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最強の騎士は中学生? (改稿7/10)


──この世界には、法則から外れた存在がある。

 完結しない物語は、やがてカタチを持ち、現実に干渉し始める。

 そして僕たち“物語(ライブラリー)騎士(ガーディアン)団”は、それを封印する役目を持っている。


 面倒な任務。うるさい補佐官。クセの強いパートナーたち。


登場人物やモンスター達が飛び出して来ていても、皆それに気付かず生活をしている。

でも、それが無害とは限らない……人を殺すのが好きな登場人物だったら?毒を吐く植物型のモンスターだったら?

……人はあっけなく死んでしまう。ガーディアンは日夜皆んなが安心して暮らせるよう守っている



ガーディアンは今日も大忙しいだ。



 

今日も本部は平和だった。

 だからこそ、僕は……仕事をしたくない。


副総隊長室のソファに寝転び、雑誌を顔に乗せたまま、浅い眠りに落ちていた。

夢を見ていた……あの大災害の光景を。


逃げ惑う人々、崩れる建物、響き渡る悲鳴。

あの子たちが、必死に僕に助けを求めていた。

なのに──僕は、あの子たちを助けられなかった。


夢の中の声が、耳にこびりついて離れない。


「如月副総隊長、そろそろ午後の会議の時間っす!」


通路に響く、チャラそうで根は真面目な補佐官・木田徹の焦った声。

その声で、僕は現実に引き戻された。

雑誌を顔の上からどかし、ソファから身を起こす。


「……欠席で」


すぐさま木田の声が飛んできた。


「ダメです!また隊長会議をすっぽかしたら、また俺が総隊長から説教されるっす!」


現実は、相変わらず容赦ない。


「……何故スタンピードは起こるんでしょうね」

「は? 話逸らさないで欲しいっすよ……。……でも、まあ、確かに。研究者たちがずっと登場人物やモンスターが飛び出してくる原因を調べてるみたいっすけど、解明はされてないっすね」

「この封印札も、研究者たちがいろいろ試した副産物でできたものですしね。物語武器じゃないとモンスターを倒せないことも、あれこれ検証した結果分かったんだとか」

僕は何でできているか分からない封印札を、指先でひらひらさせた。


「……だからって話逸らさないで欲しいっすよ……。ほんとに」



僕の名前は如月弦。副総隊長。年齢20。見た目中学生、自分で言うのもあれだが性格やや悪め。

今日もまた、未完の世界をからもたさられる問題の後始末をする。


木田の事は無視し、本当は今日貴重な休みなのでいつものカフェでコーヒーを飲むことにした。

やっと取れた一ヶ月ぶりの休暇を楽しんでいると、僕の持っているスマホから着信音がなり始めた。


「はい?……今日は僕休暇なんですけど?……緊急時以外連絡してこないでください。一ヶ月ぶりに休暇なの分かっています?副総隊長になりたくもないのにされて機嫌の悪い僕に出撃せよと?……嫌です」

通話を一方的に終わらせ、スマホをテーブルに伏せて置いた。


だが、すぐにまた鳴り始め切れるのを待ったが切れる様子がないので仕方なく電話に出た。


相手の要求を聞かずに「嫌です」と即切り。


気分を変えようと店員さんにケーキを一つ注文しケーキが来るのを待っていると、カフェのドアがバンッ!!と乱暴に開け離れた。


「如月副総隊長いたーー!!!」

やけに通る声で叫びながら入って来たのは、僕の部下の木田だ。大声で叫びながら入って来た為、周囲に客達が一斉にこちらを見る。


「……木田。ここはカフェ。声のボリュームを落として下さい。他のお客さんにご迷惑です」

「あ、はいっす……じゃなくて!!出撃指令、完全に無視してるじゃないっすか!マジやばいっすよ!隊長会議もすっぽかしたし……」

木田を横目に今来たケーキを食べながら、「僕じゃなくても他の隊員で対処出来るはずです」と木田を軽くいなし外へ追い出す。


ふと、店内のざわめきの中に聞き捨てならないものが聞こえてきた。


「え?あの小さい子が物語(ライブラリー)騎士(ガーディアン)?」

「中学生でも騎士(ガーディアン)になれるんだ…」

僕が軽く咳払いをすると、他の利用者は喋るのを止めたせいか一瞬店内がシンッとした。


僕は決して中学生ではない。これでも20歳のれっきとした大人だ。大学には入らず物語(ライブラリー)騎士(ガーディアン)になった為、社会人歴は2年だ。不服だが副総隊長になったのは一か月前……前任の副総隊長が怪我で引退した為、僕が適任ということでお鉢が回ってきたのである。


……まったく、納得はしていないが。裏で僕がガキ副総隊長と呼ばれているのは知っている。


「ま、僕がいなくてもどうに……はあ……」

不穏な気配……スタンピードが発生したみたいだ。



休暇中だがスタンピードが発生したのを気づいたのに行かないという選択肢はないので、常に携帯している鞘袋に入った刀を持ち重い腰を上げ仕方なくお会計をして外に出てた。


小さくため息をついて、スタンピードが発生した現場へ向かった。



そこは、すでにモンスターが溢れかえっており、人々の悲鳴と混乱で地獄絵図のようになっている。

「さて今回の未完成の作品は漫画か小説か、はたまた別のものの何かか」

考えている間にもモンスターは、僕に襲って来るが最小限の力で左に避け、右から来るモンスターを轟雷刀で斬り捨てた。斬ったモンスターは首が落ちぴくりともしない。



どういうストーリーなのかモンスター達を思考していたら……。


「そこの君っ!!逃げて!!!」


額から血を流している女性が、僕に向かって叫けんでいる。けれど、僕は静かにひとこと「シロ、結界」とつぶやくと、僕の前に結界が現れ巨大な狼型のモンスターが結界にぶつかり弾き飛ばされた。


僕のそばには、狐達自身の能力で姿を見えないようにしている白い狐と黒い狐が常に控えている。2匹は僕のパートナーで、普通の狐ではない。物語の中に登場する特殊な動物だ。白い狐がシロで黒い狐がクロとそのまんまの名前を付けた。



「さて、今回は異世界ファンタジー系の未完っていうところか。狼型のモンスターのみで人型はいないのは救いだな。シロ広域結界展開。クロ、雑魚を一掃」

シロの結界のおかげで周りの人達はモンスターに襲われなくなり安心している。クロは影を使い、シロの結界の中に被災者達を入れながら、モンスター達を倒していっている。



「……僕が現着してから10分が経ったのに他の騎士(ガーディアン)が来やがらない。媒体を探したいが今ここを離れる訳にはいかないし……早く来いよクソども」

いつ来るか分からない部下を待つより、クロとシロにここを任せ発生元の捜索をすることに決めた。



「今回スタンピードが発生した媒体はなんだ……紙本なら封印札を貼れば済むけど、スマホだと厄介なんだよな……」


狼を斬り色々考えながら裏路地に行こうとしたその時。


「そこの君っ!!危ないから早くこっちにおいで!」

僕を普通の子どもと勘違いして、心配をしてくれたみたいだが……。


あいにく、僕は子どもでは無い。


「轟雷」

物語武器の能力を使う時は必ず物語に出てくる技名を言う事や決まった動作をしないと使えない不便さがある。


轟雷刀を使い、雷を目の前のモンスターに向かって落とした。雷が空を裂き、爆ぜた閃光に地鳴りのような轟音が混じった。狼型のモンスター達は雷に打たれ倒れたままぴくりともしない。


僕が一撃でこの場にいる全てのモンスターを倒したことに周りの人は驚いている。普通の騎士(ガーディアン)だったらピンチだろうが僕は普通では無い。

「僕は物語(ライブラリー)騎士(ガーディアン)隊副総隊長の如月弦です。」

クロとシロをなで小声で「あの人達を護れ。任せたぞ」と命令した。クロとシロは嬉しそうに尻尾を振っている……可愛いな。


「他の騎士(ガーディアン)が来るまで、この白い狐と黒い狐が貴方達を護ります。ですのでここで待機していて下さい。この子達は強いので安心して下さい」



クロとシロにあの人達を任せ裏路地に向かうと、一冊の本が落ちていた。


ページが勝手に捲れ瘴気のようなものが溢れ、モンスターを形成し続けている。


「……媒体はこれか」


封印札を懐から取り出し、狼型のモンスター達の攻撃を避けたり切ったりしながら封印札を貼った。


札を貼った瞬間、風が巻き起こり本が震えた。ページが一枚、また一枚と勝手に閉じていき、最後に“物語が眠るかのように”にこの場は収まった。モンスターも全て霧のように消えた。


「封印完了」


これでまたこの物語の報告をしなければいけない。

「……どうせ書かなくなるなら、最初から書かなければいいのに」

ページを閉じた本を見下ろしながら、ぼそりと呟いた。


「……未完のまま放置された物語の後始末をするのが、俺の仕事だ」


俺の休日はまたしても顔も知らない、この物語の作者のせいで潰れた。




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