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風よ導け、命を繋ぐために ー後編ー(改稿9/22)



タイムリミットまで……残り、40分。


「ゆ、弦君?その子達は?」

クロとシロの登場に驚いたのか、佐々木君が僕に聞いてきた。


「あー……僕のパートナーなんです」

もうここにクロとシロがいるし、二匹はパートナーの証も首に掛けているから隠さず答えた。

本当は隠したいが、そうもいかないだろう。

「えっ?!弦すげえ!!俺、研修でパートナーになるのってすっげぇムズイって聞いたぜ!性格の相性もあるし適合率も高くないとパートナーになれないのに!」

「たまたまです。それより、戦闘に集中した方がいいと思います」と言って、ゾンビ達の方に視線を向けた。悠長に話している間にもクロは黙々と影を使い、こちらに近づこうとするゾンビたちを抑えてくれている。

ゾンビは結界から離れているため、異臭はそこまで酷くは無いが風がこちら側に吹くと臭ってくる。


「おい!!チビ!!勝手な真似するな!」

「なんでお前の言うこと聞かなきゃなんねぇんだよ!!」

正隊員たちがこちらに詰め寄ってくる。やはり、僕の正体に気づいてはいないらしい。舐めた態度も仕方がないとは思う。だが……。

今のこの大変な状況を理解していないと思うと、同じ大人として恥ずかしい。



「黙れよ」と声を低くし正隊員達をギロリと睨む。

風を操り、正隊員たちの背後にある壁へと烈風を叩きつけた。

「ガアァァアンッ!!」と派手な音が響き、彼らがわずかに怯む。風が当たった壁は塗装が少し剥がれ「パラパラ」と音を立て落ち、コンクリートが所々見える。

……喉の奥から沸き上がる怒りが、熱となって胸を焼いていた。

自分でも抑えきれないほどの苛立ちが、風と一緒に爆ぜたのだと分かる。


「……正隊員のお前ら大人がこの様はなんです?予備隊員とはいえ、まだ子どもであるこの子達を護るべきなのに!!」

一拍置いて、怒気を含めた声で続ける。

「それに!今は争っている場合じゃない。ゾンビになってしまった人達を一刻も早く治療しなければ、元に戻れなくなる!!」ともう僕はなりふり構わず正隊員達を叱った。僕も他人事ではないから……。


「馬場予備隊長、僕は貴方達から離れて戦います。実は……ゾンビに嚙まれてしまったので……」

返事を待たず、僕は狡噛に視線を一瞬投げてから、静かに距離を取った。背後で馬場君が「行くな!」と叫んでいた気がしたけれど、聞き取らないまま足を止めなかった。


「シロ……あの子達予備隊員を護れ。それと民間人も」

「……主」とシロは僕の左腕を見て心配そうに呟くと、クロが人前で珍しく喋り「行け。主には、オレが傍にいる」と追い払った。


「僕達だけでなんとかしなくちゃいけない。気合い入れて行くぞ」

目の前の大群のゾンビを睨みつける。パートナーのクロがいて1人では無いからか、恐怖は感じない。

「主、大丈夫。あとちょっと、だから」

クロのどこからくる自信か分からないけど……その言葉に、少しだけ救われる気がした。

パートナーがいるからこそ、命懸けの任務にも恐怖に勝てる。僕の大事なパートナー。


影移動(シャドウムーブ)

呟きとともに、影の中へ身体を沈める。トプン、と波紋のように影が揺れた。クロの能力を共有している僕は、クロの能力を僕でも影を使うことができる。


結界から出ると人の腐った酷い臭いが漂って来る。物語の登場人物とはいえ、元は人だったのにゾンビになるとは少し可哀想で僕は眉をひそめる。


「オレ、早く終わらせる」とクロが力強く言った。

ゾンビ達が呻き声を上げながら僕たちを取り囲む。皮膚の裂けた腕が無数に伸び、腐臭が鼻を突いた。

だが、影さえ……クロさえいれば、僕はどこへでも行ける。


「影を通して攻撃だ。馬場君たちの側を優先して抑えよう。あと……媒体も探す。これだけのゾンビ、何かがあるはずだ」

周りに視線を走らせる。だが、これだけの数の中から媒体を探すのは容易じゃない。


……まだ、やれる。そう思い込まなければ、僕の心が折れてしまいそうだ。


本当は……怖い。

けれど、誰かを助けるには、そんな感情はただの足枷だ。

「もう、僕は嚙まれているかね。何も恐れることはない」

そう言い聞かせながらも、脳裏には腐り落ちた自分の顔が浮かぶ。

皮膚が裂け、目が濁り、仲間に牙を立てる未来を……想像するだけで背筋が粟立った。

「主……無理、しないで」

クロが心配そうに僕を見てくる。

クロと息を合わせ、風と影でゾンビを閉じ込めていく。なるべく傷つけないよう、風の檻に封じるのが最善だ。まだ、戻せる可能性がある人たちなんだから。

風の檻は外側からは楽に入れるが、内側からは能力を解かない限り風が邪魔をし出てこれない。

ゾンビ達の影を使いどんどん風の檻に放り込んで行く。

それと同時に馬場君達の所にゾンビが流れないように阻止をしているせいでどんどん精神力が擦り減る。


「媒体さえ、見つけられればなんとかなるのに……。あー!くそっ!!!!」

早く何とかしなければと焦って馬場君達を忘れかけてしまった。

すると、「予備隊員、危ないかも」とクロに言われ馬場君に顔を向けると、結界の外にいる馬場君がゾンビに囲まれて危険な状況になっている。


影移動(シャドウムーブ)

即座に影へと飛び込む。


「え、木佐木君?」と一瞬でゾンビに立ち塞がるように、現れた僕を見て馬場君は驚いている。

「良かった……嚙まれてはいないようですね。大丈夫、僕がなんとかするので、もう少し頑張って下さい」

僕の意識が朦朧としてきたが、大事な仲間は失わせない!馬場君は理不尽な目に合い我慢してきた。だからこそ、これからは沢山の幸せが待っているんだ。この子達を護らなくては!!


「え、……なんで……あの人に、似ている」

何かに気づいたような馬場君の表情。けれど、今は気にしている余裕はない。


「馬場予備隊長!どうしてここに?三海さんの結界の中にいた方が安全でしょう!戻って下さい!」

「君が戦っているのに、俺が戦わない訳にはいかない!」


立派な言葉だ。でも、だからこそ。

「……君は、きっと良い騎士(ガーディアン)になりますね。でも、今は三海君の結界の中にいてください」

本心では一緒に戦わせてやりたい。けれど、彼の眼差しに浮かんだ憧憬を、ここで潰すわけにはいかない。

未来の希望を護るのは、今この瞬間の僕の役目だ。

僕は彼の肩に手を置き、影移動(シャドウムーブ)で強制的に三海君の結界内へ送り返した。あそこにはシロもいる。護りは万全だ。僕にはもう、他の事を考える余裕は無い。



「まずい……。そろそろ、やばいな」

全身から冷たい汗が噴き出す。脳がじんじんと痛み、視界が揺れる。嗅覚も無くなって来ていて、腐臭も気にならなくなってきていた。

「主!!」

クロが叫ぶと同時に、ドンッと僕に体当たりしてきた。次の瞬間、僕がいた場所が黒く焼けていて微かに焦げ臭い臭いがした。

……予備隊員か正隊員がゾンビになってしまったのか。僕もそう時間は掛からず、ゾンビの仲間になるだろう。


「ありがとう……助かった」

「もうちょっと、だから、主、頑張って!!」

クロが必死に応援してくれるが、そろそろ意識を保つのが限界だ。このままゾンビになってしまったら、狡噛に酷な想いをさせてしまう……。

意識を失う前に最後の気力で風神を使い暴風を起こし、ゾンビ全てを吹っ飛ばした。この場には、僕とクロだけが立っている。曇っていた空は僕が起こした暴風のせいで雲も流れ太陽がこの場を照らし始めた。


「ク、ロ……ごめ……」

視界が霞む。身体が、言うことをきかない。


──「ドサリ」、と音を立てて膝から倒れた瞬間。

「は?!?!如月副総隊長!?」とこの場にいるはずの無い木田の声が聞こえた。


木田……?なぜ、ここに……?

かすむ視界の中、彼の焦って駆け寄って来る姿だけが妙に鮮明に見えた。

クロと繋がっているからか、クロの心配している気持ちが伝わってくる。



……まだ、弟と妹を……助けてないのに……。

「僕、が護らない、と……」

最後の言葉が、うまく喉を抜ける前に、僕の意識は闇へと沈んでいった──。





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