第13話
「ところで用向きはアクスに伝えたのか? 」
「いえ、まだです」
「私に御用ですか? 」
「はい、今日はお休みになったので、もし、アクス様に時間があれば、再戦を、と」
「覚えて頂いてましたか」
「当然です」
「ありがたい、是非お願いします」
「こちらこそお願い致します」
「マルガリータ様宜しいですか」
「ああ、構わんシフォンも見たいそうだ」
「ならば、全力でいかせて頂きます、今度は逃しません」
「お手柔らかに願います・・・」
「では、少し準備させて頂きます」
そう言うと、アクスは部屋を出ていった、
なんかやたら気合が入っていたが、
マルガリータが話しかけてくる、
「アクスは、クーマ殿が出発してからずっと訓練をしていたよ、よほどショックだったのだろうな、部下も数名巻き込まれていた」
「私も何度、模擬戦をさせられたか、大変だったよ・・・」
「すいません」
「ああ、気にしなくて良い、私も久し振りに楽しかった」
「そのおかげか、部下達の仕事に対する意識というか・・・使命感かな? それが上がった気がする」
「アクスは情報分析に長け、対応力も高い、腕もかなりのものだし、部下の信頼も厚い、そのアクスがクーマ殿に翻弄された」
「正直、皆ショックを受けていたと思う、まぁ一番ショックを受けたのはアクスだがな・・・」
「クーマ殿、今回のアクスは手強いぞ」
「アハハ、やめときゃ良かったかな」
「クーマ様! クーマ様なら大丈夫です、シフォンは信じています」
「有難うございます、これでは負けられませんね」
「はい、負けたら罰を与えます」
「えっ! 」
「私に口づけをしてもらいます・・・」
段々声が小さくなっていく、
『顔が真っ赤だ・・・あっ、逃げた・・・』
「クーマ殿、負けたほうがいいのでは」
マルガリータが、ハッハッハと笑っている、
その時、ノックの音がした、
「入れ! 」
「失礼します! アクス様の準備が整いました! 」
「わかった、では、クーマ殿行こうか」
「はい」
訓練場には多くの衛兵が集まっていた、
シフォンもそこにいる、
その中央には、アクスが既に待機している、
「アクス様おまたせしました」
「いえ、お気になさらず」
笑顔ではあるが、かなり気合が入っている、
俺は10mほど距離をとって前に立つ、
「マルガリータ様、お願いします! 」
「わかった! 両者準備はいいか! 」
「はい! 」
アクスが剣を抜き、正面に構える、隙がない、俺は両足に力を込め体を沈める・・・
先に動いたのは俺、一気にアクスの間合に入る、
アクスの剣は既に上段から振り降ろされている、『早いっ! 』
すかさず地面を蹴り右へ、土煙が上がる、もう一度地面を蹴り左へ、もうもうと土煙が上がる、そのままアクスの後ろへ回り込む、
その瞬間、体をひねったアクスの剣が背中に直撃する・・・
「あいたっ! 」
そのまま地面に叩きつけられる、
見ている者、誰もが固唾をのんで土煙が晴れるのを待つ・・・
立って俺を見下ろすアクスの姿が見える、
その足下に転がる俺、
衛兵たちから歓声が上がる、俺は起き上がりその場に座り込む、
シフォンが駆け寄ってくる、
「クーマ様お怪我は! 」
「ああ、大丈夫ですよ、ちゃんと加減してくれています」
「心配させないで下さい! 」
アクス目線
『来られたか、今回は負けるわけには行かない、クーマ殿が誰であっても』
『装備はこの間と一緒か、武器は無し・・・何だこの音? カラカラと金属音? 音の出処はクーマ殿? 何か隠している? か』
「マルガリータ様お願いします! 」
「わかった! 両者準備はいいか! 」
「はい! 」
クーマ殿が身をかがめ足に力を込める、
『来るっ! 』一瞬で距離を詰める、
『これはフェイント! 』カランカラン、
『また? 』音は左から右へ、そして後ろに、
『速い! 』土煙が上がり周りが見えなくなる、
『でも後ろにいる! とらえました! クーマ殿お覚悟! 』今回は余裕がある、力を抜く、
『怪我はさせられませんからね』
『何だ! 』全身を悪寒が走る、
『死ぬ! 』その瞬間全力で剣を叩きつける、
ガキン! ドタ!
「あいたっ!」
『何が起きた? 生きてる? 何が・・・』
衛兵たちから歓声が上がる、
『クーマ殿は起き上がりその場に座り込んでいる、シフォン様が駆け寄ってくる』
「クーマ様お怪我は! 」
「ああ、大丈夫ですよ、ちゃんと加減してくれています」
「心配させないで下さい! 」
『私は何を見ている・・・』
『マルガリータ様の声が聞こえる』
「アクスよくやった! 」
我に返る・・・『しまった! 』
「クーマ殿大丈夫ですか! すいませんつい、本・・・」
「いやー流石に2度目は無理でしたね、手加減していただき、ありがとうございます」
『手加減? 何を言っている、私は本気だった、死を感じたあの瞬間、私は全力で剣を振った』
クーマ殿がこちらを見ている、優しい目だ、
その目を見て、全てを悟った、
『そういう事か、私はまだまだだな』
アクスが手を伸ばす、俺はその手を取って立ち上がる、皆から歓声が上がり集まってくる、
「クーマ殿すみませんでした」
改めて謝罪するアクス、
「気にしないでください、流石に高ランク者に同じ手は通じないと思い・・・」
俺は上着をめくって作った装備を見せる、
「これは・・・」
シフォンが答える、
「こちらに来る前に、クーマ様が自分に合った装備を、と、作られました」
『あの音はこれか』
「流石にこの間の手は使えないと思ったので、ハハハ・・・」
「笑い事ではありません! 本当に心配したのですよ! もし、怪我でもしていたら! 」
シフォンは泣きべそをかく、
「あ~、すいません、以後気をつけます」
そうすると小さな声で
「約束・・・負けたらゴニョゴニョ・・・約束しました・・・」
「あっ・・・」
俺を見つめ静かに目を閉じる、
「え〜と、今ですか? 」
「はい・・・」
「あ~、シフォン、流石にここでは、不味いのではないか、皆が見ている」
マルガリータに言われ、
「えっ! 」慌てて回りを見回す・・・
ピンク色の頬が一気に赤くなる、
周りから何故か拍手と喝采が沸き起こる、
「全員解散! 部署に戻れ」
シフォンは下を向いて肩を震わせている、
俺はシフォンを抱き寄せ、頬に軽くキスをする・・・「今はこれで」
シフォンが俺に強く抱きつく、横では、マルガリータとアクスが笑っている、
4人は先ほどの部屋に戻る、
「クーマ殿、もう昼だ、良ければ一緒に食事はどうだ? 」
俺はシフォンを見る、少しため息をつき、にっこり笑う、
「頂きましょうクーマ様」
「ではご一緒させて下さい」
他愛もない雑談をしながら、食事と食後のコーヒーを楽しんだ・・・
俺はシフォンと二人、部屋を後にする、表にはポニーが待っていた、今度はシフォンが前に座り、
ゆっくり、夕暮れの街を歩いていく、シフォンは俺に体を預け、しっかり腕をつかみ、目を閉じている、
二人の帰った部屋では、
マルガリータとアクスが話をしている、
「アクス、あの模擬戦は素晴らしかった、あの速度を見切るとはな、流石だ」
「しかしクーマ殿は速いな、離れていても一瞬見失ってしまった」
「マルガリータ様でもですか」
「ああ、あの土煙の中よく捉えたものだ」
「はぁ・・・」
「どうした? あまり嬉しくはないか、まぁ、クーマ殿の逃げ足が速くてもお前は"S"ランク・・・格が違いすぎるからな、喜ぶわけにもいかんか、ハハハッ」
アクスは浮かない顔をしている、
「ではないのか? 」
「はい、マルガ様宜しいですか」
『マルガと言ったか余程だな』
「クーマ殿は"F"ランク等ではありません」
「それはわかっている」
「いえ、そういうのではなく・・・ランクでは測れないというか、底が見えないというのか」
「どういうことだ? 」
「今日の模擬戦どう見られましたか? 」
「本音を言えということか? 」
「はい」
一つため息をつき、
「本気ではなかったな」
「やはりそう思われますか」
「ああ、多分クーマ殿はわざと、お前の攻撃を受けた」
「はい、そう思います」
「何があった? 」
「はい、今回、クーマ殿が着けていた装備を見ましたか? 」
「ああ、見た、変わった鎧だったな」
「ええ、ご自分で作られたと、どう作ったのかも興味ありますが、あの鎧、音が鳴るのです・・・」
「音? 」『そう言えばカラカラと・・・』
「そうですクーマ殿の戦闘? スタイルは
逃げて隠れてやり過ごすと言っておられました、事実、前の模擬戦では完全に見失いました、そんなクーマ殿があんな音を見落とすと? ましてやご自分で作られた装備で・・・」
「無いな・・・」




