第21話
晩飯は肉料理が用意されていた、
机いっぱいに肉、肉、肉・・・
美味そうだ・・・美味そうだけど、
「シフォンさん・・・肉ですね・・・」
「そっ、そうですね・・・肉です・・・」
「頂きましょう! 」
「はい! 」
いつものようにシフォンが席を引いてくれる、そしていつものように横に座る、
席に座ると直ぐに、肉を取り分け、皿に盛り付けてくれる、
いつもながら至れり尽くせりだ、
食事中、シフォンは決して俺の世話を他のメイドに任せない、ありがたいが、恐縮する・・・自分もゆっくり食べればいいのに、ずっと俺から目を離さない、
自分ばかりが食べるのは申し訳ないので、シフォンに肉を差し出す、
少し照れてあ~んと口を開ける
「えっ、シフォンさん・・・みんな見てますよ」
「えっ、あっ」真っ赤な顔で下を・・・向かない?
「クーマ様、あ~ん」目を閉じて口を開ける、
周りを見ると皆が優しい目をしている、
俺はシフォンの口に肉を入れる・・・
パクっと食いつき離さない
「シフォンさん・・・」
はっ、と、目を開いて恥ずかしそうに下を向く・・・
両手を頰に当てもぐもぐしている、長い・・・
ゴキュッ、と飲み込んだのが分かる、
すごく幸せそうな顔だ、すごく可愛い・・・
新しい肉をフォークに刺し、またシフォンに向ける・・・
ぱっ、と、明るい顔で肉に食いつく・・・
今度はすぐに飲み込む、
こっちを見てまた口を開ける、
また新しい肉をフォークに刺す、
シフォンは横でじっと見ている、
口を少し開け、はぁ、はぁ、言っている・・・
ワンコみたいだ、お肉を見せるとまた食いつく、
それを数回繰り返す・・・
でもシフォンは止めない、にこにこしているが、額に汗が・・・
ノランが止めに入る、ドクターストップである、
その途端シフォンが口に手を当て、慌てて食堂をでていった、
ノランが慌てて追いかけていく、
シフォンが食べるので、ずっと食べさせていたが、よく見るとテーブルにあった、大量の肉が・・・無い、
俺が唖然としていると、
メイドさんが食後のコーヒーを淹れてくれた、
「すいません、つい調子に乗ってしまいました」
「いいえ、あんなに幸せそうなお嬢様を見れたのですから」
「へっ」
「大丈夫ですよ、ノラン様が一緒ですから」
シフォンとノランは戻ってこなかった、
仕方ないので俺も席を立つ、
食堂を出る時、メイドさんがコーヒーを差し出してくる、
「これは? 」
「お嬢様の部屋に寄られるのでしょう? 」
『バレてる』
「有難うございます」
一礼して食堂を後にする、
ノックの音がする、
『誰だろう? 』
ノランは立ち上り、扉を開ける、
「えっ、クーマ様」
俺は頭を掻きながら、
「シフォンさんは大丈夫ですか? 」
「大丈夫ですよ・・・フフフ」
「少し食べすぎたようです・・・」
「でしょうね・・・すいません」
「良ければこれを」と、コーヒーを差し出す
「有難うございます、どうぞお入り下さい」
「いえ、今日はこれで・・・シフォンさんに宜しくお伝え下さい、楽しかった、と」
「有難うございます、お嬢様が悔しがりますね、コホン、喜ぶと思います・・・フフフ」
『悔しがる・・・何で? 』
「では、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」
俺は部屋に戻り、一息つく、
「シフォンには悪いことをしてしまった、反省・・・」
『さて、一風呂浴びて寝るとしようか』
着替えを持って風呂に行く、
そっと扉を開けて中を確認・・・
『誰もいない、よかった、ちょっと残念かな、いつも誰かと一緒だったからな』
俺はさっと服を脱いで足早に中へ、
体を洗い湯船に浸かる・・・「ふ〜」
一息はき手足を伸ばす・・・
『疲れが取れる、いい風呂だ・・・』
暫く体を温めた後、風呂を上がり、手早く服を着て・・・着替えた服は・・・取り敢えず持って帰ろう・・・
部屋の扉を開けると、人の気配がする、
少し警戒して部屋の気配を探る・・・
「シフォンさん? 」
返事は無い・・・
『違ったか? 』
部屋に入るとソファにシフォンがいる、なぜか、まくらを抱いている、
「どうされたのですか? 」
「クーマ様ひどいです、私が寝ているときに来るなんて」
少し拗ねている、シフォンが自分の横を手で叩く、
俺はそっと横に座る、
シフォンは少しため息を漏らす・・・
「クーマ様ごめんなさい」
「なんで謝るんです? 」
「だって、あんなことに・・・せっかくのお食事だったのに」
「いえ、私こそすみませんでした、シフォンさんの食べる姿が可愛くて、つい、調子に乗ってしまって、辛い思いをさせてしまった、反省してます・・・」
「可愛い♡・・・そんな、私こそ、調子に乗ってしまいました」
「じゃあ、お互い無かった事にしましょう、今日の晩飯は楽しかった・・・今後は気をつけましょう」
「はい、わかりました」
『クーマ様が可愛いって言った』
少し元気が戻ったようだ・・・
「所でクーマ様」
「何でしょう? 」
「一人でお風呂に入ったんですか? 」
「ええ、今日は一人でした、ね」
「どうして、誘ってくれなかったのですか? 」
「シフォンさん寝てましたから・・・」
「起こせばいいじゃないですか! 」
「あれでお風呂に入ったら、大変なことになりますよ! 」
いつの間にかノランがいる・・・
シフォンが隠れる
「お嬢様! 部屋を見にいったらもぬけの殻、何処に行かれたかと思ったら、案の定クーマ様のもとに」
「ごめんなさい・・・」
「ふー、本当にお嬢様ときたら・・・フフフ、本当にクーマ様がお好きですね・・・」
シフォンが俺の背中にしがみつく、
「クーマ様コーヒー飲まれますよね」
「はい、頂きます」
「では、ご用意いたします、あ、それと、逃げないとは思いますが、しっかり捕まえていて下さい」
そう言うと部屋を出ていった、
シフォンは背中にしがみついて離れない、
ノックの音がした、
ノランが入ってくる、
「失礼します、コーヒーをお持ちしました」
ノランはテーブルにカップを並べる、
『3つ? 』
「クーマ様、私もご一緒していいですか? 」
「勿論です」
「お嬢様、構いませんか? 」
「ええ」笑顔でこたえる
この二人は、お嬢様とメイドというより年の離れた姉妹のようだ『ノランの年はわからんけど』
ノランがコーヒーを淹れて俺の横に座る、
『えっ何で横に? 』
シフォンが少し驚いた顔をするが、すぐに笑顔になる、
ノランの横顔がほんのり赤い・・・
シフォンが俺の耳をひっぱる・・・
「アイタタタッ・・・」
「クーマ様、ノランばかり見ないで、私も見つめて下さい」
「おっ、お嬢様! 」
ノランが下を向く、耳まで真っ赤だ、
シフォンの目が優しく微笑んでいる、
ノランが小さく呟く・・・「いじわる」
今のノランは少女のようだ、
「そうだ、シフォンさん」
「はい」
「失礼かもしれませんが、二人はすごく仲が良いように見えますが・・・」
「そうですね、私がまだ小さい頃からずっと一緒に育ってきました、ずっと・・・」
少し遠くを見る・・・
「私にとっては姉であり友人です・・・」
「お嬢様・・・」
「ね! ノラン」
「そうですね、お嬢様は手のかかる妹ですね・・・そして最も信頼できる友人です」
「ノラン・・・」
「お二人は本当の姉妹のようですよ、優しい姉とお転婆な妹の様な」
「クーマ様! 」
ノランは下を向いてしまった、
シフォンが真剣な顔で俺を見る・・・
「どうしました? 」
「クーマ様はどっちが好きですか? 」
「お嬢様! 」ノランがあたふたしている、
「二人共・・・て、言ったら贅沢ですね」
二人がこちらを見て、驚いている、二人とも顔が少し赤い、
『しまった余計な事を言った』
「冗談ですよ・・・」慌てて取り消す・・・
二人はまだ見つめている、
「私は旅人です、一つ所には落ち着けませんから、優しい人達に出会ったそれだけで十分でしょう・・・」
『そうだ俺は自分が誰かもわからない旅人・・・旅人だ』
「そうですね、クーマ様は贅沢ですね」
シフォンが笑う、
「でも私達はクーマ様が好きですよ、ね、ノラン」
「はい」
俺を見つめて小さな声で呟く、
「有難うございます、皆さんの為にもいい仕事をします、この好待遇に見合う様に」
(話をごまかす)
シフォンは少し笑って? 何故か寂しそうな顔・・・
「決して無理はなさらないでください」
「そうです、お嬢様に心配をかけないように・・・私も心配ですから」
「はい、特にお二人には心配を、かけないように努力します」
シフォンが立ち上がる、
「クーマ様おやすみなさい、また明日・・・」
ノランも立ち上がる、
「クーマ様、おやすみなさいませ・・・」
二人を見送り、外を見る星が綺麗だ・・・




