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10 炎が上がる



 ニュースは翌日の昼まで似たような内容で繰り返された。



  スオウ、彼女発言の真意とは。

  D、活動継続、ファンの懐の広さ。

  ファン公認の片思い?!

  恋愛相談をする新しいアイドル!



 どれも、ファンとスオウのやりとりに終始していたおかげで、相手が太郎の妹であり幼なじみであることや、赤裸々に暴露された依存関係については出てこなかった。

 きっとそういう手を回しているのだろう。

 一般人である鈴のことはファンにはリアルタイムで知れ渡ったが、その詳細は公共の電波には乗らなかった。

 乗らなかっただけで、ネットにはでているのだが。




「テレビつけないで」


 桂がリモコンに手を伸ばしたのでそう言えば、桂はぴたりと手を止めた。

 が、そんな女ではない。すぐにパッとつけられた。


「あっ」


 鈴が逃げようとソファから立ち上がろうとすると、腕を掴まれて「まあまあ」と物凄い力で座らせられた。

 テレビからはにぎやかな声が聞こえる。

 ニュースだ。しかもこの井戸端会議感、間違いなくエンタメコーナーだ。


「ええー! って。もうびっくりですよお!!」


 その声だけで、鈴はびくっと身体を揺らした。

 桂が「どうどう」と肩をたたく。


「落ち着きな」

「……朝昼晩、どうして芸能人の発言一つを取り上げて楽しそうにするの、この人たち。関係ないじゃん、関係ないじゃん!」

「報道の自由、的な?」

「プライバシーの保護を要求します」

「言論の自由を主張されます」

「ほんじゃあ、どっか別のとこで好き勝手に喋ってどうぞ、わざわざニュースで楽しそうに他人の話をしないでください。公共の電波で話さないで」

「Dとファンの間では取りあえずこの話題で軋轢(あつれき)は起こしてないですよってアピールしてもらってるんじゃないの」

「……そうかもお」

「素直か」


 なるほど、そういう戦略も一つあるのかもしれない。

 そう思うと、鈴は目を開けて、明るいスタジオで楽しげに話している様子を直視できるような気がした。

 芸能レポーターとやらが、大振りなジェスチャーで「ね、びっくりー!」と言っている。この人たちはいつもなににそんなに「びっくり」しているのだろうか。


「まさか、舞台出身の若手俳優の江戸川さんと歌手のニイナが結婚! ノーマークですよ!」


 鈴はぽかんとした。

 小さく「結婚したんだ……江戸川くん……」と漏らす。


「鈴の推しだったっけ」

「小さい劇場で光ってた江戸川くん……」

「あんた昔から売れない若手舞台俳優が好きだもんね。売れたらポイ捨て。原石探すのが好きなんだっけ?」

「相手誰よ……ニイナって誰よ……同じ劇団に彼女いたじゃない!! あの人捨てたの?! 信じられない! はあー、幻滅するわあ! で、詳細は?!」

「あんた……」


 さっき言ってたこと思いだしたら、と桂に言われても、あの素朴な顔をした笑顔の柔らかい、派遣で働きながら江戸川を支えていた舞台女優がどうなったのか、ニイナとはなんなのか気になって仕方ない。

 桂にバシンと頭を叩かれて、鈴はぐにゃぐにゃになってソファにだらける。



「もーいいやあ。どうにでもなれ」



 悟った。

 この手のニュースは根絶されることはない。

 人の恋なんてただの話のネタなのだ。自分に関係ないから面白いのだろう。


 次にもっと目新しい「他人の恋」が出てくるまで、もしくは彼らが飽きるまで、テレビの中で、家で、学校で、職場で、そこらへんのおしゃれなカフェで無言を潰す手段として「スオウがさー」だの「江戸川くんの結婚がー」など言うのだ。

 鈴に止める術はない。

 

「……いいよ、もう。炎上しなかっただけマシなのかも」

「いや、炎上してるっぽい」


 自分をどうにか落ち着かせた途端に、桂からそんなことを言われる。

 思わず、だらしない格好をしていた鈴は飛び起きた。


「今、なんて?」

「炎上。してる。ネットニュースのコメント欄」


 そこか。

 そこがあったか。

 鈴は、スイスイと画面をスクロールしている桂の横顔を恐る恐る見た。


 あの無法地帯でなにを言われているのだろう。

 知らなかったとは言え、謝罪動画配信の最中に勝手に部屋に突入したことだろうか。周りを見ずに説教を続けたことだろうか。それとも、スオウにしつこく告白されたことだろうか。


 鈴の頭の中には、最低、あり得ない、ファン辞める、二度と顔も見たくない、CMのスポンサーに直訴を、などの文字が浮かんで消えない。


 その内スオウはDを辞め、事務所を辞め、そしてこのマンションに帰ってくる。

 彼はどこで働くのだろう。

 元芸能人はどうやって生きていくのだろう。



「ひいい」

「ファンとファンじゃない人が言い争ってるわ」

「……は?」

「だから、ファンが、ファンでもないただ文句言いたい人たちに食ってかかってる」

「……はい?」


 理解できずにいる鈴に、桂は画面を見せた。




 彼女がいると発言したことを「普通言わないでしょ」と小馬鹿にするコメントに、


『スオウは素直なんです』

『隠れてこそこそ付き合う方が汚い』

『人を好きになれる人って、安心して推せる』


 ネットで拾ってきた情報を元に鈴を「幼なじみだって? いい気になってる。絶対わざと動画に出てきた」と批判するコメントには、


『りんりんは知らずに怒鳴り込んできたし』

『タローのこともスオウのこともお母さんみたいに怒ってた。いい子』

『辞めるなって説得してくれたんだけど?』

『スオウはファンのための存在だって言える人なんだよ、りんりんは』

『りんりん悪く言わないで』

『スオウはりんりんがいなきゃダメなんだから』

『あの子はそもそも付き合わないし好きじゃないって言ってる』

『一般の人なんだから、変に炎上させないで』

『りんりんは私たちが認めてるの』

『私たちの一番の味方だと思う』



「あんたを守るために炎上してるね」

「なんでよ?!」


 意味が分からない。

 鈴はがっくりと項垂れて顔を覆ったのだった。


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