夢か現実か……(改稿8/22)
味噌汁の匂いで目を覚ますと、目の前にあの子達……妹の未来と弟の未希がいる。幻だと理解していても、心のかけていた部分がスっと埋まった感覚がした。
「な、何で……?」
僕の目からは自然と涙が出ていた。
それに、義父母がいる……これは、夢なのか?
僕はつい先程まで路地裏にいたはずなのに、何で家にいるのか分からない。
「お兄ちゃん?どうしたの?」
「早くご飯食べようよ!僕お腹ペコペコ~!」
2人が僕に抱きついて、笑顔で甘えてきた。
「あ、う、うん」
家族でのご飯なんていつぶりだろう?……うん?いつぶり?昨日も皆で食べていた、はず……いや、違うこれは夢だ。
「これは、現実では無い。義父さん義母さんは、あの十年前の東京大災害で亡くなっている」
「何言っているの?十年前?亡くなっている?お兄ちゃんは10歳だよ?」と未希が僕の服の裾を引っ張り不思議そうにしている。
僕は20歳だ……でも、弟達は8歳に見える。あの頃の姿でいる……。
「いや、僕は20歳だよ」
二人に「お兄ちゃんは10歳だよ」とジッと目を見つめられながら言われたら……そんな気がしてきた。
何だか頭がぼーとするのはなんでだろう?何も考えたくないと思ってしまう。
「……そうだ……僕は……10歳だ」
不思議な甘い匂いが部屋に充満している……部屋の中はこんな匂いだったか?
「そう、お兄ちゃんは10歳で僕と未来は8歳でしょ?」
「ね?お兄ちゃん?」
何だか頭が靄が掛かったようにぼーとしてきた。何も考えられない……いや、考えることなんかしなくていいんだ。
「弦?大丈夫かい?」と義父さんが僕の顔を覗き込んでくる。
「うん。大丈夫だよ」
「弦、何か悩み事あったら直ぐに相談してね。私もパパも何でも聞くから」
僕の父と母になってくれたのがこの人達で良かったな。可愛い弟と妹が出来て僕は幸せ者だ。
何があっても未希と未来を命を掛けて護るぞ!
『ここは夢の中です!!』
急に頭の中に知らない少女の声が聞こえた気がした。ここが夢の中?そんなわけない……ここは現実だ。
「……ここは、現実だ」
未希が僕のお腹に飛びついて来て「お兄ちゃん!明日パパが遊園地連れてってくれるんだって!」と嬉しそうに笑っている。
「私、一緒にお兄ちゃんとメリーゴーランド乗りたい!」
未来も笑っていてこの場は、暖かい幸せな時間がゆっくりと流れている、
「お兄ちゃんは僕とお化け屋敷に行くから、メリーゴーランドはパパと行けよ!」
「なんでよ!!未希がパパと行けばいいじゃん!!」
「こらこら。喧嘩はダメだぞ!」と義父さんが喧嘩を仲裁したが、二人に選ばれなくて悲しそうだ。
翌朝家族皆で遊園地に来た。
遊園地を入ってすぐ、未来と未希は睨み合い始める。
けど、すぐに僕に視線を移してキラキラしたような目で語りかけてくる。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お化け屋敷!!」
「違う!お兄ちゃんは、私とメリーゴーランド乗るの!」
二人が喧嘩をし始めてしまい、仲裁したが二人は頬をパンパンに餅みたいに膨らませむくれている。
この2人は双子もあってか、むくれ方もそっくりで僕は笑ってしまう。
「弦は何か乗りたいのある?」と義父さんが僕を気遣って聞いてくれた。
「……ジェットコースター」
「ジェットコースターかあ……パパは無理だから、ママと乗っておいで。メリーゴーランドとお化け屋敷に行ってくるから」
義父さんは高所恐怖症で無理だし、未来と未希は身長的に乗れないから義母さんと乗ることに。
きっと……いつも僕が弟と妹の意見を優先しているから、甘えさせてくれるんだろうな。実の子のように接してくれるこの人達が大好きだ。
『ここは夢です!!お願いだから気付い、……』
また、あの声が聞こえた気がした。
「弦?どうしたの?」
「あ、ううん。何でもない」と、また頭の中に聞こえた少女の声を気にしないことにした。きっと、遊園地にいるどこかの子の声が聞こえてきただけだろう。
義母さんとジェットコースタを乗り終え、皆が待っている所に行くと未来が大泣きしている。
「未来?どうしたの?」
「うわあぁぁん!!」
「それがな、未来もお化け屋敷に行ったんだが、怖すぎたみたいで」と義父さんが苦笑いしつつ未来を慰めている。
「あらら。未来~、ママの所においで~」
未来は義父さんの所から義母さんの所に行き、抱っこをしてもらい慰められている。未希はお化け屋敷に行きたいと言っていただけに、ケロッとして平気そうだ。
『当遊園地の近辺で、スタンピードが発生しました!スタッフの誘導の下、速やかに避難してください!』とひっ迫したアナウンスが流れ始めた。周りのお客さんたちもこの状況にざわつき始める。
「ママ……」
「未来、未希大丈夫だぞ!騎士が俺達を守ってくれるからな!」
「……騎士」
「どうしたの?」と義母さんが僕に聞いてきたが「何でもない」と返事をした。
……そう、何でもない。
『如月さん!貴方は、騎士なのを思い出して!ここは夢なんです!』とあの声がまた僕に、必死に語りかけてきた。
「僕が……騎士?」
「何言っているの?お兄ちゃんは騎士ではないでしょ?」
「そうだよ!お兄ちゃんは私達のお兄ちゃんでしょ?」
また、あの不思議な甘い匂いがしてきた……この匂いを嗅ぐと、頭がぼんやりとする。全てがどうでもよくなり、未来と未希の言うことが正しいと思ってしまう。……思ってしまう?弟と妹は噓なんか付かないから全て正しいんだ。
『如月弦さん!!ここは夢の中です!!貴方の義父母は亡くなっていて、弟妹は行方不明なのを思い出して!そして、貴方は騎士の副総隊長でしょ!』
「……僕は……弱い……副総隊長、なんかじゃ、ない」
「弦、避難しましょ!」と義母さんが僕の腕を引いてくる。
「僕は、強くない……副総隊長、なんかじゃない」
僕は本当に副総隊長では無い。だって僕は10歳の子どもなんだから騎士の副総隊長になんかなれる訳ない。
『思い出して!貴方は騎士の副総隊長です!この夢の中で一度でも死んでしまうと、夢から醒めなくなってしまいます!!』
「ここは、夢なんかじゃない……夢なんかじゃ……、」
そうこうしているうちに、遊園地にモンスターが流れ始めてきてしまった。モンスターはクマみたいな牙が鋭くて手には、おびただしい赤黒い血が滴っている。人よりもデカい灰色のしっぽが鋭利な刃のネズミのモンスターが建物を「ガラガラッ!」と音を立て壊しながら、僕たちに近づいてくる。建物が崩れ、砂埃の臭いが辺りに漂う。
僕が家族を護らなくちゃ。だって……。だって??何で僕が護らなくちゃいけないんだ?
僕は弱い子どもなんだから、守られる側じゃん。
「如月副総隊長!」や「ゆずちゃん!」と顔が靄で隠れている人達が僕を呼んでいる気がする。
ここには家族とモンスターしかいないのに、誰が僕を呼んでいるんだ?
満たされていた心がまた、何かを失った気がした。
クマのモンスターが僕に向かって飛びかかってくる。
死ぬかもしれないと思った瞬間、心臓がドクン!と強く鼓動し僕は大事な目的を思い出す。
そう、妹と弟を見つけ出すという大事なことをだ!
「……そうだ……。僕は、騎士の副総隊長だ!」と突然手の中に出現した愛刀の轟雷刀を使い、クマのモンスターを一刀両断した。
僕が騎士の副総隊長と思い出すと少しだけ身長が伸びた。どうやら身長も縮んでいたみたいだ。
僕には大事な仲間がいた事を忘れるなんて……でも、仲間の大事さを改めて認識したな。
『如月さん、この夢の核を壊せば夢から覚めれます。核は人それぞれなので探して破壊してください』
怪しいが謎の声の少女の声に従い、核を壊すことに。謎の声の少女はずっと僕を起こそうとしていたから、言っていることは真実だろう。
そして、核は探すまでもない。
「核は……未希と未来だ」
「お兄ちゃん?」
「どうしたの?」
2人が僕の顔をキョトンとし顔で見てくる。全てを思い出したからなのか、義父さんと義母さんの姿が消えている。
「……ごめん。必ず助けるから、もう少しだけ待っていて」
轟雷刀を使い二人の首を斬ろうとしたが、両手が震えている。未来と未希の笑顔が脳裏に浮かび躊躇してしまったが、震える両手をギュッと改めて握りしめ首を斬った。僕の目からはツーと涙が出てくる。幻とはいえ、弟と妹の首を斬った訳だから気分が悪い。
「……夢とはいえ、未来と未希の首を切る、なんて……、」
核を壊したからか、強烈な眠気が……。
まぶたを開けると、目の前には木田とさらが、今にも泣き出しそうな顔で僕を見つめていた。
「……副総隊長!」
木田の震える声が聞こえた。さらが僕の手を、強く握っている。
ああ、帰ってこられたんだ……現実に。