消えた副総隊長 (改稿8/22)
いつも通りに仕事を終え、夕日を背に帰路につく。
夕暮れ時の風が頬をかすめるが、夏なのに今日はどこか妙に冷たい。女性達からの夕食の誘いもあったが、すべて断った。俺にとって何より優先すべきは、家で待っている如月副総隊長と子ども達の夕食の支度だ。
普段なら、女性の誘いを断るなんてありえない。けれど如月副総隊長のためなら、それもやぶさかではない。
家に着くと薄暗い中、玄関先に座り込んでいる小さな人影が目に入った。雪菜ちゃんがどこか不安げな表情で、手に紙を握りしめている。
「雪菜ちゃん?何で玄関なんかで座っているの?」
「木田さん!!如月副総隊長が……帰って来ないんです!」
雪菜ちゃんが不安そうに、俺を見あげてくる。
「え?どこかに出かけてるだけじゃないか?」
「でも!これに、……!」
震える手で渡された紙には、丁寧な字でこう書かれていた。
『十九時までに帰ります』
あの人は仕事は適当でも、言ったことや約束は絶対に破らない人だ。これは、ただ事じゃない。
「分かった。ちょっと電話をしてみる」
スマホを取り出し、如月副総隊長に電話を掛ける。呼び出し音は「プルルル」と鳴っているが、如月副総隊長は一向に出ない。
「あ、あの」
「きっと、帰っている最中かもな」と、自分にも言い聞かせるように雪菜ちゃんに答えた。その時、後ろから足音が聞こえる。
「いなかった……」
「手分けして探したが、見つからなかった」
振り返ると、蓮とアレン。二人とも、雪菜と同じく、顔色が悪い。どうやら彼らも探し回っていたらしい。
「……二人とも、ありがとう。とりあえず中に入ろう。玄関で待ってるだけじゃ、余計不安になる」
如月副総隊長は24時になっても帰って来なかった。
如月副総隊長はまだ俺よりも若いのにしっかりしている。蓮達の保護者としての責任をしっかり護る人が帰ってこないっていうことがあるか?
俺はその夜一睡もできず、ずっと玄関の音に耳を澄ませていた。
そして、朝になった。外では雀が「チュンチュン」と鳴いている。
玄関の方から「ガラッ」と音がしたので、如月副総隊長だと思い急いで行ってみた。
だが、そこに立っていたのは……待っていた人ではなく松本さんだ。
「あれ?木田さん?そんなに焦ってどうしたんですか?」と松本さんがキョトンとした顔で僕を見てくる。
「如月副総隊長が、帰って来ないんです」
「あー……ゆずちゃんは、帰って来ないのとかよくあることなんですよ」
「え?そうなんですか?」
松本さんは「副総隊長になる前は、月三回くらいはあったことなんで心配することはないですよ」と俺を安心させようと教えてくれた。
蓮達に大丈夫だからと学校に行けと言うと、渋々学校に向かった。俺も遅刻する訳にもいかないから、松本さんと本部へ向かった。
外は太陽がさんさんと街を照らしているが、俺の心は反対で如月副総隊長のことが心配で影っている。
本部に着いて、本部に如月副総隊長を探してみたがやはりいなかった。
いつまでも探すわけにもいかないので、副総隊長室の隣にある補佐官室で松本さんと作業をすることに。
この補佐官室は部屋の中から副総隊長室にドアを開ければ行けるようになっている。
「木田さん、心配し過ぎですよ。ゆずちゃんは予備隊員の時も帰って来ないとかあったらしいですけど、一日で帰って来るので、今日帰って来ると思いますよ」
「そ、そうですかね?」
松本さんは「はい!」と言いながら、またしても書類にお茶をこぼし書類をダメにした。
「うわっ!ご、ごめんなさ〜い!」
昨日もそうだったが、松本さん仕事出来ないどころか仕事を増やすだけで役に立たないんだが?!
「あ……」
ビリッと書類が破ける音がした。
またしてもこの人は何かをやらかしたようだ……今日も残業……。
その日の残業は、結局22時まで続いた。
疲労感の中、家に帰ると中は静まり返っている。時計を見ると、もう23時。
「……如月副総隊長……今日も、帰ってこなかったか……」
それから五日が経った……。
獅子神総隊長も動いてくれているが、行方の手がかりは何一つ見つからない。
副総隊長室で書類整理をしていると、ドアが開いて、獅子神総隊長が入ってきた。
「あれ?獅子神総隊長?どうしたんですか?」
「……木田、ちゃんと寝ているか?」
獅子神総隊長は俺の顔を覗き込んできた。
「如月副総隊長が行方が分からないのに……寝れる訳ありません」
「馬場や佐々木から、お前が夜中も弦を探し回っていると報告を聞いている。弦も誘拐事件に巻き込まれたと断定し、警察と捜査することが今日決まった」
「如月副総隊長が……誘拐、された……?」
あの最強の如月副総隊長が誘拐されたなんてあり得るのか?モンスターを瞬殺するあの如月副総隊長が?
「お前も捜査に参加出来るように取り計らった。俺は他にもやることがあって、参加出来ないから頼んだぞ」
「はっ!」
感謝を精一杯こめ敬礼をした。必ず如月副総隊長を見つける!
合同捜査に参加しているが……最悪だ
「副総隊長が行方不明とはどういうことだ!」
「これだから、騎士とは組みたくないんだ」
「子どもを副総隊長にした報いじゃないか?」
ああ……このじじい共も如月副総隊長を見た目で判断するのか。如月副総隊長の実力も知らないこいつらに、馬鹿にされていい人なんかじゃない!
俺が怒鳴ろうとした瞬間、それよりも先に誰かが声を上げた。
「おい、クソ共。俺達の副総隊長を馬鹿にすんな」
会議室の空気が凍る……。キレた人は黒隊の隊長葉桜陽一27歳で、口がめちゃくちゃ悪いからよく苦情が多いらしい。
「あ、あの葉桜隊長?」
「年を取ってれば隊長になれんのか?騎士は完全実力主義で歳は関係無ぇんだよ!あいつを馬鹿にすんなら、騎士全員を敵に回すと思え」
葉桜隊長がこの場にいる全員を睨んでる。
葉桜隊長のことあんま知らなかったけど、如月副総隊長のことめちゃくちゃ信頼してんだな。口は悪いが正義感は一応あるみたいだ。
「そこまでだ!警察と騎士で協力する為の合同捜査会議であって、罵り合う為では無い!」と指揮官の警視監黒本という人が騒ぎを止めた。本当なら如月副総隊長と黒本さんが今回の指揮官のはずだったのだが、如月副総隊長が行方不明となっている為黒本さんだけが指揮官となっている。
葉桜隊長がシンとしたこの場で「チッ!」と舌打ちをし田せいでよく響いた。
「ちょっ!葉桜隊長!」
ああ……今、如月副総隊長が良い上官だったと身に染みる。普通正式な場で窘められた後に、舌打ちをする大人なんていないだろ。如月副総隊長もちゃんと場所を選んで態度を変えているし。
「あいつ……」
「葉桜隊長?どうしたんですか?」
葉桜隊長が何かを考え、眉を寄せ怖い表情になっている。
「いや、何でもない」
「そうですか」
如月副総隊長どうか無事に待っていてください!合同捜査も立ち上がったので俺達が必ず助けるので!!
「必ず助ける!」