後始末
訓練所にて。
僕は封印札を”バチンッ”と本に貼り付け、叫んだ。
「貴方達、それでも本当に本部の騎士ですか?」
巨大ナメクジに悲鳴を上げながら戦っていた隊員達の動きがピタリと止まる。
封印札が貼られた物語は、どういう原理か分からないがモンスターや登場人物だけが消える仕組みになっている。便利だが、原理は未だに謎だ。
「あ!お前あん時のガキ!!なんでここにいるんだ?!」
「出頭命令を聞かないとかありえないですよ」
「はあ?!あんたなんかの出頭命令なんか聞くわけないじゃない!!」とあの10名がギャーギャーと喚いている。
出頭命令を無視した奴ら以外は僕の正体に気付き始めたみたいだ。なのに、何でこの10人は気付かないんだ?総隊長と副総隊長の隊服には隊長格の証であるマントが付いているのに。
「総員、敬礼!!如月副総隊長に無礼だぞ!!」
木田の号令で、周囲の隊員達は慌てて敬礼をした。
その瞬間、僕の名前を聞いたあの10名の表情が凍りついた。
「で?この体たらくは何です?いつからここの訓練所は休憩所に変わったんですかね??僕そんな知らせ聞いていませんけど?お前らの隊長は誰だ?」
誰も答えず沈黙だけが返ってくる……。
「はぁ……」
こいつらのこの態度にため息しかでてこない。
「如月副総隊長、こいつらの隊長は黄隊の相模隊長です」
「呼んで来い」
木田が相模隊長を連れてくるまでこのままという訳にはいかないので、「総員腕立ての姿勢になれ」と指示をした。
腕立ての姿勢を指示してから30分が経過した。
チラホラと隊員の姿勢が崩れ始め「あ、の!!この、姿勢は、い、つまで、はぁはぁ、……続けるん、で、しょう、か?」と、ポタポタと汗を流している男の隊員が苦し気に聞いてきた。
だから僕は、「相模隊長がここに来るまでだよ」と返した……まあ、相模隊長はもうここに来ているんだけどね。
彼がここに到着したのは15分前。隊員達は腕立て姿勢をしている為、目線は地面を向いているから相模隊長がここに到着していることに気付かない。
そして、さらに30分後。
「総員敬礼」と言うと隊員達は疲労のせいかノロノロと敬礼をした。
次の瞬間怒号が訓練所に響いた。
「なんだぁぁああ!!!その気の抜けた敬礼はー!!!如月副総隊長に無礼だろうが!!!それでも黄隊かぁぁああ!!」
スキンヘッドの黄色い隊服がパツパツの筋肉達磨の相模隊長が大声で怒鳴った。この筋肉達磨は総隊長と同類かもしれない……あの暑苦しい奴がもう一人……最悪だ。
「貴様ら、私が出張してるからとサボっていたな!上官がいないからとサボっていいとでも思っているのか!!聞いた話によると、本日如月副総隊長の戦果を奪った奴らがいるとか?」
出張から戻って来たばかりなのに、それを知っているのか……さすが隊長格、情報収集がはやいな。
「……心当たりがある者腕立ての体勢になれ」
相模隊長が指示したがやはり誰も腕立て姿勢にならず、全員敬礼のままだ。
「相模隊長、分かっていますね?部下の後始末は上官である貴方にもして貰いますよ」
「……は?」
「この訓練所に残った、ナメクジの粘液の処理をここにいる者だけで処理をすること。清掃部隊には頼まないように」
一瞬の沈黙。
「……ッ!」
相模隊長も隊員達も、顔が絶望に染まった。
そう、ナメクジの粘液は……臭い、汚い、落ちにくいといった三重苦として知られている。
「あはは~、あいつら大変そ~」
「……分かっていてあの物語を選びましたね?」
「一週間はあの匂い取れないから近づくのやめとこ~」と木田は僕の問いをわざとらしくスルーしやがった。これは確実に確信犯だな……これでなんでこいつはモテるんだ?
「あの、如月副総隊長?私も、ですか?」
「当然です。ちなみにナメクジの物語を選んで持って来たのは、木田なので恨むんなら木田を恨んでください」
「ちょ?!如月副総隊長?!」
「きーだー!お前のせいかー!!」
相模隊長が木田の首を腕で挟み込み落としに掛かっている。
木田、どんまい……。
木田と相模隊長は無視しといていいとして、もしかしてだが他の隊もこんなだったり……しない、よな?