284. 意気、投・合!
「豚肉の角煮とビールが最高だったよ」
「俺は純米酒がいい」
「意外にブランデーが合いましたよ」
「わたしはヘデルマタルハ村の赤ワインでいただきました」
「俺は紹興酒だな」
「断然麦焼酎だ」
朝一番からレーヴァ、ミルニル、ハルパ、ミスティル、氷華、鳳蝶丸が角煮に合うお酒論争を繰り広げていた。夕べ皆で酒盛りをして楽しんだんだって。
こうして我が家だけでワイワイおしゃべりするの、久しぶりかも。
「しゅちな、もにょ、しゅちに、食べゆ、飲む、楽しむ、どじょー」
好きなものを好きに食べて、飲んで、楽しんでね♪
「ありがとうな、お嬢」
「姫さんの言う通り、自分の好きなもの飲んで食べれば幸せってことだな」
「うん。おいちい、幸しぇ」
美味しくて好きなものを食べるって幸せだもん。
これからも色々なお酒の組み合わせを試してね。
少しして扉のノックが聞こえた。
中から外への音漏れ防止をしているので、まずは結界を解除する。
「起きていらっしゃいますか?」
「ああ」
「お支度はお済みでしょうか」
「問題ない。入っても大丈夫だ」
ドアの向こうにはピメイスさん。失礼いたしますと言う声と共に扉が開いた。
「朝食のお手伝いを任されました。何かお持ちするものはございますか?」
「いや、特にはない」
では、と案内されたのは昨日の大ホール。
端のほうに大きなテーブルが数台並んでいた。
「こちらにパンケーキなどをお出しくだされば、我らが配膳いたします」
「やちたて、いい。みにゃ、ちたや、出しゅ」
「わかった。お嬢は焼き立てが良いだろうから、人が揃ったら出すと言っている」
「承知しました」
それから飲み物は昨日と同じメニューに、辛口のシャンパーニュ(白)と甘口のワイン(白)を追加します!
「テイスティングしても?」
「ええ。いいですよ」
ミスティルがそれぞれに合ったフルート型と万能型のワイングラスを出すと、ピメイスがグラスをじっと見てからまずシャンパーニュを手に取った。
そしてフルート型のグラスにゆっくり注ぎ、グラスを傾ける。
「黄金色で美しい。長く生きておりますが、泡が出ているワインは初めて見ます」
先ずは色や気泡を確認しているみたい。
次にグラスを軽く回し、香りを堪能。
「華やかで香り高い」
そしてひとくち飲む。
「ほどよい辛さと酸味。気泡で喉ごしが面白い。冷やし方も丁度良く、大変美味なお酒です。パンケーキで甘くなった口内をサッパリしてくれそうです」
次は万能型のワイングラスに白ワイン注ぐ。
「こちらも美しい。気泡は入っていないのですね」
グラスを回し、香りを楽しむ。
「甘めで果物の香りが強い」
ひとくち含み、舌で味わう。
「完熟ぶどうをいただいているかのような甘さ。酸味もほどよく爽やかで、蜂蜜にも合いそうです」
それほど表情には出ていないけれど、ピメイスさん、なんだか楽しそう。
「ありがとうございます。とても豊かな香りでした。こちらはフルトード家から王家に献上された白いワインと同じものでしょうか?」
「ロストロニアンの騎士団長が購入した白ワインと違う種類です」
ミスティルがテイスティングした残りのワインをマジックバッグに仕舞おうとすると、ピメイスさんがスッと止める。
「もし可能であれば、テイスティングしたワインを両方買い取らせていただきたい」
「どじょー」
「?」
「あてた、いい?プエジェント、どーじょ」
「栓を開けたもので良ければ差し上げますとのことです」
ピメイスさんが少しだけ驚いている。
「どうぞ」
ミスティルがコルク栓で蓋をして、残った2本を差し出すと、少しだけ笑みを浮かべた。
「……では遠慮なく。ありがとう存じます」
目も笑っているので、本当の笑顔かな?
ワインとシャンパーニュ、相当気に入ったのね。
あ、闇の気配の精霊ちゃん達が楽しそう。もしかして…酔っているの?
ピメイスさんがテイスティングしている間、給仕の人々がテーブルのセッティングを始めた。そしてその中の1人が私達の方へやって来る。
「飲み物や食べ物の配膳を我々にお任せいただけるでしょうか?」
「あい。よよちく、おねだい、しましゅ」
「皿やグラスなどはこちらで用意する。それを使ってくれ」
「恐れ入ります。使用後はこちらで洗ってお返しいたします」
「いや、洗わなくてもいい。このテーブルの横に箱を置いておくからそこに入れておいてくれ」
使用した食器類は、清浄で綺麗にして私達のお家で使用するか、別の物に再構築する元にするから大丈夫です。
さて支度をすすめますか。
私は用意されたテーブルを清浄し、結界4(立体)を張る。そして結界には防砂・防塵、毒は入らないを付与。
「結界ですか?」
「埃や毒などが入らない結界を張っているんだよ」
「…試してみても?」
ピメイスさんが興味津々で結界の威力(?)を試したいと言って来た。
「どじょー」
私が許可をすると、とても小さくて可愛い香水瓶のようなものを懐から出す。そして迷うことなく結界に手を突っ込んだ。
パシャ………
香水瓶は結界内に入り、透明な液体がピメイスさんの足元に小さく広がった。
「xxxxx…」
ピメイスさんが小声で何かを唱えると液体がジュッという音を立てる。
「なるほど。面白い」
「ギフトアーマイゼの毒だね」
「なんつーもんを仕込んでるんだよ」
「毒は消しました。問題ありません」
レーヴァがニヤリと笑い、氷華が呆れて肩をすくめた。
「ジシュト?」
「ギフトアーマイゼは蟻型で、猛毒を飛ばす危険な魔獣だよ」
ひゃっ!
何で猛毒持ってんの?!そんなもので試さないでよ!
無毒化したっていうけれど、まだ液体残っているってば。
私は急いで[無毒化]の魔法をかけ、清浄で液体を消した。
「この結界は素晴らしい。私も覚えたいですね」
ヴァロさんの食事全部を、結界に通せば安全に提供できると呟いている。
ピメイスさんは物品鑑定持ちでしょう?え?魔獣からも守れる?
フィガロギルマスと方向性は違えど、何かに向かう熱量は一緒だネ☆
ハハッ☆
「研究してみます」
「どじょー」
いつかしれっと結界張ってそう…ってところが、ピメイスさんクオリティ。
こわぃっ。
コホンッ。えー、安全性がわかったところでですね。
各種グラス、ティーカップ、珈琲カップ、取り皿などを用意しちゃいましょう。
個人的な趣味に走るぞ(大暴走)。
お皿は真っ白でエンボスの蔦模様が浮いている、シンプルかつ可憐なデザイン。
ティーカップやティーポット等は某ブランドのワイルドストロベリー。
コーヒーカップ等は某ブランドのブルーオニオン。ドリップポットはホーロー製でアッシュブルーにするんだ♪
ちなみにカップやお皿は全部磁器です。
さてと。
白地エンボスの大皿に焼き立てフワッフワなパンケーキ2枚を再構築。
その他にベーコンや目玉焼き、サラダ、チリコンカン、サルサメヒカーナ、フルーツ各種、ホイップした生クリーム、フルーツソース、チョコレートソース、ジャム等も白地エンボスの平皿や深皿、ボウル等の器を使い、再構築や再構成する。
それらは全て無限収納内で複製し、皆のマジックバッグに入れた。
あっそうだ!バニラやストロベリー、チョコレートアイス、オレンジシャーベットも忘れちゃならないよね!
ステンレス製のアイスクリーム容器にそれぞれを満タンに入れて、アイスクリームディッシャーを用意する。給仕の皆さんにカシャカシャの仕方を教えなくちゃ。
それからアイスクリーム容器には結界4を張り、結界内を-20℃位に設定するよ。
そうそう。飲み物だよね!
基本的には自分で注いでもらうスタイルなので、グラスを用意。
バニラシェイクはすでにグラスに入っている状態で、アイスと同じように結界を張り、結界内は10℃くらいに設定する。シェイク用のスプーンとストローは近くに置くので自由に使ってね。
冷たい飲み物は、薄くならないようにミルクセーキ氷と紅茶氷、珈琲氷を準備。
生クリーム(泡立てなし)と牛乳も忘れずに置いて、甘くしたい場合はシンプルシロップをどうぞ!
もちろん暖かい飲み物にはお砂糖と生クリーム(泡立てなし)、温かい牛乳を使ってね。
結界の準備はしてあるから、食べ物や飲み物、アイスクリーム等は皆さんが来たら出してとお願いして、うん、こんなもんかな。
ふんふん♪
ふんふんふーん♪
楽しいな♪楽しいな♪
私はこういうものを考えて作ったりするのが大好きなんだ♪
鼻歌を歌いながら共有にどんどん入れていく。
「皆さんはご自身の身分を隠す気持ちが本当にあるのですか?」
「どういうことだ?」
「これほどの精霊達が集まったところを私は見たことがありません。我々エルフ族は精霊が見えますし、かなり目立つと思います」
私が機嫌よく歌っていると、精霊達が集まってきて楽しそうに踊る。
なんならピメイスさんを加護する精霊達も私の下へ来て踊りに加わっていた。
エルフさん達には私の周りに集まる精霊達が見えるんだもんね。
目立ちたくないと言いつつ、結果目立っている私。最近気にならなくなってきているのは、それが当たり前の光景になりつつあるから。
もう、受け入れるしかないんだもん。
頻繁にキニシナーーーイ!発動してるよ。
「しょたい、たちゅちて、にゃい。相手、守ゆ」
「お嬢は正体を隠しているわけじゃない。契約するのは話した相手を守るためだ」
「ちなみに、姫の正体を知って相手が困ろうが何だろうが、正直どうだっていいと俺達は思ってるよ」
「ただ、相手が大変な思いをすると主が悲しむので」
レーヴァとミスティルの言う通り、伝説の武器達は人ではないので他人に気遣うという感情が欠けている。【虹の翼】のお姉さん達やギルマス達に協力するのは、私が大切にしているとか、お友達だと言っているから。
極稀に自ら手助けすることもあるけれど、私の敵と認識すれば平然と切り捨てると思う。
でも私はそのままの彼等を受け入れているんだ。
だって根本が人では無いのだから仕方がないもの。
周りの人達を守りたいなら、私が行動し、皆に声がけすれば良いだけだから問題ない。
ピメイスさんは私の家族を怖がるかな?と思い顔を覗く。でも彼の顔色は変わらなかった。
「わかります。他はどうでも良いのです」
「うん。そう」
あ、彼もその部類だった。
ヴァロさんの存在が原点にして頂点!的な人だった。
ミルニルと握手して、他の皆とも何気に意気投合しているよ。
ピメイスさん、我が家のノリと同じだった。びっくり!
でも鳳蝶丸達より盲目的な感じがするから、やっぱりちょっと……。
こわぃっ。
本作をお読みくださり、評価、ブックマーク、いいね、感想をくださりありがとうございます。
とっても嬉しいです♪
誤字報告もありがとうございます。とても助かっております。
これからもどうぞよろしくお願いします。




