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 籠いっぱいのクルミと、クルミを割るための道具をレオの前に置いてから、洗濯に取り掛かる。

 しばらくして、レオの様子を見に行くと……

「えっ!」

 バキッ、ガキッ!とレオが左手でクルミを割っていた。もう、割られていないクルミは残りわずかだ。

「ん?なにか?」

「えーと、道具の使い方をご存じない?」

「まさか。もちろん、知っている。だが、この方が早いし、鍛錬にもなる」

 兄と同じことを言う。もしかして、騎士団の入団試験には素手のクルミ割りが必須なのだろうか。

 呆れてしまったが、機嫌よく割っているなら邪魔をしない方がいいだろう。ただ、そんなにさっさと全部割ってしまったら、彼の次の仕事を考えるのが大変だ。他に何か良い時間潰しはあるだろうか……?

 セレスティーナは慌てて次の仕事を考え始めた。

 が。

 昼食時になって、レオの目が少し潤んでいることに気付いた。慌てて熱を測ってみたところ……思った通り、熱が上がっている。という訳で、午後は当然ながらベッド行きである。

 寝室へ向かうよう言ったらレオは抵抗したが、セレスティーナが「わがまま言っちゃダメです!」とやや本気で怒れば……すごすごと自分からベッドに入った。

(ちょっとレオさんの扱い方、わかってきたかも)

 少々気難しい男だが、こちらが強く出ると案外、素直に聞いてくれる。今後は遠慮なくやっていこう!と決意するセレスティーナだった。


 午後も、セレスティーナはいろいろと家の中の片付けに追われた。仕事をしていると、小さな家でたいした物は置いてないといっても、(そのうち片付けよう……)と思ったまま置いているものがちょこちょこと見つかる。

 それらを片付けて、すっきりした気分で夕食の支度へ。

 夕食を作りつつ、レオの様子を見に行った。

 ベッドへ戻ることを嫌がったわりに、彼は午後は一度も起きてこなかった。何度か部屋を覗いたが、よく寝ているようである。やはり熱が上がったせいだろう。

 しかし、そろそろ一度起こした方が良さそうだ。汗もかいているだろうから、水分も摂らせておきたい。

「レオさん。起きてください~」

 優しく声を掛けると「んん……」と呟きながら、とろんとした目がセレスティーナを見た。

 常に警戒感いっぱいの彼がこんな風に気が抜けている姿は、きっと貴重な気がする。思わず笑みがこぼれ、ふにふにと彼の頬をつついた。

「ご飯、食べましょ!そのあとで、熱冷ましのお茶を淹れますから」

「ん……おなか減った……」

「ですよね。ふふ、食欲があるのはいいことです」

 そっと背中に手を入れて、起き上がるのを手伝う。

 レオは起き上がって、しばらくしてからハッと大きく目を見開いた。そろそろとセレスティーナを見、みるみるうちに真っ赤になる。

「す、す、すまない!ちょっと……寝惚けてしまって……!」

「あやまることなんて、何もないですよ。体調が悪いときは、甘えてくださいな」

「…………!!!」

 ニコニコと答えたら、真っ赤な顔を左手で覆って俯いてしまった。

 まったくもって、可愛いおじいちゃんである。

(厳しいお家で育ったのかなぁ。なんか、甘えさせてあげたくなる……)

 今やすっかり大きくなってしまった兄が甘えてきても、(もう、仕方ないなぁ!)と思いつつ、つい嬉しくなってしまうセレスティーナである。実は甘えられるのが好きだったりするのだ。


 部屋で食事を取り、服も着替えてさっぱりした様子のレオが居間にやってきた。

「熱も下がって、かなりすっきりした。ありがとう。もう遅い時間だが……もし、何か力の要る仕事があれば片付けるが」

「……熱が下がったばかりで何を言っているんですか」

 この男は仕事したい病なのだろうか。

 こんな調子では、なかなか怪我も良くならない。

 セレスティーナはレオの寝ていたベッドを指す。

「何回言ったら、覚えます?今、レオさんがする仕事は怪我を治すことだけです!はい、さっさとベッドへ戻る!」

「いや、しかしたくさん寝たせいか、眠気がなく……」

「もう~」

 口を尖らせつつ……セレスティーナは立ち上がり、一冊の本を手に取った。

「じゃあ、とにかくベッドへ行ってください。そして、一つ、お仕事をしてもらえますか?」

「???」

 ベッドで?という不思議そうな顔のレオを促し、セレスティーナは一緒に兄の寝室へ入った。

 ―――再びベッド上へ戻ったレオの前に、持ってきた本を差し出す。

「私に、字を教えてください。だいぶ、読めるようになったんですけど……まだ分からない字も多いんです」

「字を……」

「こういうのは……イヤですか」

 彼は貴族で、文字を読んだり書いたりするのはきっと簡単に出来るだろうと思ったから思い付いたのだが、もしかするとお馬鹿な人間に教えるのは好まないかも知れない。なにせ自分は絶対に出来のいい生徒ではないのだから。

 言い出しておきながら(しまったかも)とセレスティーナは後悔したが、驚いたことにレオは優しく微笑んだ。

「向上心があるのは、素晴らしいな。俺は教えるのは上手くないが……それでも良ければ」

「はい!お願いします!」

 こうして、その日の夜はゆっくりと更けていった……。

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