1.婚約17年目にして初の顔合わせ
※当作品は2023年7月に『小さな殿下と私』内で連載していた作品になります。
(話数が多い為、別作品として投稿し直しました)
【★読まれる前の注意事項★】
・ヒロインを試す行為をする腹黒策士ヒーローは嫌いだ!
・重い展開のある話が苦手だ……。
(※ヒーローの過去話が『残酷な描写』に該当)
・明らかにR18要素を仄めかす展開が多い作品は苦手。
(※該当のお話にはタイトルに『※』が付いてます)
・大元の『小さな殿下と私』のお話があまり好きではなかった。
(↑の主人公達がチョロチョロ出てきます)
上記内容で地雷該当するものがある場合、読まれる際はお気をつけください。
尚、読まれる場合は自己責任でお願いいたします。
それでは、どうぞ作品をお楽しみくださいませ。
婚約期間17年目にして初の顔合わせとなる婚約者の元を訪れたブローディア・ガーデニアは、邸内の重厚感ある見事な調度品の数々を目にし、一瞬だけ息をのむ。
その反応に気付いたのか、案内をしている初老の執事が一瞬だけ目を細めた。
だが、そんな事で怖気づく小娘だと思われたくなかったブローディアは、何事も最初が肝心だと自分に言い聞かせながら、背筋を真っ直ぐに伸ばす事で何とか持ちこたえる。
爵位が同じなのだから、格の違いをこちらが認めてしまっては使用人達に見下されてしまう……。そう思い、敢えてブローディアは凛とした雰囲気を保って執事の案内を受けた。
尚、本日初の顔合わせとなる婚約者だが……ブローディアが生まれる前から、すでに婚約が決められていた相手だ。だがブローディアは、17歳になるまで婚約者とは一度も会った事がない。
何故、そこまで婚約者との顔合わせの機会がなかったのか……。
それはブローディアが婚約相手の男性よりも一回りも年下だった事と、婚約者が国外での外交業務をメインに携わっていたからだ。
ブローディアの嫁ぎ先予定でもあるホースミント伯爵家は、代々ルミナエス国の主力でもある外交官として近隣諸国との関係醸成に力を注いできた由緒ある伯爵家である。その為、国内よりも国外で外交活動をする機会が多かった。
ましてや、現当主でブローディアの婚約者のノティス・ホースミント伯爵は、馬車の事故で早くに両親を亡くした為、僅か13歳でその家督を継いでいた。
そんなノティスは、初めの4年程は彼の祖父である先々代のホースミント伯爵の助けを受けながら家業をこなしていたようだが、元々優秀な若者だった為、18歳頃になるとやり手で頭の切れる若き外交官として、社交界でもその名を馳せている。
だが、国外での外交活動を任される事が多かった為、社交界には滅多に姿を現わす事がなかった。そもそも国外での外交活動が多かった理由が、やり手なだけでなく、若く独身という部分に目を付けられてしまったからだ。妻帯者や家庭持ちの外交官達と比べてフットワークが軽いと判断され、重宝されてしまったらしい。
一回りも年下の婚約者であるブローディアとは、彼女が年頃になるまで顔合わせを先延ばしにしていたそうだが、その部分も国外での外交活動を押し付けられてしまう要因となっていたようだ。ノティス自身もまさかここまで国外外交ばかりを担当させられるとは、予想出来なかったらしい。
そんな状況下でもブローディアが社交界にデビューをした頃から、婚約者同士の交流となる手紙のやり取りや贈り物等はマメにしてくれていた。
だが10歳も年下の一度も面会した事のない相手への手紙は、当り障りのない事しか書けなかったようで……。ノティスからの手紙は、毎回社交辞令用の例文によくある言葉ばかりが並んでいた。
そんな多忙な外交官伯爵が、何故か急にブローディアとの結婚を視野に入れた動きをここ最近見せ始めたのだ。恐らく祖父である先々代のホースミント伯爵が全く進展しないまま、いきなり結婚生活に突入しようとしている二人の関係に懸念を抱いたのだろう。
そもそもブローディア達の婚約は、この先々代のホースミント伯爵からの強い要望で結ばれたものだったのだ。
その昔、まだ二十代前半だった先々代のホースミント伯爵は、外交先の隣国内を移動中に山賊に襲われた過去を持つ。その際、かなり手慣れた山賊集団だったようで、護衛は皆殺され、伯爵は金目の物を全て奪われた挙句、御者と従者と共に馬車に無理矢理押し込められ、そのまま谷底に突き落とされたそうだ。
だが、運がいい事に伯爵は谷底に落下している最中に馬車から投げ出され、近くの岸壁の出っ張り部分に引っ掛かり助かる。
しかし、山賊達によって衣類をほぼはぎ取られ、何の道具も食料もない状態の箱入り伯爵が、鬱蒼とした山奥で生き延びるには厳しい状況だった……。
そんな時、たまたま捜索隊として派遣されていたルミナエス国の第三騎士団に駆け出し騎士として所属していた十代後半のブローディアの祖父が、彼を発見したのだ。
その後、ブローディアの祖父はかなり衰弱し切っていたホースミント伯爵に対して親身に接し、応援の救助隊が駆けつけるまで懸命にサポートをしながら、何とか彼を無事に帰還させた。
その事が切っ掛けで二人は、5つ以上も年が離れていたが親友となる。
その後の二人はそれぞれ妻帯者となり、その際に「もし将来女の子が生まれたら、是非ホースミント家の嫁として招き入れたい」という話が、先々代のホースミント伯爵から出たそうだ。
同じ伯爵令息とはいえ、ブローディアの家であるガーデニア伯爵家は、元々はやり手の商家上がりの成り上がり貴族で、祖父の代以降は中流階級の武骨な騎士伯爵の家系だと周囲からは見られていた。その為、ブローディアの祖父は友人の格式高い伯爵家との繋がりを得られる事に大いに喜んだそうだ。
しかし残念な事に祖父達の代では息子しか生まれなかった……。
その為、この話は孫であるブローディア達の代まで持ち越される事になる。
結果、孫の代でガーデニア家が一男一女に恵まれた為、ブローディアとホースミント家の一人息子であるノティスとの婚約が成立した。
しかし、祖父達はこの互いの子供達の婚約を交わした際、ある弊害が生じる事には気付けなかったらしい。熱い友情が芽生えた祖父達の段階で、すでに二人は5歳もの年の差があった事だ。
当然、二代目であるブローディア達の両親達の代になれば、更にその年の差が開く。仮にこの時点でどちらかの家に女の子が生まれていた場合でも、かなり年の差のある婚約が交わされていただろう。それが孫の代まで先の延ばしになったのだから、10歳差もある婚約関係になってしまうのは当然の結果である。
そんな二人の10歳差もある婚約関係は、いくら年の差婚が多い貴族社会とは言え、かなり稀なケースとして扱われた。ましてやノティスは外交官として世間からの評価が高かった為、ブローディアとの婚約は周囲から不憫なものとして捉えられる事が多かったはずだ。
その為、婚約者であるノティスも親身になってブローディアとの交流を図ろうという気持ちになれなかった可能性が高い。
しかもノティスが初めて婚約者が出来たと告げられた当時、彼はまだ多感な年頃である15歳の少年だったそうだ。そんな時期に自身の婚約者が、まだ5歳の幼い少女と知った時の彼の衝撃は、さぞ大きかっただろう。
そう考えると、祖父達によって勝手に結ばれたこの理不尽な歳の差婚約でも、短い手紙や贈り物を頻繁にしてくれていたノティスは、誠実な方である。
そんな自身の立場を弁えているブローディアは、出来るだけ先方に手間をかけさせないようにと、一人前の淑女として振る舞う事を心掛けようと改めて気合を入れる。
ブローディアがそんな決意を固めていたら、いつの間にか婚約者の執務室に到着していたようで、案内をしてくれた執事がその扉をノックした。
「若旦那様、ご婚約者のブローディア様をお連れしました」
その呼びかけに「入ってくれ」と返事があり、扉を開けた執事が丁重にブローディアを室内へと促す。
現状、引退した先々代のホースミント伯爵は別邸で暮らしているのだが、外交関係で孫のノティスの手が回らない状態になると未だに手助けをしてくれるようで、使用人達からも『大旦那様』と呼ばれ慕われているそうだ。その為、ノティスが『若旦那様』になるのだろう。
祖父と孫の強い信頼関係が見て取れたブローディアは、どうやらこの家では未来の夫となるノティスだけでなく、『大旦那様』である先々代のホースミント伯爵にも気に入られなければならない事を察する。
その事も念頭に置きながら姿勢を正したブローディアが、ゆっくりと執務室の中へと歩みを進めると、書類をまとめてながら室内をせわしなく動き回っている男性二人が視界に入って来た。
すると身なりの良い線の細い長身の男性が、ブローディアの方へ視線を向ける。そして何故か一瞬だけ大きく目を見開いた後、取り繕うようにすぐに柔らかい笑みを浮かべ直した。
その笑みを浮かべたまま手にしていた書類の束を机の上に置き、ブローディアの前までやってくると、紳士的な挨拶を優雅に披露する。
「お初にお目にかかります。我が婚約者殿。ノティス・ホースミントと申します。長きに渡り、婚約関係を結んで頂いているのに今まで全くご挨拶する機会が設けられず、大変申し訳ございませんでした……」
やや困ったような笑みを浮かべながら挨拶をしてきた伯爵は、期待の若手外交官だけあって、目を惹く恵まれた容姿や所作のみならず、声の高さや話す速度が大変心地良く、一瞬で相手の心を鷲掴みにしてしまいそうな雰囲気を持っていた。
サラリとしたこげ茶色の横分けにした前髪を後ろに軽く流し、透き通るような水色の瞳に柔らかい光が、とても印象的である。身長は貴族男性では平均的な170cm半ばくらいという感じだが、身体の線が細い為、目の錯覚で高身長にも見える。
それでも小柄なブローディアからすれば、充分背が高い方に入る方だ。
「ブローディア・ガーデニアと申します。お忙しい中、一瞬でも顔合わせのお時間を作って頂き、誠にありがとうございます。この後すぐに隣国に向かわれるご予定と伺っておりますが……ご準備等はもうよろしいのでしょうか?」
現状の慌ただしい二人の様子を知った上で、敢えてブローディアは余裕がない状況である事を指摘するような事を口にする。
するとノティスが申し訳なさそうに苦笑した。
「実は明日より隣国と我が国が合同で行うとある式典について、本格的な打ち合わせが始まるので、すぐにこちらを発たなければならないのです……」
「昨夜、帰国したばかりなのにですか……?」
「はい。実は昨日までは西側の王家の方々と、その式典に参加される為の流れと護衛体制の打ち合わせで出国しておりまして……。本日向かうのは東側の国になります。本来なら、別の外交官と分担し、同時に打ち合わせをすれば良いのですが……。ありがたい事に東西両国の王家より対応する我が国の外交官は、私でと指名が入ってしまって……」
「まぁ……。それではホースミント伯は他国の王族の方から、絶大な信頼を得ていらっしゃるのですね」
「どうなのでしょうかね……。単純にここ5年程は、両国に出向く外交担当を私が担っていたので、話が早い相手と認識されているだけな気がしますが……。それと私の事は、どうぞノティスとお呼びください」
柔らかい笑みをふわりと浮かべ、ブローディアが話しやすい雰囲気を一瞬で見極めてきた様は、流石やり手と評される外交官といったところか。
同時に何故、ノティスはここまで国外外交ばかりを任されてしまっているかの背景も少しだけ見えてくる。独り身の外交官は、既婚者よりも動けると判断され、国外での対応を押し付けられやすいのだ。
その事を少し仄めかしてきたノティスだが、ここまで慌しい担当業務に甘んじているのは、もっと別の理由からではないかとブローディアは推測する。恐らくノティスは、婚約者のブローディアとの交流は出来るだけ先送りにしたいと感じているのだろう。
その証拠に先程初めてブローディアの姿を目にしたノティスは、一瞬ではあったが明らかに驚きの表情を浮かべていた。そしてそのような反応をされてしまった原因と思われる部分を確認するかのようにブローディアは、本日の自身の服へと目を落とす。
外交に携わる夫を持った場合、その妻も共に外交先へ赴き、先方の細君などと女性同士の関係醸成を図る機会が多い。その為、外交官の妻は少々派手目で流行に敏感というアピールも重要になってくる。
今回その事も踏まえ、敢えて華やかさを重視した最近流行の胸元がすっきりしたデザインのドレスを選んできたブローディアだが……。どうやらホースミント家が好む雰囲気を読み間違えてしまったらしい。この場合、流行や華やかさよりも品位と清楚な雰囲気を重視したコーディネイトが正解だったようだ。
まさかやり手の若手外交官が落ち着いた雰囲気を売りにしているとは思わなかった為、己の浅慮な判断をブローディアは反省する。
そもそもこの華やかさ重視のコーディネイトの方が、男性相手の交渉時は話が進めやすくなる事が多いと経験上知っていたブローディアは、こういった服装の方が好印象を持たれると予想していたのだ。
しかし、ホースミント家の外交スタイルは、視覚的に相手を惹きつけるのではなく、人柄や誠実そうな雰囲気を武器にしているらしい。
恐らく今のノティスの中でのブローディアは『性格がきつそうな派手好きの頭が弱そうな令嬢』というイメージが付いてしまっている可能性が高い
父や兄達から社交場で商談がある際は、隣に華やかな格好をしたブローディアがいると、こちらの意図した内容で交渉が進めやすいからと懇願され、そのようなコーディネイトで公の場に参加する事が多かったブローディアだが……。
まさかその交渉スキルが、今回の婚約者にとっては、マイナス要素になるとは、流石に読み切れなかった。そう考えると、先程この部屋に案内してくれた執事と後ろに控えている侍女長らしき女性からも、やや冷ややかな視線を一瞬だけ向けられた事にも頷ける。
だが、たった一度の読み間違いで与えてしまったマイナスな印象にブローディアは甘んじるつもりはなかった。要は明日から、この家の格調や雰囲気にあった服装と言動に変更すれば良いだけの事だ。むしろ瞬時にその切り替えが出来る自分をアピール出来る機会を得たと、今は前向きに捉える。
そもそも今夜中に東側の隣国へ発つノティスは、しばらくはこの邸には帰って来ないはずだ。その間に使用人達がブローディアに抱く印象を一気に変える事が出来れば、帰国したノティスを大分懐柔しやすくなるとブローディアは考えた。その為には、まずノティスが隣国に滞在する正確な期間を把握しておく必要がある。
「ノティス様、東の隣国にはどのくらいの期間、ご滞在されるのでしょうか?」
「その……大変申し訳ないのですが、合同の式典が行われる日が今から二ヶ月後なので、その直前まで帰国は難しいかと……」
「まぁ! ほぼ二カ月間も……」
不安げにそう呟くブローディアだが、むしろ大歓迎な状況である。
その気持ちが表に出ないように気を付け、扇子で口元を隠した。
だが、そんなブローディアを見つめるノティスの目が一瞬だけ細まる。
その一瞬の変化に気付いたブローディアは、扇子で隠した口元を引きつらせた。
まさか今、自分がその状況を歓迎している事に気付かれたのではないか……。
そんな考えが一瞬だけ過ったが、それはノティスの次の言葉で一気に消し飛ぶ。
「折角、挙式までの交流期間として早目に我が家にお越し頂いたのに大変申し訳ございません……。ですが、私が不在中のこの二カ月間は、こちらの執事のアルファスと、この後に紹介させて頂く家令のロイド、そして私の伯母にあたるサイドラー伯爵夫人より今後ホースミント家の伯爵夫人としての振る舞い方などをご説明させていただければと思います」
ノティスのその話から、明日から二カ月間に及ぶホースミント家の次期伯爵夫人としての自分の花嫁修業が始まると察したブローディアは、内心その挑戦し甲斐のある状況に胸を高鳴らせた。
だが、あくまでも『身一つで嫁ぐ予定の不安げな婚約者』という演技も忘れない。そもそも慣れない格式高い伯爵家の夫人教育を受けながら、これまた初対面に近い婚約者との関係醸成を同時に行う事を考えれば、かなり好転した状況である。
まずは婚約者のノティスが不在の二カ月間中に邸の使用人達の信頼を勝ち取って自分の方へ取り込み、仕事とはいえ結果的に自分を放置した未来の夫を見返してやろうと、ブローディアの中で野心が芽生える。
「かしこまりました。不慣れな所が多々あるかと思いますが、ご指導頂ける方々を手配頂き、大変助かります。ノティス様がご不在中の二カ月間、精一杯学ばせて頂きます」
「こちらこそ、来て頂いたばかりの状態で満足に対応出来ず、誠に申し訳ございません……。本日はどうしても夕方までには、こちらを発たなければならないのです。もし身の周りの事で困った事があれば、すぐにこちらの侍女長のミランダにお申し付けください。邸内の事に関しては執事のアルファスが一番詳しいので、遠慮なくお声がけくださいね」
そう言って先程から控えていた侍女長のミランダと、執務室まで案内をしてくれた執事のアルファスが静かにブローディアに頭を下げてきた。
「お二人共、どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします、ブローディア様」
「お困りの事があれば、何なりとお申し付けくださいませ」
ノティスもいるので先程よりかは少し表情が柔らかくなった二人だが、現在の自身の服装の所為で、派手好きで頭の軽そうな令嬢と判断されている可能性が高い事をうっすらとブローディアは感じていた。
ならば、この後に部屋に案内されたと同時にいつも好んで着ているもう少し落ち着いたデザインのドレスに着替えた方がいいと判断する。
「それではミランダ、この後ブローディア嬢を部屋に案内してくれ」
「かしこまりました」
ノティスの言葉から、今後は身の周り関係については侍女長のミランダが中心になって対応させるよう手配してくれているのだろう。初対面で交流を目的に邸に招いたばかりの婚約者を故意では無いとは言え、二カ月間も放置してしまう状態になるので、その辺は使用人達とかなり打ち合わせをしてくれている様子が窺える。
「それにしても……17年間もお会いする機会がなかなか設けられなかった婚約者殿が、まさかこんな素敵な女性に成長されていたとは……。こんな素晴らしい状況が待っていたのであれば、意地でも早い段階で顔合わせの機会を捻出すれば良かったと、非常に後悔しております……」
やや申し訳無さそうに苦笑しながら後悔の念をこぼす若き外交伯爵は、今はやり手と噂されるギラギラした様子が全く感じられなかった。もしかしたら穏やかな雰囲気をまとい、温厚そうな人柄で相手を懐柔していくスタイルで外交を行っているのかもしれない。
そんな推測をしながら、ブローディアが謙遜する言葉を口にする。
「わたくしは、まだ17の無知で世間知らずの小娘でございます。これからたくさんの事を学ばなくてはならない事も理解しておりますので、あまり買い被らないくださいませ」
「そうでしょうか? 私からすれば17歳とは思えない程、ご自身の考えをしっかり持っているご令嬢のように感じられるのですが……」
「そんな事は――……」
「ですから、二ヶ月後にあなたと再会出来る日が待ち遠しくて仕方がないです」
にっこりと柔らかい笑みを浮かべながらも、何故かブローディアの言葉に被せるように力強く宣言してきたノティスの様子にブローディアが、一瞬だけ目を見開く。何故ならその時のノティスの微笑みからは、挑発的な雰囲気を感じ取ってしまったからだ。
一瞬、どう反応してよいか判断に困ったブローディアの動きが止まる。
だがそんな二人のやり取りは、先程からノティスと共に出立の準備をしている補佐役の男性の声掛けによって中断された。
「ノティス様、そろそろご準備の方を……」
「ああ、すまない。ブローディア嬢、大変名残惜しいのですが、そろそろ本格的に発つ準備をしなければなりませんので……」
そう言って困った笑みを浮かべて来たノティスには、先程感じた挑発的な様子はきれいさっぱりなくなっていた。
その為、ブローディアは自分の勘違いだったという考えに落ち着く。
「こちらこそ、ご準備の邪魔をしてしまい申し訳ございません」
「いえいえ。そもそも私が出立前にどうしてもあなたにご挨拶をしてたくて、こちらに足を運んで頂いたので。一時間半後にここを発たなければなりませんが……見送りをして頂けますと、大変光栄です」
「もちろん」
「ありがとうございます。では、これからミランダより今後あなたが使われる部屋へと案内させて頂きますね」
ノティスがずっと後ろで控えていた侍女長のミランダに目で合図を送る。するとミランダが、スッとブローディアの前に出てきた。
「ブローディア様、お部屋にご案内させていただきます。どうぞこちらへ」
「ええ、ありがとう。それではノティス様、また後程」
ブローディアが軽めのカーテシーを披露すると、ノティスが柔らかい笑みを返してくれたが、すぐに真剣な顔つきになって先程の補佐役と準備の為の打ち合わせを始め出す。
その様子を確認しつつ、ブローディアはミランダに促され、今後長い付き合いになるであろう自室へと向かった。
※現在『小さな殿下と私』で連載していた分は削除済です。
内容はその時とほぼ同じですが、こちらは誤字や言い回しなどを少し修正しております。