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サソリ男  作者: ヒデ
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プロローグ

その世界で俺は「蟲」だった。

この《《カフカ的世界》》の舞台は何処か研究室らしき一室の水槽の中で、部屋で使われている漢字から察するに中国の何処かだと思うのだが、そこでは様々な毒虫達を大きな水槽に入れてお互いを戦わせていた。

目の前のブーンと羽音を響かす大きなスズメバチの攻撃を弾いた俺は黒い鋏でスズメバチの腹を掴み、切断すると同時にもう一方の鋏でスズメバチの頭を掴み咀嚼する。


ここにはそんな水槽が幾つかあり、それぞれの水槽で生き残った毒蟲達をまた別の水槽に集めては互いに戦わせていた。

更にここでは生き残った虫の遺伝子を抽出してウィルスを経由して猿や人間に移す研究をしており、その様は伝奇小説なんかに出てくる「蠱毒」の現代版といったところだ。

そしてある日、ガスで眠らされた実験個体達が何処かに持ち出されて行くところで夢は終わりを告げた。

窓から射しこむ日の光と喉の渇きで目覚めると、冷蔵庫からミネラル水を取り出すと一気に飲んだ。

久しぶりに「あの夢」を見ていたのだ。

俺の周辺に何かの異変が起こる前にはいつも「虫の知らせ」のように「例の夢」を見るのだ。

またそろそろ俺の周りで何かが起こるという暗示なのだろう。


この悪夢を見るようになったのは今から5ヶ月前、昨年10月末に中国で開かれたE–sporsの国際大会「WEG2010」こと「World E-sports Games 2010」への参加がきっかけだった。


当時「尖閣諸島事件」や「ゼネコン社員拘束事件」、はたまた「レアアースの禁輸措置」などと言った中国からの日本に対する挑発行為が重なり、日中間ではこれまでに無い緊張感が高まっていた事もあり、大会への日本の参加が危ぶまれていた中、開催の2週間前にようやく日本チームの招待が決まったのだが、当然だがオファーを受けた選手の中にはスケジュール調整が間に合わない者もおり、

ゲーム大会荒らしとして売り出し中だった俺にまで声が掛かった次第だが、結果として俺がFPSシューティングゲームで優勝した事で日本チームの総合2位入賞にも大きく貢献した。

そんな中、予定していた帰国の便が運休となった事も有り、同率2位のシンガポールチームのメンバー達より親睦を深めると同時に地元の食べ物を楽しんでせめてもの観光気分を味わおうと言う誘いに俺達は二つ返事で快諾した。


実は俺は親父の仕事の関係でつい3年間シンガポールに住んでいた事があり、シングリッシュと呼ばれる訛りのある英語を話す事が出来るが、日本人の口から流暢なシングリッシュが漏れる事に彼等は歓声をあげた。

外国語習得のコツは、それを勉強とは考えないで自転車やパソコンと同様に道具だと思って接するのが上達の秘訣だと俺は思っているが。実はこれはまた身体の使い方にも通じるところが多いのだ。


大会の開催地であるここ湖南省「武漢市」には生きた野生動物を扱う生鮮食品市場が幾つも有るらしく、薬膳料理と称して半茹でコウモリが丸ごと入ったスープを出す店なども有るらしい。今回そんな店に行くのだが、当時俺自身も正直怖いモノ見たさも手伝いワクワクしていた。


夜になると俺たちは監視カメラだらけのホテル周辺を外れて地元通訳の人のオススメだと言う薬膳料理店に連れて行って貰ったが、流石に「半茹でコウモリ」はビジュアル的にNGなのと、伝染病のウィルスの宿主である可能性もあり、俺はアルコールで酔わせたサソリの踊り食いの方にチャレンジしたが、出て来たサソリは俺が予想していたモノよりもサイズが大きく、またその姿からの予想通りの甲殻類っぽい食感と味は悪くなかったのだが帰国したその夜に吐血を伴う高熱に襲われ、一週間近くも病院のベッドの上でうなされながら過ごすハメとなった。


実は俺には生まれつき脳の血管に奇形があり、これまで強いストレスを受けた時に同様の高熱を出した事があった事から当初はそれらと同じケースかと思っていたのだが、これまでとの違いは妙な悪夢を繰り返し見ているという事だった。

そして暫くするとこの夢が「明晰夢」であり、また夢の中ではそのサソリをアバターとして操る事が出来る事が判ると俺と蠱毒サソリとは夢の中で次第にシンクロを始めた。

この蠱毒サソリのアバターの特性としては、まずサソリの9つの目による超視覚がある。

それはスターライトスコープ並みに夜目が効く他、紫外線を認識出来、日中なら女性研究者のカバーマークで隠されたソバカスやシミが見えたりする。

更には、皮膚で感じる磁場や生物の生体電位までもが脳内で視覚情報に変換され「オーラ」として認識出来、その範囲も実験室から離れた場所を行き交う人の振動までが何となく視覚化して視えるのだ。

俺はこの感覚のことを某アメコミヒーローになぞって「スコーピオン感覚」を名付けた。


そうしてアバターとして過ごす体感時間が1月を過ぎようとした頃、俺は悪夢から醒めたのだが、実はリアルな時間軸では4日しか経って居なかった。

そして以前に増して信じられない位にコンディションが良くなっていたのを感じると共に、夢での出来事が実は現実の世界であった事である事を確信するに至った。と言うのも、俺の身体にその頃より「換骨奪胎」とも言うべき変化が生じ始めたからだ。


具体的には手首、足首から先が鉛の様に重くなり、また拳を握ったり筋肉に力を込めると筋組織に沿ってテーピングを思わせる薄い入れ墨の様な模様や筋が浮き出始め、それに伴い瞬発力、持久性共にリミッターを振り切ってしまった。


例えば垂直飛びで160センチを跳び、マッスルアップといわれる上体をバーの上まで一気に引き上げるハードな懸垂を連続して50回以上行える他、仰向けの姿勢から手も反動も使わずキョンシーの如くブリッジ起立するヨガの奥義「ニラランバ・プールナ・チャクラアーサナ」を1分間で20回以上連続で行える。

そして極め付けは腕たせ伏せを200回行っても心拍数が変わらないと言う点だが、その心拍数そのものが30回/分というまるでクジラ並みの強さだ。


これらは人が自らの意思で動かして居る筋肉は表面筋だけで、他の部分の動きは無意識下に置いてコントロールされているのだが、そのコアとなる骨とそれと繋がるインナーマッスルまでもがテーピング模様によって同時に強化されたことで一気に身体操作能力が上がった為だと思われる。


そしてこの5ヶ月の間に俺の身体は身長で3センチ、体重は10キロ増えており、現在では身長180センチ、股下90センチ、リーチ190センチ、首回り50センチ、胸囲110センチ、体重80キロに体脂肪率10%で、あばら周りの前鋸筋や腰周りの腹斜筋などがみっちり付いており、また肩から背中に掛けての隆起はまるで巨大なサソリを思わせ、その鎧の様な筋肉はジムなどで人工的にこしらえたモノとは明らかに次元が違っていた。


二つ目はホテルやクラブ等でブラックライトを浴びると、銀髪や歯が緑に蛍光する奇妙な人になると言う事。


もうそして最後の一つは本来なら人間には無いはずの「陰茎骨」と言われる軟骨が局部に生じたことにある。

この陰茎骨によって最大で長さ20センチを超え、牛乳ビン並の太さにまでなる陰茎をサソリの尾の様に自らの意思で動かす事が出来るようになっていた。

因みに一般にサソリの尾と思われている部分は尾節といい腹部の一部なのだが、俺もまた局部から一種の神経毒を分泌出来る事を自覚していた。

まあこの調子であればサソリ同様に強い放射線にも耐えられそうだが、それを試す機会はそうないだろう。


俺はその原因を武漢市に求めて闇サイトなどで情報を集め始めたが、どうやら武漢市には1950年代より「ウィルス研究所」なる施設が置かれており、そこではコウモリなどを媒介としたウィルス兵器などの研究をしており、更にヤバい事にはウィルス研究所で使った実験動物を研究所員が小遣い稼ぎのために野生動物市場に横流ししている可能性があるという如何にも中国アルアルな暴露ネタに

流石に背筋が寒くなった。


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