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18.夫への執着

「お義母…様?」


 予想外のノティスの返答にブローディアが、茫然とした状態で聞き返す。

 すると距離を詰めてきたノティスが腰を屈めてブローディアの顔を覗き込みながら、自分の右目を指差す。


「そう。14年前に父と一緒に馬車の事故で他界した母。ほら、この瞳の色、肖像画の母の瞳の色と全く同じだろう?」

「本当だわ……。その、気付きませんでした……」


 そんな妻の反応に何故か少し嬉しそうにノティスが微笑む。


「まぁ、私が容姿部分で母から受け継いだのは、この水色の瞳くらいだからね。そもそも母の銀髪のインパクトが強すぎるので、親子だと気付くのは少し難しいかも」


 どうやらノティスは、ほぼ父親似らしい。

 だが、そんな事よりも何故このような母親の肖像画ばかりが飾られている隠し部屋が存在しているのか、その事がブローディアは気になった。


「ノティス様……。その、このお部屋は一体どういったお部屋なのですか?」

「さぁ? それは父に聞いてみないと分からないな。この部屋は父が亡くなった後、執務室と一緒に私が引き継いだから、この部屋も生前父が使っていたままの状態にしてある。だが父には、もうこの部屋の事を聞く事は出来ないけれど……」

「お義父様が使われていたお部屋……」


 改めて室内に目をやるブローディアに、またしてもノティスが寂しげな笑みを向けた。


「この部屋に飾られている母の肖像画の大半は、父が描いたものなんだ。そして何故か父は、それらを隠す様にこの部屋に飾っていた。絵を描く事が趣味だった父だけれど、こんなにも母の事ばかり描いている事が恥ずかしかったのだろう。母にはもちろん、誰にも知られたくなかったのではないかな。まぁ。傍から見れば父が母を溺愛していた事は一目瞭然な程、二人はとても仲の良いおしどり夫婦だったのだけれど……」


 そう言って、ノティスが狭い室内を改めてじっくりと見回す。

 その視線の動きにつられて、ブローディアも室内に視線を巡らせた。

 そして何故、描かれた絵に画家のサインが入っていないかも理解する。


「そもそも私もこの部屋に最後に入ったのは、15年以上前なのだけれど……」

「え……?」

「まぁ、正確に言うと急に両親が他界してしまった14年前以来かな? 私はそれ以降、この部屋に入る事が出来なくなってしまっていたから……」

「入れなくなっていた? 何故でしょうか……」


 ブローディアのその質問にノティスが、今にも泣き出しそうな笑みを浮かべた。


「ここには父が描き上げた幸せそうな母の肖像画ばかりが飾られている……。それらを見てしまうと、家族三人で幸せに過ごしていた生活が鮮明に蘇って来てしまって……。当時両親を亡くしたばかりの私にとっては、この部屋は幸福な時から絶望な状況に一気に突き落とされた現実を突き付けられているようで、あまりの辛さから、この部屋に入れなくなってしまったんだ……」


 そのノティスの返答にブローディアの血の気が、さぁーっと引いた。


「も、申し訳ございません!! 存じ上げなかったとはいえ、そんな辛いお気持ちになってしまうお部屋に入室を促してしまって……」

「違うよ、ディア。今日、君がこの部屋に入るように仕向けてくれたから、私は14年ぶりに父が使っていた母への愛情が溢れかえっているこの部屋に再び足を踏み入れる事が出来たんだ……。恐らく、君が一緒だったから……。だからこうして、幸せだった生前の両親の記憶をやっと懐かしむ事が出来るようになっている自分に気付く事が出来たんだと思う」

「ノティス様……」

「まぁ、この部屋に再び入れるようになるまで、14年も掛かってしまったけれどね……」


 そう言ってノティスが、室内の小さなテーブルの表面を指先でそっとなぞる。


「アルファスとミランダにも礼を言わないとな……。入れない私の代わりにまめにこの部屋を掃除してくれていたから……」

「アルファスとミランダもこの部屋の存在を知っているのですか?」

「うん。アルファスは父から聞いていたみたいだけれど、ミランダは掃除中に偶然見つけてしまったらしい。その時は、まだ父も生きていた頃で……ミランダに知られた父は必死で母には言わないで欲しいと懇願していたそうだよ?」

「お義父様は、随分と恥ずかしがり屋な方でしたのね……」

「いや。父でなくても私も同じ立場だったなら、懇願していたと思う……」


 そう言って穏やかな笑みを浮かべているノティスは、急に他界してしまった両親の事を思い出話として懐かしみながら誰かに話せるようになるまで14年間もかけて、やっとその死と向き合う為の気持ちの整理がつけられたのだろう……。


 大切な人の死を受け入れる事がどれだけ辛い事なのか、まだ両親が健在で人生経験も浅いブローディアには、ぼんやりとしか想像がつかない……。

 だが今の夫の様子から、そう簡単な事ではないという事は理解出来る。

 そんな思いから、思わず同情的な視線を夫に向けてしまうと、夫がゆっくりと手を伸ばしてきて、ブローディアの頭を優しく撫で始めた。


「私よりも君の方が泣き出しそうな顔をしているよ?」

「そんな事……ありません……」

「ほら、声まで涙声になりかけている」

「なっておりません!」


 キッと睨みつけながらブローディアが強がると、やっとノティスがいつもよく見せてくる笑顔を返してくれた。その事にブローディアが少し安心する。


「ちなみにこの部屋の存在を知っているのは、邸内ではアルファスとミランダだけだ」


 急にそう告げて来たノティスにブローディアが一瞬、キョトンとした表情を浮かべた。その反応を面白がる様にノティスが口の端を少しだけ上げる。


「後は……幼少期の頃にたまたまこの部屋を見つけた私と、その当時一緒に遊んでいた従兄妹のマニントン兄妹……今のマニントン伯爵のハウエルと、君に嘘の情報と共にこの部屋の存在を教えてきた妹のフィリーナなくらいかな」


 ノティスのその言い方にブローディアが唖然とする。


「な、何故、わたくしにこの隠し部屋の事を教えてくださったのが、フィリーナ様だとお分かりになるのですか!?」

「だって、そんな事をする人間は、この4人の中では彼女しかいないから」

「もしやノティス様は……ご自身が過去フィリーナ様より好意を寄せられていた事に気が付かれていたのですか?」


 その質問にノティスが、何ともバツの悪そうな表情を浮かべる。


「ディアは、この間の王妃殿下主催の夜会でフィリーナに接触したんだよね? その時、彼女は私達の結婚式に参列出来なかった理由を言っていたかい?」

「詳しくは伺っておりませんが……。確か諸事情で参列出来なかったと……」

「彼女はね、実はある出来事が切っ掛けで、このホースミント家への出入りをずっと禁止されている人間なんだ」

「えっ……?」

「ちなみにこの間の夜会は、偶然参加が重なってしまっただけで、本来私が参加する夜会には、フィリーナを参加させないようキャスケード子爵に話をつけている。あの後、子爵はすぐに気付いて彼女と一緒に会場を去ったとの報告は受けていたが、フィリーナが君と接触してた事までは、子爵も把握していなかったのだろう。その為、私は今日まで君が彼女に接触されていた事に気付けなかった……」


 またしても予想外の事をノティスに告げられ、驚いた表情のままブローディアが夫の顔を凝視する。


「ど、どういう事ですか!? フィリーナ様とお話をした際、そのような素振りなど全く……」

「ディア……。今から君が不快感を抱くかもしれない嫌な昔話をするけれど、いいかい?」

「それは……フィリーナ様の出入り禁止の件と関係ございますか?」

「関係どころか、その事が決め手で彼女は出入り禁止になったんだ……」


 そう呟くノティスは、珍しく不快感を露わにするように眉間に皺を刻む。

 初めて見た夫のその表情にブローディアが、やや驚く。

 だがこれから聞かされる話は、それだけ夫が不快感を抱く内容なのだろう。


「聞かせて……頂けますでしょうか」

「わかった。まずフィリーナなのだけど、彼女は私の母の妹の娘で私よりも二つ年下なんだ。そして私よりも一つ年上で現マニントン伯爵のハウエルが彼女の兄だ。二人共、幼い頃からホースミント家にはよく遊びに来ていて、私は兄妹がいない事もあり、年下のフィリーナを妹のように可愛がっていた。フィリーナの方も、そんな私を第二の兄のように慕ってくれていたと思う。だが、フィリーナは成長するにつれて……」

「ノティス様を一人の男性として見られるようになってしまわれた……」

「ああ……。私がその事に気が付いたのは、彼女がまだ12歳の頃だった。最初は何故私と婚約が出来ないのかと、冗談めいた雰囲気で駄々をこねるだけだったが……。それが段々エスカレートしていき、14歳になると私の祖父に君との婚約が理不尽過ぎるから解消して欲しいと、直談判までするようになってしまって……」

「それが原因でホースミント家への出入りを禁止に?」


 そのブローディアの質問にノティスが目を閉じて、静かに首を左右に振る。


「一番の原因は、彼女が15歳の頃に取ったある行動だ……。その当時、ホースミント家では、祖父の誕生祝いを私が企画して、両親の親戚を屋敷に招き、身内だけのパーティーを開いたんだ。そしてパーティーが終了後、親戚達がゆっくり出来るように客室に泊って貰う事にしたんだ。その時、私はフィリーナの兄ハウエルと久しぶりに積もる話がしたくて、明け方まで私の自室で飲み明かそうという話になった。だが、ワイン数本とつまみを持ってハウエルと共に自室に戻ったら……。私の寝台にフィリーナが潜り込んでいたんだ……」

「なっ……!!」


 あまりにも酷い話の展開にブローディアが、口をポカンと開けて絶句する。

 その様子を見たノティスは、更に眉間に皺を深く刻み、盛大に息を吐いた。


「そ、それは……いわゆる夜這いでは……?」

「そうだね……。ただ幸いな事にこの日、私とハウエルは酔っぱらってもすぐに横になれるよう寝台の上で、ダラダラと寝転がって飲み明かそうという話になっていて、そのまま二人で寝室に直行したんだ」

「そ、その状況は……」

「うん……。ハウエルにとっては、従弟とダラダラ楽しく飲み明かそうと、酒とつまみを持って意気揚々と寝室に入ったら、自分の妹が従弟の私に夜這いをかけようとしている現場に出くわしてしまったという状況だね……」


 そのあまりにも恐ろしい修羅場な状況を想像してしまったブローディアは、青白い顔をして夫を見やる。そんな視線で話の続きを催促してくる妻にノティスは、重い口を何とか開き始める。


「その状況に兄ハウエルは激怒してフィリーナを怒鳴りつけ、すぐに自分の父親に報告した。対してフィリーナの方は、昔を懐かしんで子供の頃のように一緒の寝台で私と眠りたかっただけだと主張したそうだけど……」

「そのような言い訳は、誰も信じませんわね……」

「日ごろからフィリーナが私に対して抱く執着の酷さを周りは懸念していたから、彼女の父である当時のマニントン伯爵と私の祖父が話し合いをし、フィリーナのホースミント家への出入りを一切禁止したんだ。私との接触も今後は徹底的にさせないようにする事で話しがついた……。それでも彼女の私に対する執着が酷くて……。当時のマニントン伯爵が、彼女が成人したと同時に今のキャスケード子爵の許へ嫁入りさせたんだ。もちろん、ホースミント家への出入り禁止と私への接近禁止の件もしっかり監視して欲しいと告げて……」


 そこまで語り切ると、ノティスは頭痛をこらえるように俯きながら、右手で両目を覆った。そんなノティスにブローディアが、室内のロッキングチェアに座るように勧めてみたが、それをノティスがやんわりと辞退する。


 だが今のとんでもない話を聞いていたブローディアは、夜会で出会ったフィリーナのある状態を思い出し、疑問を抱く。


「ですがノティス様、先日フィリーナ様にお会いした際、現在三人目のお子様をご懐妊中と伺ったのですが……。ご主人であるキャスケード子爵とは、上手くいかれているのですか?」

「私も気になってハウエルに聞いてみた……。どうやらキャスケード子爵は、フィリーナよりも5つも年上で、温厚でかなり大人の対応が出来る男性だそうだよ。だからなのか、初めは発狂するようにフィリーナもその結婚を拒絶していたのだけれど、穏やかなキャスケード子爵が根気よく彼女に優しく接してくれたお陰で、今では兄に甘えるような妹のように彼とは過ごせているらしい。ただ……やはり情緒的には不安定にはなりやすいようで、たまに癇癪を起しては、夫に宥められて持ち直しているような状況とは聞いている……」


 そう話すノティスは、フィリーナのその病的なまでの自分への執着する様子から、抱かなくてもいい責任を抱え込んでしまっているようにブローディアは思えた。同時に何故そこまで、フィリーナがノティスに執着してしまったのかも引っかかる。


 確かに夫ノティスは整った顔立ちをしてはいるが、一人の女性を狂わす程のものではない。それならば、ブローディアの兄ラミウムの方がよっぽど美形だ。

 しかし何故かフィリーナは、病的にノティスを求めていた。


 そして更に気になるのが、そのフィリーナの気持ちに気付いていた当時のノティスの心境だ。すでに三児の母になろうとしているフィリーナの姿しか知らないブローディアだが、それでもまるで妖精のような儚く美しい容姿をしている女性だと感じたので、10代の頃など絶世の美少女として周囲に扱われていたはずだ。そんな女性に重すぎるとはいえ好意を抱かれていたノティスは、心動かされなかったのだろうか……。


 何よりも不思議なのが、当時の周囲の大人達が彼女をかなり過剰に危険分子と見なしている事だ。

 確かに15歳の少女が男性に夜這いをかけるなど、とんでもない事である……。

 だが、身内である彼女にそこまで徹底してノティスへの接触を断つ対応は、いささか過剰過ぎるのではとブローディアは感じてしまう。

 そんな疑問を抱いてしまったブローディアは、やんわりとノティスにぶつけてみる。


「あの先程から気になっていたのですが、ノティス様は結局フィリーナ様より愛の告白をはっきりとされた事がおありなのでしょうか……」

「いいや、ない。ただ、ずっと君との婚約が理不尽なものだから解消するべきだと言われ続けてはいた……。だからその際、君との婚約は祖父同士の約束とは別として、私自身も納得しているものなので、この先その婚約を解消する事はないと、はっきり彼女には告げている」

「そう……ですか……」

「それでも彼女は、私の事を諦めきれなかったのだろう。だからあのような事を……」


 そう零したノティスは、どこか後悔の念を抱いているような表情を浮かべていた。恐らく当時、もう少しはっきりとした拒絶をしていれば、フィリーナがあそこまで自分に執着する事はなかったのではと考えてしまうのだろう。

 だが、それはノティスが責任を感じてしまう事ではない。

 たまたまフィリーナの人間性に問題があっただけだ。


「ノティス様……。大丈夫ですか……?」


 初めて思い詰めていそうな表情を自分に見せてきた夫に思わずブローディアが右手を伸ばし、労わるように夫の頬に優しく手を添える。

 すると、ノティスがその右手の上から自分の手を重ねてきた。


「普段はつれないのに……弱っている時の私には、君は甘くなるのだな」

「誰だって弱っている方を目にしたら、自然と労いたくなります」

「やはり君はつれないなー……」


 そう言ってノティスは、自分の頬に添えられたブローディアの右手を手に取り、甘えるようにその手の甲に軽く口付けを落す。そうやって、この重苦しい空気を変えようとしてきた夫の行動にブローディアが苦笑した。


「まぁ、フィリーナが嘘の情報と共にこの隠し部屋の事を君に告げてきたのは、恐らく八つ当たりに近い感情からの嫌がらせだろうな。それで私との間に少しでも波風が立てばいいとでも思ったのだろう……。だが、まさか君が直接私にこの件をすぐに確認するとは、彼女も予想出来なかったようだ。お陰で波風どころか、私が君に惚れ直す切っ掛けにしかならなかったからな」

「まぁ。ノティス様はわたくしに惚れていらしたのですか?」

「もちろん。君は初めて顔を会わせた時から、とても聡明で意志の強そうな凛としたオーラをまとっていたからね。おまけに見た目も華やかで美しいのだから、私にとっては最高の奥さんだ」

「その妻となるべき女性を17年間放置されていたのは、どなたかしら?」


 調子のいい事を口にする夫に白い目を向けながら、ブローディアは夫に取られていた右手をスッと引き抜いた。


「痛いところを突くね……。でもそういう君こそ、どうして今回フィリーナの浅はかな策略に敢えて引っかかるような真似をしたんだい?」

「え……?」

「聡明な君はフィリーナの話が、すぐに嘘だと判断している。だが、そうではない可能性を少しでも感じたから、この隠し部屋の真相を私に直接確認する事にしたのだろう? 君がその可能性を感じてしまった部分は何かな?」


 急にいつもの意地の悪い笑みを浮かべて挑発してきた夫が、無駄に優れた考察力を披露して来た事にブローディアが呆れるようにため息をつく。


「ノティス様は本当に油断のならない方ですね……」

「ダメだよ、ディア。話は逸らさせないから」

「……今回、フィリーナ様から聞かされたお話内容が完全に捨てきれなかったのは、ノティス様がこの17年間、わたくしとの顔合わせをお式直前まで故意に引き延ばされていた経緯がおありだからです」

「え……っと、その件については、仕事が多忙だと伝えたと思うのだが……」

「ノティス様、随分とわたくしを見くびっておられるのですね……。あなた程の優秀な外交官が、仕事の多忙さを理由に17年間一度も婚約者との面会機会を捻出出来なかったという話は、いささか無理がございます」


 ブローディアのその言い分にノティスが、一瞬だけ大きく目を見開いた。

 だがすぐに今度はノティスが、盛大にため息をついた。


「君も本当に油断ならないな……。人の事を言えた義理ではないぞ?」

「あら、でもこのように聡明なわたくしだからこそ、あなたは惚れてくださったのでしょう?」

「本当ぉぉぉーに、小憎たらしいほど君は愛らしいね……」


 そう言って呆れた表情を深めたノティスは、そっとブローディアの手を取り、この部屋を出るよう促して来た。


「ノティス様? どちらに?」

「寝室」

「はぁ!? この状況で何を考えていらっしゃるのですか!? 流石にそういう気分にはわたくし、今はなれませんわよ!!」

「あはは。そうだねー」

「ふざけないでくださいな!」


 ブローディアが抗議しながら、引かれている手を振りほどこうとすると、ノティスがその手を思いきり自分の方へと引っ張り、そのままブローディアの腰を抱き寄せる。急に上半身を反らされたブローディアが上からノティスに顔を覗き込まれるような体勢にされ、驚くように目を見開いた。

 そんなブローディアに何故かノティスが、痛みを堪えるような笑みを向けてくる。


「いいや、絶対に寝室の方がいい。何故ならこれから私が話そうとしている事を聞いてしまったら……優しい君は必ず私を深く抱きしめたくなるから……」


 そんな夫の思い詰めたような痛々しい笑みを向けられたブローディアは、抵抗する事をやめ、そのまま大人しく夫に手を引かれながら寝室へと移動した。

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