第10話
シフォンは眠っている、無邪気な寝顔だ、
しっかり俺の腕を掴んで眠っている、
アクスとアンジーが謝っている、
「気づきませんでした、申し訳ありません」
「いえ、シフォン様も楽しくて、気づかなかったのでしょう」
暫くするとノランが近寄ってきた、
「クーマ様、お嬢様は眠ってしまったのですね」
「はい」
「幸せそうな寝顔だこと」
優しい笑顔だ、
「お嬢様、さぁ帰り・・・」
くんくん・・・
「お酒・・・クーマ様、お嬢様にお酒を? 」
ノランの顔が怖い・・・
「ノラン殿、それはクーマ殿ではなく、うちのアンジーが間違って大樽の酒を渡してしまい、お嬢様がそのまま飲まれました」
ノランはじろりとアンジーを睨む・・・
アンジーと呼ばれた衛兵は、泣きそうな顔をしている、
怖い・・・
「ふ〜」一息吐き
「わかりました、お嬢様帰りますよ」
「ふぁ、ノラン? 」
「そうです、帰りますよ」
「やだっ・・・」
「やだっ、じゃありません」
「あふぇ」泣きそうな顔で
「クーマ様がいない・・・」
「お嬢様、その手は誰を掴んでますか? 」
「あふぇ、クーマ様居た・・・エヘヘッ」
頬をスリスリしながらまた眠った、
「ふ〜お嬢様っ! 」
俺はノランを制止し、シフォンに声を掛ける、
「シフォン様一緒に帰りましょう」
薄っすら目を開け俺を見て、
「一緒に? 」
「そうです、一緒に帰りましょう」
「うん、帰る」
そう言うと、にっこり笑って俺の首に手を回す、
俺はシフォンをお姫様抱っこして、アクスに軽く一礼して、
「先に失礼します」
「わかりました、またゆっくりと」
「はい、では失礼します」
途中アルベルト達の席によると、
「後はよろしく頼む」と言われたので、一礼してその場を後にする、ノランは先に立って歩いている、ノランが立ち止まり、こちらを向いて、
「クーマ様少しお待ち下さい、馬車をご用意致します」
その時少し離れた所から、グァウーと声がした、
「ノランさん、それは必要ないようですよ」
「えっ」
俺は厩舎に向かう、そこには鞍をつけたままのポニーが待っていた、
ガウガウッと俺達を呼んでいる、厩舎の扉を開けてやると、すぐに出てきて頭を擦り付けてくる、
じっと俺とシフォンを見て、グァウ! と鳴き身を伏せる、
「乗せてくれるのか」ガウ!
「では頼む」ガウー!
俺はポニーの後の席に座る、膝の上にはシフォンを乗せている、
それを確認しノランがお辞儀をして、先に歩き出そうとする、
グゥア、「そうか」
ノランが振り返る、俺はノランに手を伸ばす、ノランは少し戸惑い俺とポニーを見る、
ポニーはグゥアと鳴きノランを鼻で押す
「ポニー・・・」グァ
ノランは俺の手を取り前に座る
「ポニーゆっくりお願いね」
グァッと鳴きゆっくり歩き始める
時間はもう深夜、町は静寂が支配している、既に宴の声は届かない、
三人と一匹は静かに街を抜ける、屋敷は街から近くはない、真っ暗な道を満天の星空が照らす、
ポニーはあまり揺れないように、ゆっくり歩いている、
シフォンはスースーと寝息を立てている
突然ノランが話しかけてくる
「クーマ様、私、ポニーに乗せてもらうのは、初めてなんです、この子、ホーンベアは非常に強く、プライドの高い魔獣です、自分が認めた者以外の言う事は聞きません」
「お嬢様はまだ小さい頃、親にはぐれ死にかけていた、ホーンベアの子供を助け、ずっと育ててきました、それがポニーです」
「ですのでお嬢様以外には懐かず、お嬢様以外を乗せた事がありません、そんなこの子が自分から
お嬢様以外を乗せるなんて、ましてや私を乗せてくれるなんて、すごく嬉しくて、今、とても幸せです」
「ポニーそうなのか? 」
グァ〜
「これからは皆と仲良くしような」
グァッ!
ポニーは振り向き首を縦に振る、
ノランが手を出すと、その手をぺろっとなめる、ノランの幸せそうな顔を星明かりが照らす、
ポニーの思い出
俺の親は西の森に住んでいた、おれが生まれた頃、珍しい石が取れるようになったとかで、人型が集まり始めた、俺達にとっては餌でしかなかった、
そんなある日、
大勢の人型が集まり、俺たちに向かってきた、
俺の一匹の親は、俺達を守り人型と戦った、
俺はもう一匹の親と、入ってはいけない森に逃げた、それでも人型は追ってきた、親は俺を穴に突き落とし覆いかぶさって穴を塞いだ、俺は鳴いた・・・
その顔に親の血が降りかかる、その後の記憶はない、気がつけば俺は誰かに抱かれていた、暖かかった、
そこには小さな人型がいた、俺は噛みついた、でも人型は何もせずに俺を抱きしめた、暖かい、俺はわかったこの人型は敵ではない、
動けない俺を小さな体で抱き上げ運んでくれた、そこには沢山の人型がいた、俺はしまったと思った、でも動けない死を覚悟した、
人型が集まって来る、小さな人型は俺の前に立ち
俺を守ってくれた、強い人型が小さな人型の頭を撫でる、他の人型に何かを言っている、
小さな人型は俺を抱きしめ、また運んでくれた、
先程とは違う人型が、俺に何かを塗って、食い物を与えてくれた、
小さな人型はずっとそばにいてくれた、
俺はこの小さな人型を、守れる力を身に付けなければ、そう感じた、
親が守ってくれたように、
俺はこの小さな人型・・・シフォンを守ると、
屋敷に着くと、ポニーは俺達をエントランスに下ろす、
俺はシフォンを抱いたまま、
「ありがとなポニーと声を掛ける」
ポニーは頭をスリスリしながら、
グァ!と一声鳴く、
ノランは横でもじもじしながら、じっと見ている、それに気づいたポニーは、ノランにもスリスリをする、
ノランの顔がパッと明るくなり、頭を抱いて、
「ポニーありがとう」
その顔はすごく幸せそうだ、
「クーマ様、お嬢様をお任せしても宜しいでしょうか? 」
「どうかされましたか? 」
「ポニーを厩舎へ、それと、ジェルダ達の様子を見に」
「わかりました」
その時屋敷の扉が開き、中から三人のメイドが出てくる、
「お帰りなさいませ」
ノランの顔が仕事モードになった、
「アイシャ、お嬢様がお休みになられています、クーマ様がお連れくださるので部屋へ、ご案内するように」
「ケリーはクーマ様にコーヒーを、ルイは私と一緒に」
「わかりました、各自が一斉に動き出す」
「クーマ様後ほど」
「はい」
俺はアイシャに案内されシフォンの部屋へ、
アイシャが扉を開けてくれる、
「クーマ様こちらです」
案内されたのは寝室、アイシャがベットの布団をめくる、そこにシフォンをそっとおろす、
「後はお任せください」
俺はそっと部屋を出て、自分の部屋へ戻る、部屋の扉が空いていて、中を覗くといい香りが、
ケリーがコーヒーを淹れてくれたようだ、
「クーマ様、コーヒーでございます、どちらで飲まれますか」
「窓際で」
窓際の席にカップを置き、コーヒーを注いでくれる、
「ありがとう」
「では、失礼いたします」
その頃のノラン
「ポニー行きましょう」
ガウ
ノランはポニーの背中をさすりながら、ポニーはノランに寄り添いながら、ゆっくりと厩舎に向かう、ノランにとっては至福のひと時、
ポニーは厩舎を見て、駆けてそのまま滑り込むように眠ってしまった、
ノランは優しく鞍を外し壁にかける、もう一度振り向き、「ポニーおやすみ」
ポニーは、ガウ〜と眠そうに返事をした、
ノランはそっと厩舎を後にする、夜空を見上げ深く息を吸い込む、
「今日はなんて良い日だろう・・・」
『さて、ジェルダ達を見てきましょう』
明かりの灯る作業場へ、
『料理は届けたはずだけど、静かね? 』
作業場を覗くと作業台には宴会のあとが、ジェルダと三人娘は酔っ払って寝てしまったようだ、
『まったくこの子達はっ! 』
叩き起こそうとしたとき、作業場を見ると素材は全て処理され綺麗に片付いている、
『あの量を全て処理したのね』
「さすがジェルダね、フフフ・・・」
ノランは楽しげに屋敷に向かう、
俺は窓辺に座り、コーヒーを飲む
『何人かにはバレてるな・・・
アルベルト、マルガリータ、アクス、ノラン
そしてシフォン・・・
この4人は絶対気づいてる・・・』
なのに知らんふりをしてくれている
好意を持ってか・・・
何かを企んでいるか・・・
今はよくわからん
前者であれば嬉しいのだけど・・・




