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 ホセの姿が見えなくなってから、ようやくセレスティーナはホッと息を吐いた。

 そして、慌ててレオに駆け寄る。

「ありがとうございます!まさか、ホセがあんな人だったなんて……」

 じっとホセの去って行った方向を見ていたレオは、ゆっくりとセレスティーナを振り返った。少し困った顔で、頭を下げる。

「……すまない。あの場の勢いで、勝手に想い人がいると言ってしまった」

「えっ。あ、ああ、別に構わないです」

 思いがけないことを謝られ、セレスティーナは目を丸くして手を振る。

 嘘も方便。ホセがレオの嘘を信じて、セレスティーナを諦めてくれるなら有り難いくらいである。

 しかし、レオは生真面目な顔で頷いた。

「そうか。……そうだな。君に想い人がいるのは当然だな」

「は?」

「そのことをエルナンは知っているのか?隠しているのなら、早めに言っておいた方がいい」

「……何を言ってるんですか?私、別に今、好きな人なんていないですけど」

 勝手に憶測して、納得されても困る。

 セレスティーナが口を尖らせて抗議すると、レオはわずかに目を見開いた。

「そ、そうか……それはその……失礼した。君は……いや、こんなことを聞くのはもっと失礼だな」

 やや狼狽えて視線を逸らすレオ。その仕草に、セレスティーナはピン!と来た。他の誰かならムッとしたかも知れない。しかし、セレスティーナもレオに聞いてしまった質問だ。答えなければ、公平ではないだろう。

 くすっと笑って、セレスティーナはレオを覗き込んだ。

「どうして結婚しないのか、ですよね?……それは、兄が結婚しないからです!兄の面倒を見ないといけませんもん。兄はご飯は作れないし、寂しがり屋だし。ということで兄が結婚したら、そこから相手を探すつもりをしています。でも……ナイショですけど、ムリに結婚しなくてもいいかなぁとも思っていまして。騎士団の洗濯婦の職につけたし、私、孤児で貧しいですからね……。今まで声を掛けられたことはないし、きっと嫁に欲しいって人があんまりいないと思うんです。まあ、さっき、ホセが嫁にもらってやるって言ってましたけど」

 あんな風に強引に言い寄ってこなければ、少しは考えたのに。

 胸の内でセレスティーナはそっとそんなことを思う。

 レオは意外そうな顔になった。

「君に結婚を申し込みたい男はいっぱいいると思う。エルナンが邪魔をしているんじゃないか?」

「ええ?そんなことないですよ!」

 力いっぱい否定して答えたら、レオは何か言いたそうな表情をしつつも「そうか……」と頷いた。そして、少しだけ遠慮がちに質問してくる。

「……ちなみに、君はどういう男が好みなんだ?」

「え?」

 思わぬことをレオから聞かれて、セレスティーナは目をパチパチさせた。

 好み……について、あまり深く考えたことはない気がする。いつか結婚して幸せな家庭は築きたいが、とにかく兄が結婚してから!と先延ばしにしていたせいだ。

「えーと……えーと、浮気せずに私だけを好きでいてくれて、収入が安定している人です」

 なんとなく答えを捻りだしたが、これは打算的な答えすぎるだろうか。そして、"好み"とは違う気もする。だが、考えたことがなかったから仕方がない。

 とりあえず、もう少し付け足すことにした。

「あと、一緒にいてイヤじゃない人がいいですね!そして、レオさんのように、私と一緒に本を読んでくれるといいかなぁ。一緒に読むといっても、今はまだ教えてもらってる感じですけど」

 ふふふと笑うと、レオも小さく笑った。しかし彼のその額に、いつの間にか汗が滲み始めていることにセレスティーナは気付いて目を見張った。よく見ると、顔色が悪い。

 慌てて、セレスティーナはレオに近寄る。

「レオさん……もしかして、さっきので傷に響いたんじゃ……!」

「いや、大丈夫だ」

「ウソ!絶対、そんなことないです!……あ、熱が上がってる!きゃあ、早く家に入ってください、お医者さまを呼んでこなくちゃ!」

 大丈夫と言い張るレオの背を押して家の中に入り、セレスティーナはなんとか男をベッドに押し込めた。


 レオは再び熱を出した。

 ベッドに入ってさほど経たないうちにすぐ眠ってしまったレオを見ながら、セレスティーナはどうすればいいか思案する。

 近所に年寄りの薬師はいるが、軽い風邪を診るくらいだ。骨折だけでなく、何かよく分からない魔術にも掛かっている人間を診るのは、荷が重いのではないだろうか。

 ここは、騎士団の治療師に診てもらう方が良い気がする。

 しかし。

 苦しそうなレオを独りおいて、騎士団まで行くのは少し心配だ。

 どうしようどうしようと、玄関まで行ってはまたレオの寝室に戻るのを繰り返すこと数回。

 やはり、王都まで急いで行って戻ってこよう!と決意して外へ出たときだった。

「……セレスティーナ嬢?」

 扉を開けた瞬間、ちょうどノックしようとしていたのだろうか、中途半端に手を上げた騎士団長ベルナルドと顔を合わせた。

「団長さま!」

 思わぬ人物の姿に、セレスティーナの目が真ん丸になる。顔はよく知っているが、挨拶をするくらいで、まともに言葉を交わしたことなど無い相手だ。

 しかしベルナルドは気さくな調子で尋ねてきた。

「突然、すまんな。出掛けるところだったか?」

「いえ……あ、あの!実は、レオさんが熱を出して、それで騎士団の治療師に診てもらおうかと思って、今から騎士団まで行こうかとしていました!」

 ビックリはしたものの、事情を知る人間が現れたことにホッとし、慌ててもつれそうになる舌で状況を説明する。

 すると、ひょいとベルナルドの後ろから細身の壮年男性が姿を現した。

「あれ。まだ、熱が下がらないですか、彼?」

「えと、あの、熱は下がって落ち着いていたんですけど、先ほどちょっと、ムリをさせてしまって……」

「まったく、数日大人しく寝てるだけも出来ないとは。駄目なやつだなぁ」

「違うんです!私のために、体を張ってくださって……!」

 少し泣きそうな顔で言うセレスティーナに、壮年の男性は「こんな可愛い子を心配させるなんて、もっと駄目じゃないか!」と言いつつ、ひょこひょこと家の中に入ってきた。白い服の襟元には、治療師の証である植物モチーフの紋章が入っている。

「失礼!ちょっと、彼の容体を診せてもらうよ」

「はい、お願いします。向こうの部屋です」

 セレスティーナは扉を大きく開けて奥を指し、ベルナルドも一緒に招き入れた。

 まさか、治療師が来てくれるとは。

 彼に診てもらえるなら安心である。

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