279. 突撃!噂のあの人が…
翌朝6時。空が白んでまいりました。
ちょっと早いけれど朝食の支度をします。
今朝のメニューはフンワフワのパンケーキです!
周りの冒険者達はすでに起きていて、軽い食事をしている。
レーヴァがご近所さん(冒険者)のお姉さん達におはようの挨拶をしている、いつもの光景展開中。
「深淵の森はBクラス以上しか入れないって。Cクラス以下は王都周辺の魔獣を討伐して過ごすらしいよ」
「王都、入ゆ、まじゅ、みにゃたった?」
王都入る前に魔獣は見なかったよね?
「俺達が歩いてたから近付かなかったんじゃないか?」
あ、そっか。
私達がいたら一部を除いて大概は近付いてこないよね。
そんなことを話ながら支度をしていると、各テントから皆が出てくる。
「おはようございます」
「わたち、たち、合わしぇて、朝早ちゅ、あにあと」
「俺達に合わせて朝早くにありがとう、と言うことだよ」
「いえいえ。と、言うか眠れませんでしたから……」
お、おう。
今日実家に帰るんだもんね。
美味しい朝食を用意したから沢山食べて元気出してね。
焼きたてのパンケーキは再構築&複写してあって、鳳蝶丸達のマジックバッグに入っている。
テーブルにはバター、生クリーム、メープルシロップ、蜂蜜、フルーツ各種、チョコ・キャラメル・イチゴ・オレンジのソース。
しょっぱい系が良ければ、カリカリベーコン、目玉焼き、サニーレタス&トマト、マヨネーズ、チリコンカン、サルサ・メヒカーナ。
トロトロチーズソースも用意したよ!
牛乳とふるった薄力粉を弱火で温めながら混ぜて、火を止めてからピザ用チーズを入れて溶かすとチーズソース完成!
皆で作ったんだ♪……鍋いっぱい。
どれでも好きなものをトッピングして食べてね♪
飲み物は珈琲や紅茶(温・冷)、ミルクセーキ、バニラシェイクだよ。
周りの冒険者達が、甘い香りに惹かれてチラチラ見ている。
良い匂いを漂わせてごめん。だって食べたかったんだもん。
「今日も豪華ですねえ」
「最高の旅だよ!」
フィガロギルマスとレーネお姉さん、そして他の皆もそれぞれ飲み物を用意している。
「ここに置いておきます。自分で好きな物をのせてください」
「おかわり言って」
ハルパとミルニルがテーブルに人数分のパンケーキを出した。
私はミルクセーキとバター&生クリーム&メイプルシロップ。
それと口直しに苺♪
最初三角に切ったパンケーキを持たせてもらったけれど、フワフワすぎて握り潰してしまう。手についたパンケーキとクリームをちゅっちゅっと吸ったら、顔中クリームだらけになっちゃった。
「フフッ…お口がクリームだらけですよ、主」
「柔らかすぎるからな。俺が口に入れるぜ、姫さん」
「あいっ」
ミスティルに口のまわりや手を拭いてもらって、氷華にパンケーキを口に入れてもらう。
今日はミスティルと氷華。いつも我が家の皆に食べさせてもらう贅沢な私。
「ああ…………羨ましい」
おおっ!ローザお姉さんもイケメン達に食べさせてもらいたいですか?
「私もゆきちゃんに食べ……クッ!」
何かに悶えているお姉さん。
「わかるう。アタシもゆきちゃんにあーんって…ね?」
全員ゆっくり頷く。
レーネお姉さん?それでもって皆?
もう、仕方ないなあ。甘えん坊さんなんだから☆
私は無限収納からフライドポテトを出す。
「あいっあーん」
「えっ」
「あーん、ちて、ほちい?」
「食べさせて欲しいのだと思ったようですよ?」
はわあ……。
変なため息?と共に口をあける皆さん。
ローザお姉さんのお口にフライドポテトを数本入れると、嬉しそうに食べてくれた。
「いつもの数倍美味しいよ、ゆきちゃん」
「ちょっと違うケド、これはこれで嬉しいね」
レーネお姉さんも喜んでくれた。
ん?食べさせて欲しかったんじゃなくて?
盛大に勘違いをした私。
我が家の皆にまできっちりフライドポテトをあーんしたのだった。
地図がピコン♪
ん?なに?
野営場に入って来た冒険者?でも地図が反応したってことは私達に関係があるんだよね?
「んグッ」
「ギルド長?」
フィガロギルマスが喉を鳴らし急に立ち上がる。
視線の先には昨日の側近さんと私兵らしき人々が5人ほど。
そして先頭を颯爽と歩く女性。
魚鱗の陣の様な陣形?
んー…。インド映画みたいに急に踊りだしても、マイコーみたいにポーウッ!て言いながら踊りだしても驚かない(注:個人的な感想)ような感じでこちらに向かって来る。
先頭を歩く女性は背が高く、髪はオレンジっぽいクセのあるブロンド。
遠目に見ても美人さんってわかる。
少しだけアースィファお姉さん味があって、イメージで言うとアクションもこなす強くて美しいハリウッド女優さん。
腕と胸元に美しい植物文様の刺繍が施されたエレガントな長袖ブラウスは、パフスリーブで袖口がフレアになっている。凄く可愛い!
その上からベスト風のコルセット(お胸ボーン☆)を締めており、乗馬服の様なパンツに黒い編み上げブーツ。
高いヒールてカッカッカッですよ。超絶カッコヨですよ、皆さん!
そのお姉さんが近付いて来て、結界の前で立ち止まる。
「食事中失礼する。私の名はヴァロ・エル・デ・ゼッテンシュート。フィガロの母じゃ」
お姉さんと思ったらお母さんだった!
御母上とその仲間達は結界オッケーにしておこうっと……。
「フィガロが逃げぬうち我が家に連れ行こうと思っての。朝早くすまぬ」
「は、母上………。行く予定でおりましたよ?」
フィガロギルマスが気まずそうな表情を浮かべる。
「皆さん。こちらは私の母、ゼッテンシュート伯爵第五夫人です。それから母の側近ピメイス、そして母の率いる精鋭達です」
我が家以外が立ち上がる。
「母上。こちらは私の同僚で、商業ギルド職員のエレオノールとディリジェンテです」
エレオノールさんとディリジェンテさんが美しい所作で頭を下げた。
「こちらは私の護衛。冒険者クラスSの【虹の翼】です」
お姉さん達は軽く頭を下げた。
「そして私が敬服しております優秀商、サクラフブキの皆さんです」
私達が紹介されると、私のベビーチェアの側に来て片膝を立てるおねえ…お母さん。
「始めましてお嬢さん。私はフィガロの母、ヴァロ。食事中のご無礼、お詫び申し上げる」
「はじめ、まちて」
「我が主ゆき。そして我らは家族であり従者の鳳蝶丸、ミスティル、レーヴァ、ミルニル、氷華。私はハルパと申します」
ヴァロさんが片膝を立てたまま美しく頭を下げた。
「母上。ゆき殿のことをご存じですか?」
「いや。昨日の夜、王家より【サクラフブキ】の小さきお子には敬意をもって接するように、と全貴族にお達しが届いたのじゃ」
王族の行動力、はやっ!
「ソグナトゥスに襲撃され、その時フィガロ達皆が国王陛下をお守りしたこと。それから王族がお嬢さんと魔法契約を交わしたことを耳にしたのう」
おうふっ。すんごい情報通。
「そこでじゃ。私もお嬢さんと契約をしたいと思うての」
「母上。また思い付きで…」
「思い付きではないぞ。面白そうだからだが?」
「父上はご存じなのですか?」
「……………無論」
堂々としたテヘペロ。なんとなくお父さんに言っていない気がするよ……。
面白そうって立派な思い付きだと思う。簡単に契約しちゃっていいの?
話が長くなりそうなので朝食を食べながらにしようよ。まだ食べたりないんだもん。
皆。今テーブルに出ているのは冷めちゃったから回収してね?
あとで共有から移動して、肥料か何かに変換するから無駄にはしないよ。
「はなち、パンテーチ、食べゆう、しゅゆ」
「話が長くなりそうなのでパンケーキを食べながらにしましょう、と主殿が申しております」
「これはすまぬ!配慮にかけておったの。パンケーキとは?皆が食べている食事かや?」
「ええ。極上の朝食ですよ、母上。ゆき殿、母も馳走になって良いのですか?」
「うん、いいよ」
ついでに私兵さんと側近さんもどうぞ。
野営場にこれ以上タープテントを増やせないから、皆寄り添ってギッチギチになるけれど。
2張りのタープテント内でテーブルを寄せ、椅子とテーブルを増やす。
「念のため言っておくが、自分のことは自分でしてもらうのが俺達のルールだ。相手が貴族でも特別扱いはせず給仕もしないので、各自自由に過ごしてくれ」
「!」
側近さんがピクッと反応したけれど、ヴァロさんが手で制す。
「よい。楽しそうじゃ。遠慮なく自由に過ごさせていただく。我が精鋭達もご相伴にあずかってよろしいのか?」
「あいあい。どじょー」
「感謝する。そち等もありがたくいただくと良い」
しかし………。と戸惑う私兵さん達。
「かまわぬ。結界も感じるし問題なかろう」
私兵さん達の心配をよそに、ヴァロさんが座るよう指示を出した。
1つのタープテントに4人がけテーブル4台置き、私達のテントにフィガロギルマスとヴァロさん、商業ギルド組。もう1つのテントに【虹の翼】と私兵さん達。
側近さんは食事を断り、結局ヴァロさんの後に立つ形となった。
温くなったり煮詰まったりしたので飲み物も総取り換えしておく。
飲み物も自分で好きなものを準備するのだとフィガロギルマスが説明すると、ヴァロさんが勢いよく立ち上がった。
「どれ。遠慮なくいただこうか」
「私が説明します、母上」
「うむ。頼む」
側近さんが、飲み物コーナーにサッと近寄り首を縦に振る。
「良い。フィガロが信頼している方々じゃ」
「私も物品鑑定をもっているので問題ないよ」
ヴァロさんとフィガロギルマスが何もしなくて良いと側近さんを下がらせる。
側近さんは黙ってヴァロさんの席の後ろに立った。
「飲み物が行き渡ったところでパンケーキを出すよ。お嬢さんは食事系とデザート系、どちらがいい?」
レーヴァがヴァロさんにしょっぱい系か甘い系かを確認する。
フィガロギルマスもサポートに入り簡単な説明をすると、可能であれば両方いただきたいという答えだった。
食べたいものを食べたいだけ食べて良いけれど、なるべくお残ししないよう自分のお腹に相談してね、と説明する。
「私はこう見えて大食漢じゃ。日頃は…いや茶会では我慢しているがの。良いならどちらもいただこう」
「お嬢さんが大丈夫なら沢山食べて」
レーヴァがパンケーキとカリカリベーコンや目玉焼き、チリコンカン サルサ等新しいものを出す。あとはフィガロギルマスにおまかせね。
「一皿ずつではなく、皿1枚にのせて食するのかや?」
「そうです母上。こちらのピリッとしたソースや豆と一緒に食べても美味しいですよ」
「ほう」
ヴァロさんが嬉しそうに目玉焼きとチリコンカンをお皿にのせ、パンケーキをそれはそれは美しい所作で食べ始める。
初めて食べるはずなのに、躊躇なく上品かつ豪快に食べすすめるヴァロさん。
この躊躇がないところはフィガロギルマスみたいだなあ。……いや、フィガロギルマスが似ているんだった。
そして最後の一口を食べたあと、優雅に微笑むヴァロさん。
「うむ。これほど美味な食事は初めてじゃ。王族とて滅多に口にできまいよ」
「でしょう?ゆき殿ご提供の食事はどれも美味で、私はすっかり虜なのです」
「フィガロが優秀商と認めるわけを理解したぞ」
次は甘いパンケーキ。
「なんと!天上の食べ物のようじゃ」
こちらも気に入ったらしく、クリームやフルーツ、ジャムをタップリつけて平らげる。
「図々しくてすまぬが、もう1皿いただけぬかの?」
相当気に入ったらしくヴァロさんがおかわりをご所望です。今度はメープルシロップとチョコソースに苺を乗せて食べていた。
「ふう……。大変に美味なる朝食であった。神に、そしてお嬢さんに感謝しよう」
「あい。よたった」
私もお腹いっぱいで満足、満足です♪
皆が落ち着いたころに先ほどの件だが、とヴァロさんが話しを切り出した。
「もし可能であれば私と夫。できるならば本日同行の者達も契約をいたしたいのだが、いかがだろうか?」
「んう?」
フィガロお父さんに伝えなくて良いの?っていうか、契約の話にしれっとお父さんも入れちゃって大丈夫?
「私からもお願いいたします。父は確認してからとして……母は問題ございません。異母達は悪気なく騒ぎそうなので、もし請われても私に確認を」
「わたた。ヴアーヨ、しゃん、おとうしゃん」
わかった。ヴァロさんとフィガロパパね?
「もし問題なければピメイスもお願いいたします」
うーん。
ピメイスさんって綺麗だけれど何か怖いんだよねえ。
私が黙っていると、ピメイスさんから夜の気配がする小さな精霊達が飛んできた。教えてあげて、とお願いされているっぽい。
「ピメーシュしゃん、良い、ちと?」
ピメイスさんは良い人?
精霊達に問うと、少し間があってからウンウンと頷く気配を感じる。
「ぁゃちぃ」
私が目を細めると、一生懸命お願いを始める精霊達。
まあ、後ろ暗い仕事もこなしているけれど、それは全てヴァロさんのためってところだろう。
地図を見ると白点。黄色でも赤でも青でもなく白。
ヴァロさんに仇なす者でなければ良いってことだね。
「しいたい、ちと、いいよ」
知りたい人は契約すれば教えてもいいよ。
別に隠してないしね。
「知りたいのなら教えるのはかまわない。ただし契約は必ずしてもらう。契約内容は商業ギルド長に聞いてくれ」
お嬢と俺達の正体を知るには条件がある。
我らを特別扱いしないこと。我らに対し過剰に期待しないこと。お嬢が嫌がることは絶対にしないこと。と鳳蝶丸が説明し、話し合い決めるよう促す。
「検討、感謝する」
ヴァロさんは少しワクワクしながらフィガロギルマスの話を聞き、いたずらっ子みたいな笑顔で大きく頷く。
ピメイスさんは無表情、私兵さん達は苦笑して頷いた。
うん。フィガロギルマスは間違いなくヴァロさんと親子だね。
髪の色や瞳の色は違うけれど、ワクワク顔がそっくりだよ。
契約すると言うことなのでレーヴァが契約書を出しサインをしてもらい、鳳蝶丸が魔法契約する。
その時ピメイスさんが少しだけ目を見開いた。
「ピメイスは魔法契約がかかりにくいのだが、しっかり事を成したのだな」
「ゆき殿達のなすことを弾けるのは……いえ、この先はまた後ほど」
「む?気になるぞ」
フィガロギルマスの言葉にヴァロさんが聞きたそうにしている。
「あとは父に確認をして、それからお話いただければと思います」
「今ここで話をしてはもらえぬのか?」
「何度もお話していただくわけにはいけません。話すならば父と共にお願いいします、母上」
「むう……」
ちょっぴり不満顔のヴァロさん。
格好良いけれど、どこか少女のような愛らしさのある女性だなあ。
「あいわかった。では旦那様に確認をしよう。さあゆくぞ、フィガロ」
「え?」
「え?ではない。そなたはこれから母と過ごすのじゃ」
「いえ、その。私は仕事の途中でして、数日したら出かけなければ…」
「わかっておる。その数日の時間は母におくれ」
なんだかんだ言って、可愛い息子と過ごしたいんだろうなあ。
「各種パーティを調べ尽くしてあるからの!今回こそ、そなたの伴侶を探さねば!」
あ、そっちに振り切っているのね?
フィガロギルマスが悲壮な表情を浮かべている。
が、頑張ってねえ。
「そちらも来よ。優秀商も息子の同僚も護衛も歓迎しよう。パーティも参加すると良い。なに、私も参加するから緊張することはないぞ」
おおふ…。張り切りママン。
「我らは用事があるので、終わったらゼッテンシュート家に寄ります。それまでに他の契約者に意思確認を」
「ううむ、そうであったか。承知した。待っておるぞ。天にも昇るパンケーキを馳走になり心より感謝する。次回は正式に依頼するゆえ、何か提供をしておくれ。ではの!」
ヴァロさんは来た時と同じく魚鱗の陣で冒険者ギルド建物へ歩き出す。
フィガロギルマス達が呆気に取られて固まっていると、どうしたフィガロ、早う行くぞ!と振り向いた。
「支度がありますので、終わったら向かいます」
すると、そうかと言い、ピメイスさんを残して帰って行った。
絶対に連れていくマンが静かに戻ってくる…。ちょっと怖い。
「嵐のような母ですみません」
「だいじょぶ。ももちよい」
面白いから大丈夫。と言うか、身近に似たような人がいるから慣れてるし。
全員がフィガロギルマスをジトーッと見つめる。当の本人は私達が何故見ているのか気付いてない様子だけれどね。
フィガロ君、君はお母さんにそっくりだよ!
「…覚悟を決めなくてはなりませんね。さあ、早急に支度をしてまいりましょう。泊まることになるでしょうから身の回りの物はお持ちください。野営場は解約しますか?」
「いや、俺達はここに泊まるから解約せんでいい。テントもこのままで。連絡があれば共有に手紙を入れてくれ」
「承知しました」
私達以外は荷物を急いでまとめ、ピメイスさんと一緒に野営場をあとにする。
はあ…おおごとだった………。
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誤字報告もありがとうございます。とても助かっております。
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