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こんな最後なんて……。(改稿8/23)



薄暗い実験室をウロウロと見てまわっていた葉桜隊長と僕は、奥の隔離区画で異様なものを見つけた。

筒状の透明な機械。その中に浮かんでいたのは、白髪の天使みたいに可愛い三歳ほどに見える少女だった。

裸のまま、まるで羊水に包まれているかのように眠る少女は、翡翠と金のオッドアイをゆっくりと開けた。

「……子どもが……何でこんな所に……?」

彼女は目を細め、ゆっくりと可愛らしく笑った。

「如月?」と少し離れていた葉桜隊長が僕に近づき聞いて来た。

「子どもがいます」

葉桜隊長は離れていて子どもを視認出来ていなかったらしく、一瞬目を大きくみ開き「……取り敢えず、この中から出すぞ」と僕に言ってくる。

葉桜隊長は氷狼を構え、迷いなく機械を一刀両断した。「ザァー」と音と共に流れ出す液体の中から、僕が女の子をゆっくりと慎重に抱き上げると驚きの言葉を発した。

「ぱぱ! ぱぱ!」

女の子は僕の首に腕を回し、無邪気に笑っている。

この子の声は鈴を転がすような可愛らしい声で、聴いているだけで癒さられるようだ。でも、今はそんな時ではない!



(ぬし)は父親だったのか?」

「僕に子どもはいない」と僕は白龍にピシャリと言う。

「本当か?」と葉桜隊長は僕をジッと見てきて疑ってくる。この子と僕は少しも似ていないのに、なんでこんなにも疑ってくるんだ?

「葉桜隊長、違います。……おそらくは、雛鳥が一番初めに見た者を親と思うのと一緒だと思います。ですので、僕は子どもはいません!白龍も分かったな?」

葉桜隊長と白龍に早口で必死に釈明をする。変な汗をかいている気がしてきた。

白龍と葉桜隊長がまだ何か言っているが無視し、僕の上着を女の子に着せた。いつまでも、裸ではこの子が可哀想だからな。

「ぱぱ?ぱぱ?」

女の子は袖をぎゅっと握り、次の瞬間にはそれをひっぱっていた。服という概念すら知らないかのように。

子どもだからなのか、行動一つ一つが可愛らしい。


「この子の親は、どこにいるんでしょう?」

子どもを抱っ子しながら葉桜隊長を見た。

子どもは僕の髪を掴み何やら楽しそうに、キャッキャッキャッキャとしている。

「さあな……そいつも連れて、木田達の所に行くぞ」

葉桜隊長が子どもを睨み、僕達画入ってきた報告に視線を向けた。

「そうですね」

木田達の所に戻っている最中にも女の子はずっと「ぱぱ!ぱぱ!」と言っている。というか、ぱぱとしか喋らない……三歳くらいならもっと色々喋れるはずなのに。


「そいつ、ぱぱとしか喋らないな」

「そうですね。他の単語を知らないんですかね……」

葉桜隊長は急に真剣な表情になり、僕に色々質問をし始めた。

「黒本という刑事を知っているか?」

「黒本?……うーん……知らないですね」

目を泳がせ今まで会ってきた人達を必死に思い出すが、黒本という人はやはり知らない。

「そうか。警視総監以外に親しい警察関係者は?」

「いませんよ。何でそんなことを聞くんですか?」と質問の意図が分からず聞いてみた。そうすると、葉桜隊長は驚きのことを言った。


「……警察関係者か騎士(ガーディアン)に今回の犯人か、その共謀者が紛れ込んでいると俺は思っている」と葉桜隊長は少し言いずらそうに僕に言ってきた。

葉桜隊長は乱暴の態度で誤解されがちなのだが、とても仲間想いのいい隊員だ。

「……え?!何で……そう思ったんですか?」

「アジトを見つけるのに、物語武器を使っての探索で二週間も掛かるのが異常だ。それと、俺をここに来させないようにか、見張りに配置されたからだ」

確かに、物語武器を使って二週間も場所が特定出来なかったなんて可笑しい。葉桜隊長の配置もそうだ。

普通隊長格は見張りなんて配置される事はまず有り得無い。それに、葉桜隊長の物語武器も見張り向きでもない。僕が指揮官だったら、こんな人員配置はするわけが無い。


情報操作や配置決めをできる者が今回の犯人か共謀者の可能性が高い……いや、残念だがそうなのだろう。まさか、裏切り者がいるなんて……仲間を疑いたくない。

「……仲間を疑いたくないのは分かる。だが、これが真実なんだからな」

「はい……。葉桜隊長は、裏切り者は誰か分かっているのですね」

この薄暗い廊下が僕達の心を現しているようで悲しくなってくる。

「ぱぱ?ぱぱ?」と髪を引っ張り甘えてくる女の子を静かにするようにあやす。

「今回の合同捜査の指揮官、黒本だ。騎士(ガーディアン)にも絶対いるが、まだ分からない」

だからさっき黒本という人を知っているか聞いてきたのか。騎士(ガーディアン)の裏切り者は不明だから、戻ったら共犯者を探さないとだな。

副総隊長はこんな悲しい仕事モンスターしなくてはならないから、どんどん心が冷たくなり疲弊していく。

少女は僕の腕にしがみつきながら、道中もずっと『ぱぱ』と繰り返すだけだった。


(ぬし)、先ほどの部屋で戦闘が行われている」と僕が最初にいた部屋の近くになった時、白龍が僕に言ってきた。

「モンスター達と戦っているんだろう」

「いや、モンスターの気配は一つだけだ。人間の気配が一つ増えているぞ!」

白龍の言葉を聞いた途端、葉桜隊長は走り出した。僕も葉桜隊長の後を追うように走る。人間の気配が新たに増え、バクの少女以外のモンスターの気配が無いのに戦闘をしている。これは、異常事態が発生した以外ありえない!


薄暗い廊下を走りながら、葉桜隊長が僕を一瞬見てきた。

「分かっているな?」

「はい。……人間と戦うことになるんですね」

葉桜隊長はチラッとこっちを見て、何も発さず頷いた。僕たちは登場人物や、モンスターとしか戦うことしか想定されていない。人間の場合、殺さず拘束しなければいけないのが難しい……。人を護るために騎士(ガーディアン)になったのに、その護るべき人と戦うことになるとは。


部屋の前に着き、葉桜隊長がそのまま突入した。あの人は、昔から前線に飛び込む癖がある。それも、考えるより先に動くタイプだ。

幼児を部屋の入口近くに下ろし「ここで、待っているんだよ」と目を合わせ言い聞かせる。

「ぱぱ?」

僕は葉桜隊長の後に続いて人と戦う心の準備もできていない中、部屋に突入すると目の前の光景に言葉を無くした。

「……っ」

血だまりの中、バクの少女が腹部を押さえ地面に崩れ落ちている。

木田とさらはバクの少女が人質に取られたから、身動きが取れなかったのか?

「やっぱ、黒本……てめえが裏切り者だったか」と葉桜隊長がドスの効いた声で目の前の男に言った。

「お前、何でここにいる?」

黒本は銃をバクの少女に向けながら、葉桜隊長に顔だけ向けた。黒本の表情から読み取れるのは焦りしか読み取れなかった。きっと、ここに葉桜隊長がいるとは思わなかったのだろう。葉桜隊長は昔からこういう所があり、自分が納得できないと指示に従わない狂犬なのだ。

「ああ”?てめえの指示なんか聞く訳がねぇだろ」

葉桜隊長が大声が部屋中に響き渡る。

黒本は「クソッ!厄介な奴は見張りに配置したのに!」と苛立ち、バクの少女をゲシゲシと蹴っている。


「う”っ!う”っ!」

バクの少女は苦しそうに顔を顰め呻いている。上向きになっているから、怪我をしているお腹を蹴られる度に血が出るのが多くなっている。このままだと危険だな……。

「やめろ!!」とバクの少女に手を伸ばし、黒本の非道の行いを止める。このままでは、僕を助けてくれようとしたあの子が死んでしまう!!

「おや?如月さんもいたんですね。貴方も起きているなんて……こいつは役立たずだな」

黒本はイライラしたような表情で、バクの少女を睨みつけている。

「た、すけ……」

バクの少女は僕の顔を見て、助けを懇願してくる。

その表情は苦痛に満ちていて、口からは血が出ていた。

やはり、バクの少女は誘拐犯の仲間だったのか。でも、何でお腹から血が出ているんだ?


「ゆずちゃん!その子を助けてっ!」

「俺達を守ってくれたんです!」

木田とさらが先程までと違い、バクの少女を護って欲しい、助けてと僕に訴えかけてくる。何故2人は急にバクの少女を助けてくれなんて行ってきたのだろう……いや、あの子を助け出してから聞けばいい。

「……分かった」

「如月、俺があいつをどうにかする。その間に助けろ」と葉桜隊長が僕に耳打ちして来た。

葉桜隊長と目配せをして、頷いた……あの子は必ず助ける!きっと木田とさらを守ってくれたのだろうから。


氷狼(ひょうろう)

葉桜隊長の刀から、氷の狼が大量に出て来て黒本に牙を剥き走り向かって行く。黒本は氷の狼から、逃げるように後ろに移動したのでバクの少女を助けるなら今だ!

全速力でバクの少女に向かった。

バクの少女を抱き抱えようとしゃがみこんだ瞬間「(ぬし)!前だ!!」と聞こえてきた。

白龍のひっ迫したような声が聞こえ、黒本に視線を向けると拳銃を打っている。一発ではなく、連射してきた。しかも、普通の拳銃ではなく物語武器のようで弾道が弧を描きよけられそうもない。油断をした!!!


死ぬ!……と覚悟した……。


その瞬間、バクの少女が最後の力を振り絞って起き上がり、僕に覆いかぶさってきた。バクの少女の体温の温かさを身に感じる。次の瞬間、バクの少女に銃弾が当たる。

弾が背中に当たるたびに、バクの少女は体にくる痛みにびくっとさせる。

弾が全弾……バクの少女に当たった。僕には、一発も当たらなかった……何で……僕を守ったんだ?!

バクの少女の怪我を触らないように抱き上げた。

「何で、僕を助けた?!」

「ゴホッ!……あな、たは、ゴホッ!わ、たしを信じて、くれた。ゴホッ!!……落ちこ、ぼれの、わ、たしをしん、じて、くれた、のは……はじ、めてだった。……それ、が凄、く、ゴホッゴホ!!嬉し、かった……お願、い、私、がいた、のを、忘れ、ないで」

「もう喋るな!!」

バクの少女からとめどなく出血している……このままでは……。お願いだから喋らないでくれ!

「わ、たし、のなま、えは、ゴホッゴホ!メア」

「メア!もういい!!喋るな!」

「ゴホッ!はじめ、て、名、前……呼ばれ……」

「メア?メア?メア!!」

……そんな……僕を守ったばかりに……。また、僕は……助けを求めてきた、目の前の人を守れなかった。



僕を守ってくれたメアを絶対忘れない。いや、忘れることなどできない。





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