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 翌朝。

 エルナンが朝食を食べているときにレオが顔を出した。

「エルナン。世話を掛けたようですまない。もう俺は大丈夫なので、寮に戻る」

「あ、おはようございます、ふ……じゃない、リ……えーと、レオさん。ダメっす、団長から少なくとも熱が完全に下がるまでは寮へ戻すなと言われてます。寮だと、メシ、適当になるでしょ?うちはセレスティーナがしっかりしているので。メシ食って寝て、早く治してください。てか、今、その変な術の解除を魔法局で調べているから、のんびり待ってたらいいっすよ」

「そういう訳にはいかん」

「そういう訳でいいんです。ふく……レオさんは働きすぎっすから。いいですか、寮の部屋はカギが掛かっていますからね。勝手に戻っても入れませんからね」

「……」

 ムッとした顔をするレオ。

 兄にお茶のお代わりを淹れていたセレスティーナは、つい、クスッと笑った。意外と兄とレオは親しい仲らしい。

「レオさんってば、いい年して子供みたいな人ですね~。あのですね、ケガしたり病気のときは、素直に周りの人に甘えて、“ありがとう”って言うのがいいんですよ。……さて、熱はどんな感じですか?」

「子供……っ」

「ぶふっ」

 レオが愕然とし、エルナンが吹き出す。

 それに頓着せず、セレスティーナはレオの額に手を伸ばして熱を測った。まだ、下がっていない。

「うーん、まだ熱がありますねぇ。とりあえず、起きてきちゃったし、ここでご飯食べていきます?ベッドで食べます?」

「だから……もう俺は大丈夫で……」

「はいはい。そういうのはもういいですから。じゃ、ここで食べましょ。お兄ちゃんはもう出掛けるよね?忘れ物しないようにね」

 口を両手で押さえ、真っ赤になっているエルナンは何度も首を上下させた。どうやら笑うのを堪えているらしい。

 レオがエルナンを睨む。耳が真っ赤になっている。

 エルナンはそっと視線を背けて、「じゃ……行ってきます」と立ち上がった。

「ま、ふく……レオさんがいるから、大丈夫だろうけど。ちゃんと戸締りして、気をつけてな」

「うん。お兄ちゃんも、早く魔獣退治が終わりますように!」

「おう!」

 片手を挙げ颯爽と出て行くエルナン。

 レオも立ったままエルナンを見送ったあと、眉を寄せてセレスティーナに質問した。

「魔獣退治?」

「この間、退治しそこねた魔獣がいるらしくて。南の森まで追いかけるらしいです。退治できるまで、ずっと野営して追いかけるんだとか」

「え?」

 ぎょっとしたようにレオが顔を強張らせた。

「ちょっと待て。そうすると、しばらく君と二人だけになるということか?」

「すでに昼間、二人っきりですね」

「いや、そういう問題じゃない。君は未婚だろう。未婚女性と夜、二人っきりというのは……」

「あれ?まさか不埒なことをするつもりですか?」

 正直なところ、セレスティーナはレオをそういう"異性"として見ていなかった。だが、年をとってもそれなりにお盛んな人がいるということは知っている。全然考えなかったが、もしかしてレオはそういう人なのだろうか。

「なっ。そ、そんな訳なかろう!」

 セレスティーナの返しに、レオは一瞬で真っ赤になった。

(……あらら)

 おじいちゃんなのに、なんという純粋さ。まるで十代の少年のようだ。

 新鮮な驚きで、セレスティーナは目を瞬かせる。

 そういえば、騎士団の寮住まいという話である。つまり、独身ということだ。ずっと独身だったのだろうか。

(モテそうなのに。男前よねえ?)

 改めてレオを見ると、日に焼けた皺深い顔だが整っている。若い頃はかなり美形だったことが見てとれる。今は皺が良い感じに渋みを与えていて、セレスティーナとしては(若い頃を知らないが)こちらの方が良い顔ではないかと思う。

 遊び人だったから結婚しなかったという可能性は、もちろん、あるだろう。

 しかし、この生真面目ぶりを見る限り、それは無さそうだ。

 じっと観察してしまったせいかも知れない。

「……レオさんは、結婚しなかったんですか」

 つい、余計なことを尋ねてしまった。こんな私的なことを聞くなんて、失礼だ。セレスティーナもときどき周りから「恋人は?」「結婚は?」と聞かれて(個人の自由なのに)とイラッとしているのに。

 だから聞いたものの、慌てて両手を振った。

「あ、ごめんなさい。今のは無し。こんなこと聞くなんて失礼ですよね」

「いや、別に。……そうだな。女性が苦手なんだ。結婚する気にならない。だからという訳ではないが、君にも不埒な真似はしない」

「はあ」

 思ったよりもあっさり答えてくれたので、思わず気の抜けた返事になる。

 答えてから、首を傾げた。

「あー、女性が苦手だったなら……もしかして、私がお世話するの、気分悪いですか?」

 レオはハッとしたように目を見張って、慌てたように動かせる左手を大きく振った。

「それは君に対して失礼すぎるだろう、これだけ面倒をかけておいて!……君は、その……全然、嫌ではない」

「良かった~。私といるのが苦痛だから寮へ帰りたいってワケじゃないんですね」

 ホッとして、セレスティーナは笑顔になる。

 レオはそんなセレスティーナを眩しそうに目を細めて見て、首元を掻いた。

「いや……むしろ、ここはとても居心地がいい。エルナンから君の話はたびたび聞いていたせいか……いい意味で、君には変に気を遣わずにいられる」

「あはは、そもそも、いろいろと遠慮ないことを言ってますもんね、私。ごめんなさい。下町育ちだから、口が悪くて!」

「そんなことは無い。というより、遠慮なく言って欲しい。俺はどうも、気が利かないので。はっきり言ってもらえると助かる」

 生真面目な顔でそう言って、レオは頭を下げた。

 気が利かないというより、融通の利かない人物であることは間違いない。

 セレスティーナはまた、ふふふと笑って、兄の座っていた席を指した。

「わかりました。じゃ、とにかく座って。まずは朝ご飯を食べましょう」


 レオが食べている間に、兄の食べ終えた食器を片付ける。

 それが終わると、洗濯の準備だ。

 レオはそれを静かに見ていたが、しばらくしておずおずと話しかけてきた。

「その、何か手伝おうか」

「え?ああ、ごめんなさい。私が動き回るから、ゆっくり食事できませんよね」

 裏口の方へ行きかけていたセレスティーナだが、足を止めて荷物を置き、レオの向かいに座る。

「いや、そういうつもりでは」

「いいんです、いいんです。兄にも、お前は落ち着きがない!ってよく言われます。あの兄に言われたくないですけどね~。レオさんは、まだ治ってないから手伝いとかは気にしないでください。とにかく今、大切なのは早く治すことですよ」

「そうだが、何もせずに世話になるのは心苦しい」

 レオは眉間に皺を寄せ、険しい顔で言う。セレスティーナは呆れた。

「ケガ人を働かせるなんて、私、極悪人じゃないですか!騎士団長さまからも怒られます」

「うむ……まあ、そう……だな」

「でもヒマなのは、ちょっと分かります。あとで買い物へ行ってくるので、本を買ってきましょうか」

「本は、あまり読まない」

「……じゃあ、木のオモチャを買ってきます」

「オモチャ?!」

「組み合わせて、いろんな形を作るオモチャ。頭を使うっていいらしいですよ」

「うーん……」

 レオの眉がますます寄る。どうやら、お気に召さぬらしい。

 セレスティーナは、我がままな怪我人を面倒に思う様子もなく、人差し指を軽く噛みながら次の提案をする。

「それじゃあ、えーと……クルミを割ってもらえますか?」

「クルミ?」

「近所の人から、昨日、たくさんもらったんです。兄がクルミのマフィンが好きなので、たくさん焼いておいてあげようかな~と。片手だとちょっと作業しにくいかも知れませんが、急ぎませんし、ゆっくりでいいですから」

 レオの眉間の皺が緩んで、口元が少しだけ笑みの形になった。

「いろいろと注文をつけて申し訳ない。ぜひ、クルミを割らせて欲しい」

 セレスティーナもホッとして満面の笑みを浮かべた。

「わかりました!では、お願いしますね!」

続きは週明けに!

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