第11話
ノックの音がした、
「どうぞ」
軽く会釈して、ノランが部屋に入ってくる、
「お嬢様は、よくお眠りになっておられます、
素材の処理は終わっておりました」
「そうですか」
「ジェルダさん達には、感謝しなくては、宴会に参加できなかったのは申し訳ない」
「それは構いません、自業自得です」
「そうですか・・・ありがとうございます
ノランさんもコーヒーいかがですか」
「私ですか・・・」
少し悩んで、
「頂きます」
そう言って、戸棚からカップを取り出し、テーブルに置く、
俺はポットを取りコーヒーを・・・
『冷めてるな・・・』ポットに熱が加わる
『うん』ノランのカップにコーヒーを注ぐ、
ノランがこっちを見つめている、
「今のは魔法? 」
「ええ、ほとんど使えませんが、少しだけ、ハハハッ」
「そうなんですか・・・」
「あの・・・いえ、何でもありません」
ノランは一口飲み、
「美味しい・・・」
「美味しいですよね」
「はい」
二人は夜の森と、夜空を見ながら、コーヒーを味わう・・・
無言の時が流れ、飲み終わったカップを眺め、
おもむろに、
「クーマ様・・・」
(真剣な顔だ)
「はい」
「お嬢様をお願いします・・・何があっても・・・」
にっこり笑い席を立つ、
「ご馳走様でした、後は片付けておきます、
クーマ様は、おやすみくださいませ」
「わかりました」
「おやすみなさいませ」
ノランはカップをトレイに乗せ、一礼したあと部屋を出ていく、
『何があっても、か・・・』
翌日の朝、
いつもより、少し遅く目が覚めた俺は、窓辺に座り昨日のことを思い出す、
『色々不味かったな、まぁ、皆が知らぬ顔をしてくれるならそれでいい』そう思いながら外の景色を見ていると、シフォンがいきなり部屋に入ってきた、
「クーマ様! 昨日はすみませんでした! 」
そう言いながら駆け込んできて、その場に座り込む、後にはノランの姿が見える、
何のことか分からず、ノランの顔を見ると、
「昨日、酔って寝てしまったお嬢様を、クーマ様に運んで頂いた事を、お話しましたところ現在に至ります」
『ナンノコッチャ! 』
「シフォン様」
「"さま"」肩がぴくっと動く、
「オホン、シフォンさん、立って下さい」
こちらを見たシフォンは、今にも泣きだしそうだ、
「私は、シフォンさんを抱っこ出来て、良かったですよ」
シフォンの顔が一瞬で真っ赤になり、下を向いてしまった、ボソボソとなにかを言っている、
「せっかくクーマ様に、抱いていただけたのに、
私は・・・私は・・・寝ていたなんて、何で起こしてくれなかったのですか、しかもベットに運んでもらったのに・・・」
「そのまま・・・ウヒヒ・・・」
『そのままどうしたい? 何か怖い・・・』
「お嬢様! 」
ノランがシフォンを現実に引き戻す、
はっと振り向く、
ノランがシフォンの耳元で
「よ・だ・れ」
慌ててすすり、手首で拭いている、
『なにを考えてた』
シフォンはスッと立ち上がり、
「クーマ様、昨夜は大変ご迷惑を、お掛けしました、後ほどお迎えにあがります「
「わかりました、おまちしております」
「では、失礼します! 」
逃げるように飛び出していった、
その後ろをノランが追いかけていく、
『ふっ、困ったお嬢様だ』
少しして、シフォンが一人、部屋に戻ってきた、
「クーマ様、お食事の準備ができました、おまたせしました」
「いえ」今日は青いドレスを着ている、
何故かそわそわ服を直している、
俺は近づきシフォンの手を取る、
「今日も美しい、すごく似合ってます」
(言ってて照れてしまった)
シフォンは一瞬こちらを見て、下を向いてしまった・・・「いじわる」
「さぁ、食事に行きましょう」
「はい」シフォンは腕を絡めて歩き出す
昨日と同じ朝食の食堂、
入るとそこにはマルガリータが居た、
「おはようございます」
「クーマ殿おはよう」
「マルガリータ様どうして? 」
「一応ここは私の家でもある、いるのは不思議かな? 」
「申し訳ありません、他意はありません」
「わかっているよ、冗談だクーマ殿は真面目だな」
「勘弁して下さい・・・」頭をかく
「すまんな、実は父上がな・・・」
「どうかされましたか? 」
「朝まで付き合わせた上に寝てしまった、先程、寝室に放り込んだところだ、今日は起きてくまい」
「脅かさないでください」
「それと一つ、クーマ殿に伝えなければいけないことができてな」
「私に、ですか」
「そうだ」
「何でしょう? 」
「今日は、休んでくれ」
「はっ、えーと、今日は休めとは、採取のことですか? 」
「そうだ」
「宜しければ理由をお伺いしても? 」
「聞けばあとに戻れんぞ」
(真剣な顔、何があった? )
「わかっています」
「・・・いいだろう」
(思わず唾を飲み込む)
「昨日の宴会で、父上がダルク家が許可するなどと言ったものだから、皆、はしゃぎすぎてな、使い物にならん、だから今日は、大人しくしていてくれ、頼む」
「は、はい・・・」
「と言うことなので、今日はシフォンの相手を頼む」
「お姉様っ! 」横で吹き出している
「アクスに聞いたぞ・・・」
「ブランデーを一気飲みしたそうだな、しかも、その後クーマ殿に、お姫様抱っこされるなど、羨ましい」
シフォンの顔がみるみる赤くなる、
「お姉様! 」
「ハハハッ、冗談だ」
「だがクーマ殿、休みの話は本当だ、よろしく頼む」
「わかりました、私も昨日のことがありますので、もう少し安全なプランを検討します」
「そうだない、いつも運が良いとは限らない」
「はい」
マルガリータは食後の紅茶を飲み干し、
「それでは私は詰所に戻る、ノランお父様を頼む」
「かしこまりました」
「シフォンからも父上に言っておいてくれ」
「はい、お姉様」
「では、失礼する」
『急遽休みが決まった・・・何をしようか? 』
考えていると、隣のシフォンが、俺の腕を掴み、
「今日は私にお付き合い下さい」
じっ、と上目遣いで見つめる、
(この目には敵わない)
「わかりました」
シフォンの顔がパッと明るくなる、
食後のコーヒーを飲み干し、そわそわするシフォンに連れられ、屋敷を出る、
まず向かったのは厩舎、
ポニーが気付き、ガウッガウッ唸っている、
シフォンが扉を開けると、抱きかかえて顔を舐めまくる、
「ポニー! 待ちなさい」
「ポニーチョット落ち着きなさい! 」
ポニーがキョトンとして座り込む、
まだ、ハァハァ、言ってる、
近くにいたメイドが、慌ててタオルを持ってくる、それを受取、顔を拭く、
「ふー」
また、ポニーが舐めようとするのを止めて、頭を撫でる、
「昨日は私たちを運んでくれたのですね」
グァ!
「ありがとう、ノランがすごく喜んでいたわ、ポニーがすごく優しかったって」
グァー!
「また載せてあげてね」
グウァー
「さぁ、厩舎に戻って、何かあった時は頼りにしてるわね」
ポニーはこちらを見る、
グァ〜グァ〜
シフォンが少し下がる、
ポニーは俺に近づき頭を擦り付ける、頭や喉、顎の下などをしっかり掻いてやる、目を瞑り喉をゴロゴロ鳴らし気持ちよさそうだ、
その姿を優しい目でシフォンが見ている、
「さぁ、ポニー」
そう言うと、ポニーは踵を返し厩舎に戻っていく、名残惜しそうに振り向きながら、
シフォンは扉を閉め、
「クーマ様次です」
また、俺の手を取って歩き始める、今度は作業場、そっと中を覗き込む、
ジェルダと3人のメイドが、昨日の後片付けをしている、素材は全て加工され綺麗に並べられている、
メイドの一人が気づきシフォンに挨拶をする、他の者も直ぐに挨拶をする、
シフォンはジェルダに近づき、
「流石ですねジェルダ」
「はい有難うございます、この程度であれば一人でも余裕ですよ」
シフォンが振り向きニッコリして、
「クーマ様、余裕だそうですので、本格的な採集をすると、どれぐらいになりますか?」
シフォンがニッコリ笑う、
「そうですね、今回の倍ぐらいは問題ないかと」
「えっ」ジェルダの顔色が変わる
「お嬢様すみません・・・」
「許してください大口を叩きました、今回の量でいっぱいいっぱいです、一人では無理です〜」
「素直で宜しい、クーマ様、またジェルダが大口を叩いたら・・・」
「もう言いません、ですから勘弁してください」
「わかりました、あなたの実力は、よく理解しているつもりです、ですが傲慢は許しませんよ」
「はい、じょ・・・」
ジロリ・・・
「お嬢様、以後気をつけます」
「ジェルダさん有難うございます、安心して採取に行けます」
「お手柔らかにお願いします」




