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怪しい実験室(改稿8/23)


少女は顔の無い黒い人型のモンスターを必死に守っている。

その目はここを退くもんかという意思が見て取れる。


「そこの君っ!!危険なので、そこをどいてください!」

僕は必死に少女にそこを退くように説得する。

「ど、どきません!」

少女は体も震えながらも、顔の無い黒い人型モンスターを庇い続ける。

「モンスターは危険なんです!」と見知らぬ少女にどくように言っているが、首を左右に振り拒否をしている。

少女は震える手でモンスターの前に立ちはだかり、それでも一歩も引かなかった。涙を浮かべたその目には、決意だけが宿っていた。


顔の無い黒い人型モンスターは、目の前の少女に襲い掛かることもなくじっと動かない。基本モンスターは人に襲い掛かるのに……。

「このモンスターは、本当は人間なんです!!」とこの部屋に響き渡るくらい少女は両手をギュッと胸にやり大声を上げた。

「何を言っているんですか?どこからどう見ても、モンスターじゃないですか」

それより、この少女の声聞いたことがある気がする……でも、どこで聞いたことあるんだ?


「このモンスターは……寝ている人達の魂なんです!殺してしまうと、その人も死んじゃうの……だから、」

少女の言葉に被せるように「噓も大概にしてください」と言うと、「お願い!私の話を信じてっ!!」と切実に僕達に訴えかけてくる。

「貴方に、人を殺して欲しく無いんです!!」

「……どうして、そこまで……」

何故この少女は僕に人を殺して欲しくないと、会ったばかりの僕に言ってくるのだろう……。

僕は顔の無い黒い人型モンスターと、目の前の少女を交互に見る。


「如月副総隊長、どうしますか?」

「斬る?」

血濡れのクマ、ゾンビの狼、そしてケルベロス、それらを片付けた木田とさらが、僕の隣に並び低く囁いた。

この2人はモンスターを沢山倒したのだろう、隊服の至る所が煤で汚れていたり返り血で汚れたりしている。



顔のない黒い人型のモンスターたち。倒すのは難しくない。けれど、もしこの少女の言っていることが本当だったら。僕は顎に手を添え、視線を下げ地面を見る。

集中する為に深く深呼吸をすると、この部屋の血なまぐさい臭いと焦げた臭いが僕の身体の中に入ってくる。


……倒した瞬間、予備隊員や正隊員の命が、失われるかもしれない。地面で寝ている隊員達をジッと見て、僕は決断をする。

「……事実だった場合を考えて、倒すのは止めましょう」と一瞬目線を下げ、目の前の少女に視線を戻した。

「ですがっ!!」

木田の声が荒くなる。だが、僕は目の前の少女から目を逸らさず、真正面からピシャリと言い切った。


「これは、副総隊長である僕の決定だ」

その声には、自分でも驚くほどの圧がこもっていた。木田が小さく肩を揺らす。

木田は静かに「……了解」と言い、バクの少女を一瞬睨んだ。木田の態度からして不服なのだろうが、もしもを考えなければならない。


僕は奥歯を強く噛みしめた。


……過去の、“誤った判断”が頭をよぎる。


もう、あんなことは繰り返さない……絶対に。


「攻撃もしてこないので、拘束すれば、問題無いですし。……君は何で、その事を知っているんですか?」と少女をギロッと睨んだ。一般人がそんなことを知っているわけがないから、誘拐犯の仲間の可能性が高い。


「え、……っと、その……」

少女は視線を彷徨わせオロオロとしているが、そんなことは関係無い。

「早く答えて下さい。それと、お前は人間ですか?」

「命が惜しいなら、正直に答えたほうがいいよ」と、さらは支給されている刀を抜刀して少女に向け脅しを掛けた。この場の空気がまた、ぴんと張り詰める感覚がする。

目の前の少女は俯きながら「わ、私、は人間では、ありません……っ」とボソボソと喋るように言った。

木田もさらも「やっぱり」と呟いている。何もない空中から現れといて、人間と言われて信じる馬鹿はいない。

「私は……夢を操る、バクです。夢を自由に見せたり、過去に見た夢を見れることのできる生き物です」

バクは眠っている人間を深い眠りに誘うことが出来る。そして深い眠りに入ってしまうと、自力では起きれない危険な能力がある。

「ということは、この状況を作った張本人ですね?」

「……私の、仲間がやりました」とバクの少女は俯きながらボソッと呟き一粒ぽろっと目から涙が。


「じゃあ、早くなんとかしろ」

木田は冷たい声でバクの少女に命令をしている。その顔はいつもと違い、真顔なのだが怖い雰囲気を持って醸し出している。

だが、木田の言う通り早くなんとかして欲しいものだ。

「あ、の私は……落ちこぼれのバクなので、寝ている者を起こすことができないのです。夢にほんの少し干渉するくらいしか……」

バクの少女は寝ている隊員達をチラッと視線を移し、再度地面を見て僕達を見ようともしない。

「役に立たないな。他の仲間は?」

木田は仲間が今もなお夢に囚われているのに腹が立っているように見える。でも、気持ちは分かる……。早くこの隊員達を起こし、安否を知りたい。


「います。……でも、もういません」

「どういうことなの?」

「私の……仲間は、目の前っで……殺されたので……っ!」とバクの少女は泣き始めてしまった。このバクの少女は人間でいうと、高校生くらいだからそんな惨状を目の当たりにしたら泣いてもおかしくはない。少し、罪悪感を覚えるな……。

「僕の夢の中で、話しかけて来たのは君?」

「ひっく……っ。そ、うです」

何故僕を助けようとしたのか聞くと「……何故か、貴方なら、苦しみから、助けて、くれると、思った……ひっく…から」と答えてくれた。


「……悲しんでいたい気持ちは分かります。今は悲しんでいないで、君に助けて欲しいのです」

木田とさらは僕が手助けを頼んだのを、目を大きく見開いて驚いている。今会ったばかりのバクに、悲しんでいる者に手伝いを頼むとは思っていなかったんだろうな。でも、がむしゃらに動いていた方がいい時もある……。


「私は……落ちこぼれですが、大丈夫ですか?」

「ええ。君の力が必要なんです」

バクの少女の目をジッと見て力強く言った。

「……わ、かりました」

バクの少女に、僕の夢の中で語りかけてくれたようにするよう頼んだ。このメンバーでどうにかできるのは、あの子しかいないから信じるしかない。

「木田とさらはここに残り予備隊員と正隊員を守れ。僕は外を見てくる……」

隊員達を見て、ドアに視線を向けた。

そして、二人を見つめ、バクの少女を見張るようにという意味を含め見つめた。木田とさらはコクリと頷いたので、裏の指示は伝わっているはず。


(ぬし)よ、無茶をするでない」

白龍が静かに、僕にだけ聞こえるくらいの声量で話しかけてきた。

「ずっと静かにしていたんだから、これからもそうしていろ」

「我も空気を読むことはできる。でも(ぬし)が無茶をするなら、(ぬし)の刀として我は止めねばならない」

白龍のことは無視し、ドアに向けて歩き始める。


後ろから木田とさらが話しかけてきた。

「如月副総隊長!お気を付けて!」

「ゆずちゃん、油断大敵だからね!」

この場は二人に任せ、ドアを開け眠っていた部屋を出た。

あの二人は隊長格とまではいかないが、それなりに強いので心配はないだろう。さらは感も鋭いし、木田はああ見えて疑り深い奴だから大丈夫だ。


部屋を出て暫く歩いているが、誰にも会わない。

廊下の蛍光灯は、所々着いていなかったりチカチカと消えかかったりしているものがある。薬品の臭いも微かにする。

「異様だな」

「60m先の角を曲がった所に……何かいるぞ」

白龍が示した方を一瞬見た。

「本当か?」と白龍に小声で聞くと、白龍は「ああ」と答えた。先に何かいるか分かるなんて、こいつ凄いな。でも、こいつはどんな物語に登場する武器なんだ?沢山の小説や漫画を未完も併せて、読んできたのに分からないなんて……。



蛍光灯がチカチカする廊下を抜刀し曲がり角まで、音を立てずそろそろと近づいた。


「現れるぞ!」


角を曲がると、人が現れ敵かもしれないと思い斬りこんだ。相手も同じ考えだったのか、「ガキンッ!」と刀同士がぶつかり音が鳴る。

相手と視線が合い、僕は固まった。

何故なら、相手が顔見知りだったから。


「あ?如月副総隊長!」

葉桜隊長が僕を見て嬉しそうに僕の名前を呼んだ。

僕は驚きながら「葉桜隊長?!何故ここに?」と聞いた。僕と葉桜隊長は臨戦態勢をお互い解く。

「何故も何も、誘拐された人間を探すためですよ」

ジッと葉桜隊長が僕を見て言ってくるので、おそらく……いや、絶対僕も目的の人に入っているな。

葉桜隊長までも駆り出されるとは……もしかして、僕が誘拐されたからか?

「如月副総隊長が無事で良かったです」

「ここにいるのは、僕と葉桜隊長だけなので以前のような喋り方でいいですよ」

「……分かった。で?如月よ、何で誘拐なんかされたんだ?」

前を向き歩きながら「敵の罠にはまってしまったんです」と答えた。まさか、未希と未来が目の前に現れるとは思いもしない。


「詰めが甘いな。おめぇ、副総隊長になったんだからしっかりしろよ。……最弱だったおめぇが俺よりも強くなるとはな」

葉桜隊長が僕の背中を「バシッ」と叩いてきた。僕は叩かれた反動で少しよろけてしまう。

(ぬし)は、弱かったのだな」

「ああ”?その刀なんだ?」

葉桜隊長は喋った白龍に視線を向け、怪訝そうな顔をしている。

「名は白龍。……それ以外不明です」と言うと、葉桜隊長は白龍を睨んでいる。

葉桜隊長と警戒しながら歩いていると、頑丈そうな扉が現れた。


ここにも囚われている者がいないか確認する為に、扉を開けて中を確認することに。


葉桜隊長は慎重にドアノブに手をかけ、下に引いた。

「……鍵は、……掛かっていねぇ」

アイコンタクトをし「3,2,1」の合図で葉桜隊長が扉を開け、僕が先頭に音もなく突入した。


敵がいるかもしれないと警戒しながら突入したが、部屋には人っ子一人いない。


だが……この部屋は怪しすぎる。

薄暗い部屋の中にはよく分からない筒状の大きな機械に、肉の欠片と怪しさが満載だ。パソコンもあるが、きっとデータは削除されているだろう。


「この、肉は何だ?それに、これは臓器か?」と葉桜隊長は、台の上に置いてある肉を恐れ無く、近くで見ている。


生臭さと、焦げたような肉の匂い。窓が無く換気ダクトしかないこの部屋は、まるで解剖が日常的に行われていたかのような異様な空気に包まれている。

それに、誰もいないのも異様過ぎるのだ。ここは、敵のアジトなのに廊下にもこの実験室にも人が誰もいないなんて……。



落ちていた1枚の用紙を拾うとNo.248、佐久平なな。性別女、11歳。適正無し失敗と書かれている。

ここで……何の実験が行われていたんだ?





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