第115話 冒険者の街コボル
「私は泳ぎの苦手なあなたを、よく助けたと思うんだけど」
「私は木登りの好きな貴方が落ちる度に助けたわね」
「私は貴方によくおしっこをかけられた」
「それは私の子供の頃・・・ここに住んでいた頃・・・いつも一緒にいてくれた・・・精霊!? 」
「思い出したわね」
皆が嬉しそうな顔でガーベラを見る、
『なぜ気づかなかった? 』
目に涙があふれる、思い出が一気に蘇る、
「ウンディーネ? 」
「今はディーネよ」
「今は? 」
「私は、フィード」
「私は、アードよ」
「シルフとドリアードなの? 」
「ええ、さっきまではだけど」
「何、ガーベラ説明して! 」
「まぁ、わかるけど・・・取り敢えず、落ち着こうか、ね」
「ごめん、ちょっと混乱してる」
「お茶が冷めるわよ」
「ええ、いただくわ・・・えっ、この香りは・・・」
また涙が溢れ出す、
「カリスは昔から泣き虫さんね」
「うるさい! 」
「またこの香りを楽しめるなんて・・・もう二度と飲めないと思っていた・・・」
「そうね、これからは何時でも飲めるわよ」
「そうなのね・・・」
カップを手で包むカリスの顔を夕日が染め始める、
夕日が落ち辺りが夜に染まっていく、
満天の星空が皆を照らす、
皆が何も言わず、その空間に浸っている、
『この星空いつぶりだろう』
カリスが我に返る、
「星空・・・夜になった!」
辺りに蒼白い光が溢れる、
「カリス、これでいいかしら」
アードが応える、
「ええ、明るくなった・・・じゃなくて! 」
『魔獣の気配が、囲まれている』
ガーベラが横目でクーマを見る、
『気にもしてない、と言うことは慌てる必要はない』
「ふっ、慣れたわね」
その前でカリスが慌てている、
精霊達は、わかっているようだ誰も動かない、
「ガーベラ、魔法で蹴散らして、その隙に私が・・・」
剣に手をかける、
『ない? 何で? しまった慌てていた、置いてきた』
「武器はある? 」
そう言うカリスを横に皆はまだお茶を楽しんでいる、
「何をしてるの? ガーベラ感じないの」
「あ〜、すぐに慣れるわ」
「何を・・・ガーベラどうしたの? 」
『駄目だ、私が何とかしないと、この辺りにいるのは最低でも"A"ランク以上、クインがいなくなったとはいえ、勝てるのか? 』
「どうした、襲って来ない? 」
「カリス、落ち着いて」
「これが落ち着ける状況!? 」
「言いたいことはわかる、でも落ち着いて」
「でも・・・」
「大丈夫よ」
「・・・わかった、心配はないのね」
「ええ」
精霊を見る、頷いている、
「はぁ~、久し振りに冷や汗をかいたわ」
「ハハハ、直ぐに慣れるわ」
「で、話してくれるんでしょ」
「そうね、クーマどう? 」
「カリスさんを信じますか? 」
「勿論」
「では、どうぞ」
「カリス、良いわね? 」
「わかった」
「どこから聞きたい? 」
「賞金首から」
「いいわ、賞金首の三人を追ったのは知っているわね」
「ええ、でも捕まえたのは四人よね」
「そう、私も気づかなかった、あの四人目には、けどクーマは気付いていた、私がいたことも」
「"ハイド"は? 」
「使ってたわよ」
「あなたの"ハイド"を見抜いた? 」
「そうよ、自信を無くしたわ、それにあの四人目を倒したのもクーマよ、と、言うよりも私が手を貸すこともなかった、そこからは知っている通り」
「あとは此処に来てからの話ね、あの後遅れを取り戻すため全力でここまで走った」
「全力? 」
「そう全力、振り切るつもりで」
「でっ」
「無駄だった、息も上がってなかった」
「それって・・・」頭を振る、
「それで」
「森を抜けるまでは気配を消して戦闘を避けた、崖の上から此処を見た時は諦めようと思った・・・でも、その時いきなり風が吹いて、沼が一望出来た・・・」『風が吹いた? 』
「フィード、あなたもしかして」
「何のことかしら? 」
『やったわね・・・』
「クーマ、依頼書見せて・・・」
『やっぱり、この残穢アードとフィードどうやって・・・? 』
「まぁ、いいか、今更だし」
「ガーベラ、一人で納得しないで教えて」
「ああ、ごめん、これよ」
「これって、例の依頼書? 」
「ええ、やったのは精霊達よ」
「えっ、どうやって? 」
「あなたのところにも届いたでしょ」
「あっ」
「ねっ」
「じゃぁ、ギルドの責任じゃないわね」
「承認したのはギルドよ」
「うっ、まぁ、その話は置いておいて、どうやって倒したのクインを」
「クーマがぶん殴って腹を割いた、そこに魔法をぶち込んだ」
「ちょっと、今、すごい事を聞いたんだけど、ぶん殴った? 」
「そう、ぶん殴った」
「腹を割いた? 」
「そう、しかも短剣で」
「嘘!? 」
「今更、嘘を言っても仕方ないでしょ」
「だって、そんな話、信じるほうが無理よ」
「でも、慣れて! 私もやっと慣れたんだから」
「慣れろって・・・」
「もう一つ、いや二つ、三つ、ええい、面倒臭い、カリス、今から言う事に質問は無し! 説明出来ないから、慣れて! いい、沼を浄化したのはクーマ、精霊達に名を与えたのもクーマ、この地が聖域みたいになっているのもクーマ、魔獣が襲ってこないのもクーマ、多分、以上」
カリスがポカンとしている、思考が停止したようだ、
「はぁ~、スッキリした、アード」
「なーに」
「もう一杯頂ける? 」
「ええ、何杯でも」
「有難う」
「ご主人様もおかわりを」
「ああ、すまない・・・」
「どうされました? 」
「いや、ちょっと頭に浮かんだんだが、コーヒーってあるかな? 」
「コーヒーですか? ありますよ、飲まれる方は少ないですが」
「そうなのか? 」
「ご用意しますね」
「出来るの? 」
「はい、直ぐに」
アードが地面に手を翳す、木が一本急激に育ち赤い実をつける、それを集めて種を取り出す、
「精霊達お願い」
そう言うと地面が盛り上がり、変わった形の竈になる、上の窪みに種を入れ、
「ガーベラ、火を起こしてくれる」
「ええ」
ガーベラが指差すと竈の薪に火がついた、
フィードが風を送り火力を上げる、
窪みの中の種を回しながら煎っていく、直ぐに色が変わりいい香りが辺りに立ち込める、
「良い香りね」
「もういいかしら、フィードお願い」
「はーい」
風が焦げた豆を巻き上げる、少しずつ回転が早くなり種が粉々に粉砕されていく、
「こんな感じでいい? 」
「ええ、有難う」
今度は先程の窪みに砕けた種を入れ、
「ディーネ、お願い」
窪みに水を入れる、
「これぐらいかな」
「そうね」
水は直ぐに湯になり黒く変わる、その上澄みを掬ってカップに移し、クーマに差し出す、
「お口に合えばいいのですが」
「有難う、頂きます」
クーマがカップを持ち香りを嗅ぐ、
「いい香りだ」
そのまま口に運ぶ、
「美味い! 」
「有難うございます」
ガーベラが自分のカップとクーマのカップを見比べながら、
「クーマ、美味しいの? 」
「ええ、とても」
「一口貰ってもいい? 」
「どうぞ」
クーマがカップを差し出す、
香りを嗅ぐ、
「良い香りね」
そのまま口に運ぶ、
「苦い」『でも嫌な苦さじゃない、苦味のあとに広がる酸味が口の中をさっぱりさせてくれる、鼻に抜ける香りが心地良い』
「何だろうすごく落ち着く」
「もう一口、はぁ~、落ち着くわね」
「もう一口・・・」
クーマと精霊が顔を見合せる、
「気に入った様ですね」
「みたいだな」
「新しいのを淹れます」
「ああ」
「あっ、ごめん」
「良いですよ、気に入って頂いてよかった」
「美味しいわ」残りを一気に飲み干し、
「おかわり! 」
「はい、ちょっと待ってね」
「はっ」カリスが戻ってきたようだ、
「何、良い香り」鼻をヒクヒクさせる、
「やっと戻ってきたわね」
「ごめんなさい、色々と整理がつかなくて・・・」
「わかるわ〜」
「慣れるしか無いのね・・・」
「ええ、慣れるしか無い」
「それよりも、何を飲んでいるの? 」
「コーヒーよ」
「コーヒー? あの苦い薬みたいなやつ」
「そうなの? すごく美味しいわよ、癖になりそう」
「カリスも飲む? 」
周りを見る、皆が飲んでる、良い香りが鼻をくすぐる、
「貰って良い? 」
「ええ、どうぞ」
香りを嗅ぐ、
『良い香り、何故か落ち着く』
恐る恐る一口、口に広がる苦味、後を追う酸味、鼻に抜ける香り、
「はぁ~、これが、コーヒー? 」
「どう? 」
「美味しい・・・」
「私は初めて飲んだけどこんなに美味しかったなんて知らなかった」
「当然よ、コーヒーなんて貴族でも滅多に飲めない高級品よ」
「そうなの」
「ええ、私も以前貰って、期待して飲んだけど苦いだけで薬を飲んでるみたいだった、だいたいどうやって手に入れたの? 」
「アードが作った」
「えっ」アードが指差す、
そこに赤い実をつけた一本の木、
「これって珈琲の木? 」
「そうよ」
ガサガサ、音のした方を見る、そこにスワンプリザードが一匹、
『油断した! 目の前、殺られる! 』
ドサッ、目の前に大きなフォレストボアの死体、
クーマがスワンプリザードに向かって一言、
「ご苦労さん」
それを聞いた、スワンプリザードが頭を下げて下がって行く、
「ご主人様、夕食をご用意いたします、宜しいですか」
「頼む」
「はい、失礼します」
「皆集まって」
ザワザワと少し周りが騒がしくなり、ボアが運ばれて行く、
カリスが口をパクパクしている、
「カリス、慣れて」
「はぁ~、精霊が食事の準備? 嘘? ガーベラ、貴方は何でそんなに落ち着いてられるの」
「慣れたから」
「慣れたって」




