新たな力 (改稿8/22)
「……ここは、現実?」
僕は横になったまま、周りをキョロキョロと見た。
ぼんやりと呟いた瞬間、「ゆずちゃん……ほんとに、無事で良かった……っ!」と馬鹿力で抱きつかれ、骨がミシミシと悲鳴を上げる。肌の温もりと痛み……確かに、これは夢じゃない。現実に戻って来たのを実感する……。
僕は脳から危険信号が出ているのに気づき、意識がはっきりとした。
「馬鹿さらっ!お、まえ力強いんだから加減をちゃんとしろ!」
「良かった……如月副総隊長、元気そうで……っ」
この二人は何故、こんなにも泣きそうな顔をしているのだろうか?たった一日帰らなかっただけなのに、大袈裟すぎだ。
「たった一日帰らなかっただけで、大袈裟だ」
「え?……如月副総隊長?」
木田がありえないものを見るような目で僕を見てくる。
「何……言ってるの?ゆずちゃんは、二週間行方不明だったんだよ!」
「はっ?!二週間?!」
たった一日だと思っていたのに……現実では、二週間も経っていたなんて……。
でも、お腹も空いていないし、のども乾いていない。人間が飲まず食わずで二週間も生きられるわけがないのに、どうして僕はこんなにも元気なのだろうか?
身体をキョロキョロと見るが、何もおかしな事にはなっていない。
「……ここは?」
「誘拐犯のアジトです」
「探査に特化した、物語武器使って見つけたんだよ」
「なるほど……」
周りを見てみると予備隊員と正隊員が、静かに床に横になっている。微かに「うぅ……」と呻いている者がちらほらと。
「ゆずちゃん以外、誰も起きないの……」
さらが予備隊員や正隊員達に視線を移す。
「ゆすったり、体を軽く叩いてみたんだけどダメだったっす」
「……核を壊さないと起きない、らしいです」
それにしても、あの声の少女は誰だったのだろうか?聞いたこともない声だったから、恐らく僕が知らない子だろう。でも、僕の夢に介入してきたってことは……。
「と、とりあえず!仲間にこの場所を教えないと!」
「如月副総隊長、動けますか?」
「はい、動けます」
誰かの視線を感じた気がする……。後ろを振り返ってみると……そこには、誰もいなかった。
さらは僕の行動が不思議だったのか「どうしたの?」と聞いてきた。
「何でもない」
その時予備隊員と正隊員が一斉に苦しみだし、人間からモンスターが現れ始めた。
「はあ?!」
「何で、人からモンスターが出てきてるの?!物語からしか出ないんじゃ……っ!」
「あり得ない……人間の中から……?」
僕達3人は目の前の状況についていけず動揺した。
こんな時に物語武器を持っていないなんて……部下を護らなくていけないのに、逆に護られる側になるなんて……。
「こんな時に……僕は無力だ……っ!」
「だいじょーぶ!任せてっ!」
「そうっすよ!」
木田とさらは襲い掛かって来るモンスターを物語武器を使って倒していっている。
僕が見た、血濡れのクマのモンスターに巨大な鼠のモンスターがいる。その他には、キマイラや頭が三つある犬”ケルベロス”やゾンビの狼がいる。
こうしている間にも、新たにモンスターが現れ続けている。木田は自然の恵みという剣を使い、木の根を的確にモンスターの心臓を貫いている。心臓に木の根が突き刺さったモンスターは、一瞬苦しそうにしすぐにパタリと身体の力が抜け動かなくなる。
「木田さんって、結構強いですね!」と、モンスターの返り血を浴びながらさらは木田を褒めている。
傍から見ると、返り血を浴びながら笑う怖い女の図が出来上がっていた。
「ありがとうございます!」
「当たり前だろ。僕が鍛えてやってんだから」
さらはミラージュリンクという名前の短距離転移と透過のアンクレットを使い、モンスターの背中に炎を当てている。炎は焔という名前のブレスレットだ。
「爆炎ッ!!」
さらの叫びと同時に、視界を焼くような光と爆風が辺りを覆った。瞬間、砂埃が舞い上がり、モンスターが一斉に立ち止まる。
視界が塞がった次の瞬間、さらの姿がふっと消える。ミラージュリンク、短距離転移と透過の物語武器。彼女の足元で光が瞬き、気配が後方へと跳ねたのを感じた。
「焔……!!」
背後から放たれたその一撃は、炎というより、まるで雷光。火球が空気を引き裂き、ケルベロスの胸を貫いた。肉が焼け焦げる音と同時に、怪物が断末魔の叫びを上げて崩れ落ちる。辺りには焦げた臭いがし始めた。
さらの姿が、煙の向こうから現れた。髪は少し乱れ、服も煤で汚れているのに……その目だけは、強く、前を見据えていた。
炎に照らされたその背中が、やけに大きく見えた。
僕はその背中がすごく頼もしく感じる。
「うわっ!二つの物語武器を使ってんのすご!」
木田は目を見開いて、さらが物語武器を二つ使用しているのを驚いている。木田もさらを見ながら、戦っているのも中々すごいことだ。
周りを見ていて、一つ気づいたことがある。
「……寝ている者は、襲われていない……?」
理由を探るため、寝ている者に近づいてみた。
「……人間が、未完の物語の役割をしているのか?」
考え込んでいたその時、後ろから来るモンスターに気付かなかった。
「ゆずちゃん!!」
「如月副総隊長!!」
二人が焦った顔をしてこっちに来ようとしているが、モンスターのせいで来れない。
ケルベロスが口を大きく開け、僕にかぶりつこうとしている……。
ああ、……僕は未希と未来を助けられずここで死ぬのか……。
「ゆずちゃん!逃げて!!」
「如月副総隊長!逃げて下さい!!」
二人が何か僕に叫んでいるが……よく、聞き取れない……。
死ぬかもしれないという恐怖からか、心臓がドクンッ!と大きく脈打つ。
『ここで諦めるのか?』
今、僕に聞こえた男の声はなんだ?
……諦める?諦めたくはない!助けなければならない人達がいる!でも、物語武器の無い僕は……無力だ。
『お主は弱くない。まだ、覚醒していないだけだ』
「覚醒?」
ケルベロスは今にも僕に襲い掛かって来ようとしている……死を覚悟したからなのか、時間がスローモーションのように感じる。
『我は白龍!お主の刀だ。我の名を呼べ!』
男の声に導かれるように「白龍!」と唱えると、何も無い所から眩い光の中から白く綺麗な刀が現れた。
「……」
「放心している場合じゃない!モンスターが来るぞ!!」と、なんと刀が喋った。
「我は最強の刀……。心して振れ」
刀に……いや、白龍にそう言われ僕は決意をする。もう、弱気にならないと。
「……分かった」
襲い掛かって来るケルベロスを、首から足にかけてこの白く綺麗な刀、白龍を振った。
刀は全く重さも感じず、切る際も紙を切るかのように簡単に切れた。この刀……轟雷刀よりもすごいかもしれない。
「ゆ、ゆずちゃん?何、その刀?」
急いで駆けつけてくれた、さらも木田も何も無い所から眩い光と共に現れた刀に驚いている。
「……僕にも、説明できない」と刀を見ながら言った。
「我は最強の刀の白龍だ」
「取り敢えず、この場をどうにかするのが先決だ!」
物語武器か分からないが、この白龍という刀を使いモンスターを倒していく。
モンスターを倒しながら「おい、白龍」と話しかけた。
「なんだ?」
「お前の使い方を教えろ」
「我はお主次第で、強くも弱くもなる」と自慢げに話しているが、こいつも扱いずらい物語武器か……。想像力で強さが変わるのが一番厄介だ。戦闘中に細かいところまで想像するのは簡単なことではない。
僕だってイメージは戦う前に決め、能力を発動させるからな。
「……はあ……」
「お主!なんだその溜息は!我は最強の刀ぞ!」
「……うるさいな」
「うるさいとは何ぞ!我は、人型にもなれるすごい刀ぞ!!」とギャーギャー喚いている。能力がすごくても、こんなにうるさい刀最悪だな。
こいつが何をできるか分からないので、普通にモンスターを斬っていくことにした。技の実験は本部に戻ってからにしよう。今は目の前のモンスターに集中だ!
モンスターを切っていくと、突然黒い顔の無い人型のモンスターが現れた。
人型のモンスターも、他のモンスター同様斬ろうとした……その瞬間空中に少女が現れ、「ダメッ!!攻撃しないで!」と黒い顔の無い人型モンスターを両手を広げ守った。