第18話
マーリーが先に立ち、作業場のジェルダに声を掛ける・・・
「ジェルダ! クーマ様がお戻りです」
「は~い」
奥からジェルダが出てくる、
「えっ、もう戻ったんですか? 」
「はい、今日は早めに切り上げました」
「そうですか、ミー・スー・アンこれなら応援は必要無かったですね」
『応援を用意してくれていたようだ』
「そうですね、ジェルダさんなら余裕かと」
ジェルダが、ふっと余裕の笑みを浮かべる、
「で、今日も蘇生薬ですか? 」
「いえ、今日は回復薬の素材ですが」
「あー、回復薬ですか、それな(嫌な予感がする)・・・」
「クーマ様・・・素材を見せて頂いても構いませんか? 」
「はい」
俺は袋から一束出してジェルダに渡す、
受け取ったジェルダは、
「これ上級薬草じゃないですか! 」
「そうですね」
「早く言って下さい! 直ぐに処理をしないと、直ぐに出して下さい! 」
「えーと、ジェルダさん達だけで・・・」
「そうです! これぐらい私達だけで十分です」
「そうですか、では、こちらでいいんですね」
「この上にお願いします! 」
「わかりました」
俺は作業台に素材を積み上げる、直ぐに置く場所が無くなったので・・・
「ジェルダさん」
奥で準備をしている、ジェルダに声を掛ける、
「何ですか! ・・・ 」
少し不機嫌だ、
「置く所が無いのですが」
「は! え! な! 何ですかそれは」
作業台の上の、素材の山を見て絶句している、
既にミー・スー・アンは、固まっている・・・
「後、同じぐらいありますが、何処へ置けばいいですか・・・? 」
「ジェルダさん・・・」
暫く固まっていたジェルダが、我に返る、
「何で、そんなに・・・」
「何処に置きます? 」
後ろでマーリーが笑いをこらえている、
「袋ごとお預かりしてもいいですか? 」
消え入りそうな声でそう呟く、
「構いませんよ、では、こちらです、宜しくお願いします」
そう言って袋を手渡し、一礼して作業場から離れた、
暫くして作業場から、ジェルダ達の絶望の悲鳴が聞こえた、
『頑張ってくれ』
その頃のシフォン、
ノランに連れられ、ポニーに跨ったまま厩舎前に来た、
「お嬢様もう大丈夫です」
その途端、シフォンの口から大きな喘ぎ声が、
「あぁ〜あはぁ〜うっあぁ〜」
そのままポニーの上に倒れ込む、息が荒い、
「はぁ、はぁ、はぁ〜ん」
「お嬢様・・・いきましたね? 」
シフォンは、ポニーに顔を押しつけ、ぷるぷる震えている・・・
「ノラン・・・クーマ様には・・・内緒で・・・」
「わかっています、ご心配なく・・・」
「で、どうされたのですか? 」
「クーマ様に、下着を付けていないのが、ばれました・・・」
「それで? 」
「ポニーに乗って帰ってきました」
「知っています」
「クーマ様にずっと後ろから抱かれました」
「だから? 」
「ポニーの毛が・・・揺れるたびに」
「はぁー」
ノランがため息をつく、
「で、ポニーをビショビショにした、と」
「やめて・・・ノラン・・・言わないで」
「お嬢様・・・」
「何? 」
「もう、動けますか? 」
「大丈夫・・・よ」
「では、まずポニーから降りて下さい」
「わかった・・・」
のろのろとポニーから滑り降りる、
ポニーの背中が濡れている、
それを見て、真っ赤になって顔を押さえる、
ポニーが振り向き、フンフンと匂いを嗅いでいる、
それを見てシフォンが叫ぶ・・・
「ポニーやめて! 嗅いじゃだめ! 」
キョトンとシフォンを見て、フンフンと匂いを嗅ぐ、
「こら! ポニーやめて! 」
また自分の背中を嗅ごうとする、
「ポニー! やめてー! 嗅がないでー! 」
「ポニーのいじわる! 」
やはりポニーはキョトンとしている、
「アニー、コニーお嬢様をお願い」
「お嬢様、お風呂に入って、ちゃんと着替えて下さい」
「でも、クーマ様が・・・待ってる」
「クーマ様に言いますよ」
「ちょっと! ノランそれはだめ! 」
「じゃあ、ちゃんとお風呂に入って下さい」
「それと」
シフォンの耳元で・・・
「甘い香りが出てますよ」
また、真っ赤になる、
「アニー、コニー直ぐにお風呂に入ります、用意して下さい」
「わかりました」☓2
その後のノラン、
「ポニーおいで」
グァ、一声鳴いてノランについて来る、
並んで歩き洗い場へ、
『私は幸せだ〜、ポニーが言う事を聞いてくれるなんて、こんなに、嬉しいことはない』
「ポニー背中を流すわね」
グァー 背中を向けて座り込む、
その背中にチューブのようなもので水をかける、
全身ずぶ濡れで、グゥアゥ、グゥアゥと首を振って喜んでいる、既に濡れネズミならぬ、濡れクマである、
ノランは、自分もビショビショになりながら、ニコニコ笑顔で、背中を洗ってやっている・・・暫く洗ってから背中を流す、
「ふー」
と、一息つくとポニーが抱きついてきた、
「ちょっとポニーだめ、わぁー」
しっかり抱きついて顔を舐め回す・・・
ノランは幸せそうな笑顔、ポニーも嬉しそうに見える、
『どうやって乾かそう・・・』
ノランが考えているといきなり、ポニーが身体を振る、ブルブルである・・・
どや顔のポニー・・・
ずぶ濡れのノラン・・・
ポニーはノランの顔をペロッと一舐め、申し訳無さそうな顔をする、
「大丈夫よ、ポニー」
笑顔で答え、頭を撫でてやる、
「ポニーお願いがあるの」
グァ!
「一人で厩舎に戻れる? 」
グァー!
「じゃあ、お願いしてもいいかしら、私はお風呂に入って着替えます」
グァー!
ポニーは厩舎に向かって歩き出す、
『ありがとうね、ポニー』
ノランは軽い足取りで風呂に向かう、
洗い場から風呂へ入ると
シフォンの服がある
『まだ入っていたのね・・・』
濡れた服を脱ぎ、中へ入る、アニーとコニーがシフォンを洗っている、
気付いた二人に、
「ご苦労さま、後は代わります、二人はお嬢様の着替を用意しておいて」
「あ、それと私の服もお願い」
「ノランも着替え?・・・何かあったの」
見上げたシフォンが問いかける、
「はい、ポニーを洗ってたんですが」
シフォンが真っ赤になる・・・
「ポニーにブルブルされ抱きつかれました」
「アハハ・・・そう、ポニーは優しくなったわね」
「そうですね、以前のような緊張感がないというか、余裕があるというのか・・・」
「やはりクーマ様の影響でしょうか? 」
「そうね、クーマ様の影響でしょうね」
「お嬢様もかなり変わられましたが」
「えっ! 変わってますか? 」
「はい、とても可愛くなられています」
「ノラン! でも、かもしれない、私は・・・」言葉を濁す、
「クーマ様は・・・」
「私達に好意を持ってくれている・・・? 」
「何かを企んでいる・・・? 」
「前者ならいいんですけど・・・」
「私も、そうあって欲しいと思います」
俺はマーリーに案内され、自分の部屋に戻った、
「クーマ様、何かお飲みになりますか」
「では、コーヒーをお願いします」
「畏まりました、暫くお寛ぎください」
「有難うございます」
マーリーは一礼して部屋を出る、
直ぐにノックの音がする、
『早いな? 』
「どうぞ」
ノランとシフォンが顔を出す、
シフォンは何故か後ろに隠れている、
視線に気付いたノランが、シフォンを前に出す、
少し、狼狽えた後、こちらに近づいてきて、
横にちょこんと座り、少し下を向いている、
そこにマーリーがコーヒーを持ってきた、
少しお辞儀した後、
「クーマ様にコーヒーを、お持ち致しました」
「ご苦労さま、後は私が・・・」
「ジェルダはどうしています? 」
「はい、悲鳴をあげていました、フフフ」
「やっぱりあの声はジェルダでしたか」
「クーマ様の持ち帰った素材は? 」
「本日は上級回復薬の素材と、仰っておられました、量は作業台、山盛り2杯です」
「へっ! 2杯? 」
「はい、2杯です、四人は固まっていました、ウフフ」
「でしょうね・・・フフフ」
マーリーは少しお辞儀してから部屋を出ていく、
ノランが近付き、俺とシフォンにコーヒーを注いでくれる、
「ノランさんも、御一緒にどうぞ」
席を進める、
「有難うございます、では、ご一緒させて頂きます」
シフォンはいつの間にか俺の腕に抱きついている、
ノランが話しかけてくる、
「クーマ様、今日は早かったですね」
「はい、思ったより順調に進みましたので」
「それに、シフォンさんから、必ず夕食までに帰ってくるように言われていましたから」
シフォンが俺の腕を強く掴む、
見ると、真っ赤になった顔で、俺を見ている
「ちゃんと帰ってきましたよ」
「おかえりなさい・・・」
シフォンが目を閉じる・・・
「コホン! 」
ノランが一つ咳払いをする、
「私を無視しないように」
シフォンがはっとして腕を離して、座り直す、
「わかってます! 」
ノランが笑う・・・
「ところでシフォンさん、もうお身体は大丈夫なのですか? 」
シフォンが下を向きプルプルしている、
「だ、大丈夫です、ご心配をおかけました」
小さな声で答える、
ノランがお腹を抱え、声を殺して笑っている、肩がプルプル震えている、
「何があったんです? 」




