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第五話・掘り起こされる重複特徴

 視界を全て覆うほどに燃え盛る焔が俺の作り出したただの鉄の剣へ収束し、夜の街を力強く照らす灯の様に揺らめいている。


「こ、これが焔の将剣……」


 昔に父さんから聞き。

 俺がこの場を切り抜けられると信じた武器。


「レジェンドウェポン・フレイシール……!」


 人族の英雄が振るったとされる伝説の武器。

 焔の将剣フレイシール。

 その力を宿すことに成功したと俺は目の前の焔を見て確信する。


「な、なんなの……あれ、マジックウェポン……なの?」


「――重複特徴オーバーアビリティ

 これが主の求める……」


 俺はすぐさま使い心地を確認するために軽く剣を振るう。

 すると、紅い軌跡を描いて燃え盛る剣の炎が周囲の瓦礫を呑み込み、一瞬で赤化させ溶かしてしまった。


(す、すごい力だ……!)


 そのあまりの熱量に俺は驚く。

 さらに、その熱が自分へは届いていない事にも気がついた。


(……けれど『これ振るう君主、千の軍勢を灰燼とせしめた』という伝承よりは明らかに弱い)


 伝承が誇張されているのか、真にフレイシールの力を付与できなかったのかは。

 実物を見た事が無いため俺には判断が付かないけれど、今この場においては間違いなく強大な力には違いない。


(やるんだ。俺が!)


 深く息を吸い込み、しっかりと剣を握る。


「クロさんッ!」


「来るか少年! その力いかほどの物か見せてもらおう!」


 大地をしっかりと踏みしめ一直線にクロさんへ走り出した俺に、クロさんは懐から数本のナイフを取り出し投擲してきた。


「ハァーー!!」


 俺はその迫ってくるナイフに対して全く速度を落とさず、当たる直前にさっきの瓦礫の光景を思いながら剣を一振りした。

 するとナイフは瓦礫の時と同様に真っ赤に溶解し、雫となって剣圧で吹き飛ばした。


「鋼のナイフさえあっさりと!?」


「貴方には聞きたい事が沢山ある!」


 ナイフが解けた事に驚くクロさんの元へ近づき、思いっきり剣を振るう。

 俺は今さっきの出来事からこの剣の一撃を防ぐ事は不可能だと確信していた。


「――ならば実力で聞きだすのだな!」


 その思いは確かに間違いではなかった。

 攻撃を防いだ戦斧を溶かす事は出来た――表面だけを。


「なッ!?」


 業物と言う物なのだろうか。

 そもそも俺は防御という選択をされるとも思っておらずとても驚いた。

 ……けれど。


「溶けないわけじゃない! それなら何度でも攻撃を繰り返すまでだッ!!」


 鍔迫り合いの様になっている状態を解消する為に一歩後ろに下がり、すぐさま体を一回転させて攻撃を放ち予想通りに防がれる。

 ――それに俺はニヤリと口角を上げた。

 

 さっきわざわざ口に出した俺の言葉は嘘であり、再びぶつかった剣を操って戦斧の刃の上を火花を散らせながら滑らせた。


「貰ったッ!」


 そして流れる様にもう一回転して、戦斧に隠れていない腹部目がけで剣を振るう。

 

 ――が、その攻撃は最小限の行動でしっかりと防御され。

 戦斧と思いっ切りぶつかり合った剣が満開の華の様に焔を迸らせた。


「……何と言う熱だ。しかしそれも空回りしていては意味が無い!」


「ぐはァッ!」


 思惑が上手くいかずに大きな隙を晒してしまった俺へ、クロさんはそう言いながら握りしめた拳で俺を思いっ切り殴り飛ばされ。

 地面を転がりながらも何とか手放さなかった剣を地面に突き立て、赤い線を引きながら勢いを殺して急いで立ち上がった。


「――アビリティウェイトコントロール:インクリース!」


「な!?」


 その時には上空へ飛び上がっていたクロさんがとんでもない速度で落下して来ていたが、俺は何とかその攻撃は無理やり回避する。


 しかしその落下の衝撃で床が破壊され、さらにその下の地面をも砕いたのだろう、土埃巻き上がり視界が塞がれてしまう。

 そのせいで無理やりな回避だったために体勢を崩して素早く動けなくなってしまった俺は、クロさんの動きが分からないうちに土埃を吹き飛ばしながら振り下ろされる戦斧を回避する事が出来なかった。


「――エクア……プリズム……!」


 スローモーションに振り下ろされるその刃へ、意味が無いと分かりながらも俺は防ごうと動かした腕の前に――半透明の壁が出現した。


(父さん……!?)


 いきなり出現した半透明の壁に一瞬驚いたクロさんだったが、攻撃を止める事は無くあっさりと壁は破壊れてその破片が俺の降り注ぐ中。


(俺は……俺は何をやっているんだッ! 新たな力を手に入れたくせにあっさりとクロさんに負けそうになって……!)


 自らへの情けなさと怒りで歯を食いしばった俺は、諦めそうになっていた自分に活を入れて一か八かの行動に出た。


「うぉぉーーー!!!」


「――なんだとッ!?」


 戦斧を溶かしきる事が不可能なのはよくわかっている。

 けれどそれは面積の広い刃の部分に攻撃が当たっていたからだという事も分かっている。

 ――だがらこそ俺は一歩クロさんへ踏み込む。

 攻撃の最中だからこそ細かい動きの出来ない戦斧の、その柄に向かって俺は剣を振り上げた。


 そして予想通りに見事その柄を両断する事に成功した。


「一撃を……叩き込む!!!」


「――見事な勇気!」


 繋ぎを失った戦斧の刃が俺の頬を切り裂きながら後方に飛んでゆくのを無視して。

俺は武器を振り下ろしきった体勢のクロさんへ、柄を断つために振り上げた剣を頭上で向きを変え胴体へ向かって一閃振り下ろした。


 ――瞬間、爆炎の様に炎が広がり。

 辺りの残骸を浮き飛ばすほどの衝撃が発生させ、俺も後ろへ吹き飛ばされた。


「はぁーはぁー! どうなった!?」


 俺は荒く呼吸を繰り返して頬を垂れる血を拭いながら立ち上がる。


 俺とクロさんの居た所には黒煙が立ち昇り、視界が遮られているためにクロさんの様子が分からなかった。

 けれど、当たり前だが油断せずにだんだんと黒煙が晴れてゆくのを見守っていると。


 その黒煙の向こうで――仰向けに倒れているクロさんの姿が見えてきた。


「い、一撃!?」


 倒れているクロさんの鎧の腹部は溶解して派手に穴が開いており。

 その先に肉体には酷い火傷が見えて、俺は改めて能力で再現したフレイシールの力に冷や汗を流しながす。

 けれど、今はその力で勝利することが出来たと思い直し、俺はクロさんを拘束する為に油断せず近づいた。


「――お願い止めてッ!」


 その時、俺の前にルーナが飛び出てきて両手を開いて行く手を塞いできた。


「とても酷い事をしたのは分かってる。間違った事だとも。

 けど! けどどうかお願い! アルベルト様を殺す事だけは……!」


 申し訳なさげな瞳で俺を見つめてくるルーナはとんでもない勘違いをしていた。


「こ、殺す!? そんなことはしない!」


 俺は首を必死に振りながら誤解を解こうとした。


「ただ拘束して人質にしようと思っただけだ!

 そうでもしなきゃルーナはともかく他の四人は撤退しないでしょ?」


「そ、それは……確かにそうかも……」


「でしょ? 分かってくれたならそこを退い――」


 俺の言葉に納得してくれたルーナに退いて欲しいと伝えようとした時――雫の滴る音が響いた。


 俺はこの場においてその不自然な音に違和感を抱いた。

 雨が降っているわけでもないのにそんな音を鳴らす発生源を探すために周囲を見渡したが、それらしい物は見つけられなかった。


「――あんた剣が!?」


 同じように音の正体を探していたルーナが驚きの声を上げて下の方を見ていたため、俺はその視線の先を見た。


 そこには赤い雫を滴らせ真っ白に発熱して刀身の半ばまで溶けている俺の剣があった。


「え?」


 ――その瞬間だった。

 力を付与した武器が溶けた事に驚き意識がそっちに行ってしまったその一瞬。

 いつの間に立ち上がっていたクロさんが俺へ向かって走り出し、それに気づくのが遅れた俺は正面から首を掴まれ地面に引きずり倒された。


(まだ動けたのか!?)

 

「ネオ!」


「アルベルト様!?」


 馬乗りになられて冷たい金属の感触と共に首が締まってゆく。

 混乱と息苦しさを感じながらも、俺は必死にクロさんの手を外そうと暴れたがビクともしなかった。

 

「アルベルト様! もうお止めになってください!」


「フェアリーテイル……どうやら息子を引き寄せる事が出来ぬようだな?」


傍に縋りつくルーナを無視してクロさんは苦し気に呼吸しながら父さんの方を見る。


「……僕は、どうすればいいかな?」


悔しそうな父さんの声が聞こえるが、クロさんのマントに遮られて俺にはその姿は見えなかった。


「縛れ」


 その声と共に複数の人物が動いた音がした。


「お願い……なんだけど。ネオは……どうか逃がしては、くれないかい?

 ほら、君の部下の……赤髪の子も、そう思っているはずだよ?」


「聞けぬ話だ。

 しかし大人しく捕まればこれ以上怪我をする事は無いと保障しよう」


 俺は何とかこの状況を切り抜けようとクロさんの腹部の火傷目がけて蹴りを放った。


「ッぐ! アビリティウェイトコントロール:インクリース!」


「ぐは!」


 だが、拘束が外れる事は無く。

逆に全身を潰されるかの様な重圧で地面に押し付けられてしまった。


「ネオ!? 分かった降参だ!」


 父さんのあきらめの声が聞こえ、俺は自分が情けなくてみじめで仕方なく感じ涙が出そうだった。


(父さんを助けられると思ったのに……!)


「お主ら四人はフェアリーテイルを持て、某はこの少年を連れて行く。

 速やかにこの場を去るぞ!」


 そう言って能力を解いたのか重圧の無くなった俺は、首根っこを掴まれたままクロさんによって持ち上げられた。


「――待っていたよ」


 ――その瞬間だった。


 諦めていた俺。


 俯いていたルーナ。


 部下に指示を出し始めたクロさん。


 指示を受けて父さんに近づいていたクロさんの部下の四人。


 誰もが決意に満ちた力強い声を出してニヤリと笑う父さんを見た。


「アビリティスペースクリエイト」


 そう父さんが呟くと、父さんから貰った俺の耳飾りが光り輝き出した。


「いや……ネロへの視界が遮られた時は……焦ったけど。

 チャンスってのは……巡ってくるもんだねぇ~」


「お主何を考えて!?」


「ネオ! 本当に、ゴホッ! こんな事に巻き込んでしまって……すまないと思っている!

 そして! 君の側に居られなく……なってしまった父さんの事を……許してくれ!」


「な、何を言っているの父さん!?」


 とても真剣な父さんの声音に俺は焦燥感がかき立てられる。


「そして……一つだけお願いをすることを許してほしい。

 母さんは……お前の母さんは……こいつらに捕まっている!!」


「まずい!」


 クロさんは何かに気づいた様子で急いで俺の事を体で隠し父さんの視線を遮ったが、耳飾りの光が止まる事は無かった。


「何を突然! 父さん! 父さん!!」


「この耳飾りか!


「――愛してるよネオ!

 アビリティスペースクリエイト:トランスファー!!!」


 今まで聞いた中で一番優しい声と共に、クロさんの手が俺の耳飾りに伸びた時――




 ――俺はいつの間にか見知らぬ路地裏に立っていた。


 さっきまでの喉元の苦しさも。戦闘の跡も。耳飾りの光も。

 何もかもが無かったかの様に辺りをだただた夜の静寂が支配していた。


「こ、ここはッ!? な、何が起きてッ!?」


 混乱しながらも俺は辺りを見渡す。

 建物感じからここがゴブリンの国テル=カビオで間違いないと確信し、見知らぬ場所ではない事に安堵する。


「まだそう遠くは無い! 父さん!」


 そして自分がゴブリン国に居ると分かりまだ自宅へ戻る事だ出来ると気づいた俺は、節々が痛い体を動かして歩き始めた。


 ……戻ったところで何が出来るわけじゃない。

 それより父さんの助けを無駄にする可能性の方が高い。

 けど、それが分かっていながらも俺は戻りたい。

 

 唐突な父さんとの別れ。

 それに納得する事なんて俺には出来なかった。


 ――ゴン


「………………え?」


 何か重苦しい音が聞こえたと思ったら、いつの間にか俺は空を見上げていた。


 何が起きたのか理解できず、なぜか狭まって行く視界で最後に見えたのは。


 ――薄汚く笑うスラムの住人の姿だった。


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