VS 怨霊 菅原道真と岸岳末孫
アマツシティ某所
シラヒトの命を受けアオバは酒吞、茨木、土蜘蛛達を呼んで部屋で作戦会議をしていた。鬼達はシラヒト、コクミが居ないからとベロベロに飲んだくれている。部屋中に酒の匂いが充満していた。
酒吞「ほんで?アオバはん、何処から行かはるのん?」
茨木「ヤマタノオロチの死体を安置してる天岩戸を開けるには確か、道具が3つ必要だろ?」
アオバ「せやな。」
ブ!!ワッハッハッハッハ……!!
酒吞の口癖が移ったのか、アオバは変な言葉を発した。アオバは恥ずかし紛れに咳払いしたが、酒吞達は笑い転げている。
アオバ「……まずはニギテから行こうと思う。」
酒吞「あー、おかし。けど、あれ怨霊がまもってんのとちゃうん?」
茨木「どうすんだよ?アオバ?」
土蜘蛛A「怨霊、菅原道真。」
土蜘蛛B「それと、岸岳末孫だっけ?」
土蜘蛛C「一体でも強敵なのに、2体だもんな。」
鬼たちの酒を飲むスピードがピタリと止まる。特に土蜘蛛達は見るからに青ざめていた。極力、本件に関わりたくないと皆が思っているのだろう。
アオバ「安心しろ。怨霊の相手はミツルギにやらせればいい。」
茨木「だからよぉ、どうすんだよー?」
アオバ「ニギテを管理してるとこに予告状を出そう。俺の名義でな。」
酒吞「なるほどぉ、オオカミをおびき寄せるんか。ええ考えちゃう?」
酒吞はいいことを思いついたのか、ニヤニヤと笑い出した。
酒吞「怪盗アオバとか、どないやろか?レオタードも買いに行かんと!」
呆れたアオバが首をゆっくりと横に振る。
茨木「楽しそうだなぁ、酒吞?」
酒吞「そらな?おもろいやん?こうあうのは、たのしまんとあかんで!」
酒吞はお猪口の酒をあおって立ち上がった。
酒吞「ヤマタノオロチ復活なんて酔狂、滅多にない。そんなおもろい話、うちらが乗らんで誰がやるんや?」
ミツルギの探偵事務所の電話がなる。
ミツルギ「はい。ミツルギ探偵事務所です。」
伏神刀「誰から?」
ミツルギ「源さんからだ。……はい、はい。あ、すぐ行きます。」
中央のテーブルでミルクたっぷりの甘めのコーヒーを飲んでいたお玉が言う。
お玉「御奉行様からとなると警察の案件ですかね?」
ミツルギ「物を盗むとアオバから予告状が届いたらしい。行かないと!」
ミツルギはポールハンガーから着古した黒のハーフコートとハンチング帽をそれぞれ取った。
伏神刀(inカグヅチ)「ソレガシの初仕事ですね!腕が鳴ります!」
伏神刀「ぼくらも連れて行くんだよね?」
ミツルギ「そりゃな?」
伏神刀の中からカグヅチになった助の声もする。机に立てかけてあった伏神刀を持って、リボルバーを脇のホルスターに入れてミツルギは事務所を出た。
カラン、カラン
出入り口の鐘が鳴る。
お玉「いってらっしゃーい!」
閃いたお玉はポンッ!と手を鳴らして、「そうだ!」とニコニコしながら叫んだ。
お玉「今日のお夕飯はハンバーグにいたしましょう!」
天岩戸を開けるために必要なニギテと呼ばれるアイテムを盗むとの予告状が届いた。
博物館みたいな所にやってきたミツルギは現場に出張ってきていた源に挨拶すると、件の予告状を手渡された。
源「予告状とか、アホとちゃうか?うちらが出張ってくるのに?」
ミツルギ「……怪盗アオバ仮面。これは……」
源「んー!バカにしてる!きっと、あの鬼女の仕業やわ!腹立つわー!」
キー!
源は地団駄を踏んで荒れている。
ミツルギも周りの鎧武者達も「まぁまぁ。」となだめた。
ミツルギ「そのニギテというのはドレですかね?」
鎧武者「コチラです。」
鎧武者に通された広い部屋の奥の台に、ガラスケースに入った、ベタベタとお札が何枚も貼られた桐の箱が安置されていた。
見るからにヤバそうなものが入っていそうだ。
ミツルギは冷や汗をかきつつ、
ゴクリ
と固唾をのみ込んだ。
鎧武者「こんなの、どうするんでしょう?」
酒吞「天岩戸を開くんよ?」
急に部屋の端の暗がりから鬼女の声がして姿を現した。
パン!
天井の蛍光灯がひとりでに割れ、破片が落ちる。真っ暗闇になるかと思われたが、桐の箱が怪しい光を放っていた。
酒吞「ニギテってなんやろなぁ?オタクらも見てみたいと思うやろ?」
ミツルギ「!やめろ!」
酒吞は持っていたヒョウタンをガラスケースに投げて割った。砕けたヒョウタンとガラスが桐の箱に貼ってあった札に無数の傷をつける。
酒吞は笑い声とともに闇に消えた。
すると、桐の箱の周りに青い火の玉が一つ、また一つと浮かび上がる。
ゾワワッ
鎧武者は部屋の出入り口の扉を開けようと走ったが、中からは開かない。異変に気がついた外の鎧武者も扉を開けようと必死にドアノブをガチャガチャしている。
源「オオカミ!」
ミツルギは伏神刀を抜いた。
ミツルギ「出でよ!ビャッコ!カグツチ!」
びゅう!
伏神刀からビャッコとカグツチが勢いよく出てきた。
カグツチ「助、改め、カグツチ見参!」
ビャッコ「おっとっと。」
ビャッコが勢い余ってつんのめった。
それと同時に、桐の箱がガタン!となる。
どひゅん!
勢いよく蓋が開きそこから大きな腕が、鎧武者に迫る。右腕?左腕?手はそのどちらでもない形状をしていた。
ビャッコ「え!」
ガシィッ!
鎧武者「ひえー!」
カグツチ「!」
カグツチが鎧武者を掴んだ腕に持っていた刀で斬りつけると、ヒュッと腕は桐の箱に戻っていった。
カグツチ「かたい!」
ドサッ
鎧武者は恐怖のあまり泡を食って気絶して床に倒れた。
桐の箱から分厚い本を持った巨大な怨霊がニュルリと出てきた。大きな目玉をぎょろぎょろさせミツルギ達を捉える。
怨霊「ニギテは渡さん……。」(ペラリ、ペラリ)
長い爪で器用に本のページをめくる怨霊。
続いて、桐の箱から鎧をまとった骸骨たちがワラワラと出てきた。
ビャッコ「岸岳末孫だ!」
ミツルギ「てことは、あのデカいのが菅原道真か!」
道真「渡さんぞぉぉ!」
本をめくった道真はその体の周りに無数の雷の槍を出した。
カグツチ「なんと!面妖な!」
ビャッコ「五行術!金針磁鉱!」
ボコォ!
ビャッコの周りの床から無数のワイヤーが出てきて飛んできた雷の槍を完封する。
道真「おぉぉ?!」
ミツルギ「助かった!カグツチ!」
カグツチ「承知!」
2人は道真に駆けるも無数の骸骨に阻まれた。
骸骨達は持っていた刀や槍を振り回す。
ビャッコ「そんな!?ソイツらには僕の術がきいてないの?!」
ガキィン!
骸骨の刀を伏神刀で受けたミツルギが苦しそうに答えた。
ミツルギ「ぐぅ……そうみたいだな!?」
道真はページをめくっている。
道真「金、陰陽五行、相克、……あった、あった。」
道真の周りに燃え盛る炎の玉が無数に出現する。
ミツルギ「マズイ!ビャッコ!」
がキィン!
カグツチ「お館様!」
骸骨の刀を振り払ってカグツチはビャッコに走る。それを追いかけるようにビャッコ目掛けて道真から炎の玉がものすごい勢いで襲いかかった。
火を受けたワイヤーが一瞬で溶ける。
ビャッコ「五行術!金剛結界!」
ビャッコの術は金。火とは相性が悪い。
ドロッ!ジュウゥ!
ビャッコ「うわぁ!あっちぃ!」
カグツチ「お館様はソレガシが守る!」
カグツチは炎の玉をその身で受けた。
道真「ぬう?!」
ビャッコをかばいその身に無数の炎の玉を受けたはずのカグツチは自分でも不思議なくらいピンピンしていた。
ビャッコ「そうか!助は今、炎の神、カグツチ!炎が効かないんだ!!」
道真「火、陰陽五行、相克ー」(ペラリ、ペラリ)
ズドォォン!
道真の持っていた本が弾き飛ぶ。ミツルギの左手で撃ったリボルバーから煙が上がっていた。
ミツルギ「やらせないぞ!」
ビャッコ「かっこいい!」
ボロボロのビャッコはその様子に目を輝かせてミツルギを拝んでいた。
カグツチ「え!?ソレガシは?」『体を張ったのに……』
ビャッコ「よーし!僕だって!五行術!鉱蛇刃!」
ビャッコの周りの床から何本ものワイヤーが生えてきて骸骨たちを薙ぎ払った。
道真「うぉぉぉ!本が!本!どこだ!?」
道真はその巨大な腕を振り回して本を探している。
ミツルギ「今だ!我が主、スサノオよ!力を貸し給え!チェストぉぉ!」
眩く光る伏神刀が怨霊達を切り裂いた。
道真「ぐおおぉぉ……!」
怨霊が消えると一瞬、部屋が真っ暗になった。
バタン!
外から勢いよく源達が入ってきた。
源「オオカミ!」
ミツルギ「源さん。」
ミツルギが源達に振り向くとビャッコも含め源達が驚愕した顔でミツルギの先、桐の箱がある辺りを見ていた。
酒吞「ニギテって、ただの札やないの。しょーもな!」
ミツルギ「!?」
源「しもた!酒吞!漁夫るつもりかいな!」
源はタイトスカートをめくると、太ももの護身用のリボルバーを放った。
パンパン!
酒吞「そんな豆鉄砲、効かへんて。源のねぇさん。」
酒吞は高速で飛んでくる弾丸を手で払った。
茨木「酒吞、さっさと行こうぜ?」
酒吞「せやなぁ、ほな。うちらは帰るで、ありがとうなオオカミ。」
暗黒空間に消える鬼たち。
源「なんてことや……!」