第112話 冒険者の街コボル
「これからの事を言っておくわ、いい」
「はい」
「森を抜けると、崖の上に出る、沼はその崖を降りて森を少し行ったところにある」
「崖の下は魔獣のランクが上がる、かなり手強いわ、私の"ハイド"もどこまで通用するか分からない、突然襲われるかも知れない」
「分かりました注意しましょう」
「はぁ〜、軽いわね、まぁ、いいわ、沼は毒に侵されている、触れないように」
「分かりました」
「リサーション草は、はっきり言ってあるかどうかは分からない、だから崖の上から先に探す、見つけられなかったら、その時は諦めて、いい」
「はい、大丈夫です、ありますよ」
「クーマが言うと、本当にありそうだから不思議だわ、でも、気を付けて、沼にはクインがいる、あいつには私達では勝てない」
「クーマには悪いけど、私は見つけられないほうが良いと思っている」
「ガーベラさん、リサーション草はあります、そして私達はそれを持ち帰ります、生きてね」
「わかった、私が貴方を守る、必ず持ち帰りましょう」
「はい、では、いきますか」
「ええ」
沼地
森を抜けるとすぐに崖の上に出た、
予定通り崖の上から沼地を観察する、
沼の上には薄紫の靄がかかっている、
「見にくいわね」
「そうですね」
暫く移動しながら沼を観察する、
『酷い、これでは無理ね、クーマは納得しないかも、まぁ、これなら探しようもないけど』
「クーマ」
ガーベラが指をさす、崖に沿って降りる細い道、
「降りるのは此処しかない」
「分かりました」
その時、沼地に一陣の風が吹く、沼の靄が晴れ、奥に滝が見える、その時確かにリサーション草が見えた、
ガーベラとクーマがお互いを見つめる、どちらからともなく頷き、降りる道を進む、後少しで下に着くというところで、トラブル発生、目の前に一匹のスワンプリザードがいる、下を覗くと複数が集まっている、
『こいつは亜種だ、どうする? 倒せないことは無い、しかしクーマがいる、騒ぎを起こせばクインが動くかもしれない、どうする? 』
「ガーベラさん、お任せを」
「えっ! 」
驚くガーベラの横をクーマが通り過ぎる、手には闇の短剣、
「ちょっと、そいつには無理」
『短剣ではそいつの鱗はつらぬけない! 』
目の前でスワンプリザードに短剣が突き刺さる、スワンプリザードは声も無く絶命した、唖然となるガーベラ、
『スワンプリザードを短剣の一刺し』
我に返った目に最後の一匹が絶命する姿が映る、
『一瞬で数匹を倒した? 』
「ガーベラさん、行きますよ」
「あ、はい」
ガーベラが後追う、
崖を下りた周辺は森、そんなに深いわけではない、木々の間に僅かに沼が見える、静かに沼に近づく、
沼の周りは草木は枯れ、荒れ果てている、
ガーベラが少し目を逸らす、
先ほど見えた滝は新しく発生した靄に阻まれ見えない、
しかし方角はわかっている、木々に隠れながら森の境を進む、
途中現れた名も知らぬ魔獣をクーマが瞬殺する、
『見えた! 』
毒の沼に流れ落ちる小さな滝、光を浴び美しく輝く、まるでそこだけが違う場所に見える、滝の落ちた先にリサーション草が見える、数は少ないが確かにあった、ガーベラの目頭が熱くなる、
「まだここは死んでいない、あいつさえいなければ・・・」
「ガーベラさん」
呼ばれて我に返る、
「ごめん」
「いいえ、さてどうやってあそこに行くか? 」
「そうね、崖を登って行くしか無いかな」
「戻って上からはどうですか? 」
「戻って行くにはちょっと遠いわね、上からあそこに行くには死の森を突っ切るしかない、しかも地形が複雑でかなり遠回りしないといけない」
「じゃ、壁を登るしかないですね」
「ええ、でもよく見て岸辺のあたり、
「ああ、かなりいますね、クインですか? 」
「いえ、あれは普通のベノムドードよ、かなり大きいけど」
「魔法で一掃とはいきませんか? 」
「無茶を言わないで、さすがにあの範囲は無理、しかもあいつらは魔法が効きにくいの、身体から出る粘膜が魔法を弾く、クインはもっとたちが悪い、まったく効かない」
「成る程、やはりネックはクインですね」
「ええ」
「仕方ない」
「そうね」
『流石にこれを見たら諦めざる負えないか』
「ガーベラさん、フォロー頼みますね」
「ええ、帰り・・・はぁっ! 」
「土地の者にも力を借りましょう」
「土地の者にも、って」
「行きますよ! 岸辺に一発お願いします! 」
「お前達、手伝え」
沼に向ってクーマが走り出す、
「えっ、ちょっと」慌てて後を追う、
『岸辺に一発って! もう! 』
「"サンダーストームハンマー"! 」
無数の雷鎚が岸辺に叩きつけられる、
ベノムドードが跳び上がり痙攣を起こす、
『へっ、何、今の威力』
クーマが沼に向って手を翳す、眩く温かい光が沼と辺りを包む、紫の靄が消え、日の光が注ぐ、紫緑の色が青く澄んだ水に変わる、
ガーベラの動きが止まる、呆然と立ち尽くす、目の前の光景が理解出来ない、処理出来ない、
「ガーベラァ! まだだぁ! 」
ハッと我に返る、
「もう一発! "サンダーストームハンマー"! 」
先程よりも広範囲の魔法、
ガーベラの周辺に集まったスワンプリザードが絶命する、岸辺のベノムドードも数匹が絶命する、
「"アイシクルジャベリン"! 」
無数のツララが生き残ったベノムドードにトドメを刺す、
見るとクーマが手を振っている、思わず飛び跳ね手を振り返す、
我に返り顔が真っ赤になる、
『私は乙女か! 』
クーマに向かって走り出す、クーマに緊張が走る、嫌な気配が襲う、立ち止まりクーマの視線を追う、沼の中心の水が濁り、泡立ち紫の靄が立ちの昇る、それがクーマに向かって進んでくる、
「クーマァ! 逃げて! クインが来る! 」
クーマが飛び下がる、そこに巨大なベノムドードが飛びかかる、
「クイン! 」
間髪入れず雷鎚が落ちる、一瞬怯んだクインがクーマに舌を伸ばす、飛び退くクーマ、そこにクインが飛びかかる、
避けたクーマをクインの腕が襲う、
『避けれない! 殺られる! 』
思わず目を閉じるガーベラ、
ボグンッ!
聞き慣れない大きな音、目を開いたガーベラの見たものは、クーマに殴り飛ばされ宙に浮くクイン、そこに短剣を抜いたクーマが飛び込む、顎の下に短剣を突き刺し一気に腹まで切裂く、
クインの絶叫、
「ガーベラ! 今! 」
はっ、となり魔法を唱える
「"ライトニングハンマー"ァァァ! 」
魔法が腹を裂かれ、ひっくり返ったクインを直撃する、裂かれた腹に魔法防御は効かない、一際大きな絶叫と共にクインが動かなくなる、腹からは臓物が飛び出し湯気が上がる、
ガーベラは、その場に力なく膝を付く、
その目はクインを見ている、
「やったの? クインを殺った? 」
「ガーベラさん、やりましたね」
クーマに声をかけられ我に返る、クーマが手を差し出す、その手が涙で滲む、手を掴む、引き上げられ、ふらつきそのまま抱き止められる、涙が止まらない、抱き着いたまま声を殺して泣く、それをクーマが優しく抱きしめる、
クーマの視界に魔獣の姿が見える、
クーマが睨見つける、魔獣達が立ち去って行く、
『空気を読め』
暫く泣きじゃくったガーベラがそっと離れる、
「クーマ、ありがとう」
「水臭いですよ、パートナーでしょ」
「うっ」思いっきり照れる、
「さて、もう一仕事しましょうか」
「もう一仕事? 」
「ここに居て下さい」
クーマが岸辺に向かう、
『さて、かなり弱っているな』
水面に波紋が広がる、
「力ある者よ」声が聞こえる、
「この地を守りし者か? 」
「はい、力及ばず長きに渡り身を潜めておりました」
「よく生き延びた」
「ありがとうございます、間もなく他の精霊達も目を覚ますでしょう、先ずは感謝を」
「ああ、わかった、もう一度浄化をかけておこう」
「感謝いたします、では」
クーマが手をかざす暖かい光が溢れる、沼は透き通り、荒れた地面には草が茂る、木々は緑を取り戻し、優しい風が吹き抜ける、
クーマが周りを見る、
『これで力を取り戻すだろう』
目線の先にガーベラが見える、困惑した顔でこちらを見ている、
手を振ると、こちらに向かって走ってくる、
「クーマこれは何? 何をしたの? 」
「特には、ちょっと手助けをしただけです」
「手助け? 」
「ええ、ガーベラさんはここをよくご存知のようですね」
「えっ、ええ、遠い昔ここに住んでいた、多くの仲間と一緒に、此処がまだ楽園だった頃に、でも、あいつらが住み着いて私達は追いやられた」
「それで冒険者に? 」
「ええ、でも結局取り戻せなかった、まさか、この景色をまた見れるなんて」
「本当に、来た甲斐があります」
「昔はよく此処で泳いだものよ」
「泳げるんですか? 」
「当然! うーん、泳いで来る! 」
「えっ、危ないですよ」
もう既に服を脱ぎ捨てて、走り出している、
「クーマ! 護ってね! 」
そのまま飛び込む、
「キャッホー! 」
楽しそうに泳いでいる、
「まぁ、いいか」
また、木々の影から魔獣の気配が近づく、
「空気を読め、と言ったはずだが」
走り寄るスワンンプリザード、
クーマが身構え短剣に手をかける、
その手前で急停止したスワンプリザードが身を伏せる、
クーマが短剣から手を離す、
スワンプリザードがクーマを見てもう一度頭を下げる、
「この地を護れ、彼女は管理者の一人だ良いな」
スワンプリザードはもう一度頭を下げ森へ消える、その瞬間周りから気配が消えた、
『わかったようだな』
「さて、ガーベラはどこまで行ったやら」




