275. モッカ団長は飛び出せGO!しない
あー。
ここでお節介をしたくなるんだよなあ、私。
フィガロギルマスも同じ気持ちだったようで、私の元へ急ぎやって来る。
「ゆき殿。差し支えなければ同乗を願いたく」
「いいよ。王都、行ちゅ、いい?」
王都に行くことになるけれどいいの?
「はい。致し方ありません。モッカ殿。遅くとも2日ほどで王都に帰る方法があったら我らと共に行きますか?」
「そ、そのような方法が?…いえ、ゆき殿がいらっしゃる時点で可能なのでしょうね」
モッカ団長は良い笑顔で頷いた。
「何か条件はございますか?」
「うん、あゆ」
私はワイヤレス通信にそっと魔力を流し、レーヴァ達を呼ぶ。
皆が急ピッチで回収する間、フィガロギルマスとモッカ団長と私で話をした。
「ちにあい、にゃにょ?」
「知り合いですか?」
「ええ。私の実家とモッカ殿のご実家に縁があって、私達も子の頃から付き合いがあるのです」
「このまま王都へご一緒できれば、フィガロ殿のご家族はお喜びになるでしょう」
「いえいえ、モッカ殿。できれば我が家の関係者に私のことを内密にしていただきたいんですが…」
真剣な表情のフィガロギルマス。モッカ団長の顔が微妙に引きつっているよ
「……………フィガロ殿。ゼッテンシュート伯爵夫人には逆らえません」
「ですよねえ……」
半泣きのフィガロギルマス。ハハハと乾いた笑いを漏らすモッカ団長。
な、なんか猛烈なご婦人がいるらしい。…ゴクリ。
「ソグナトゥスの回収が終わったぜ」
皆が戻ってきたので状況を簡単に説明する。皆は私が良ければ問題ないと承諾してくれた。
ミルニルにはハルパが説明すると桜吹雪号に戻っていった。
ハルパが戻るまでの間、私は広範囲の清浄をし、草が倒れていたり土が抉れていたりすること以外何も無かったかの様に綺麗にしておくよ。
うん、さっぱり!
「エチュ、おねしゃん、だいじょぶ?」
エクレールお姉さんは王都に行っても大丈夫?
「ええ。私は問題ありませんわ」
エクレールお姉さんのご実家は辺境伯領で、国と領地を守護するため滅多に王都には来ないんだって。王都にタウンハウスはあるけれど、お父上は社交シーズンに来られないこともあるくらいなんだって。
王都出身のフィガロギルマスはお見合いパーリーになりそうだね!
ガンバ☆
「主はこちらへ」
「あい」
私はミスティル抱っこになり、乗車条件は鳳蝶丸が説明することになった。
「早く帰ることが出来るかどうかだが…」
王都へ安全かつ早く戻る手段はある。
連れていける人数は7名。
その方法をあちらこちらで話されても困るので、内容を話せなくなる魔法契約をして欲しい。
魔法契約の内容は商業ギルド長に聞くと良い。
それから王族だからと言って面倒は見られない。
自分のことは自分でしてもらう。
「俺達もそろそろ出発したい。なるべく早く決めてくれ」
ロストロニアン側で話をつけ、鳳蝶丸に返事をするよう促す。
「お伺いしても良いですか?」
「ああ」
王様と男性(側近さん?)とモッカ団長で話をし、まずはモッカ団長が魔法契約して馬車(と皆さんは思っている)を見学、国王陛下はその後決めるというのは可能ですか?と聞かれる。
「疑っているわけではありませんが、目に見えぬ不可思議で未知なる馬車です。どうかお許しいただきたい」
ゆき殿にはご無礼をしてしまい、申し訳ありません。と、モッカ団長が頭を下げる。
「いいよ。おうじょちゅ、ちたたなち」
王族なので万が一を考えるのは当たり前だし、気にしてないよ。
「わかった。魔法契約をしたら俺が案内する」
モッカ団長にサインを貰って魔法契約完了。鳳蝶丸が案内する。
私はそっと結界入場許可を施した。
何も無い草原に歩いていく2人がすうっと消えた姿を見て驚く王様達。
結界許可のある私達には桜吹雪号が見えているんだけれど、その他の人には隠匿と気配遮断で車が見えていないからね。
暫くして物凄い勢いで競歩するモッカ団長が結界の外までやって来た。
そして立ち止まるり、はあぁと空気を吐きつつ膝をつく。
あれっ?いつもの飛び出せGO!は?
「いかがした!フルトード!」
王様や騎士さん達が慌てると、手で大丈夫と合図するモッカ団長。
「素晴らしすぎて腰を抜かしました」
「素晴らしすぎて?」
「はい、とても。ゆき殿、簡単な説明の許可をいただけませんか?」
「わたた。いいよ。鳳蝶まゆ、おねだい、しましゅ」
「ああ。結界で見えないようにしているが、中に車、馬のいない馬車のような乗り物が隠れている」
「詳しくは言えませんが、とにかく素晴らしく、鳳蝶丸殿のおっしゃる通り乗り物がございます。速さは分かりませんが、ゆき殿の御業で動くのでしょうから間違いないと思われます」
「騎士団長を除き、残る座席はあと6席。決まったら俺に声をかけてくれ」
「わかりました」
暫くしてモッカ団長がやってくる。
乗車は王族5名、王妃殿下の侍女が1人、そしてモッカ団長に決定したそう。
他の騎士さん達は副団長が率い、国境門で早馬の騎士さん達と合流し、王都に向かうらしい。
「ヒナヨ、ギユマシュ。王都、何日?」
「そうですね。ここからだと馬車で12日弱です。野営しながらですともう少しかかります」
「やしゅみ、しゅゆ。1日、しゅとち、ちゅやい?馬、とわえた、馬車。ちち、しゃん、日にち、ひやちゅ、ねえ」
「休みながら行くと、1日と数時間ぐらいです。馬と壊れた馬車と共だと騎士達の帰還日数と我々の到着日が開きすぎます、と言っています」
「だが壊れた馬車や荷を預かり車を増やしたとしても、騎士を乗せきれん。どうする?お嬢」
「うーん……っ!よちっ、こうしゅゆ!」
はいっ走っておりますよう。
王様達が桜吹雪号に乗った途端飛び出すとか定番の儀式を終えて、車は街道をひた走っております。
騎士達?
もちろん運んでおりますよ?
時間は少し遡り………。
まず壊れた馬車やその他荷物等は、全部氷華の行商用マジックバッグに入れてもらった。
次に魔法創造で魔法を2つ作る。
[連結]
指定したものとものを連結させ、動力となるものに連なって動くようになる。
イメージは電車などの連結部。
連結魔法は目に見えない。
「物」としなかったのは、時間のある時に某有名ゲームクエストみたいにクイックイッと曲がりながら歩いて遊びたいからですっ。
フヒヒッ☆
[ルームランナー]
結界に付与すると、ルームランナーのベルト部分みたいに結界が動く。
速度は対象の速度に合わせる。
車移動で運動不足の時も使えるよね♪
次に結界4で大きな長方形の箱を作る。
結界には隠匿と気配遮断、30分に1回清浄、全攻撃防御を付与。
箱と箱は連結魔法で繋げ、先頭は桜吹雪号の結界1と連結させる。
あと連結した前の結界と同じ方向について行くようゴリ押し神力も付与しちゃいました。カーブのところで変な方向へ滑ってしまってもいけないしね!
ちなみに騎士さん達は魔法契約していないので、桜吹雪号が見えません。
その結界には騎乗の騎士さん達に入ってもらう。
キツキツは良くないので結界はそれぞれ20騎ずつに分けて、馬も人も結界から出ないにしておく。
次にお馬さんに結界6<通常/ただし底から3cm>をかけ、体の下に結界が構築されるようにする。そしてルームランナー魔法を付与し、歩き出したり走ったりしても、その場から先に進まないようにする。
お馬さんが結界に激突して怪我をしないようにね!
浮遊[流動]で箱結界50cm上げる。
浮遊にしているから重さはほぼなく、走り出しと停止時以外は桜吹雪号に負担がかからない、と思う…たぶん。
車魔石の使用魔力が増えても、私が充填すればいいしね。
モッカ団長には騎士さん達に結界内では自由にして良いと伝えてもらう。
ただしお馬さんが歩いても綱を引かず、好きなようにさせてあげてね。
「このまま陛下に随行することとなる。動き出しても騒がないように」
「ハッ」
「気付いていると思うが今いる場所は結界の中だ。結界内では自由にして良いとのことだが不測の事態に備え、直ぐに行動出来るよう準備せよ」
「ハッ」
流石エルフさん達。ヘンテコリンなことになってもスンとおすまし顔で静か。
私の結界にもお気付きなのね?愛情以外は冷静で助かりますっ!
それから車をもう1台複製し、桜吹雪2号を用意する。
我が家は3人ずつ、ミルニル、ハルパ、レーヴァ1号車、鳳蝶丸、ミスティル、氷華2号車に分かれた。
最初桜吹雪号1台で行こうと思っていたんだけれど、よくよく考えたら側近さんや従者さん達、御者さん達がいた。
結界に入ってもらって運んでもいいんだけれど、流石に人だけそのまま運ぶのはちょっと………と思い、車をもう1台増やすことにしたんだ。魔法契約してもいいよ、と言う人だけ桜吹雪号に乗車すればいいんじゃないかな。
話し合いの結果、1号車には我が家の3人と私、モッカ団長、王族5人、側近さん、従者さん、侍女さん達計8人。
2号車には我が家の3人、フィガロギルマス達3人、【虹の翼】のお姉さん達5人、残りの従者さんや侍女さん10人が乗車することに決定。
2号車は連結魔法なしで、しばらくは殿を走る予定です。
馬と一緒にいたいと言う御者さんと、契約拒否をしたその他の人達は、増やした列車結界に直乗りしてもらう。椅子とテーブルを用意したからいいよね?
………透明の結界の中で椅子に座っている人がいるって、なかなかにシュール。
「じゃ、しゅっぱーちゅ!」
「了解」
ミルニル運転で走り出す。
結界列車を引っ張っているけれど思ったより衝撃はなく、スムーズに走り出した。
〚後ろも動き出した。騎士達は落ち着いている。馬が同じ場所を走っていて面白い〛
2号車の鳳蝶丸からワイヤレス通信で連絡が入る。
ルームランナーはちゃんと機能しているみたい。そして騎士の皆さんが冷静で良かった♪
というわけで、全員連れているのだ!ドヤア……。
人の往来が少ないことをいいことに、電車みたいに連結した結界はひた走る。
騎士さん達は桜吹雪号が見えないけれど、こちらからは結界列車を見ることができる。
結界列車ってなかなか面白い光景だね。世界一長い貨物列車をちょっと思い出しちゃう。あれは約200両だっけ?こちらは桜吹雪号を入れて9両編成だよ。
隠匿&気配遮断中だからもし道行く人がいても見えないけれど、ぶつかったら大ごとなので慎重にお願いしますね、伝説の武器の皆さん。
30分ほどで国境門近くに到着。
桜吹雪号も結界列車も見られるわけにはいかないので、ここからは徒歩で向かう。
「こんなに早く到着するとは驚愕だ」
「ええ、父上。馬車であればかなり時間がかかる距離です」
うんうん。
スピードを上げればもっと早く到着できたんだよ。
結界列車のお馬さんと騎士さん達が怖いだろうとスピードを落としているからね。
王妃様やお姫様を重いドレスで歩かせるのは可哀想なので、壊れていない侍従さん達の馬車を出して乗車してもらう。
「我らも歩くぞ」
「はいっ、父上」
「陛下。こちらの馬で……」
「いや、良い。徒歩で行く。ゆき様が騎乗されぬのに、馬で行くわけにも行くまい」
騎士さん達が自分達の馬に乗るようにと言われたけれど、王様は歩くことに決めたみたい。
「主はわたしの抱っこですよ」
「あいっ」
私はミスティル抱っこで楽ちんだし、気を使わなくていいよ?
「ありがとう存じます。しかしながら、体を動かさぬと鈍ってしまうゆえ、共に歩きます」
「しょう?じゃ、行こう!」
私達旅行組と王様、王子様2名、モッカ団長、数人の騎士さんは徒歩。
ドレスの女性陣と侍女さん達は馬車、騎士さん達は騎馬でゆっくり進む。
なんだかちょっと変な構図だね?フフッ。
「早馬で国境門に向かった者達と合流し、報告状況を確認。直ぐに出発でよろしいですか?」
「あい。門、はなえゆ。おしょい、おひゆ」
「門を離れたら遅いお昼にするそうです」
「わかりました」
モッカ団長と相談し、国境門には最低限の滞在にし、すぐに出発することにした。
よしっ。国境門で身分証の商業ギルドカードをだすぞ!
こんにちはするぞ!