第19話
ノランの回想、
今日は朝から一騒ぎがあった、
お嬢様がポニーに潰されかけた・・・
本人は楽しそうだったが、周りは気が気じゃない、
でも最近はポニーも楽しそう・・・不思議・・・少し微笑む、
今日は? 違うわね今日も、だったわね、
クーマ様が来てからは、毎朝騒がしくも楽しい、お嬢様の笑顔も絶えない、ずっと続けばいいのに・・・
何気なく窓から門の方を見ると、
お嬢様を乗せたポニーが帰ってくるのが見える、直ぐに1階に降り玄関の扉を開ける、ちょうど門を入ってくるところだ、真っ直ぐこちらに向かってくる、
「お嬢様お帰りなさい」
「ノランただいま」
「クーマ様は出発されたのですね」
ポニーがスリスリしてくる・・・『幸せだ〜』
「ええ、それでね、またポニーが凄いことをしたのよ・・・」
子供のような笑顔だ、
「何をしたのですか? 」
「吠えたの! 」
「吠えた・・・? 」
「そう! 吠えたの、そしたら周辺の魔獣の気配が消えたのよ! 凄かった! 」
「お姉様もアクスもビックリしてた、衛兵の方も固まってたし、腰を抜かしてる人もいたのよ! 」
「どういう事ですか? 」
「クーマ様が威嚇って言ってたわ」
「威嚇ですか? 」
『威嚇しただけでうちの衛兵が腰を抜かす? 』「そんな馬鹿な? 」
「本当よ・・・」
いつものシフォンではない女王がそこにいた・・・
私は一歩下がり、跪く、
「あ、ごめんなさいノラン、気にしないで」
「じょ・・・お嬢様」
「ゴメンねノラン、私も戸惑っているのよ・・・」
「さぁ、ポニー、厩舎で待っててくれる、後でクーマ様を一緒に迎えに行きましょうね」
ガウゥ! 一声鳴いて厩舎に向かって行く、
「セルファ、ポニーの鞍を外してあげて」
「はい、わかりました」
セルファがポニーを追っていく、その後ろ姿を見ながら小さな声で呟く、
「私が・・・『私が行きたい! 』」
「ノランどうしたの? 」
シフォンの声で我に返る、
「いえ、なにも」
「一緒に行きたかったんでしょ? 」
「え、あ、・・・そのようなことは・・・」
「本当は? 」
「少し・・・
「そうね、今度一緒に乗せてもらいましょう」
「いいんですか? 」
『私も一緒・・・』
想像したら嬉しさが込み上げる、
「ええ、ノランなら乗せてくれるわ」
「有難うございます・・・」
私は少女のように喜んでしまった、
その姿がよほど珍しかったのか、お嬢様が私を見つめている、
私は思わず固まってしまい、
「コホン」と咳払い・・・
お互いに顔を見合わせ笑ってしまった、
屋敷に入り食堂へ、
「アルマ」
「お嬢様、いかがなされました」
「今日はクーマ様が、早く帰られる予定です、
いつでも食事が出来るように、準備をお願いね」
「畏まりました、今日のメインは何に致しましょう? 」
「お肉ね・・・」
「肉ですか? 」
「そう、肉! 」
「わかりました、では、肉で」
「ええ、肉で・・・ウヘヘ・・・精のつくものでお願い・・・ウヘヘ」
「お嬢様、へ、ん、た、い、ですよ、涎をお拭きください」
はっと、我に返りよだれをすすり手でぬぐう、
「もう! お嬢様、何処の変態ですか! 」
アルマは呆れて苦笑している、
「失礼・・・ウヘヘ・・・」妄想が止まらない、
「お嬢様! アルマの邪魔になります、行きますよ」
お嬢様はまだ妄想の世界から帰ってこない、手を引いて無理やり連れて行く、
「アルマ、誰かに言って飲み物をお願い」
「わかりました、お嬢様の部屋で良いですか? 」
「ええ、おね・・・」
「駄目です、クーマ様の部屋にして下さい」
「お嬢様!」
「嫌っ、クーマ様の部屋で飲みます」
「アルマ、コーヒーをお願い」
私は頭に手を当て呆れてしまった・・・
「ノラン行きますよ! 」
さっさと先に歩き出す
「ちょっ、お嬢様っ・・・」
慌てて追いかける、
「クーマ様〜、お邪魔します〜」
そ~っと扉を開け部屋に入る、
「お嬢様、何をしてるんです? 」
「クーマ様が居ないのは承知ですよね? 」
「わかっています、練習です! 」
「何の練習ですか!? 」
部屋に入って、ソファに座り大きく息を吸う、
「はぁ〜、クーマ様〜」
「お嬢様、何をされているのですか」
「匂いを嗅いでる・・・」
「変態ですね、他の者の前ではされないように」
「わかっています! いいじゃない、ちょっと位・・・」
「ちょっとですか・・・最近よく見てるような気がしますが? 」
「そんなに? 」
「はい・・・」
じっと見る
「・・・気をつけます」
ノックの音がする、
「どうぞ」
私が答える、
メイドのアイが部屋に入ってきて、
一瞬動きが止まる・・・
「何故お嬢様が? 」
部屋の外を見る、
『間違ってない? 』
「アイ、気にしなくていいわ、間違ってないから」
「失礼しました、コーヒーをご用意しました」
「ありがとう、後は私がやります、下がっていいわ」
「はい、失礼します」
慌てて出ていく
またシフォンが息を吸い込む・・・
『いい香り・・・』
「コーヒーがですか・・・? 」
「当然です・・・」
また二人で笑ってしまった、
「ノランもどうぞ」
お嬢様が私にもコーヒーを勧める、
「ありがとうございます、では、頂きます」
お嬢様と私のカップにコーヒーを注ぐ、
いい香りが鼻をくすぐる、
お嬢様は静かにコーヒーを飲み、目を閉じる・・・
私も、一口飲んでほっとする・・・
思えば、クーマ様が来るまでは、コーヒーは、ほとんど飲まなかった、
美味しそうに飲む、クーマ様を見ていると、自分も飲んでみたくなった、
初めは苦くて、なんだ、と、思ったが、香りがなんともいえなかった、
今では無いと少し物足りない、
暫く無言の時を楽しむ、時間がゆっくり過ぎてゆく、なんて穏やかな時間・・・
スースーと寝息が聞こえる・・・
『寝息? お嬢様・・・寝てる・・・』
「お嬢様! 起きて下さい! 」
むくっと起き上がり、いきなり服を脱ぎ始める、
「えっ! 何をしてるんですか! 」
「え、ノラン、疲れました少しねます・・・」
「ちょっと! お嬢様、ここはクーマ様の部屋ですよ、」
肩をつかんで揺する、
「ノラン、わかりました・・・」
「もうっ、本当に・・・」
慌てて脱ぎ散らかした服を集めていると・・・
何故か・・・お嬢様がいない・・・
まさか! あのまま部屋の外に・・・
扉が開いた気配はなかった・・・
「う〜ん、クーマ様〜」
・・・声がする、
振り返ると、ベッドにスッポンポンのお嬢様がいる、
「クーマ様の匂いがする〜、あ~ん」
『どんな夢を見ているの・・・このエロ娘』
と言いながらソファに座る・・・
『こんな楽しそうなお嬢様の寝顔はいつぶりでしょうか・・・』
思わず笑みがこぼれる・・・
『もう少し、楽しい夢を見せてあげましょう』
私は、ソファに戻り、残ったコーヒーをカップに注ぎ、一口飲む・・・
『冷めてる』
『そう言えば、クーマ様はどうやってコーヒーを温めたの・・・』
コーヒーカップを両手で持って、
手に魔力を込める・・・
『炎の魔法じゃない、でも、どうやって・・・』
『熱っ』
カップが熱くなっている、
慌ててテーブルに置く・・・
そっと触ってみる、なんとかさわれるぐらいにはなった、飲んでみる・・・
『生温かい・・・』
『クーマ様のコーヒーは熱かった・・・何故、どうやって・・・』
静かな部屋の中に、お嬢様の寝息が聞こえる、
ノックの音がする、
『誰? ノックの音がする・・・何で? 』
「失礼します」
『誰かが入ってきた、誰? 』
「ノラン様! 」
『アイの声? 何で! 』
一気に意識が戻る、
『私、寝てしまっていた』
「ノラン様? 」
「アイ、ごめんなさい、ちょっと居眠りしたようね、で、どうしたの? 」
「あの、今、詰所から伝令が来ました」
『伝令?・・・何か嫌な・・・何か忘れてる・・・』
「伝令? 詰所から? 」
「はい」
一気に状況を理解した
「お嬢様! 」
ベッドであられもない姿で寝息を立てている、
「わぁっ〜〜」
思わず絶叫する
「お嬢様! 起きて下さい! 」
走り寄り、身体を揺する、
「あ~ん、クーマ様そこは駄目です〜、ムニャムニャ」
「何を寝ぼけている! このエロ娘! 」
「ノラン様、それはまずいのでは・・・」
「はっ、アイ〜、今のシーンは削除しなさい」
「へっ、でも」
「何なら私が削除しましょうか〜? 」
「へっ! ノラン・・・何で? 」
「クーマ様は? 」
シフォンが目覚めた、
詰所から連絡がありました、クーマ様が戻られたそうです
「そう、クーマ様帰ってき・・・キャ〜〜」
「ノラン! 出かけます! 」
スッポンポンで走り出す、




