第14話
「そう、ありえないのです、私は、今回の模擬戦、クーマ殿の音を追っていました、土煙の中、確かに私の後ろから音がした、勝ったと思いました、だから・・・力を抜いた、怪我はさせたくない、そう思った・・・」
「死を感じました・・・」
「死を? 感じた? どう言う意味だ? 」
「言葉のとおりです」
「だから私は反射的に、全力で剣を叩きつけました」
「全力で、だと・・・ならばあの程度で済むのか、仮にも"S"ランクの全力を受けてあの程度で済むとは思えん・・・そうか鎧か? だからわざと鎧で受けた・・・」
「ちょっと待て、私はあのような鎧を屋敷で見たことはない、それに作ったと・・・作った?
どうやって・・・」
「わかりません、それとこれを」
「アクスは剣を抜き、マルガに手渡す」
「マルガは不思議そうな顔で、アクスの剣を受取ブレイドを見る、ブレイドは欠け、ヒビが入っている、何故? 」
アクスの顔を見る
アクスは首を振る・・・
「この剣が欠けるとは・・・」
「申し訳ありません折角頂いた剣を・・・」
「それは構わん、むしろこの剣の、こんな姿をみるとはな、驚き以外の何物でもない・・・」
「あの鎧のことは、あの御方に頼んでおく」
「宜しくお願いします」
屋敷が見えてきた、
シフォンはいつの間にか眠っている、
ポニーはわかっているのか、揺れが少ない、
屋敷の門が見えた、ノランが手を降っている
「おかえりなさいませクーマ様、ゆっくり出来ましたか? 」
「はい、皆さんには迷惑をかけてしまったかも」
「そのようなことはないでしょう」
「お嬢様は・・・眠ってしまわれたのですね」
「はい、町を出た辺りで眠ってしまわれました」
「そうですか最近はいつも楽しそう・・・」
「クーマ様、申し訳ありませんが、お嬢様を寝室へ、お願いできますか」
「いいのですか? 」
「はい、お嬢様もその方が良いでしょう」
「わかりました」
「セルファ」一緒にいたメイドに声を掛ける
「クーマ様と一緒に行ってください、それとクーマ様にコーヒーを」
「はい、わかりました」
「クーマ様、お部屋で宜しいですか」
「有難うございます」
「私はポニーを送ったら直ぐに戻ります」
「わかりました」
俺はセルファに先導され、シフォンの部屋へ、
奥の寝室に案内される、セルファはベッドを素早く整え、
「クーマ様こちらへ」
ベッドにシフォンを降ろす
「・・・クーマ様・・・」
『寝言か・・・可愛い寝顔をしている、ずっと見ていても飽きない気がする』
セルファに促され部屋をそっと後にする、
「クーマ様、お部屋でお待ち下さい、直ぐにお飲み物をご用意致します」
「有難うございます・・・そうだ、セルファさん、少し装備を手入れしたいので、作業場を使いたいのですが」
「わかりました、アルベルト様から、屋敷内ではクーマ様の行動は自由にと指示されています、ですのでご自由にお使い下さい」
「有難うございます」
「では、お飲み物は後でご用意いたします」
「はい、お願いします」
俺はそう言って部屋を出る、
その頃ノランは、
スキップしながらポニーと厩舎に向かっている、
ポニーを厩舎に入れ、恐る恐る手を出すと、ポニーが頭を寄せてくる、ノランは満面の笑みで、ポニーを撫でる・・・
『幸せだ〜』
はっとして、周りを見る
「ありがとう、ポニーまたね」
と言って、厩舎からスキップしながら屋敷に向かう、作業の終わった俺とバッタリ出会う、
ノランは俺に気付きその場で固まる、
・・・スキップのままで・・・
スローモーションの様に足を揃え直し、
「オホン・・・クーマ様どうなされたのですか? 」
『先ほどの光景を無しにしようとしている? 』
「はい、作業場をお借りしていました、少し装備に改良を、と」
「そうですか、もう終わったのですか? 」
「はい・・・所でノランさん、スキップ、お上手ですね」
ノランの顔が真っ赤になった、
「クーマ様・・・お嬢様には内緒で・・・お願いします」
「分かってます」
「では、失礼いたします」
足早に去っていく、その後ろ姿を見送り、
『俺も部屋に戻ろう』
ノックの音、
「どうぞ」
セルファがワゴンを押して入って来る、
「コーヒーをお持ちしました」
「ありがとう」
「他に御用はございますか」
「いえ、ありがとうございます」
「では、失礼いたします」
部屋が静寂につつまれる、コーヒーの香りが心地いい、一口飲んでホッとする・・・
ノックの音?
「どうぞ」
ドアが少し開く・・・
誰も入ってこない・・・
「誰ですか? 」
「シフォンです」『小さな声? 』
「シフォンさん? どうぞ」
入ってこない・・・
『何かあったのか? 』
俺は扉を開ける、シフォンがいる、周りを見るが、他には誰もいない・・・
シフォンは下を向いたまま、ふるふるしている、
「どうしたのですか? 」
取り敢えず部屋へシフォンを招く、
「どうぞ」
シフォンはそれでも動かない、
俺は手を握り部屋へ引き入れ、さっきまで座っていた窓際の椅子をすすめる、
シフォンが遠慮がちに座る、
俺は前に座りコーヒーをすすめる、
「あっ、すいません、冷めてましたね」
「いえ、構い・・・」
目の前でコーヒーを温め直す、
「ちょうどいい具合ですね」
シフォンと俺のカップに注ぐ、
シフォンを見ると、さっきまでの表情とは変わり驚きの表情を見せる、
「クーマ様、今何を・・・声が震える」
「今? と言うと・・・」
「このコーヒー・・・」
カップを持つ「熱い・・・」
「すいません熱すぎましたか」
「いえ、魔法・・・を使った・・・」
「はい、大した魔法は使えませんが、この程度であれば・・・」
・・・無言
「どうしたんですか・・・」
俺は少し不安になる
「いえ、クーマ様は魔法が使えたのですね」
「はい、しかしこの程度ですから」
シフォンはコーヒーを飲み、美味しいと言い、にっこり笑った、
『いつものシフォンかな? 」
その後何があったのか聞いたところ、シフォンの顔が一瞬で真っ赤になり下を向いてしまった、
ボソボソとなにかを言っている、
「せっかくクーマ様に抱いていただけたのに、
私は・・・私は・・・また寝ていたなんて
何ぜ起こしてくれなかったのですか? 」
「しかもベットに運んで、そのまま部屋に戻ったなんて、何故起きるまで居て下さらないのですか? 」
「いや、それは駄目でしょ、メイドさんも居ましたし」
「居なかったら? 」
じっと俺の目を見る、
思わず目を逸らす、
「クーマ様! 言って下さい! 」
「それは・・・」
ノックの音がする、
俺はすかさず、どうぞと返事をした、
ノランが入って来る、
「あら、お嬢様、部屋にいないと思ったら、クーマ様の所に・・・」
ノランはスッとシフォンに近付き、耳元で、
「何をしようとしていたのですか? 」
シフォンがまた真っ赤になる?
「ンッ、もうっ!知りません! 」
フフフとノランが笑う、
「お嬢様、お食事の準備が出来ております、今日は領主様と同席です」
「ふ〜」一つ溜息をつき、
「わかりました」
いつもの笑顔に戻る、
「クーマ様お食事に行きましょう」
そう言って俺に腕を絡める、
食堂に入ると、既にアルベルトが座っていた、
「おまたせしました」
「気にしなくていい」
席に着くとすかさずシフォンが隣に座る、
「お父様! 」
「どうした? 」
「今起きたのですか!? 」
「うっ、いや実は仕事・・・」
「仕事? 今朝お姉様と朝食を頂きました、今朝、父上を連れて帰った、と言われてましたがっ! 」
「アハハ・・・あんな宴会は久々だったのでな・・・皆の顔を見ると楽しくて、な、つい飲みすぎてしまった・・・」
「お父様! それでは・・・」
「シフォンそう怒るな、皆の顔を見たか、あんなに楽しそうにしているのは久しぶりだ」
「それはそうですが・・・」
「これもクーマ君のおかげだな」
「たしかにそうですが・・・」
「シフォンも楽しんだだろ、酔っ払ってクーマ君に抱っこされて」
「お父様! 」
「楽しくなかったのか? 」
「そんなことは・・・もういいです! クーマ様、何を笑っているのですか! 」
「えっ、すいません」
「ノラン!食事を運んで下さい! 食べます!」
「お嬢様、顔が真っ赤ですよ~」
「ノランまで! もうしりません! 」
そう言って肉にかぶりつく、
「クーマ君も食べてくれ」
「頂きます」俺も肉にかぶりつく、
「うまい! 」思わずシフォンの顔を見る、
シフォンもこちらを見ている、口に肉を咥えて・・・
思わず吹き出し、二人はむせた、
それを見たアルベルトとノランも笑っている、優しい顔で、




