第四話・信じられぬ事
夜の街に降り注ぐ月の光が二刀の刃を鈍く光らせ、その輪郭を浮かび上がらせる。
俺の目の前に立ちふさがったルーナは、昼間の真っ黒な服装ではなくどこかの民族の戦装束の様な服に身を包んでいた。
「ルーナ……なのか?
お、おまえまでどうして……」
俺は今日初めて出会った二人の人物が、この襲撃に参加している事がとても信じられなかった。
「……アルベルト様が言っていたでしょ。
抵抗しなければ手荒な真似はしないわ。だから、降伏して……」
「なんだよ……それ……。
アルベルト様って誰なんだよ、どうしておまえまで俺達を襲うんだよ……!
昼間、俺の前に現れたのはこの時のためだったのかよッ!」
絞りだす様な俺の言葉にルーナは何も反応を返さず、突き付けられた剣が下げられる事もなかった。
「――ごめんなさい」
そしてルーナが一言呟いた瞬間、唐突に俺の目の前から姿が消えた。
「上かッ!」
昼のルーナの動きを思い出した俺はすぐさま上を見上げると、そこには案の定星空を背景に舞うかの様に飛び上がっているルーナの姿があり。
回転しながら落下して振り下ろされる剣を俺は何とか金砕棒を持ち上げて防いだ。
しかし、落下速度の加わった一撃は思ったよりも強烈で、かつ金砕棒自体の重さも相まって俺は攻撃を受け止めきれずに膝をつき、腕ごと押し込められて眼前に刃が迫ってくる。
けれども俺は、何とか金砕棒を傾ける事でルーナの剣を金砕棒の表面を滑らせ、俺の頭の代わりに床に転がっていた瓦礫を粉砕させた。
「くッ! 昼間に俺へ正義を語ったお前はどうしちまったんだよ!」
「……」
聞きたい事。
答えて欲しい事。
現状に対する俺の疑問はいくらでもあったが。
だがそんな余裕は無く、ルーナは会話を拒絶するかの様にすぐさま次の攻撃を放ち、俺は急いでまた金砕棒で防ぐ。
――そんな戦闘以外の事に気を取られていた俺は、剣と金砕棒が接触した面を軸にしてダンスでも踊るかのように一回転するルーナの動きに反応できず。
あっさりと背後まで回り込まれ、放たれた蹴りで吹き飛ばされた。
(どういう事だ……!?)
俺は攻撃を受けた背中に鈍痛を感じながら地面を転がる最中に、ルーナの攻撃に対して違和感を抱いていた。
「そ、っちがその気なら! アビリティエクスチャンジ:ブロードソード!」
その違和感の正体を俺は突き止めたかったが、先の失敗を思い出して考える事を後回しにし。
俺は転がりながら地面に散らばっている銀貨を両手に掴み、吹き飛んでいる勢いを利用して立ち上がり。
すぐさま能力を発動して片手持ちの剣を作り出し、追い打ちで目前に迫っていたルーナの追撃を受け止める。
と、見せかけて、昼間に誘拐犯へ行った事と同じ様にわざと力を抜いて相手の体勢を崩す事を狙った。
――しかし、俺のその作戦はルーナに見抜かれていた。
「ッ! 鎖が!?」
思い描いた通りルーナの剣を受け流し、たたらを踏む様に俺の横をルーナに通り過ぎさせる事自体は上手くいき。
通り過ぎ去ったルーナへ俺が振り返って攻撃を行おうと思った時、正面から双剣を繋いでいる鎖が鞭のように俺の顔面へ向かってきている事に気がつく事が出来た。
「あぶねッ!?」
思いがけない攻撃に驚愕しながらも、俺は何とか上半身を逸らすことで鎖を回避した。
その結果、相手の体勢を崩すつもりが自分の体勢を崩されてしまい、またしても放たれたルーナの蹴りによって俺は再び吹き飛ばされて地面を転がった。
(ボールかの様に蹴りやがって!)
たった二度の攻防。
その二度で俺の力量がルーナに劣っている事はよく分かった。
(だから――だからこそおかしい……!)
浮き彫りになった明確な違和感を抱きながら、俺は四つん這いで吹き飛ばされた勢いを殺して立ち上がる。
そこへすぐさま追撃の剣が投擲されるが、今度は余計な策を講じずに冷静に剣を振るって弾く。
そんな最初とは違う消極的行動も、どうやらルーナの思惑通りだったらしく、弾いた剣が俺の後方の床に突き刺さり――その瞬間に俺の横には鎖がピンと張られた。
「――しまッ!?」
一枚も二枚もルーナが上手だと気づいた時にはもう遅く。
ルーナは鎖を巧みに操って空中に輪っかを作ると、それを俺の持っている刀身に絡みつかせて思いっきり引っ張り、俺の持っていた剣をもぎ取った。
「まずい!?」
(剣が!?)
「――アビリティレッグエンハンス:クイックムーブ」
武器を無くした俺は急いで足元の金貨を拾って能力を使おうとしたが、そんな隙を見逃されるはずもなく。
一息の合間に近づいたルーナによってまたしても蹴りを放たれ、俺は体が浮かび上がってそのまま仰向けに倒れ。
すかさずルーナが俺の腹を足で踏みつけ、喉元に剣を当ててきた。
「……降参して。もう勝ち目はないわ」
ルーナの言うとおりであり、この状況を返すことはもう不可能に近く俺は自らが負けた事を理解していた。
「――やっぱりな」
と、同時に今まで感じていた違和感の正体もしっかりと理解する事が出来た。
「どうして本気を出さない?」
その言葉にルーナは態度では何も反応を示さなかったが、逆にそれが俺に確信を抱かせてくれた。
「……言っている意味が分からないわ。
あたしはあなたを倒すために思いっきり――」
「――やっていればもう何度だって俺を気絶させる事は出来たはずだろ?
昼間に大の大人をあっさりと倒していたのに、三回も蹴られた俺が意識を保っているのはおかしくないか?」
さっきまで無表情だったルーナは途端に苦虫を潰したかの様に顔を顰め、何度も口を開いては閉じてを繰り返し反論を絞り出そうとしている様だった。
――その明確な隙を俺は見逃さず、剣を握っていた手とは逆の左手の平を相手に向け握っていた銀貨を見せつけた。
「しま――」
「――アビリティエクスチャンジ:ショートソード!」
その意図を理解し驚いた表情をしたルーナが行動を起こす前に、俺は能力を発動させ銀貨が光り輝きだんだんと剣へ変わりルーナへと刀身が伸びてゆく。
けれど、そんな一瞬の予想外であろう攻撃にルーナは何とか反応し、服を切られながらも横へ転がる様に回避した。
「何故かまでは分からない。けど自分の意志とは関係なくこの襲撃に参加している事は分かる」
「ち、ちがう! これは……これは私が自ら、アルベルト様のために……!」
「――ならどうしてそんな辛そうな顔をするんだよ!」
俺とルーナは共に剣を向け合う拮抗状態へと状況を戻すことが出来たが、ルーナの表情は最初の時とは異なって酷い痛みに耐える苦し気な顔をしていた。
「そんなに嫌なら戦うのを止めてくれよ!」
「で、出来ない……」
「出来ない!?」
詰まりながら絞りだされたルーナの言葉に俺の怒りが爆発した。
「それなら襲撃している側のおまえが辛そうにするなよ!
家を壊されて! 夕飯を台無しにされ! 意味も分からず戦って! 俺も父さんも傷ついて!
おまえが辛そうにしていたら俺のこの怒りを一体誰にぶつければいいだよ!」
「ッ!」
「襲撃者なら襲撃者らしく憎ましてくれよ!
昼間のお前が偽りだとそう俺に思わしてくれよ……。
辛そうにするなよ……おまえが……」
「……ご……ご、ごめん……なさい……」
俺の言葉に段々とルーナの体が震え出し、手に持つ剣を取り落としそうになりながら瞳に涙が浮かべていた。
「アルベルト様が……あたしを救ってくれたアルベルト様が!
どんな種族でも分け隔てなく助け、慈悲深くて高潔なあたしの尊敬する正義の象徴の様な人が平和につながるからって……そう言って!」
最初は語気を荒げていたがだんだんと言葉が弱弱しくなってゆき、ついにルーナは剣を落としてしまった。
「……そう言って……いた、から……だから……あたしは……信じて……」
ルーナのか細い涙声を聴いた俺は、自身が抱いていた怒りの炎は消え失せ。
そして、気付いた時には今さっき作った剣を捨ててルーナへ向かって歩き出していた。
「え……?」
いきなり敵の俺が近づいてきてことに困惑したルーナは、涙を拭ってすぐさま剣を拾って俺へ向けようとしてきた。
けれど俺は向けられた剣を無視して、迷子の子供の様に震えるルーナの手を握って優しくその手から武器を落とさせた。
「この震える手は心が悲鳴をあげている証拠だ」
――助けた双子へ向けた慈愛の表情。
――自らのゆるぎない正義感に自信を持っていた姿。
少なくとも俺は(ぞんざいな扱いをされていたけれど)そんなルーナを尊敬した。
だから今まさに己の心を裏切り傷つけているルーナを俺は如何にか解放してあげたいとそう思い、その気持ちが少しでも伝わる様に俺は冷たいルーナの手を強く握った。
「あたし、あたしが……信じた……あたしが信じた、正義は……!」
俺の手を強く握り返し、顔を俯かせたルーナが小声で喋った後。
勢いよく顔を上げて涙を吹き飛ばし、何かを決意した様子のルーナが俺の手を握り返すのを止めて優しく引き剥がすと、いきなりポニーテールを揺らしながら父さんとクロさんが戦っている方へ振り向いて走り出し。
それに俺も驚きながらも武器を拾って急いで後を追った。
そして、父さんとクロさんがぶつかり合う戦闘の間へルーナは飛び出して戦闘を中断させた。
「アルベルト様! 戦闘のお邪魔をして誠に申し訳ございません!
そしてこのような状況で聞く事が間違っているのは重々承知しています!
ですがッ! どうか! どうかあたしの話を聞いてくださりませんか!」
「……作戦の前に言ったはずだ、これが終わった時にすべてを話すと」
「ええ、確かにそうおっしゃられました!
ですがそれでは遅いのです! 作戦が終わってしまっては遅いのです!
あたしは今おこがましくもこの作戦の正義についてお尋ねしたいのですッ!!」
先ほどまでと見違えたような凛とした力強いルーナの声が夜空へ響いた。
クロさんは戦闘の構えを解かずに両手を開いて戦闘を止めようとするルーナを見つめている。
「――大丈夫かいネオ?」
そのルーナとクロさんが問答をしている間に、しれっと父さんがルーナから離れた位置に位置で行く末を見守っていた俺の所へ近づいてきた。
「俺は大丈夫、かすり傷位だよ。
それより父さんの方が……」
父さんは俺の事を心配してくれたが、俺なんかより父さんの方が明らかにボロボロな姿をしていた。
光を反射していた銀髪は土で汚れて輝きを失って、緑色の服は至る所が切り裂かれて血が滲んでいる。
それに対しクロさんの鎧には傷は見当たらず、戦いは父さんの劣勢だったと一目でわかった。
「あたしはこの襲撃になんら正義が見出せません! とてもアルベルト様が行う事とは思えない!」
再びの大声に俺と父さんがクロさんとルーナの方を見ると。
非難する様な、縋る様なそんな眼差しでルーナがクロさんを見つめていたが、クロさんは一切動じなかった。
「――この世は弱肉強食だ」
しかし、その表情は何処か悲しそうに俺は見えたそれ以上の変化は何も起きず。
このままルーナの行動は無意味になるかと思われた時、クロさんが重々しく口を開いた。
「強者は常に強者であり弱者は常に弱者である。
生まれながらに地位の差や能力の強弱などが存在しており、この世はそういった他者との差を是として成り立っている。
そんな世界で正義を成そうと思えば、時に悪に手を染めなければならない時がある」
生まれの不幸の話は俺もいくらでも聞いた事があり、クロさんの言っている事にも一理頷ける箇所がある。
だがその主張はあまりに暴論だと俺は思った。
「それはつまり、弱者を救うためならばあらたな弱者を作り出しても仕方が無い……そう言いたいのですか?」
「――そうだ」
即答だった。
俺は強く非難したつもりだったがクロさんは全く動じず、その声からは深い絶望が感じ取れた。
「某達は、そんな理を変えるために流血を伴う修羅の道を進む悪へと身を落としたのだ」
「――なら!」
まさかそんな人だとは思っていなかった俺は、昼間のクロさんは擬態したいい人を演じている姿なのかと思っていると。
クロさんの言葉に被せる様にルーナの声が響いた。
「どうしてあたしを助けてくださったのですか!
あたしこそが! その強者による弱者からの収奪で生まれてきた子ですよ!」
「……気まぐれにすぎない。
先にも言っただろう、お主が抱いている某は幻想だ」
か細げながらしかし力強いルーナの言葉に初めてクロさんの表情が変わり、辛そうで申し訳なさそうに顔を歪めたクロさんはそう言ってついに構えを解きルーナへ近づいた。
「これが終わったら組織を抜け静かに生きろ。
やはりお主が手を汚す必要はない」
「アルベルト様!」
優しくルーナの肩に手を添えたクロさんはそう言って脇を通り過ぎ、悲痛な声を上げたルーナを無視して俺達の前に歩み出て再び戦斧を構えた。
「某は修羅となってあのお方がこの世に太平をもたらす道の露払いを行うと誓った!
――少年!
――フェアリーテイル!
お主達には申し訳ないと思っている! しかし必ずやお主たちの犠牲を平和への礎としてみせよう!」
「来るよッ!」
周囲の空間が歪んでいるかのように見えるほどに気炎と魔力を滾らせたクロさんが、矢の様な速さで俺達へ急接近して来る。
「某は悪鬼羅刹!
思う存分に恨みを吐き捨て! 某の行く末を呪い祟るがいい!
某はその怨嗟に塗れて地獄に落ち、未来永劫地獄の業火へ焼かれよう!!」
「アビリティスペースクリエイト:エクアプリズム!」
豪快な風切り音を立てながら水平に放たれた戦斧に対して、父さんが能力を行使して斜めになる様に半透明の壁を作り出す。
しかし、そうした工夫を凝らして作り出した壁も、前回と同じように圧倒的な力の前にあっさりと破壊されてしまった。
けれど、今回は全くの無駄という事にはならずに戦斧の軌道をずらす事は成功し、攻撃の余波によって発生した暴風かの様に風が周囲一帯に吹き荒れ。
その風に俺は目を開けていられずに両手で顔を庇った。
(――あ)
――庇ってしまったと俺が気づいた時にはもう遅く、目の前から聞こえる足音と共に誰かの気配を感じた。
すぐさま何とか目を開くとあれほどの大ぶりな攻撃を行った後にも関わらず、もう俺の目の前で戦斧を上段に構えたクロさんが立っていた。
「案ずるな、殺しはしない」
俺は全身に鳥肌が立ち、冷や汗を流しながらも急いで手に持つ剣を振るう。
――が、それよりも早く戦斧が風を切り裂きながら振り下ろされた。
「ネオッーー!!」
自らの死を感じて何もかもがスローモーションに流れる世界に父さんの声が響いた――次の瞬間に突然俺の目の前に父さんが現れ。
「アビリティスペースクリエイト:リジェクションフィックス!!!」
今までとは違い、父さんは足を肩幅まで開いて両手を突き出す構えを取ると、周囲の風景を反射する鏡の様な壁を出現させ。
その壁へ全てを破壊せんとばかりのクロさんの攻撃が直撃した。
俺は見た目が変わっていても再びその壁が破壊され、今度こそ父さんが俺を庇って殺されてしまうと思った。
だが、なんと意外な事に今度の壁はしっかりとクロさんの攻撃を受け止めビクともしなかった!
「まさか防がれるとは!
だが、お主が息子を助けに動く事は読めていたぞ!」
一瞬驚いた表情をしたクロさんは、そう言って壁で止まっている戦斧に力を込めながら体を捻った。
(その動き!)
俺は見覚えのあるその動きを見てすぐさま父さんの左へ走り、案の定父さんの後ろに回り込もうとしたクロさんへ剣を振った。
「ほう。ルーナから一度やられているな?」
「おわっ!」
しかし俺の攻撃は牽制にもならず、あっさりと篭手によって弾かれて逆に俺が体勢を崩してしまった。
そこへクロさんが手を伸ばして俺を捕まえてこようとしたが、その手を逆に父さんが掴んだ。
――さらにその父さんの手を、武器を手放した手でクロさんが掴んだ!
「先ほどから動きが分かりやすすぎるぞ、フェアリーテイル!」
「っく!」
「アビリティウェイトコントロール:インクリース」
そうクロさんが言った瞬間、父さんが唐突に地面を砕きながら倒れ伏した。
父さんは何とか起き上がろうともがくも、上半身だけが地面に接着されているかのように全く動いていなかった。
「アビリティスペースクリエイト:ペネトレイションレンジ!」
そんな状況にもかかわらず、父さんは何とか顔を動かして俺の作り出した槍へ視線を向けると、その一つがいきなり現れ。
それを握った父さんがクロさんへ突きを放つも、そんな破れかぶれの攻撃が当たる筈もなく。
クロさんは手放した戦斧を拾ってその場を飛び退いた。
「父さん! ごめん俺のせいで!」
「僕は……大丈夫。ネ、ネオが無事で、よかった」
俺はすぐに父さんに近づき起き上がらせようとしたがビクともせず、父さんは苦しそうに呼吸をしていた。
「……ごめんね、ネオ。こんな事に……ま、巻き込んでしまって」
「そんなこと今はいいよ! 父さんなら、父さんだけなら逃げられるでしょ!
さっきみたいに唐突に現れたり消えたりしたその能力で!
俺は大丈夫だから!」
涙が溢れそうだった――自分の情けに。
俺が居なければ父さんは能力を使って簡単に逃げられ、戦ってこんなにボロボロになる様な事態にはならなかったはずだ。
この状況は間違いなく自分のせいだと思った俺は、何とかこの場を打開できる方法を必死に考える。
そんな俺へ決着が着いたかの様にゆっくりとクロさんが近づいてくる。
「ネオ、落ち着いて。
落ち着いて……僕の話を……しっかりと聞いて欲しい」
俺がクロさんを倒す可能性は限りなくゼロであり、父さんは行動が出来なくなってしまった状況に絶望しかけている俺へ。
父さんがいつものように目を細めた笑顔を浮かべなら優しく話しかけてくる。
「この事は、出来れば……ネオがゴブリン族基準じゃない……大人になった時に、伝えたかった。
これを聞けば……ネオは、これから先。
戦いに巻き込まれる……様になってしまうかも……しれない。
けど、これしか……方法が、思いつかない……んだ。」
「助かる方法があるの!? あるならならなんだってやるよ! 俺が絶対に父さんを助けるよ!」
途切れ途切れに話す父さんに俺は心配をかけまいと力強く返事をする。
「……実はネオ。キミには……二つ目の能力が……秘められている……!」
「二つ目の……能力……? そ、そんな事があり得るの?」
能力を二つ持つ者なんて父さんの諸国での話でも、俺が十年この国で生きてきても、まったく聞いたことが無く。
俺は本当にそんな事があり得るのかと怪訝そうな顔で父さんを見る。
「もちろん。あり得ない……普通はね」
だから……あいつら淘汰された敗北者達【ウィーディングルーザーズ】は……ネオ。キミを探して……居るんだ」
(ほ、本当にそんな力が俺にあるのか……)
とてもじゃないがいきなり「お前には秘めた力があるんだ」なんて、そんな事を伝えられても実感何てこれっぽっちも無い。
だけど少しずつ足音が大きくなり、クロさんが迫ってきて時間が無いと感じた俺は破れかぶれで自分の中へ意識を集中させた。
(俺の能力は硬貨を別の物へ変える事。
そんな俺に宿る二つ目の能力って?)
自分の出来る事。
自分が出来て欲しい事
自分の能力としてあり得そうな事。
自分の力として無さそうな事。
様々なイメージが俺の脳内を駆け巡る。
そうしていると自分の意識の奥底に、ぽっかりと穴の様な隙間が開いている感覚がある事に気がついた。
間違いなく手がかりがそこにあると俺は思い、さらに深く自分のアイデンティティを再確認する。
(変化。硬貨。……魔法? それに……コーティング?)
不要な要素が排除されていき、数多のイメージがだんだんと収束して小さくなっていく。
(コーティングって何だ? それに魔法?)
硬貨を魔法へ。
魔法をコーティング。
そのイメージをだんだんと具現化していく。
(覆う。塗る。染める。
――纏わす?)
――浮かび上がった言葉に数多のイメージが一気に集まりピースの形を成した。
そしてぽっかりと空いていた穴へと嵌まった気がした。
「――アビリティ……『マジッククリエイト』」
俺は体の内から感じるままに言葉を口にし、父さんから聞いたとある武器を思い描いた。
「ッお主!? 何をする気だ!?」
「アビリティ……! スペースクリエイト:エクアプリズム!」
だんだんと俺の魔力が赤く渦巻いて行く光景を見たクロさんが、焦りからか足を速めたが。
そこへ父さんの能力が放たれた行く手を邪魔される。
「財布がッ!? さっきの攻撃で――父さん!」
クロさんが足止めされているのを横目に、俺は能力の発動に必要と感じた金貨を取り出そうとしたがいくら探しても見つからず。
辺りを見渡すと攻撃の余波で紐の千切れた財布が遠くに転がっているのが見え、俺はすぐさま父さんへ声を掛けた。
「――アビリティスペースクリエイト:ペネトレイションレンジ!」
言葉足らずだった、けれど父さんは俺の期待にすぐさま答えてくれて、遠くにあった財布が一瞬で俺の目の前に現れた。
「させぬぞッ!」
そのせいで足止めの無くなったクロさんが、半透明の四角形を破壊しつくして一気に加速してくる。
――が
「アビリティマジッククリエイト」
俺が空中の財布を掴み取って十枚の金貨を取り出す方が早く。
能力を発動して光り輝き出した金貨が手の平の上で光の玉へ変わり、俺は直感に従ってショートソードへ押し付けた。
「――エンチャントフレイシールッ!!!」
――瞬間、焔が夜空へ舞った。