第25話
俺は肉をノランに差出す・・・
ノランが俺とシフォンを交互に見る、
俺とシフォンはにっこり笑う・・・
ノランの目が泳ぐ・・・
目の前で肉をゆっくり揺らす、
ノランの目が肉を追いかける・・・
また、俺とシフォンを見比べる、
シフォンがゆっくり頷く、
ノランは俺の差出した肉をくわえた、美味しそうに食べている、次はシフォンが差出す、
「えっ」と、シフォンを見る・・・
シフォンはにっこり笑っている・・・
パクッと、肉をくわえる、もぐもぐ、ごきゅっと呑み込む、次は俺が差出す、
「えっ」パク、シフォンが差出す、パク、俺が差出す、パク、横でポニーが心配そうに見ている、
シフォンが差出す、パクッとポニーが食いつく、今度はシフォンがビックリしている、
ポニーが俺に向かって口を開ける、俺は肉を口に入れてやる、
フンフンと嬉しそうに首を振っている、
「ハハハッ」三人はポニーを見て笑った
「ノラン、ごめんなさい、
「私もすみませんでしたと謝る」
ノランが少し焦って笑っている・・・
突然、襟首がつかまれる?
「えっ」後に引っ張られひっくり返る、
ポニーが俺の顔を覗き込みペロッと舐め、フンフンと、鼻面で俺を押す、
「遊べってか? 」
フンッ!
「何をする? 」
急にポニーが立ち上り、ガウーと鳴く、
「よし、わかった」
俺は立ち上り、同じように両手を広げて、ガウーと吠える、
シフォンとノランが笑っている、
俺はポニーとガッツリ四つに組み合う、
ポニーは少し力を抑えている、
『当然だな、俺は一応人族だから、でも・・・
ポニーは俺に、期待しているようだ』
俺は少し力を解放する、
ポニーは気付いたようだ、力が上がる、本気じゃない、でも、かなり強い、
俺は力を少し込める、ポニーが気付いた、力を上げる、
俺たちの周りに力が溢れる、空気が震える、
気が付くとシフォンとノランの目が大きく見開かれている、『しまった! 』
俺はつい忘れていた、普通の人族はホーンベアと相撲は取らない・・・
俺は力を抜く、ポニーも気がついたが少し遅かった、俺は派手に後に飛ばされた・・・
二人と一匹は慌てて駆け寄る・・・
ポニーが顔を舐める、申し訳なさそうだ、
起き上がり頭を撫でる、
走って来たシフォンが、抱きつく、
ノランが心配そうにオロオロしている、
ノランが新しいコーヒーを淹れてくれた、
三人は揃ってコーヒーを楽しむ、
ポニーが飲みたそうに見て、俺を引っ張る、
「ポニーやめなさい、クーマ様が困っていますよ」
でもポニーは止めない・・・
「ポニー」
やっぱり止めない・・・
シフォンがポニーを見て、
「わかったわ、残したらだめよ」
グアウ、
「フフフ、ノラン入れてあげて」
ノランが浅い皿にコーヒーを少し入れて、差出す・・・
ポニーがフンフンと匂いを嗅ぎ、ペロッと舐める・・・メッチャクチャ嫌そうな顔をして、シフォンを見る、
「ポニーだめよ」
ポニーが俺に抱きつき、クオーン、と、鳴く
シフォンは俺に向かって、
「クーマ様、甘やかしては駄目です」
ポニーはガックリして、残りのコーヒーを飲んだ・・・頭を抱えている・・・
シフォンがポニーを抱いて、
「ごめんね、意地悪だったわね、でも他の人の邪魔をしたらダメ、いいわね」
クオーン、と、鳴いて、シフォンにすり寄る、
その後はのんびりと、他愛もない話をする、
三人と一匹は平和な一時を胸に刻む、
夕暮れ前、三人と一匹は屋敷に戻った、
屋敷の入り口付近が慌ただしい、
『何かあったのか? 』
何故か、アクスがいる、
こちらを見て、アクスが近付いてくる、
「お帰りなさいクーマ殿」
「アクス様、ただいま・・・」
「また何かやりましたね? 」
「へっ、『あれか』ハハハ・・・」
「アクス様、ご苦労さまです」
シフォンが応え、顔を見つめる・・・
アクスには分かったようだ・・・
「何もなかった、と・・・」
「では、私は詰所に戻ります」
「お気をつけてお戻りください」
「有難うございます」
『アクスすまん』心のなかで謝る、
シフォンは俺を引っ張り歩き出す、少し歩いた所で、
「クーマ様少しお待ち下さい」
そう言って、ノランの所へ・・・
「ノラン、明日クーマ様が出発したあとに、と、アクスに伝えて」
「わかりました」
シフォンがこちらに走ってくる、
「さぁ、クーマ様行きましょう」
そう言って、また腕を引っ張って歩き出す、
それを見送り、帰ろうとするアクスに、ノランが声を掛ける、
「アクス様、明日クーマ様が出発したあとに・・・との事です」
アクスは無言で頷く、
「では、失礼します、挨拶をして」
走り去る、
メイド達はソワソワしている、
『この距離なら、当然か』
ノランはメイドを集め、一言、
「落ち着きなさい、心配いりません、クーマ様案件です・・・」
メイドから、ため息が漏れる、
「やっぱり・・・」
作業場の入口からジェルダが覗いている、
その目は少し怯えていた、
ノランはポニーと馬を厩舎へ、
シフォンと俺は一度部屋に戻った、
夕食までは少し時間がある、
部屋着に着替え、風呂の用意をして風呂に向かう、今日も誰もいない・・・
『今のうちに入らせてもらおう』
体を洗い湯船で体を伸ばす、
少し今日のことを思い出し反省・・・
『ポニーとの相撲? は、まずかった』
『門まで、届いてしまったようだ、それ程にポニーは強かった・・・』
『いい遊び相手になるな・・・』
ぼやっとしていると、扉が開く、誰か入ってきたな、かけ湯をしてる、こちらに来た、俺の横に座る、『横? 』
思考が戻って来る、慌てて横を見る、シフォンがいる・・・
「クーマ様、また私を置いていきましたね」
「いや、色々とまずいでしょ・・・」
「今更ですね・・・」
少し考える・・・「たしかに・・・」
「今日はとても楽しかった、有難うございます」
「それはこちらのセリフですよ、毎日が楽しくて、有難うございます」
「シフォンさんと皆様のおかげです・・・」
「それと今日はすみませんでした・・・」
「それこそ今更ですよ・・・緊張感があって楽しいです」
「ハハハ・・・緊張感ですか・・・」
「あっ、だからといって遠慮はだめですよ、いいですね! 」
「ここにおられる間は、クーマ様のお好きなように・・・私は・・・」
「えっ」
「なっ、何でもありません・・・」
扉が開く、
「お二人とも、そろそろお上がりください、夕食の時間です」
ノランが呼びに来た、シフォンと顔を見合わせる、二人笑って風呂から上がる、
脱衣場に戻るとノランがいた、
シフォンは笑ってごまかしている、
俺はノランに聞いてみる、
「何故ここだと・・・」
「この時間、他に行くとこありますか? 」
「たしかに、ありません・・・」
「お嬢様は、クーマ様を見つければ、大体そこにいます」
「なるほど・・・」
「ノラン! 」
聞いていたシフォンが抗議する、
しかし、ノランが詰め寄る、
「違いませんか? 」
「違いません・・・」
シフォン撃沈・・・ノランには敵わない・・・
「さぁ、お二人とも行きますよ」
「ああ、そうだ、お嬢様、いっそのことクーマ様と同じ部屋にしたらいかがですか? 」
「えっ、それは〜、エヘヘ・・・」
「ちょっと、お嬢様、真剣に悩まないでください」
「えっ、ダメなの」
「ダメです! 」
「ノランのケチ・・・」
「お、じょ、う、さ、まぁ〜」
「ノラン、ごめん、怖いからやめて・・・」
横で聞いてて、つい、笑ってしまう
「お二人は本当に仲が良い・・・」
食堂に着き、いつものように席に着く、
『いつもと様子が違う? 』
アルベルトが、入って来る、
「すまない待たせたか? 」
「いえ、いま席に着いたところです」
「そうか、それは良かった」
「私も、今日は街に行ってたんだよ」
「お父様が街に? 何かありましたか? 」
「いや、たまにはクーマ君に、魚でも食わせてやろうかと思ってな」
「ああ、水槽に行かれていたのですか? 」
「いいお魚はありましたか? 」
「ああ、いいのが入っていた」
「お父様、有難うございます」
「お気遣い、ありがとうございます」
「構わんさ、私も食べたかったのでな、ああ、ところでシフォン・・・」
「はい・・・」
「農園の丘に行っていたと聞いたが、私も、誘って欲しかったな」
「お父様も? 」
「ああ、シフォンの手料理が食べれたのだろう」
「あっ・・・わかりました、今度お作りします」
「うむ、楽しみにしている・・・ハハハ」
シフォンも一緒に笑っている、
『ここは親子? も仲が良い』
「さぁ、ミーニャ出してくれ」
「畏まりました」
初めて見る顔だ、まあ、皆を知っているわけではないが、『若いな』
「ミーニャは魚料理が得意でな、昔は街で店を開いていた」
「・・・昔? 」
シフォンが睨んでいる・・・
「あっ」
見てる俺に気付いた、
「お父様、誤解を招きますよ、ミーニャのお、か、あ、さ、ま、が、店をされていました、ですよね! 」
「ハハハ・・・そうだな、誤解を招くな、いや、ミーニャ済まなかったな」
『だよね〜、かなり若い10代前半に見えるから・・・見た目は』
二人の笑顔が若干引きつっている・・・
「領主様、お出ししても宜しいですか? 」
「ああ、頼む、クーマ君も楽しんでくれ、口に合えばだがな」
「有難うございます、魚料理は久しぶりです」




