第23話
「お早うございます」
「クーマ殿、おはよう、今日は遅めだな」
「はい、ちょっと寝坊してしまって」頭を掻く、
「クーマ殿、お早うございます、昨晩は何かありましたか? 」
「いいえ、よく眠りすぎました」
「今日は急ぐのか? 」
「いえ、そこまでは・・・」
「では、付き合わないか、コーヒーを用意しよう? 」
「シフォン構わないかな? 」
「はい、クーマ様が宜しければ」
そう言ってこちらを見る、
「有難うございます」
「では、こちらへ」
アクスが先に立ち案内してくれる、
いつもの詰所の奥の部屋、
マルガリータを前にシフォンと並んで座る、少し待つとアクスがコーヒーを持って入ってくる、
シフォンが席を立ちカップを並べる、
「お嬢様すみません」アクスが礼を言う、
「いえ、構いません、お気になさらず」
「シフォンはクーマ殿の前では気が利くな」
「お姉様! 」
「冗談だよ、ハハハ」
「もうっ、お姉様ってば・・・」顔が赤い、
「予定では、今日も南だな」
「はい、回復薬の素材が、まだかなりあります、取り敢えずこれを採取してしまおうかと思います」
「そうか、昨日の量もそうだが、そんなに取って今後は大丈夫か? 」
「そうですね、幾つかに場所を分けて採取していますので、同程度であれば直ぐに回復するかと思います」
「そうか、先のことも考えてくれているのだな」
「勿論です、取れば良いと言うものでは有りませんから」
「そうだな、此方も早く衛兵を育てないとな」
「育てる? 」
「ああ、アクスとも話したのだが・・・」
アクスを見る、
「私から説明を・・・今回、クーマ殿が採取の際に持ち帰った情報と、現在の戦力をもとに、採取部隊を作ろうかと思います」
「採取部隊ですか? 」
「ええ、狩猟の際の護衛部隊はあるのですが、それとは別に、現在、衛兵に少数連携の、訓練を行なっています、まぁ、冒険者で言う所のパーティー戦ですね」
「パーティー戦ですか・・・」
「ええ、クーマ殿はパーティーを組まれないのですか? 」
「私が入ると足手まといになりますよ」
「足手まといですか? 」
「まぁ、パーティーは別として今度、衛兵の訓練に付き合ってくれないかな? 」
マルガリータが俺に言う、
「私がですか? 」
「ああ、そうだ」
「クーマ殿とアクスの模擬戦は衛兵に刺激を与えている、是非、お願いする」
頭を下げる、アクスも、頭を下げている、
シフォンは、当然という顔で、コーヒーを飲んでいる、
「そのお話お預かりしても」
シフォンが不安げにこちらを見る、
俺は少し笑いかける、
「では、出発します」
「そうか、わかった気を付けてな」
「有難うございます」
「シフォンさん、今日も早く帰ります、晩飯楽しみにしています」
「わかりました、お待ちしています」
今のシフォンはいつもの笑顔だ
詰所を出るとポニーが待っていた、
「ポニー待っててくれたのか? 」
グアウ、クァッ! クァッ! と鳴く、
「そうだな、約束したな、よし、行こう」
ポニーを連れ門に向かう、シフォンは横に、マルガリータとアクスは後ろをついてくる、
「クーマ殿何を? 」
アクスが聞いてくる、
「ちょっとポニーと約束をしてまして」
「ポニーと約束? 」
「なっ、ポニー」
ガウーと鳴く、
俺はポニーと門の前に立つ、
「シフォンさん、少し下がってて下さい、アグネスさん逃げたほうがいいですよ」
慌てて逃げる・・・
「じゃ、ポニーやるか」
グアウー! ポニーの魔力が膨らむ、
「まさか! 威嚇、またやるつもりか? 」
アクスがマルガリータを見る、
マルガリータも気づいた、
シフォンは動じない、ずっとこちらを見ている
ポニーの膨らんだ魔力が広がっていく
皆が気付いたようだ
ポニーはずっと唸っている地鳴りのような唸り声が空気を揺らす、
『この前どころじゃない、これは、皆を避難させなければ、でも身体が動かない、何故・・・』
マルガリータ様を見る、目を見開き笑っている、『マルガリータ様・・・』
ポニーの魔力が濃くなる、目が離せない・・・
ポニーは魔力を上げる限界が近い、
魔力を放出しようとするポニーに優しく声を掛ける・・・
『まだだ』
ポニーに心のなかで話しかける、
『よく見ろ、そうだよく見て集中しろ、見えたか? 』
グアウ、グァ〜〜
『では、周りの自分の魔力を感じろ、それを一気に吸込み増幅して、放て! 』
ポニーの広がった魔力が一気にポニーに集まる
グッゴァァァァァーーーーー長い咆哮と共に前に放出する・・・門が揺れ少し開く、その先から魔獣の叫び声が聞こえ遠ざかっていく、
『私は何を見ている、今の魔力は? ポニーの魔力? そんな・・・』
足に力を込める、油断すると座り込んでしまう、
『しっかりしなさい! 自分に言い聞かす』
マルガリータもアクスも驚愕の顔で動けない・・・
『流石ポニー、小屋の辺りまで届いたな』
「まさか一発で出来るとは」
ポニーが振り向き頭を擦り付けてくる、
褒めてと言わんばかりに・・・
俺はポニーの頭を抱きしめて首元を掻いてやる、喉を鳴らして、喜んでいる、
シフォンが近付いてくる、足が少し震えている、
「ポニー、わかっているな? 」
グアウ、一声鳴いてシフォンのよこに並び、支える、
シフォンはしっかりポニーに抱きつく、
「ポニー・・・貴方は凄いのね」
クアッ
ポニーはシフォンを支えて近付いてくる、
「クーマ様・・・」
「シフォンさん行ってきます」
「はい、お気をつけて」
マルガリータとアクスが動き出す、
「クーマ殿! 」☓2
「行ってきます! 」
そう言って門を出ていく、
防壁沿いのこの道も、もう慣れたな、
ポニーのおかげで魔獣の気配はない、
いつもの分かれ道を曲がった所で、
『また嫌な感じがする・・・』
『魔獣は確かにいない・・・』
『水車の音が聞こえる、小屋は近い・・・』
「結界は問題ない・・・」
『嫌な感じが離れない・・・』
遠くから見ているような、すぐ後ろにいるような、巧妙に気配を隠している、そんな感じだ、
小屋に入り一息つく、地図を広げ、持ってきた携行食(干し肉だけど)をかじる、
集中して気配を探る・・・
近くに魔獣の気配はやはり無い・・・
力を少し上げる、
やはり何もかからない・・・
でも、嫌な感じは岬の方からする・・・
やはり岬は避けよう、地図を見て考える、
採取量は落ちるが、小屋から見て岬の逆に行くとしよう、
予定は決まった、道具を確認して小屋を出る、
『昼前に終わらせて引き上げよう・・・』
少し小道を戻り、目的地を目指す、
注意深く、しばらく移動すると、目的地が見えた、これだけあればいいだろう、今日はジェルダが泣かなくて済みそうだ、
手早く採取を始める、魔獣の気配はない、
しばらく作業を行なって、予定の範囲を採取できた、
よし一度小屋へ寄って帰るとしよう、
きた道を戻り小道へ・・・駄目だ・・・
小屋へ戻るのはやめだ、俺は小道を分岐に向かって走る、分岐まで戻りあたりを確認する、魔獣はいない気配もない、今日はこのまま帰ろう、
今日は昨日より早い帰還になるが・・・
なんて言い訳しよう・・・
まぁ、いいか、朝の件もあるので早く帰ってきたことにしよう、考えながら歩いていると・・・
何処からか、シフォンの声がする・・・空耳か?
「クーマ様ぁ〜! 」
やっぱり聞こえる、空から・・・防壁を見上げる、シフォンが防壁から身を乗り出している、後ろで衛兵が必死に押さえている、俺はシフォンに向かって手を振る、
「クーマ様! すぐに参ります! 」
姿が見えなくなった、衛兵も手を振ってくれている、俺は手を挙げて応える、
門が見えてきた、既に門は開かれシフォンの姿が見える、走り出そうとするシフォンを何人かの衛兵が押さえている、
困ったお嬢様だ、あっ、衛兵を振り切った、
俺は少し早足になり飛び込んできたシフォンを抱きしめる。
「クーマ様! お帰りなさい! 」
「はい、帰りました」
門の前にアクスが見える、
「お帰りなさい、クーマ殿、昨日に引き続き速いですね、
「はい、今日は採取場所を変えたので、あまり採取出来なかったんです」
「場所を変えた? どちらに? 」
「小屋の西側ですね、思ったほどの量は無かった」
「そうですか、それは残念でしたね、で、どれくらい取れたんです? 」
「昨日の7割位ですかね」
「昨日の7割ですか・・・ハハハ・・・」
「少なかったですかね? 」
「いえ、クーマ殿の話を聞いていると、感覚が少し狂います」
「それは・・・」
「十分多いということです! ね、アクス様」
「そうですね、お嬢様の言うとおりですよ、あそこで、それだけで採取できる者はそういません」
「ハハハ、ポニーのおかげですね」




