第12話
作業場を離れ、シフォンが真面目な顔で、
「クーマ様有難うございます、付き合わせてしまって」
「とんでもない、私も皆にお礼を言いたかったので」
「有難うございます、さて、私の用は終わってしまいました、クーマ様は何かしたいことはないですか? 」
「そうですね・・・特には」
『まだ昼にはだいぶ早い、であれば・・・』
「あ、そうだ時間があればアクス様にお会いしたいのですが」
「アクス様にですか」(チョット不満そう)
「はい、再戦のお約束をしておりますので、この機会にと」
「わかりました行きましょう」
「よろしいのですか、私一人でも・・・」
「ダメです! ご一緒します」
「わかりました・・・」
「では、行く前に少しお願いがあるのですが」
「はい、何でもおっしゃってください」
(シフォンがニコニコしている)
「実は少し装備を、お譲り頂きたいのですが」
「装備ですか? 」
「はい、倉庫にあった物をお譲り頂けないかと」
「わかりました、何でも持っていって下さい」
倉庫の中
「何をお探しですか? 」
「胸当てなんですが、確か、このあたりにあったような」
「それでしたら屋敷にもっといいものが」
「いえ、チョット加工したいので・・・」
「あった! これですそれとコイツも、これらをいただいても構いませんか」
「構いませんが・・・」
「屋敷に行けばもっと良い物が・・・」
「いえ、これがいいんですよ」
「クーマ様がそうおっしゃるなら・・・」
「それと作業場をお借りしても? 」
「どうぞ・・・」
「何をなさるのですか? 」
「少し改良したいので」
「改良? 」
俺達は作業場に戻る、ジェルダ達はもう居ない、
俺は装備を一度解体して、使いやすいように改良する、手をかざし望みの形や強度をイメージする、金属が形を変える、出来具合を確認、
『少し弱いか、もう少し強度を・・・』
シフォンは真剣に作業を見ている、
程なく、
「出来た」
装着して体を動かしてみる
『いい感じだ、動きやすい』
「おまたせしました」
「それは・・・」
「自分のスタイルに合った装備です」
にっこり微笑む、
シフォンは不思議そうな顔で見ている、
「さぁ、行きましょうかシフォンさん」
「はい、お供します」
ガゥー!
厩舎の方からポニーの声が聞こえる、
「あの子ったら聞こえているのかしら? 」
「かもしれませんね」
「では、ポニーにお願いしましょうか」
「そうしましょう」
ポニーは既に行く気満々だ、ガウガウと扉を掻いている、
二人で厩舎に戻り、ポニーを厩舎から出して、
鞍を乗せる、ポニーは既に興奮している、今にも走り出しそうだ、
俺はそっと手を頭に乗せ、
落ち着けと念じる、途端に大人しくなり、俺の顔を覗き込む
「シフォンと俺を乗せてくれるか」
グゥーと鳴き、伏せる、
場所を開けシフォンに譲る、
シフォンは首を振り俺に前を勧める
グァッと鳴き、フンフンと俺を鼻面でこつく、
「わかりました飛ばしますよ」
シフォンはイタズラっ子の顔になる、
ポニーは急かすように、また俺をこつく、
ポニーに跨りシフォンに手を伸ばす、
シフォンは何かを期待するように、後ろに乗って俺にしっかりと抱きつく、
「クーマ様、飛ばしてください! 」
俺は念じる、『ポニー行くぞ! 』
グァー!
ポニーの全身に力がみなぎる、
「行け! 」
その瞬間ポニーが猛然とダッシュする、
『速い、前回以上だ』
シフォンが全力でつかまっている、
シフォンが叫ぶ、
「クーマ様、飛ばして! 」
『ポニーまだ行けるか』
グァウ!
ポニーがまた一段加速する、既に街の入り口が見える、
『ヤバイ! 』
ガウ!
まかせろと言わんばかりに一声鳴く、
『わかった任せる』
そのままの速度で街に飛び込む、人も障害物も一瞬で避ける、直ぐに門が見え衛兵がこちらを振り向く、
グァウ! 一声鳴いた、
俺は前身に力を入れシフォンを支える、
ポニーが横滑りでフルブレーキをかけた、
土煙が上がるがすぐには止まらない、
シフォンが背中にしがみついている、
前方ではアグネスが、驚いて固まっている、
『ヤバい!』
グアゥー!
『止まった・・・』
アグネスまで数センチ、
ポニーが、ぺろっとアグネスの顔を舐める、
アグネスはそのまま、へたり込んでしまった、
騒ぎを聞きつけ、衛兵が集まってくる、
後ろにアクスの姿が見える、騒ぎの正体が俺たちと知って、腹を抱えて笑っている、
騒ぎの中、俺はポニーから降り、シフォンへ手を伸ばす、その手を取りシフォンが降りる、
皆が姿勢を正す、
その間を、アクスとマルガリータが歩いてくる、
シフォンの前でアクスが跪く、
一瞬マルガリータの動きに違和感を感じる、
マルガリータはそのまま近づき、
「シフォンこれは何の騒ぎだ」
「すいませんお姉様、ポニーがすごく早くて、
びっくりしている間にここに着いてしまいました」少し興奮している、
「皆、持ち場にもどれ、アクス部屋を用意してくれ、それと誰かアグネスを医務室に」
「申し訳ありません、私が前に乗ったのがいけなかったのでしょう、ポニーが興奮してしまって」
ポニーが近づきフンフンと俺をこつく、
「ポニーこっちへおいで」
シフォンに呼ばれ振り向きながら、ついていく「クーマ殿、今日は休暇のはずでは? 」
少し離れた場所で、
「ポニー楽しかったわね、あなた、あんなに早く走れるのね、それに町中での動き、あの方の力なの? 」
フンフンとシフォンをこつく、
「やはりそうなのね、また飛ばしたいわね」
ウガゥ
「フフフそうね、さぁ厩舎で待っててちょうだい」
ガウ
1人の衛兵を呼びポニーを任せる、
「厩舎まで連れて行ってあげてね」
「はっ、わかりました」
一礼してポニーの後を追いかける、
『どっちが連れて行かれるのやら』
シフォンが小走りで戻って来る、
「お姉様すみませんでした、私がクーマ様に勧めてしまって」
「まぁ、いい訓練と言うことにしておこう)
「で、どうしたんだ? 」
「クーマ様が、アクス様とお約束があると」
「約束? 」
「はい、再戦の約束がありまして」
「再戦か・・・」
「私も拝見したいです」
「えっ、わかり、った」
『んっ、何か違和感が』
「では少し準備をするので部屋で待っていてくれるか」
「わかりました」
「すいません、ご面倒をおかけします」
「いや、こちらこそ皆喜ぶ」
「リーン! 」
「はい」
「アクスが部屋を用意しているはずだ、案内してくれ」
「わかりました、お嬢様、クーマ様こちらへ」
「私も後で行く」
「はい、お待ちしております」
衛兵が扉をノックする、
「誰だ」
「アクス様、リーンです」
「お嬢様とクーマ様をお連れいたしました」
「入ってくれ」
「ようこそおいでくださいました、急遽、用意いたしましたので、ご不便をおかけいたします」
「いえ、こちらこそ急に来て申し訳ありません」
「アクス様、申し訳ありません」
「そうですよ、あんな登場をされますと、皆が怯えます・・・」(目が笑っている)
「所で、どうなされたのですか、今日は採取を休まれると聞いておりましたが・・・どうぞお掛けください」
アクスは俺たちにソファを勧める、
「お嬢様はブランデーで宜しいですか? 」
「アクス様っ! 」
「ハハハ冗談ですよ」
シフォンは顔が真っ赤だ、
「お二人ともコーヒーで宜しいですか? 」
「有難うございます」
シフォンは、ふくれっ面でアクスを睨んでいる、
アクスは真面目な顔になって、
「申し訳ありません、悪ふざけがすぎました」
シフォンはプイッと横を向いて、
「知りません! お姉様に訴えます」
「それはご勘弁を」と頭に手をやる、
その時、扉が空いてマルガリータが入ってくる、「何がご勘弁なんだアクス」
「え、あ、いや」
3人は笑い出した、
「お姉様何でもありません」
「何だ3人の秘密か? まあいい、シフォン、あれは本当にポニーか、私は防壁の上から見ていたが、何だあの速さは、今まであんなポニーは見たことがない」
マルガリータも少し興奮している、
「はい、私も驚きました」
「何があったんだ? 」
「なんと説明すればいいのか・・・」
「こちらに来るのに、ポニーに乗せて貰ったのですが、今日はクーマ様に前に乗って頂いたんです、そしたらポニーが急に張り切って、いきなり全速で走り出しました、後は必死でしがみついていました」
「シフォン・・・先日も同じような話をしていたが、クーマ殿が乗るとポニーが張り切ると? 」
「確かに今まで、シフォン以外には懐かなかったポニーが、クーマ殿にはやたら懐いているように感じるが、かと言ってあそこまで変わるのか? 」
「それはわかりません、ポニーに聞いてみないと」
「ポニーに聞く、か」
「そうです」
「シフォン」
「はい」
「聞いておいてくれ・・・」
「わかりました・・・」




