ヒーローは足音から違う
「行ってきまーす!」
いつも通り明朗な挨拶でわたしは言うと、慣れた足取りでペダルに足を掛ける。
「ん?」
違和感を感じる。
何とも形容しがたい、無いと言えば無いような、あると言えばあるような……でもなにかいつもと違った様な気がした。
「うーん…………」
わたしは反射的に足元を見るが何も無い。
ただ半年使ってやや薄汚れたローファーがあるのみだった。
「気のせい……だよね?」
わたしは上を向きいつも通りの住宅を眺める。
青い空も、風のそよぎも、向かいにあるオレンジ色の屋根も、左隣の家のよく吠える犬も、変わらない。
何も変わらない!
「いや、気のせいじゃない………」
「え?」
どこからか、声がした様な気がしたけど、それも気のせいだ。
そう自分にいい聞かせペダルを漕ぐ。
「……なんだ。」
思わず気持ちを口に出す。
やはり気のせいだ。
別に足を怪我したとかもないし、ここ最近は体型もキープしてる。
制服JKとして外に出しても最低限恥ずかしく無い見てくれの筈だ。
足なんて、全然普通、本っ当に普通だから!
「なんの問題もないーーー!!」
そう叫びながらわたしは下り坂を突っ切る。
「あの子………かなりヤバいな。」
靴紐を結びながら、1人の男が呟く。
「アレ?」
学校が見えてきた辺りで、わたしは大きな違和感に気づく。
「……誰とも会ってない。」
わたしは通学時、誰とも会わないなんて事はあり得ない。
ウォーキングが日課のお爺さん。
横断歩道を渡る小学生の集団。
そして駅から歩いてきて、自転車を降りたわたしとグミ片手に喋る友達。
でも今のわたしは誰とも会わずここまで来てしまった。
重症だ。
いくらなんでもここまで迂闊な人間とは思えない。
やはり朝の違和感はマジだったんだ。
そう思った瞬間
「ッ!!」
脚が突然何かが触れる感覚になる。
ふくらはぎ、くるぶし、足の指にまで及ぶくすぐったいような感覚。
絶対下を向いてはならない
第六感がそう告げる。
でも、もう無理!
わたしは遂に足元を見てしまった。
「恨まないで下さい。わたしはマジでJKの脚から放たれるエキスがないと死ぬのです。」
「キャーーーーーッ!!」
わたしが叫んだ瞬間
「ホップ!」
「はっ?」
「ステップ!」
「嘘だろ嘘だろ!」
「ジャンプ!」
「ヒール狩りかよぉーーー!!」
………気がついた頃には
「あぶぶぶぶ………」
顔を踏みつけられているベロのバケモノと
「効いてないな……」
冷静に呟きながらベロのバケモノの顔を踏みつける仮◯ライダーみたいなのがいた。
「ハッ!」
するとその仮面◯イダーみたいなのは突然ジャンプして、空中で何回も宙返りしながら着地して、ベロの妖怪から距離をとる。
「おいおいおい………そりゃあねえだろ?なぁ?」
相手のバケモノはベロを口にしまいこんで相手のヒーロー?に語り出す。
「オレがJKの足から発せられる体液だとかから出るエキスが無いと死ぬ種族なのは分かってるだろ?オレはただ生きる為に食事をしてんだ。頼むよ!見逃してくれよぉ〜」
妖怪はとてつもなくキモい事を言いながら手を合わせてヒーローに頼み込む。
するとヒーローは
「それは欺瞞だな。確かにそういう種族もいるのは分かる。」
だよね!あんなバケモノの言う事なんてウソッパチ…………いるの?
JKの足で生きる種族いるの?
「でも彼らは迷惑がかかるからと言って、フリマサイトの使用済みローファーや使用済みソックスなどで生きながらえているし、十分健康体だ。この様な迷惑をかけてまで食事をする必要がないのは分かっているはず。」
真面目なのかふざけてるのかわからない反論をするヒーローは一歩歩み寄りだし
「お前の狙いはそんな事じゃない。靴の持つ、星のエネルギーを効率的に取り込む特性を利用して、自分たちの世界に送り込みエネルギーを吸わせる道具とした飼い殺しにする。違うか。」
ちょっとよく分かんないけど、ヒーローの発言にバケモノは
「あぁそうだよ!靴ってのは素晴らしい発明品だ。ただはいて地面を踏むだけでエネルギーを吸えるんだからなぁ。狙わねぇなんてバカの言う事だ。同じヒールでありなながらオレ達を殺すお前は同族殺しの大バカ野郎だ!」
バケモノは馬鹿にするような笑いを浮かべる。
「あぁ、そうかもな。確かにヒールという種族としてのオレはバカかもしれない。だけど、靴ってのは大前提、足の保護と移動の補助為の道具。人が快適に過ごせる為に欠かせない、大切なものなんだ。………だからオレは微力だろうが靴を扱う人間の為になりたい。そう決めたんだ!」
「行ってろバカ!」
バケモノは舌を出してヒーローを攻撃する。
「おっと!」
ヒーローは難なく避けるが
「しまった!」
と突然叫びだす。
「え?まさか……」
バケモノの舌がわたしに迫ってくる!
「フッ!」
するとヒーローはすかさずわたしの元に戻ってきて
「ちょっと持つよ!」
「え?えぇ!」
わたしをお姫様抱っこして飛び上がる。
そして目の前にある高校の壁を走りながら屋上に行くと
「……大丈夫?怪我はない?」
優しい声で語りかける。
「大丈夫です………」
わたしは緊張しながらも素直に答えると
「分かった。じゃあどこかに隠れてて。」
そう言って飛びたっていった。
「また同じは効かねぇぞ!」
陰から見ているとバケモノは舌をムチの様に伸ばしながらヒーローにけしかけていた。
「同じ手なんて出さない、足取り軽くいこうか!」
そう言いながらヒーローは屋上から落下しながら靴を脱ぎ始める。
そして別の靴……ローラースケートを取り出したバケモノの頭に投げつける。
「いてっ!」
バケモノの頭に当たって弾かれたローラースケートはそのまま宙を舞い
「履き替え!」
ヒーローの脚にピッタリとハマる。
「ウソでしょ!?」
ローラースケートを履いた瞬間ヒーローは姿が変わって、カッコいい感じからなんか可愛らしい感じになった。
そしてそのままバケモノ舌をローラースケートで滑り降りる。
「ごああ!!舌が!舌が取れるぅぅぅ!!」
バケモノが涙を流しながらベロを引っ込めた瞬間
「履き替え!」
ヒーローはさっきのカッコいい姿に戻ると
「ハアアアアッ!!」
着地した瞬間バケモノの顔を蹴り空に吹き飛ばし
「スニーク・インジェクション!」
そのままジャンプしながら右脚を突き出しバケモノの体を貫いた。
「大丈夫そうだね。戻ろうか。」
またわたしの前にやってきたヒーローはわたしに手を差し伸べ、例によってお姫様抱っこで地面に戻る。
そしてヒーローは目の前で靴紐を解き始めると
「あっさっきの……」
さっきのイケメンが出てきた。
「キミ、名前は?」
唐突に名を聞いてきた。
「足立綾華です………」
「そう、綾華ちゃんだね。」
助けてもらってアレだけど初対面とは思えないくらい馴れ馴れしい。
「オレはリッキー。そうだな………」
随分と可愛らしい名前をだしながらリッキーはわたしのローファーをじっと見ていた。
「ちょっとローファー、貸してくれないかな?汚れを見過ごせなくて。」
するとリッキーはどこからか布やクリームを取り出して物凄い手際でわたしのローファーを磨き出した。
「どう?」
「凄いです……ピカピカ……」
磨いてもらったローファーは新品さながら、下手すればそれ以上の輝きだった。
「靴の乱れは心の乱れって言うしね。でも綾華ちゃんのローファーはそれほど汚れてなかったし、変なすり減りも無かった。これからも変わらず大切に扱ってね。じゃあ。」
そう言いながらリッキーは去っていく。
「…………ハッ!」
わたしは家の前で自転車に跨りながら目を覚ます。
「今のは………夢?」
わたしはなんとなく足元をを見ようとするとスマホに着信
「やっば8時24分!もうこんな時間なの!?」
わたしは慌てて、新品さながらの輝きを放つローファーで自転車をひた走らせた。
数週間前に某掲示板で投稿した物です