273. ですよねえ☆
王都を出て人の気配が遠のいてから桜吹雪号に乗り込む。
「やっぱり快適ですねええ」
私も討伐の腕に自信がありますよ!とのことで、助手席後ろに陣取ったフィガロギルマス。ウッキウキで運転席を凝視していた。
本日の運転は氷華。助手席はミルニルです。
「発車するぞー」
エンジンをかけ、モニターでタイヤ付近を確認。
桜吹雪号は滑らかに発進した。
「このままロストロニアン王国へ向かい、数日かけてカゼアリア共和国、ペスケーラ王国を突っ切り海辺に出る予定だ。途中、あちらこちらに寄るから何週間かかかると思うぜ」
「ロストロニアン王国では王都に寄る予定」
氷華とミルニルの説明にピクリと反応するフィガロギルマス。あれ?
でもロストロニアン王国はフィガロギルマスとエクレールお姉さんの出身国だよね?
「ギユマシュ、おねしゃん、じった、よゆ?」
「2人の実家に寄りますか?」
今日はハルパ通訳です。
「いえっ、寄りません。皆さんと一緒にいます」
「私も寄りませんわ」
何故か拒否をする2人。
「いいの?」
「はい。帰ると引っ捕まってお見合いだのお茶会だのパーティだのに出席させられます。面倒なので帰りたくありません」
「私もです」
2人の話によると……。
エルフの皆さんは静かで無表情なイメージがあるけれど(調査隊の時、モッカ団長とピリカお姉さん以外のイメージ)、恋愛には情熱的で恋多き種族。
跡継ぎの出生率を上げるためでもあるけれど、基本、愛情に超あっつい魂を持っているんだって。
でもその中には恋愛よりも他に愛する何かを持つ、恋人や結婚に興味の薄いエルフもいる。
そう、希少品を愛するフィガロギルマスや、冒険者の仕事に情熱を注ぐエクレールお姉さんのように……。
「私には6人の婚約者候補がおりましたのよ。そのまま結婚するのが嫌で、両親の隙をついて飛び出しましたの。今は家族と連絡を取り合っておりますが、帰ったらどうなるのか…想像が容易いですわ」
「私も滞在の短い期間でお見合い三昧になりそうです。恐ろしい………」
2人とも青い顔で震えている。
た、大変だね。2人が自分の描いている自由な人生を歩めますように!
と、言うことで、エクレールお姉さんのお父さんが治める伯爵領と、フィガロギルマスの家族がいる王都に行くのは中止となった。
私は特にこだわりは無いからそれでいいよ。その代わりどこか大きめの領都や小さな町で観光したいな。
提案したら皆もそれでいいって。
「美味しい木の実が採れる町があるし、花の美しい村もあります。そこに寄ってみませんか?」
「わあ、しょと、いちたい!」
わあ、そこ行きたい!
美味しい木の実の町に行って、沢山仕入れたいなあ。それで木の実のケーキやキャラメルタルト、木の実のクッキー、フロランタンを作りたい。
「どうした、お嬢。顔が緩んでるぞ」
「何か美味しい物を想像しましたか?では木の実の町に行きましょうね」
鳳蝶丸とミスティルにはバレバレだね!
行かない先を決定し、草原を走らせること約1日。
タープテントを出してお昼を食べたりしながら野営地近くに到着。車を仕舞って歩き、その日は野営地に泊まった。
翌日、野営地から少し離れたところで再び乗車する。
本日の運転手はミルニル、助手席はハルパ、私のそばにいるのはレーヴァです。
「通常、ラ・フェリローラルの王都からここまで数日かかります。本当に凄いですねえ」
「こんなに楽な護衛、初めて」
フィガロギルマスは感心しきり、レーネお姉さんはちょっと嬉しそうだった。
走ることしばし。
はるか向こう、微かに森らしき場所が見えたところで、私の地図がピコン♪と展開した。
「ん?」
「………」
と同時に我が家の皆が反応する。
「襲われてる」
「そうですね」
団体が団体に追いかけられていた。
片方は青点も混じり、片方は赤点。
赤点をタップしてみたらソグナトゥスと表示された。
ソグナトゥスってラ・フェリローラル王都近くの森にいた凶暴な魔獣じゃなかったっけ?
皆が回収したのを見たけれど、ちょっと恐竜みたいな、某恐竜公園に出てたヴェロキラプトルっぽい感じの魔獣。
わあ!そんな凶暴な魔獣に青点が襲われてる!
「魔獣、おしょわえ、てゆ。たしゅてて、良い?」
一応フィガロギルマスに声がけする。
「もちろんです!」
「うん、了解」
ミルニルがニヤリと笑った。
「誰のからいく?」
「ミルニルで良いのでは?」
「ありがと」
ん?ん?何の会話?
ミルニルがシガーソケット辺りのボタンを押すとパカッと蓋が開き、そこにマジックバッグから取り出した黄色い八角柱の魔石(?)を突っ込む。
「行くよ」
「シートベルトをしっかり締め、席横の棚にある手摺に掴まってください」
え?いつの間に?
本当だ。いつの間にか棚に手摺がついている!
皆が手摺に手を置くと、ミルニルが何かを動かした。
ん?何したんだろう?
「わああぁぁぁ!」
その途端、戦闘場所に猛スピードで近付いて行く桜吹雪号。
「おもちよおぉぉぉい!」
「面白いぃぃぃ?」
私が喜んでいると、ディリジェンテさんが真っ青な顔で叫んでいた。
車は揺れることなく滑らかに猛スピードで走る。
「結構な群だな」
「思ってたより多いね」
鳳蝶丸とレーヴァが窓の外を見ながら笑う。
目視できる距離に入ると、ソグナトゥスの大群が数台の馬車と騎士団を囲み攻撃しているのがわかった。
「200くらいか?」
「もっと多そうです」
氷華もミスティルもちょいワクワク顔。
「一段落したら速度を落とします。扉を開けるので狩りの準備をしてください」
ハルパの言葉に我が家の皆が浮足立つ。
「ハルパ、ミルニル。お嬢を頼む」
「任せてください」
車には2人が残るらしい。
鳳蝶丸にベビーシートごと運ばれて、ローザお姉さんが座っていた運転席後ろの席に固定される。
「私らも出る。ミムミム、レーネは残って護衛を頼む」
「ん」
「了解」
ローザお姉さん達は戦闘準備を始めた。
このスピードでバランスを崩さず立てるって、お姉さん達、流石だね!
「では私もヤりますか」
「ギルド長!」
「貴方は護衛対象なんだけど?」
ディリジェンテさんとローザお姉さんが止めている。
でも「たまに動かないと鈍りますから」と、ヤる気満々なフィガロギルマス。
「これでも冒険者クラスSほどの腕前なんですよ?」
「んじゃ、いいか」
引き止めもしない氷華と我が家の皆。
ギルマスが怪我しないようにね?と言うと、もちろんとレーヴァが笑顔で答える。ほ、本当に大丈夫?
皆に結界3張っとこっ。
「射程距離に入った」
「さあ、お試し攻撃の時間です。対象ソグナトゥス」
「てーっ」
何とも冷静な掛け声とともに、ミルニルがレバーを引いてボタンをポチッとな、する。
バスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバスバス……
「あっ、とんでゃ」
乾いたような音がして、車の上から鋭い槍のようなものが飛んでいく。
ちょっ!待って?騎士団さんもいるよ!
「大丈夫。追尾機能付きだから」
「対象のソグナトゥスにしか刺さりません」
勢いで弾き飛ばされ転がったり、槍と共に地に突き刺さるソグナトゥス達。
「追尾、上手くいってる」
直ぐに第2弾を飛ばすミルニル。
よく見ると、鋭い槍は岩で出来ているようだった。
第3弾、第4弾も飛ばし、遠隔攻撃を続けるミルニル。
カチッ
「あ」
でも第5弾は飛ぶことがなかった。
「4回が限度」
「交換します」
そう言うと、ハルパが持っていた八角柱を交換する。
今度は深緑色。黄色かった八角柱はほぼ透明になっていた。
「これ、預けておくよ」
「わかりました」
レーヴァ、氷華、ミスティルも前方へやってくる。
そしてレーヴァは赤、鳳蝶丸は群青色、ミスティルは桃色、氷華は白色の八角柱をハルパに預けていた。
八角柱は謎槍の源?
「そろそろ減速する」
フィガロギルマスとローザ、リンダ、エクレールお姉さんも前方に集まる。
「あんだけの大群初めて見た」
「何頭仕留められるか賭けとく?」
ローザお姉さんとリンダお姉さんが不敵に笑う。
「私が1番ですわ」
「いやいや。私だって負けませんよ!滅多に手に入らないソグナトゥスの素材!」
フィガロギルマスはやはりそっちに傾くのね?
やがて車は減速し、鳳蝶丸と氷華がスライドドアを開け放つ。
「このまま行く。旦那らは止まってからにするか?」
「問題ありませんっ」
鳳蝶丸の言葉にニヤリと笑うフィガロギルマス。
もう、素材のことで頭が一杯のようです。
相手は魔獣だけれど、その……ウチのチームがなんかゴメンね?
たぶんここにいる個体は全滅しちゃうと思うけれど………不運だったってことで。
鳳蝶丸、レーヴァ、氷華、ミスティルが走る車から飛び降りた。
フィガロギルマス、ローザ、リンダ、エクレールお姉さんも続く。
そして華麗に着地をする桜吹雪号の面々。カッコイイ!
でも、地球の皆は走る車から飛び降りちゃダメだよ!
ミルニルが再びスピードを上げ、森側にいるソグナトゥスに第5弾を放つ。
今度は細く鋭い針のようなものが飛んでいく。
そして容赦なくソグナトゥスの大軍を屠っていった。
たぶん、最初の八角柱はミルニルの魔力で、今はハルパの魔力を使ったものかな?
この車を作った1人がミルニルだし、うん。
普通の車じゃなくて武器の一種だったよ。
「ぶち、だたや」
「主殿、気付きましたね?」
「そう、武器だから」
武・器・だ・か・ら☆
やっぱりそうだった!




