アマツシティ
???「起きろ。ミツルギセイヤ。」
ミツルギ『ミツルギ、俺のフルネーム?誰だ?知り合いか?』
ミツルギ「?ここは、どこだ?」
ミツルギは辺りを見渡した。月明かりに一本の川とその向こうに都が見える。瓦屋根ばかりの一軒家が立ち並んでいて今風のコンクリートのビルがそびえる街とは違った雰囲気だ。
ミツルギ「こんな場所……俺はどうしてここにいるんだ?」
ミツルギは山の中腹の崖に立っていた。
そこに月から、まばゆく輝く人が目の前に降り立った。
青い着物をラフに重ね着した逞しい男性。手には剣を持っている。
ミツルギの心がその人の名を呼ぶ。
ミツルギ「スサノオ……様。」
スサノオ「お前は過労でおっ死んだ。今回は、あっけない人生だったな。ミツルギ。」
ミツルギ「そうか、俺はそれで。」
ブラックな建築業界、今のプロジェクトを終えたら転職するつもりだったんだが、その前に……。体が持たなかったか。
スサノオ「また、俺んとこでロウエキをやってもらおうかと思ったんだが、ミツルギ、お前に頼みがある。」
ミツルギ「なんなりと。」
だんだん思い出してきた。俺は常夜ではオオカミとして魔から都を守るクナト神だ。スサノオ様に仕える狼の兵士。
……今回は違うのか?
スサノオ「こことは違う平行世界、アマツシティに行って、あの世界を救ってきてほしい。」
ミツルギ「承知。」
ミツルギは即答した。スサノオはその返事に満足すると、持っていた剣をミツルギに授けた。
ミツルギ「これは?」
スサノオ「神や魔を従えさせる神剣、伏神刀だ。うまく使ってみせろ。」
ミツルギの体は眩く光った。
次にミツルギが気がつくとそこは事務所の一室だった。
横に長い机に足をひっかけて帽子を目深にかぶって、一眠りしてたらしい。
ごちゃごちゃものが雑多に置かれた部屋の真ん中の低いテーブル席で、
白地に黒いシマシマの模様が入った女性(?)らしき猫型亜人がコーヒーを飲んでいた。
ビャッコ「あ、起きた、起きた。僕はビャッコ。スサノオ様からきいてた助っ人さんかな?君の名前は?」
ミツルギ「ミツルギ、セイヤ。ここは?」
ビャッコ「僕らのアジトさ、探偵事務所?って言ってたかな?」
ふーん。ミツルギは帽子を取ってそれを見た、ハンチング帽?
ミツルギ「転職先は探偵かぁ……」
何から始めればいいんだ?ミツルギは傍らに立てかけてあった伏神刀を持ってイスから立ち上がる。
窓の外は昼下がりの繁華街。たくさんの人と人らしきもの達が行き交っていて、蒸気を噴き上げる車がゆっくり通っていた。
ビャッコも窓際のミツルギの隣に来て窓の外を並んでみた。
ビャッコ「アマツシティ、現し世と幽世のどちらでもない平行世界。僕らの街。」
ビャッコはコーヒーをすすりながら続ける。
ビャッコ「他の四獣達はみんな封印されちゃった。僕だけ運よく逃げられて、スサノオ様に救援を要請したのさ。」
ミツルギ「それで俺がここに来た、と。」『まずは、残りの四獣を救い出すことが当面の目的のようだな。』
ビャッコ「それじゃあ、伏神刀を早速使ってみようよ!」
ミツルギ「え?」
使う?どうやって?
ビャッコはミツルギの反応に逆に困惑した。使い方を知らない?!
ビャッコ「スサノオ様に聞かされてないの?あの人、たまーに、やらかすんだよなぁ。」(タハー!)
ビャッコは苦虫を噛み潰したような顔で自分のオデコを叩いた。ペシッと気持ちのいい音がする。
ビャッコ「伏神刀を抜いて、調伏したい神の肩に置くだけだよ。たぶん。」
ミツルギ『たぶん、なのか?とりあえずでやってみよう。』
ミツルギは頭を垂れ跪いたビャッコの肩に剣をやった。
まるで騎士の宣誓の義のようだ。
ミツルギ「伏神刀よ、ビャッコと契約だ。」
ビャッコの身体はフッと刀に吸い込まれるように消えた。ミツルギは伏神刀を両手で持って見上げた。
ミツルギ「コレが、この剣の力か。」
伏神刀「できたね。後は戦闘の時に僕を呼べばでてきて一緒に戦うよ!」
ミツルギ『剣が喋った!しかも、ビャッコの声だ。』
伏神刀「じゃぁ、大願成就に稲荷山に祈願に行こう。玉姫稲荷が今日はいるかなぁ?」
ミツルギは探偵事務所から繁華街に出た。ナビゲーションは伏神刀がやってくれる。人込みの中、歩いて稲荷山に向かう。
ミツルギ「玉姫?」
伏神刀「この世界のいろんな玉を集めてる稲荷で綺麗なんだよ。」
ミツルギ『ふーん。』
しばらく歩いて稲荷山の参道を見上げる。上の方、神社の境内から複数の男と一人の女性の口論が聞こえる。
伏神刀「どうしたんだろう?」
ミツルギ「危ないと思う!」
伏神刀「行こう!」
ミツルギは階段を駆け上がった。
玉姫「これらは渡しませんよ!」
男達を振り払う十二単の姫。両手でたくさんの玉を抱えている。姫に群がる黒っぽい小柄な鬼たちをひときわ大きな鬼が腕を組んで叱責する。
一際大きな鬼「コッチはそれを取ってこいって言われてんだ!何グズグズしてんだ土蜘蛛共!」
土蜘蛛A「だって茨木のアニキ!稲荷の加護が強くて、俺たちじゃ手出しできねぇ!」
玉姫が山を駆け上ってくる音に気がついて顔を鳥居の方を見やると、急に、持っていた玉が光りだした。
玉姫「いけない!十種の神宝が!」
十種の神宝と呼ばれた玉達は自ら四方に飛んでいった。
その場にいた全員「あぁーっ!」
茨木「なんてこった!玉が勝手に逃げやがったぞ!」
そこへミツルギが息を切らしながら登ってきた。
ミツルギ「大丈夫か!?」
フッ、ポト。
ミツルギの手に光る玉がぽとりと落ちた。ミツルギの呼吸がみるみる整っていく。
ミツルギ『コレは!』
茨木「しめた!奴のはタルタマだ!奴のを取れ!土蜘蛛共!」
土蜘蛛達は一斉にミツルギに襲いかかった。
玉姫「逃げて!そこの人!」
伏神刀「抜刀!」
ミツルギは伏神刀を抜刀するとその刀身からビャッコが躍り出た。
ビャッコ「えいや!」
その振った手から鋭い刃の光が繰り出され、いきなり出てきたビャッコに驚いて足を止めた土蜘蛛の一人を両断する。
土蜘蛛A「コイツ!」
土蜘蛛B「白地に黒の縞模様!間違いねぇ!ビャッコだ!」
土蜘蛛C「こんなとこに隠れてやがったのか!?」
驚く土蜘蛛達。ミツルギも伏神刀で土蜘蛛を一人、切り捨てた。
土蜘蛛A「俺たち武器を持ってねぇ!」
土蜘蛛B「コイツラつえーぞ!?」
茨木「ぐぬぬ!出直しだ!ヤロー共!」
鬼たちはいきなり現れた黒い瘴気の中に消えていった。
玉姫「ありがとう、助かりました!タルタマも無事で。」
伏神刀を鞘に納めるとビャッコの体も立ち消えた。ミツルギは持っていた玉を玉姫に返した。
玉姫「スサノオ様より託された十種の神宝、タルタマは戻りましたが……」
玉姫はどうしようという顔で考え込んでいる。
玉姫「大変申し上げにくいのですが、残りの十種の神宝を探すのを手伝ってくれませんでしょうか?また、あの人らに出くわすと危ないので……」
美しい姫に懇願されてはミツルギも断れはしなかった。赤くなる顔を帽子で隠す。
ミツルギ「わ、わかりました。」
伏神刀「ね?綺麗でしょ?玉姫稲荷。」
その言葉に2人はドギマギした。
こうして、ミツルギと玉姫と伏神刀の物語は始まった。