみる、一瞬、興味を引いたようだが、直ぐに気配を隠す、
考えられる事、より強力な捕食者がいる、もしくはポニーの気配が残っている・・・多分、前者だろう・・・
嫌な感じだ・・・分岐を過ぎて、湖へ、小屋が見えてくる・・・
小屋へ向かう足が止まる・・・
岬が遠くに見える、何故か気になる・・・
俺は小屋へはよらず、岬に向かう、水辺を気配を探りながら慎重に歩く、相変わらず、気配が無い、何一つ気配が無い・・・
ありえないな、岬の麓に到着し、慎重に気配を探る、念入りに・・・
岬の先にある大木、根本で何かが光った、確認するべきか?
確認すべきだな、慎重に大木に向かう、大木の根元を確認すると、見たことの無い美しい白い鱗、『ヘビだな・・・でかすぎるが・・・』
陽の光を反射する白い鱗は時折虹色の光を放つ、一瞬我を忘れてしまった・・・
全身に怖気が走る、
『やはりなにかいたか』
白い鱗を見る、
「ヘビか!? 」
周りを見る、
この場所は不利、
一気に岬の麓へ走る、
先ほどまでいた場所に、強力な魔力、
もうすぐ麓、地面を思い切り蹴る、
目の前に白く太い物が飛んでくる、避けれない、咄嗟に体を丸めて防御する、強烈な一撃が俺を捕らえた、次の瞬間、大木に叩きつけられた体を太く白い物が縛り付ける、
『しまった! 』
そう思ったときには遅かった、
太い胴体が木と供に俺を締め付ける、
咄嗟に上げた、右手を除いて身動きが取れなくなる、
ヘビはゆっくり顔を近づけてくる
真っ赤な目をした真っ白なヘビ、
陽の光を浴び白い鱗は眩いほどに輝いている、
目は血のように赤い、
舌を揺らし眼の前まで来たその時、
「愚か者め」
ヘビが喋った、男とも女とも言えない声、
「その程度の小賢しき考え、我に通ずると思ったか、この愚か者め」
低く抑揚のない声、
「しかし、なんだその力は、魔力のようだが、少し違うな・・・」
「だが甘美な力だ、久々の上物だ」
「力をコントロール出来るようだが」
「ほれ、出し惜しみせず使ってみよ」
「我を楽しませよ」
「さすればひとおもいに食らってやる」
「ゆっくり、我の胃袋で消化してやる」
「なんだ、もう声も出せんのか」
「人族は脆いのう」
そう言うと強く締めつける、骨が軋む、
『こいつ楽しんでるな』
徐々に締め付ける力が強くなる、
「お主、なかなかに、丈夫じゃな」
「まだ挫けぬか、抵抗は無意味じゃ」
「諦めて絶望の悲鳴をあげよ」
「我を愉しませよ」
「ふぅー」深く息を吐き、言葉を返す、
「うるせぇーよ」
「ほぉーまだそんな元気があるか」
「それならばこれはどうじゃ」
と言うなり牙を俺の肩にゆっくりと食い込ませる、
『こいつ本当に楽しんでやがる』
「まだ頑張るか、では、これで絶望せよ! 」
その途端、肩に焼鏝を突き刺されたような激痛が走る、
思わず、「ぐぅっ! 」うめき声が漏れる、
「ほぉー、やっと呻いたか」
「絶望したか? 」
「もはやお主に選択肢はない、毒に侵され死ぬが良い」
「後はしっかり、喰ろうてやるからな」
「安心して苦しむが良い」
「舐めた口を聞きいてくれる」
「選択肢が無いだと? お前は馬鹿か? お前が死ねば関係なかろう」
シロヘビの赤い目が揺らぐ、
「ほぉーでかい口を叩きよる」
「我が死ぬだと毒に侵され夢でも見たか? 」
「我の毒を食らっらっているのだ、生き残れるわけがなかろう」
ヘビの目に嘲りの光が灯る、
「では、やってみるか? 後悔、するなよ」
俺は自由な右手で、ヘビの喉元を掴み力を込める、
ヘビの目が見開かれる、
バギィ! ブチッ! と音が聞こえ、
俺の指が喉元の鱗を突き破る、
「ギィヤッ! 」ヘビの口から悲鳴が漏れる、
「どうした? 悲鳴か? 何か聞こえたぞ」
「何処にそんな力が? 毒は既に回っているはず」
「毒? そんなもの俺にはきかん」
蛇の目に怒りが見える、
「ならば全身の骨を砕かれて苦しめっ! 」
一緒に締め付けられた木が砕ける、
しかしそこで止まる、
いくら力を入れても、これ以上は締まらない、
ヘビの目が狼狽えている、
「今度は俺の番だな」雰囲気が変わる、
ヘビは危険を感じた、『逃げなければ! 』
すでに遅かった、
身体から力が抜けていく、急激に力が失われる、
『何が起きている!? 』




