今日から同居?!(改稿8/22)
この前の多摩支部の件での大怪我により、僕に一週間の休暇が与えられた。
普通10日間ほど休暇が与えられてもいいのに、副総隊長だから一週間の休暇しか貰えなかったのだろう。
「今日から一週間はダラダラするか……」と居間でゴロゴロしている。
呟いた矢先、家のインターホンが「ピンポーン」と鳴った。
渋々引き戸を開けてみるとそこにいたのは、木田と馬場君、佐々木君、三海君の計4人が暑そうに汗だくで立っていた。
外は木に止まっているセミが「ミーン!ミンミンミン!」と鳴き、気温はアイスクリームがすぐに溶けてしまうほど暑い。
「如月副総隊長の家、日本家屋ってすごいっすね!しかもデカいし」
木田が僕の家と庭をキョロキョロと見て、大きさに驚いている。
「……木田。何しに家へ?それに、なぜその3人も連れて?」
ギロリと木田を睨むと、木田は一瞬気まずそうな顔をし僕から視線を外した。
「これ、獅子神総隊長からっす」と渡された手紙を、その場で読んでみるとあり得ないことが書かれている。
「何でこの3人を僕の家に?寮があるからそこに住まわせればいいでしょ」
馬場君達を一瞬チラッと見て、うざったい前髪をかきあげるように右手を頭にやった。
「本部に頼れる知り合いもいないし、多摩支部のこともあり如月副総隊長のそばの方が安心するだろうからだそうっす」
「取り敢えず中にどうぞ」と家の中に入れることにした。夏で外は暑いから、外での長話は木田はともかくあの3人が可哀そうだ。
僕は渋々引き戸を開け放ち、彼らを家の中へ招き入れた。
客間に案内してる最中、木田と後ろの3人は日本家屋が珍しいのかキョロキョロと見ている。日本家屋とは言っても、所々現代に合わせてリノベーションはされているが。
客間に着くと、木田が小さな箱を僕に差し出してきた。
木田が「これ、手土産です」と手渡され、中を見てみるとマカロンだった。
「……どうも」
僕は少しにんまりと笑った。
「獅子神総隊長からマカロンが好きと聞いたのでマカロンにしたっす」
木田とは違い3人は座布団の上で正座をし、ギチギチに緊張している。
「そうですか。飲み物を持って来るのでここで座って待っていて下さい」
人数分の飲み物を準備しようとしたら全員から「副総隊長に準備させといて座っていられないです」と言われたので、結局全員でキッチンに行くことに。
僕の家だからそんなことは気にしなくてもいいのに。
「如月副総隊長、冷蔵庫開けますねー」
木田が軽く声をかけながら冷蔵庫を「ガチャッ」と開け、動きを止めた。
「あ、あの如月副総隊長……これって……」と馬場君までも、冷蔵庫の中を見てオロオロしている理由が分からない。佐々木君と三海君までも驚いた顔をしている。
「何か問題でも?」
「如月副総隊長……何でマカロンとチョコケーキと飲み物しか入ってないんっすか?!」
「普段は出前を頼むので、そこに入っているもの以外必要性を感じないんです」と人数分のコップを出しながら言った。
4人は絶句しているがそうなる理由が分からない。
「料理、しないんですか?」と佐々木が恐る恐る聞いてきたので、僕は「料理は人並みには出来ますが、好きでは無いのでしないですね」と淡々と答えた。
すると、馬場君たちが騒ぎ始める。
「蓮も雪菜も俺も料理できないけど……」
三海君が引いたような目で僕を見てくる。何か問題でもあるのだろうか?
「ちょっとアレン!蓮はともかく、私は少しはできるわよ!」と佐々木君が馬場君に怒っている。
「雪菜……あれは料理って呼べない」
……まあこういうやり取りを見てると、少し微笑ましい気もする。
ずっと何かを考えていた木田がまたも問題発言をした。
「決めました。俺も今日からここに住むっす!」と、とんちんかんな事を言い始めた。
「は?何で木田もここに住む話になるんですか?」
僕は木田の発言に驚いて、思った以上の声量が出てしまった。
「如月副総隊長の栄養面の心配と、まだ若いこの子達に出前生活は可哀想っす。自分で言うのもなんですけど、俺料理上手っすよ」
木田は後ろにいる3人に視線を一瞬向け、僕に視線を戻しにっこりと笑ってくる。
確かにまだ子どものこの子達に出前ばかりは可哀想か…… 副総隊長の仕事で手一杯な僕が、三人の食事まで面倒見るのは正直厳しい。
「はぁ……分かりました。木田もここに住むのを許可しましょう」と僕は両手を軽く上げ、首を左右に振りやれやれとしたポーズをした。
「如月副総隊長、これからよろしくっす!君たちもね」と木田はニッと笑い、馬場君達にウインクを飛ばしていた。
佐々木君は木田のウインクを見て、一瞬顔を赤らめていた。
結局キッチンは暑かったので客間に戻り、住むにあたってのルールを伝えることに。
「まず、異性の部屋には入らないこと。部屋の前で話すのは構わないけど、室内は駄目。次に門限は22時厳守。あと、悩み事や相談があれば、すぐ僕か木田に話してください」
3人の顔をそれぞれしっかりと見て話し始める。
「そりゃそうっすよね、女の子もいるし」
ルールの話をしている最中に「ピンポーン」とまたインターホンが鳴った。
玄関の引き戸を開けてみると、立っていたのはさらだった。
「ゆずちゃ~ん!やほ~」
僕は、無言で引き戸を閉めたが、さらは当然のように「ガラッ」とまた開けてくる。
「勝手に開けないでくれます?」とさらをギロリと睨む。
「閉めるなんてひどいよ!お昼ご飯持って来てあげたのにー」
さらは口をすぼめてブーブーと文句を僕に言ってくる。
「頼んでない」
さらはずかずか家の中へ入り込むと、木田たちが驚きの声を上げる。
「あれ?松本さん?どうしてここに?」と木田がさらに聞いた。
「総隊長から聞いたんです。だから、お昼持ってきたの。ゆずちゃん、出前ばっかりでしょ?」
「それは、助かります。冷蔵庫マカロンとチョコケーキしかなかったので」
木田はさらの目を見て、にっこりと笑顔でさらにお礼を言った。
「ちなみに、さらの持って来たご飯を当てにしないほうがいいですよ」
木田と馬場君達はさらの持って来たご飯を見て不思議そうな顔をしているが、さらの作ったご飯はヤバいしか言えない。
「あの、凄く美味しそうですよ」と馬場君が言い、四人がさらの作った料理を一口食べ、固まった。
「だから言ったのに……」
僕はさらの作った料理を食べた4人を可哀想な目で見ている。
「え?何で皆固まってるの?あ!固まるほど私の作った料理美味しかった?!」
さらは自分の料理が美味しすぎて固まったと勘違いし始める。
「ちげーよ」と僕はさらに即座にツッコんだ。
四人は麦茶をがぶ飲みし、どうにか口直ししようとしている。分かる!気持ちはすごーく分かる。しょっぱいのか甘いのか酸っぱいかよく分からない味を、早くくちの中から消したいんだろう。
ようやく話せるようになった木田が恐る恐るさらに「あ、あの松本さん。そ、その、味見はちゃんとしましたか?」と聞いた。
「え?したよ?」
さらはキョトンとして僕達を見てくる。
僕以外の人がまた固まった。そう、さらの料理は見た目は完璧なんだけど味がまずい。本人は味覚音痴なのか、持って来た料理をパクパク食べながら「うん。美味しい」と言っている。
「私もここに住んで料理作ってあげるよ!」と両手を腰に当て、キラキラとした笑顔をしている。
「お前の料理を食べるくらいなら自分で作った方がましだ。住むのも却下」
「えーー!!なんでよ!!」とさらが言ってきたので、僕は睨み再び拒否を示す。
四人は僕がさらの提案に拒否をしたのを見て、ホッとした顔を浮かべている。
「お前が住むのは絶対許可しない。今日のお昼は出前にします。さらはその物体を持ち帰れ」とさらの背中を押して、料理を持たせ家から追い出した。
さらと住むってことになったら、うるさくて僕は耐えられない。
「……あの、松本さんって味覚音痴何ですか?」と馬場君が、遠慮しながら恐る恐る僕に聞いてくる。
「そうですよ。本人は気付いていないので、料理を作って持って来るんですよ。それで過去に僕は苦労しました」
僕は過去を思い出し、苦い顔になった。
「流石に私、あれよりは出来ると思う」
佐々木君はポツリと呟いたが、しっかり皆に呟きは聞こえていた。
まあ、さらより料理下手くそな奴なんてそうそういないだろう。
インターホンが鳴り、出前が届いた。
部屋の中は出前で来たカツ丼のいい匂いで、充満している。
皆で食事を始めた頃、木田が資料を差し出してきて「それ、早急に確認して欲しいそうです。特に赤文字のとこっす」と言われた。
「……これは……早急になんとかしないとですね」
資料には正隊員と予備隊員が続々と行方不明と書かれている。正隊員と言っても、正隊員になったばかりが行方不明になっているらしい。しかも、決まった地区で起こっている訳でもないから今まで大事にはならなかった。でも、行方不明者の人数が多くなったことで大事になったのだ。
「馬場君、佐々木君、三海君見回りや帰宅の際は絶対に一人にならないように」
キリッとした顔でしっかりと3人に注意をした。
「はい!」
「はい!」
「はい」
行方不明者たちは、今どこにいるのか……生きているのだろうか……。
胸の奥に、嫌な予感だけがじわりと広がっていた。