木田から見た如月副総隊長 ー後編ー(改稿7/3)
何でか、如月副総隊長と一緒に下級隊員用の食堂に来ていた。
……いや、上級じゃないのかよ!?と内心ツッコミを入れつつ、俺は後をついて行く。
下級隊員は10級から5級で、上級が4級から1級という風に分かれている。級を上げるには任務とかで良い成果を残すか、昇級試験に合格するかのどちらかかしかない。
当然ながら、如月副総隊長は1級……ちなみに俺は3級だ!自分で言うのもあれだが、優秀なのだ!!
「……メニュー選ばないんですか?」
気づけば、如月副総隊長の視線がこちらをじっと見ていた。ちょっと怪訝そうな目つきだ。
「あ、選ぶっす」
どれにするか悩みながら、気になっていたことを聞いてみた。
「如月副総隊長、何で下級隊員用の食堂なんすか?」
「……はぁあ……上級だと絡まれる率が高いんですよ」と言いながら如月副総隊長は、特盛激辛カレーとあんぱんを選んで受け取っていた。
……謎の炭水化物コンボ。なんで激辛カレーにあんぱん?
俺はスタミナ定食を選び、それをもって席に着いた。
「で、絡まれるってどういうことっすか?」
「予備隊員か下級隊員に間違われるんですよ。それで、僕は絡んできた者に罰則を与えなければならないんですよ……めんどくさい」と、ぼやきながらカレーを一口。
「あ、そうなんすね」
確かに如月副総隊長の見た目はどう見ても中学生、よくてせいぜい高校生にしか見えないから絡まれるのか。
そこら辺にいる予備隊員とあんま変わって見えない……予備隊員は14歳から17歳だから……。
「如月副総隊長ってかなりのめんどくさがりなのに、なんで騎士になったんすか?」
如月副総隊長は食べていたカレーをピタリと止めて、「……給料がいいからですよ」と言ってカレーを食べるのを再開した。
案外あっさりとした答えだ。他にも給料がいいところなんて沢山あるだろうに、命の危険がある騎士を選ぶなんて何か他に理由があるのか?
「親御さんは止めなかったんですか?」
「……色々聞いてきますね……」
親は、いないので止める人はいませんよ」
や、やばい!!タブーなことを聞いてしまった!「す、すみませんっす」と謝ると、「大丈夫です。他に家族がいない訳じゃないので気にしないでください」と逆に気を使われてしまった。
「……ご兄弟がいるとか、ですか?」
「弟と妹……がいます」
なるほど……弟と妹を養う為に騎士になったのか。20歳で弟と妹を養っていて、副総隊長でもあるなんて出来た人だな。
「俺も兄弟いるっす!兄と弟がいます。ちなみに両方騎士っす」
「そうなんですね……もしかしてですが、治療部隊の隊長がお兄さんですか?」
「あ、そうっす!」
そう、俺の兄貴は治療部隊の隊長だ……堅物人間だからあまり近づきたくはない。合えばいつも女にだらしないとか、髪を黒に戻せとかグチグチうるさい。
「食後の運動でもしに行きますか」
俺と如月副総隊長は訓練着に着替え第一訓練所へ。
訓練着に着替えた如月副総隊長は隊服とは違ったカッコよさがある…… 見た目以上に身体が鍛えられてるのがわかる。
「運動に付き合って貰えますか?」
「あ、はいっす!」
「武器は木刀のみ。所持している武器やパートナーの能力を使用するのは禁止です」
能力を使わないから、体格差で俺が勝てるかと思ったが……俺は地面に倒れていて顔の横に木刀が突き立てられていた。
……は?え?俺なんで倒れてんだ?!
「……え」
「油断大敵ですよ?僕がチビだから能力無しなら勝てるとでも?」と如月副総隊長は不敵に笑った。
最初は一撃受けきれた……だが、二撃目に備えようとしたら既に仰向けに倒されていた。
理解が……追いつかない……。
起き上がりまた、戦った……が、またもや結果は同じ。
「理解が追い付いていないようですね。二撃目を打ち込んでいる時にただ足払いをしただけですよ」
は?足払い??俺だって如月副総隊長の足には注意をしていた。なのに……二撃目を打ち込んでる最中に、体勢を崩さず足払いをしただって??少しも体勢を崩さずそんなことができるなんて、すげえ身体鍛えてんだな。
如月副総隊長はなるべくしてなった副総隊長なんだな。
あの後五回ほど相手してもらったが、全て惨敗だった……。一撃目に木刀を吹っ飛ばされて負け、二撃目までは耐えたが後ろに回り込まれ首に木刀を当てられ負け、三回目、四回目、五回目も似たように負け。
俺はつい気になって、如月副総隊長のシャツの裾をめくってしまった
「うわ!!すっげぇ腹筋!!」
如月副総隊長の腹筋は見事にシックスパックに割れている。
「木田、服を放せ」と言われて、拳骨がゴンッ!と落ちてきた。
地味に痛ってぇ……絶対、たんこぶ出来た……。
「運動も程々にして見回りに行きますよ」
隊服に着替え直して、持ち場の見回りを如月副総隊長と。
見回りをしている最中、スイーツ店の前を通りかかると、如月副総隊長の歩みが一瞬止まった。
……あれ?今、ショーケースの中のプリンを見てたよな?
「……木田、何か?」
「い、いえっ!何でもないっす!」
そして、18時となり見回りは終了。
副総隊長室に戻り、今日の報告書を仕上げ如月副総隊長とはその場で別れた。
今日一日中如月副総隊長を観察して分かったことは、仕事完璧人間の甘い物と動物が好きで兄弟想いのわりと普通の人というのが分かった。
天才ってすっげぇ変人かと思ってたけど、俺らとあんま変わらないんだな。
普通の人ってわかったけど、あの人の「普通」は、俺の何歩も先を行ってる気がする。
……けど、いつか俺も肩を並べてみせる。副総隊長補佐の意地にかけて。