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13年越しのピュグマリオン

_____23年前







「ハマルティア、貴様との婚約を破棄することをこの場を借りて宣言させてもらう!」


王立学園の卒業生を祝うためのパーティーの和やかな雰囲気に突如として緊張が走った。


「嫌ですわ、グラシオ様。祝いの場で何の冗談ですの?」


婚約破棄される理由に見当もつかなかったわたくしはこちらを威圧し背後に側近、そしていかにもか弱い女子を装う男爵令嬢を控えさせた殿下を見据え鷹揚な態度でつぶやいた。


「私と親しくしているという理由でここにいるリリア嬢に取り巻きの面々を差し向けて嫌がらせをしていたことは調べがついているんだ!更には暴漢を雇い彼女を襲わせようとしただろう。彼女は自分が悪かった、などと貴様を責めることは一度もなかった。そのような優しい心に私はどうしようもなく惹かれてしまったのだ。この件からお前のような陰湿な毒婦を未来の国母とすることはできないと判断した。」



好きでもない殿下がどこぞの御令嬢と愛を育んでいたところでわたくしには関係がないのだけれど…。



「すべてに身に覚えがありませんわ。わたくし、毎日の王妃教育と学院での成績維持、王大使の婚約者としての社交で休む間もないくらいですのよ?いったいどこで取り巻きとやらへの指示、暴漢との雇用契約の締結をすればいいかわからないくらいのタイムスケジュールをこなしていますの。そちらのリリア?様も初めてお顔を拝見しましたわ。」


「ひどいっ!私あなたに教科書を捨てられたことも、取り巻きの方に突き飛ばされたこともあるのに!」


困ったわね、涙ながらに訴えられても本当に身に覚えがないわ。ちょっと学生間の交友を疎かにしているうちに火のないところに煙が立ってしまうものなのですわね。殿下も思い込みが激しい性分ですし…どう納めたらいいのかしら。などと思案しているうちに殿下が暴走した。



「貴様はそうやってのらりくらりといつもそうだ。賢しらな表情を見るたびに貴様への嫌悪が募っていった。お前のような石頭は王家の禁書庫で見つけたこの呪術を受けてしまえ!」



そういって呪文のような何かを殿下がつぶやくとわたくしの記憶はそこで途切れた…









______10年前


(ん、んんっ…体が動かせない?ここはどこなのかしら…?)


目を覚ますと見慣れない何もない真っ白な部屋の中だった。状況を把握しようと体を動かそうとするがピクリとも、指先すらも動かすことができない。


(おバカ殿下にずっと嫌いだったと言われてからの記憶がないわ…ショックで倒れるほどにおバカ殿下のことを愛していたなんてありえない…)


悶々と悩んでいると前方にあった扉がスーっと音もなく開き、ボロボロに薄汚れた小さな子供がはいって来た。


「ここでお話しているのは…誰、ですか?」


(お話…?ここには私一人しかいないけど。この子は誰かしら。ここはどこなのか教えてくれたりって?)


「うわぁ!なんて綺麗な人のかたちをした石なんだろう!でも人はいないや。でもずっと声は聞こえる…」


(石?わたくしもしかしておバカ殿下の最後の呪文で本当に呪われちゃったのかしら!?)


「もしかして石のお姉さんがお話しているの?不思議だなぁここは側妃宮の奥の奥、物置部屋だよ。僕は一応第二王子のシャリオっていいます。」


(側妃宮!?陛下ってばあのお歳で更に側妃を囲ったんですの!?そしてお子様まで~!?そしてわたくしってば石にされてその上物置に放置されるなんてなんて可哀想なのかしら。令嬢時代だって楽しいことなんて何一つなかったのに~!!!)


「お姉さん表情が変わらないのに怒ってておもしろい!よかった!僕の他にも側妃宮に閉じ込められて御飯も貰えないような人がいるんじゃなかったんだ!」


(この子王子なのにそんな扱いを受けてるんですの!?今上陛下は日和見なところがあれど子供相手にそのようなむごいことをする方では…)

「僕のお父様は王妃様のことが大好きなの!王妃様は僕のことが嫌いなんだって。だから御飯もお洋服もお風呂も少ししかしてもらえないんだ。母上は側妃っていう王様に代わってお仕事をする大事なお役目があるからここには帰ってこなくて僕、だれかとお話したの久しぶりだよ。」


(なんですの!なんですの!!そんなのってあんまりですわ!!!ひどすぎますわ!!!!)


余りの怒りにわなわなと震えているとピコンと頭の中で音がした。



 ‐‐‐‐‐〈呪術効果〉王城帰属発動

《あなたは呪術が一段階解除され「石像」として意思のある王城帰属〝物〟と呪術に認識されました。これにより「王城内過去視」「帰属物使用権限」が与えられました。》



そのとたんあの日の続きの映像が頭の中に流れ込んできた。


(そういうことだったのね…)


あの日、私が石像となった後おバカ殿下が見つけた呪文の載った禁書は一瞬にして塵となりあたりは騒然となった。

当然卒業祝いパーティーは中止。陛下、そしてわたくしのお父様である宰相が現れ一人しかいない王子を廃嫡することはできない日和見陛下によってわたくしの件は「悪しき心を持つものにのみ反応する古代の呪文が悪しき心を持つ公爵令嬢に発動した事件」として処理され、このことにお怒りになったお父様は周囲の制止を振り切り宰相職を辞し、王家との親交の断絶、王家派貴族と公爵家派貴族で国が二分されているらしい。


(あの日の続きを知ることができたのは良かったわ。でも今日の日付、その後のおバカ殿下と男爵令嬢のことなんかも知りたいわね…)


‐‐‐‐‐《帰属物使用権限》王城内にある本日の「ルグラン王都タイムス」をインプットしますか

Yes/No



(これが先程の「帰属物使用権限」とやらの効果ですの?Yesですわ!)


その途端一気に頭の中に情報が流れ込んできた。



《トロイメア歴1345年10月11日》

王妃様孤児院ご訪問

国民の理想の国母と名高いリリア妃が孤児院をご訪問された____



(ななな!!なんですの!今はわたくしが石化されてから10年経っていて、あの男爵令嬢が正妃!?理想の国母!?なにか表裏すべての王国の歴史が記された年表が欲しいわ)



‐‐‐‐‐《帰属物使用権限》王の執務室にある「㊙ルグラン王室史」をインプットしますか

Yes/No



迷わずYesを選択すると大体の仔細が分かった。



廃嫡するわけにもいかないたった一人の王太子は公爵令嬢石化の罪にも問われず、さらに甘い陛下は優秀な高位貴族の子女を側妃にすることで男爵令嬢をおバカ殿下の正妃にしてあげたらしい。



その生贄は北方にありやせた土地を治めるがゆえに借金で首が回らない侯爵家のブリジッタ嬢であった。頭のいい彼女を側妃にする代わりに侯爵家は城伯として領地を持たないが貴族として貴族年金の出る爵位に、元侯爵領は王家の直轄地となったらしい。



おバカ殿下と男爵令嬢は仕事に悩まされず悠々自適の生活。4年目にリリア嬢が身ごもるとその間がさびしいだのなんだの言ったおバカ殿下が側妃であるブリジッタ嬢に手を出し身ごもらせた。1歳差の王子兄弟の誕生である。


この間もどんどんと公爵家派のなかでこれらのことから王家への評価が下がり王家派貴族と公爵家派貴族の確執は深まっているらしい。


(第二王子、ほんとに何も悪くないじゃない!それなのにこんなにやせ細って!側妃様も忙殺されてしょうがないとしても息子のことを気にかけなさいよ!!こうなったら私がこの子を幸せにしてやるんだから!!)


「お姉さん、僕のために怒ってくれてるの?気にされたことがなかったから嬉しいなぁ。」


(あなたは幸せになるべき人ですわ!これからわたくしが動けなくてもできる範囲であなたを立派な王子様にしてあげますわ!わたくし今は石像ですがもとは人間でしたのよ?あなたのお父様と結婚する約束もありましたの。王妃教育で培った帝王学、武術の基礎となる体づくりの方法すべてあなたに伝えますわ。わたくしが石化の呪術を受けたのもあなたを救うためだったのかもしれないですわね。)


「ほんとうに!これから僕とずっと一緒にいてくれるんだ!僕なんでもがんばるよ!」


(そのまえに健康な五歳児にならないといけませんわね…)


‐‐‐‐‐《帰属物使用権限》王城内調理室にある「出来立てのポトフ」を召喚しますか?

Yes/No


(Yesを選択しますわ。)


提示された選択肢に沿ってYesを選択すると目の前にポトフが現れた。


「すっごーい!お姉さんは魔法が使えるの!?すごくおいしそう!これって食べていいのかな?」


(え、ええ、好きなだけお食べなさい。わたくし、この王城内にあるものなら自由に閲覧、召喚ができるみたいなんですの。きっと返還もできますわ!あなたはこれから一切飢えることなく、一流の王子様になるんですのよ。)


それからシャリオは眠るとき以外は常にわたくしの置いてある部屋でわたくしから勉強を教わったりいつか剣が振れるようになったときに備えてトレーニングをして過ごした。


側妃様に似たのか物覚えがよく1を聞いて10を知ることができるシャリオに指導をすることはとても楽しく、わたくしになついてくれる子犬のようなシャリオ。わたくしはいつしかシャリオがいない生活なんて考えられなくなっていた…。


「お姉さんとおしゃべりだけじゃなくダンスを踊ったり、ピクニックとかもしてみたいなぁ。お姉さんは何歳で石にされてしまったの?」


「わたくしは貴族の子息子女が通う王立学院を卒業する年に石にされてしまいましたの…齢で言うと18ですわね。石の姿では歳も取りませんし永遠の18歳ということになりますわね。」


「うーんじゃあ僕が呪いを解く方法を探してあげる!そしたらお姉さんは僕といっしょに暮して石になる前はできなかったたのしいこと、いっぱいしようね!」


そんなことを言ってシャリオがわたくしの冷たい石の手に口づけをした。


(ふふ、楽しみに待っていますわね。)


王城帰属は全知全能ではなく、消失してしまったものは王城に帰属しているものであってもインプットできないらしい。わたくしにかかっている呪術を完全に解除する方法はわからないままだった。








______8年前

シャリオ王子は10歳になった。しっかりと運動をし、三食栄養バランスよく食べてすくすく育ち年相応な相貌になったシャリオはおバカ殿下(今は王でしたわ)に似た美しい少年に成長した。頭もよく、どこに出しても恥ずかしくない立派な王子様だ。


「お姉さんどうしよう!僕、建国祭で王族として開会セレモニーに参列しないといけなくなっちゃった!」


(まぁ!大変ですわ!こんなにも健康的なシャリオを見られたら今までの生活が怪しまれてしまいますわ。シャリオが監視されるようになってしまったり、わたくしのように濡れ衣で裁かれてしまったら…)


‐‐‐‐‐〈呪術効果〉王城帰属発動

《あなたは呪術が一段階解除されました「王城内変化」が与えられました。》



‐‐‐‐‐《王城内変化》王城内でのみ第二王子シャリオの外見を栄養状態〈難〉に変化させますか(12時間限定・城内限定)

Yes/No


「お姉さん?突然黙ってどうしたの?」


(Yesですわ。)


そうハマルティアが選択した途端シャリオの体が淡く光ったかと思うと一瞬にして髪の毛はパサパサ、顔色も悪い出会ったころのシャリオがそのまま成長すればこんな姿になるのではないかという姿に変化した。


(何てこと…これなら建国祭でもごまかせますわね…)


「…?僕は今どうなってるの?」


(出会った頃のようなみすぼらしい相貌になっていますわ…わたくしが腕によりをかけて磨いたのに許せない…ところですけれどこれなら問題なく〝見捨てられた第二王子〟として建国祭に参列できますわ!)


「手触りはいつもの僕だけどなぁ…?それにしても本当にお姉さんの魔法ってすごいね。いつか人間に戻ったら使えなくなっちゃうのかな」


(これ、すごいですわね…わたくしにもかからないかしら)


‐‐‐‐‐《王城内変化》王城内でのみ公爵令嬢ハマルティアの外見を人間に変化させますか(12時間限定・城内限定)

Yes/No


(イ、イ…Yesですわ…。)


先程のシャリオと同じようにわたくしの体が淡く光ったのを感じるとともに体が動かせるようになっていた。


「お、お姉さんが石から人間になったーーー!?」


「ほんとですわ!ほんとですわ!」


思わずシャリオと抱き合ってそれから頬をつねってもらった。


「痛いですわ。」


「お姉さんが柔らかい…お姉さんて銀髪に紫色の目をしてたんだね…!わかって嬉しい!」


それから、ひとしきり喜び合った後わたくしとシャリオは教養があることがバレないように〈必要以上に口を開かない〉〈第一王子殿下とは関わらない〉〈12時間しか効果が持たないからセレモニーが終わったら長居しない〉という約束をし、開会セレモニーの準備をした。








______建国祭当日 城内ホール シャリオ

「顔は俺に似ているな。うまく使えそうだ。」


「本当に嫌な子。顔を見るだけで嫌な気もちになるわ。あなた、この子の件については死ぬまで償っていただきますからね。」


「おまえが、俺の弟か!聞いていた通りみすぼらしくて最悪だな…!まともな式典服もないのかよ!」


(お姉さんを貶めた王と男爵令嬢、そしてその子供だけあってさいあくだ…貴族たちもジロジロと僕を観察して下世話にもほどがある…早くお姉さんと二人きりの側妃宮に帰りたい…)


「…すみません。」


じっと観察していると第一王子がニタニタ笑いながら小声で囁いてきた。


「おい聞いてるのかよ!おまえ、今日なんで開会セレモニーに呼ばれたか知ってるか?俺が王太子として指名されてお前は臣下にくだることになるからだ!とお様とかあ様はお前の母親の側妃のようにおまえが俺の代わりに面倒な仕事を片付ける傀儡となることを望んでる。この式典が終わったらおまえは王城内の勉強部屋でマナーも勉強もダンスも全部仕込んでやる。」


こうして僕は雑に開会セレモニーで第二王子であり側妃の監督不行き届きからボロボロだったが優しい正妃様、慈悲深い第一王子が救った悲劇の王子様としてお披露目された。


母さんである側妃様は〝僕が怖がるから〟という理由で開会セレモニーには参加させてもらえなかったようだ。


(困ったな…僕は側妃宮に戻れないのかな?)


「わかりました…王国の小さな太陽である王太子殿下のためにこれから僕は尽くします。部屋を移る前に側妃宮にある大事な荷物を取りに戻っても大丈夫でしょうか?」


第一王子はふんぞりかえって僕にこう言った。

「ふん!身の程はわきまえているようだな。いいぞ、ただし持ってきていいものは一つだけだ」


______側妃宮


「お姉さん!もっと大変だよ!!」


慌てて駆け込んできたシャリオがわたくしに顛末を話してくれた。


「…相も変わらずバカ殿下からバカ陛下にレベルアップしたのね…とりあえずわたくしに考えがありますわ。」







______3年前


それからの日々は目まぐるしかった。シャリオが側妃宮から持っていった荷物とはわたくし。王も王妃様もシャリオには全く興味がないようで、第一王子が週に二度シャリオをいびりに現れるだけだ。


わたくしはシャリオの部屋を飾る少女像として昼間シャリオが教育を受けている間はすごし、夜は人間の姿となってシャリオとおしゃべりをしたり、手紙など書き物をしたりして過ごした。わたくし、やはり呪文の効果で石像認識されているようで全く歳をとらなかった。


「シャリオ…やりましたわ!ついにお父様がシャリオを屋敷に迎え入れる準備が整えたそうよ…!」


「うん、ティア、僕のためにここまでいろいろなことをしてくれてありがとう。」


わたくしが夜にしていた書き物とは実はお父様への手紙で、わたくしの石化の効果が弱まっていること、シャリオの現状と腐った王家の事情を書き王城の検閲済みの発送手紙棚に転送することでお父様に手紙が届けられたのだ。お父様からの手紙は間者によって届けられ、以来間者を通してやり取りをしていた。


「あなたは王家に縛られるべき人ではないですわ。未来ある麗しきシャリオ第二王子殿下。あなたはわたくしのお父様の手を借りて国内でも国外でも自由に羽ばたきなさい。わたくしは王城からあなたのご健勝をおいのりしていますわ。」


わたくし、シャリオの母であり姉のような気持でこの10年間を過ごしていたため巣立ちを見届けるのに瞳がうるんでしまう。

元婚約者の陛下も元男爵令嬢の正妃ももうどうだっていい。本当はシャリオといっしょにわたくしも王城から解き放たれたい。小さなシャリオはわたくしの呪術を解くなんて言ってくれたけれどその方法は今だわからないままだ。


「…今はまだそういうことにしておくね。でも僕はいつか必ず…!」


そんなやり取りをして私たちはお別れをしたのだった。










王も正妃も第一王子もさすがに敵対派閥の公爵家には手が出せないらしく、しばらくは荒れていたがやがて不思議なほど静かになり、城内は緊迫した雰囲気が漂ってきた。


わたくしはというと、側妃宮の物置に戻り石像としてたまに夜中に王城内をぶらついたり、ルグラン王都タイムスでルグラン王国の内情を追いながら悠々自適な日々を過ごしていた。


(ふむふむ…「公爵家率いる貴族派、王家を倒すべく出兵!旗印はまさかの第二王子!?」え、第二王子ですの!!!?)


なんとシャリオは王家に反旗を翻していた。そんな子に育てた覚えはないのだけれど…剣術も武術も臣下としての教育の中で修め、王太子である第一王子を凌いでいることは知っていてもやはり心配だわ…


こうしてわたくしのルグラン王都タイムスを読んではやきもきする3年間が始まった。各地で戦火が上がり戦況の一進一退を伝える王都タイムス。そしてだんだんと貴族派が王家派を抑え、その戦火は王城に近づいてきた。










______そして現在


ついに王城に貴族派のシャリオが率いる軍が突入してきた。わたくしは人間になり急いで逃げ惑う使用人の流れを逆流し、シャリオと王家派を率いる第一王子が戦っているであろう大広間に急いだ。


激しく剣をぶつけあうシャリオと第一王子。そんなシャリオを目掛けて王家派の弓兵が矢を放った。


「~~~~危ないっ!!!」


身体がとっさにシャリオと弓の間に出る。まずいと思った瞬間わたくしは石像に戻った。


「なんだ!!!?一体どういうことだ!?女が石像になったぞ!!!」


わたくしの変化に驚いたのか剣を取り落とす第一王子。その喉元にシャリオが剣を突きつけた。


「第一王子、お前の、王家派の負けだ。今日から新しい王家の誕生だ。」


そこからの展開は早かった。第一王子を捕縛した後城の奥の奥に籠っていた王、正妃、側妃を捕縛し無血開城をしてお父様を呼び寄せるとシャリオがこう宣言したのだ。


「23年前の過ちを正す時が来た。こちらにあるのは23年前「悪しき心を持つものにのみ反応する古代の呪文が悪しき心を持つ公爵令嬢に発動した事件」として裁かれた公爵令嬢がその呪文によって石にされたその姿である。僕は今からその呪術を解きたいと思う。」


そういって石のわたくしの肩に手を置き、シャリオの顔がわたくしの顔に近づき…唇が触れた。


その瞬間わたくしの体が強く輝いた。


‐‐‐‐‐〈呪術効果〉王城帰属不発動

《あなたは呪術が全段階解除されました。「恒久石化解除」また、再び王城帰属となった場合今までの効果がすべて使えるようになります。》


「まぁ、わたくしすべての呪術が解けたようですわ。」


「よかt「うおおぉ!!!ティー――!!!私が早く駆けつけてやれず、すまなんだ!」

シャリオを押しのけてわたくしにお父様が抱き着いてきた。


「ティアテ公爵、ここは僕とティアの感動の再会のシーンなのでもう少し控えていてください。」


「うむ…すまなかったねシャリオ殿下。さぁ、ティーは殿下とゆっくり話すがいい。」


ススス…とお父様がまた後ろに下がり、改めてシャリオと向かい合う。


「僕が19歳になってしまう前にティアの呪術を解くことができてよかった。実はキスをするというのはほぼ勘だったのだけれど、愛する人のキスでお姫様が目覚めるのは定石だからね。」


なんと薄っすらとシャリオは解呪の方法に何年も前から見当がついていたらしい。しかし、わたくしの敵であり自身の敵である王家派を倒し平和な王国にしてから試そうと思っていたようだ。どうやらルグラン王国は側妃様が必死に食い止めていたものの王、正妃、第一王子が国庫のお金を湯水のごとく使い財政崩壊寸前であったらしい。


「わたくし何も知りませんでしたわ。」


「まぁ、このことは使い込み当事者さえも知らなかったようだからな。罪人については俺とティアテ公爵で裁こう。そんなことよりも…」


「そんなことよりも…?」


「ティア、俺はずっとあなたのことを母でも姉でもなく愛しい人だと思っていた。それは13年前の石像のティアを見たときからだ。初めて人間のティアが話しかけくれたときには心が震えた。ティア、俺の唯一の妃となり一緒に新しい王家を作ってくれないか?」


傅き、わたくしの手を取ったシャリオが真剣な表情で言葉を紡ぐ…わたくしは、母で、姉で…いや、本当はずっとシャリオが好きだった。呪術は解けることがないと思っていたから目をそらしていただけだ。


「わたくしも…シャリオが好きです…あ、愛していますわ!!!」


「~~~~っ!!!」

ぎうぎうとシャリオにきつく抱きしめられる。もう5歳のみすぼらしかったシャリオを思い出せないくらい逞しく成長した。わたくし、23年越しに今度は愛する人の横でこの国の王妃になるんですのねとぼんやり考えていた。










______1年後

わたくしはシャリオの横で新生・ルグラン王国の王妃となった。そして驚くことに、結婚式を挙げて宣誓をした瞬間…


‐‐‐‐‐〈呪術効果〉王城帰属発動

《あなたは再び王城帰属となりました。今までの効果がすべて使えるようになります。「王城内過去視」「帰属物使用権限」「王城内変化」NEW「王城内嘘無効」》


確かにわたくしが王妃となったら王城帰属といえなくもないかもしれないわね…。


ということでわたくしは再び〈王城帰属〉が使えるようになったのだ。この呪術はグラシヲ、リリアを裁く際に役に立った。23年前の真実を彼ら自身の口から語ってくれたのだ。


「俺はずっと自分より優秀で勤勉なハマルティアが疎ましかったんだ。だからいじめをしているとリリアに相談されたときチャンスだと思った…」


「ハマルティア様に何かされたことなんてないけど私はかわいいし、贅沢もしたいし、絶対に王妃になりたかったの!呪術を使われる難た思わなかったわ!ハマルティア様を側妃にしてこき使うつもりだったんだもの!」


石化はグラシオバカ元陛下の独断だったらしい…この二人は罰として王家直轄地となった元側妃様の領地の平民として死ぬまで監視付きでその地で暮らすこととなった。


元側妃様は悪いとはいえ彼女も逆らえず、被害者のようなものでもあり捕縛後はシャリオに必死に謝っていたことから酌量の余地ありとして温暖な気候の地方にある老男爵の養女として余生を送る手筈となった。












______10年後

「父上、母上は鋭すぎませんか?」


「なんでそう思ったんだい?」


「僕が広間の花瓶を倒して割ってしまったとき、ルシアが割ったって言ったんです。すると母上は眉間にゆびをあててしばら目をつぶったあと「嘘はいけないわ。カリオン。」といったんです。」


「お前の母上に王城内で隠し事はできないよ。今だってもしかしたら(メイドに変化して)僕たちを見ているかもしれないからね。」


なんてシャリオは鋭いのかしら…!「王城帰属」が制約なく使えるようになってからというもの王妃業の息抜きにわたくしは「王城内過去視」「王城内変化」を使っている。


「母上が怖いから、僕もう勉強に戻る…!」


そういって息子のカリオンが王の執務室を出ていくとわたくしはシャリオに近づき《王城内変化》王城内でのみ王妃ハマルティアの外見をメイド〈普〉を解いて抱き着いた。


「やっぱりティアはここにいたんだね。見慣れないメイドがいたからそうじゃないかと思ったよ。」


「流石あなた!いつかはカリオンにもルシアにもわたくしの秘密教えてあげますわ。」


わたくしにキスでお返しをしながらシャリオが拗ねたように呟く。


「これは一生僕とティアだけの秘密だ!」


「それでもいいかもしれませんわね。」


以後100年は語り継がれる賢王・賢妃は存外楽しい一生を送ったようである。


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