269. 大騒ぎすぎて出発出来ないっ
交代で乗り回す皆はすっごく楽しそう。
んー、でも結構揺れるなあ。
サスペンションで緩和されているけれど、未舗装の道を走るには地表から3cm設定だとガタガタするね。
「結界に隠匿と気配遮断を付与するつもりなら、もっと浮かせてもいいんじゃないか?」
「うん」
地表に沿うのではなく、地上から50cmくらい上に平らの結界を張って走る感じにすればいいかな。
段差がある場合はスロープみたいにすればいいよね。
一旦エンジンを切ってもらい、すぐに改良する。
再びエンジンをかけるとフワッと浮いた感じがした。少しだけ走らせてみると滑らかで良い感じ。
「うん。揺れない」
「快適ですね、主殿」
もうガタガタしないね!レーヴァ、ハルパ。
「練習、再開する?」
「だな」
ぜひ再開してください。ミルニル、氷華。
「視界が結構高くなるな」
「モニタアを改良していただけます?」
了解ですっ。鳳蝶丸、ミスティル。
運転席にもうひとつ結界4(平面)を増やし、両横と後部に+して前輪近くのモニターも増やす。障害物があってもその上30cm浮くだろうから大丈夫だと思うけれど、念の為足元まで目えるようにしたよ。
「たいてち、ねえ」
「ふふ。眠そうですよ、主」
ガタガタ揺れなくなりとても快適でだんだん眠くなってくる。
ベビーシートに座ったままなのでいつ寝ちゃっても大丈夫だよね?
あっ、大事なこと言い忘れた!
「おしゃて、飲む。運転、ちんしよ」
「えっ!!!」×6名
お酒飲んだときは運転禁止!
飲酒運転、ダメ、絶対!
おはようございます。今日は旅に出る日です。
いつでも帰ってこられるし荷物は無限収納に入っているので、このまま出発します。
「車、持ったか?」
「あいっ」
心配しなくても大丈夫だよ、氷華。
私が無限収納にオリジナル、鳳蝶丸がマジックバッグに複製分を持っているからね。
外に出て飛行し、お庭のガーディアン達に行ってきますの挨拶。
お庭全体がサワサワと揺れる。手を振って送り出しているかのようだった。
「しゅぱーちゅ!」
「出発ですね?」
待ち合わせの場所までミスティル抱っこで飛行です。
門を出てしばらく飛ぶと、旅の仲間8人が待っていた。
「おはよ、ごじゃい、ましゅ」
「わっ」「キャッ」
木陰から飛び出すと、エレオノールさんと初めましてさんが驚く。
驚いた、驚いた。キャッキャッ☆
楽しくて笑っていると、私の前に跪くローザお姉さん。
「おはよう、ゆきちゃん」
そしてヒョイと抱き上げられた。
「おはようございます。今日からよろしくお願いします」
「あい。とちやこしょ」
こちらこそ、よろしくお願いしますフィガロギルマス!
「エレオノールは知っていますよね」
「おはようございます。よろしくお願いいたします」
「おはよ、ごじゃいましゅ」
「こちらはディリジェンテ。ともにフェニチュアへ向かいます」
「おはようございます。商業ギルド職員、ディリジェンテと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「よよちく、おねだい、しましゅ」
ディリジェンテさんは真面目そうなお兄さんだった。
髪はビシッとオールバックの眼鏡男子。雰囲気はクラス委員とか生徒会の会計とか書記って感じ。
「こちや、わたち、たじょちゅ」
「お嬢の家族兼従者だ。俺は鳳蝶丸。ミスティル、レーヴァ、ミルニル、ハルパ、氷華だ」
よろしくと皆が言うと、ディリジェンテさんも礼儀正しく挨拶をした。
うんうん。
これから3、4ヶ月一緒なので、仲良くしよう♪
「ゆきちゃん。今日からしばらくの間、よろしくお願いいたします」
「旅、楽しみだね!ハチャメチャ大歓迎☆」
「凄く楽しそうだから、依頼を受けたよ」
「師匠の技、じっくり見る機会」
こちらこそ、エクレール、レーネ、リンダ、ミムミムお姉さん。よろしくお願いします!
「挨拶も終わったことだし、とにかく移動しようか」
レーヴァの合図で、皆が王都方面に歩き出す。
ここからまず王都に向かう。
本来の旅は、ラ・フェリローラル王国端の港町から船旅となる。各港に寄りながら数カ月かかるんだって。しかもペネスチア王国に入ってから別の港町で船を乗り換え、やっと商業都市フェニチュアに到着するらしい。
大凡ではあるけれど早くて3ヶ月強、通常4ヶ月くらいの旅だそうです。
しかもこの世界には魔獣もいるし足止め食らうこともあり、また命を落とす可能性もある。長距離の旅はとても危険だし、魔獣に遭遇しなくても時間がかかるよねえ。
私達が飛行すれば休憩込みで1、2日、皆を車に乗せて飛んじゃえば2、3日くらいで着く。でも今回はあちらこちらに寄りながら色々な国を突っ切る予定なんだ。
早く到着しすぎても、どうやって来たのか探られそうだし、何より旅を楽しみたいもんね♪
「この辺りで良いのでは?」
「ん。だな」
ハルパと氷華の言葉に皆が足を止める。
ここは王都へ続く街道を少し離れた森の入り口付近。今は人もいないし、ここで話をしようと思います。
テーブルと椅子をサッと出す鳳蝶丸とミルニル。お茶の用意をするミスティル。
見事なまでの連係プレーです。
「?ここで、何を?」
ディリジェンテさんとエレオノールさんが戸惑っている中、迷わず座るフィガロギルマスと【虹の翼】のお姉さん達。
「君等も早く座ってください」
「で、ですがギルド長。いくら浅い場所とは言え、ここは森の中ですよ」
「護衛が強力なので大丈夫です」
ミスティル達がお茶を配りだすと、ディリジェンテさん達も渋々腰を下ろした。
「さて。話を先に進めたい。契約魔法に関して聞いているか?」
「はい。私達3人は了承をしております」
「私達も問題ない」
商業ギルド組も【虹の翼】組も問題ないと言うことで契約書にサインをもらい、鳳蝶丸が魔法陣で契約を結ぶ。
「無事契約が出来た。契約内容は先日話したとおり。契約の試しは後ほど各自で行ってくれ」
「では次から私が諸々説明いたします。正体ですが、主殿は神に仕えし神子、私達はその従者である伝説の武器です」
わあっ、ものっすごく簡素!
ハルパの説明にディリジェンテさんとエレオノールさんだけが完全に固まっている。
「そして私達、特に主殿に対する条件ですが、特別扱いはせず普通の対応でいること。必要以上に期待をしないこと。主殿が嫌だと言うことは即刻止めること」
「もちろんです」
「私達も承知しているよ」
ディリジェンテさん達はまだ固まったまま。
フィガロギルマスと【虹の翼】のお姉さん達は、出会った当初から普通に接してくれているから問題なし。
あと、3ヶ月くらいで必ずフェニチュアに送り届けるので、旅程はこちらに任せること。人の子の常識から外れていても騒がないことなどを説明した。
「ギ、ギ、ギルド長は、その、ご存知だったのですか?」
「色々あって、以前から知っていたよ」
ディリジェンテさんがようやく声を出す。
「腑に落ちました!あのテントと言い、食べ物と言い、お酒と言い……。そういうことだったのですね!」
エレオノールさんは調査隊の時屋台を一緒にやったから、私達の正体をすんなり受け止めたみたい。
そして、ササッと衣服を正す。
「改めまして……御目文字失礼いたします。商業ギルド副ギルド長エレオノール・ディ・シニョリアと申します。御使い様にお会いでき、大変光栄に存じます。以後どうぞよろしくお願い申し上げます」
美しい所作のカーテシーだなあ。
エレオノールさんは私の人となりを多少知っているからか、跪くのではなくカーテシーで挨拶をしてくれた。私はベビーチェアから下りれなかったので、座ったままスカートをちょこんと摘む。
「とちやこしょ、よよちゅちゅ、おねじゃい、ちっち……、まちゅ」
ひゃあ!盛大に噛んだ!
令嬢っぽく華麗に挨拶しようとしたのにカミカミしちゃったよ……。
「副ギルド長。御使い様に対し、不敬では?」
ディリジェンテさんがエレオノールさんを嗜めながら跪こうとしたので、慌てて止める。
「わたち、にだてよ」
「さっきも言った通り、お嬢は特別扱いが苦手だ」
「嫌がることを願う以外、畏まる必要はありません」
「ディリジェンテ君。ゆき殿の願いなのだからそのようにしてください。すみません。彼はとても真面目な性格ですが心根の良い青年です。どうかお許しを」
「うん。だいじょぶ」
そうだろうなあと思ってました。
「よよちく、おねだい、しましゅ」
「あ、改めまして。ディリジェンテ・コントラーダと申します。御使い様にお目通りが叶い、光栄の極みにございます。こちらこそ、どうぞよろしくお願い申し上げます」
少し緊張気味にお辞儀をするディリジェンテさん。
そして「大丈夫だったでしょう?」と言うフィガロギルマスに、ギルド長は砕けすぎなんですよとぼやいていた。
うんうん。苦労しているんだねえ。
「はなち、もどゆ、よてい、またしぇて、くえゆ?」
話は戻るけれど、旅程は任せてくれますか?
「勿論です。私達は数か月後にフェニチュアに到着してさえいれば、あとは問題ありません。というか、すっごく楽しみです」
「通常だと魔獣対策や野営場所を決めるため、旅の行程を知る必要があるけれど…。私達はクライアントの意向に従うよ。と言いつつ、私達も未知なる旅を楽しみにいてる」
商業ギルド組も【虹の翼】組みも快く了承してくれた。
良かったあ!
「あとは、そうだな…。街中では別行動になる可能性もある。その場合ギルマス達の護衛は君らにお願いしたい」
「無論、承知」
冒険者ギルドの依頼を受け、護衛対象者は商業ギルドの3名。もちろん仕事は怠らないよ、とお姉さん達が約束してくれた。
「あとは…そうだな。お嬢のテントがあれば野営時の夜番も必要がない」
「夜番も必要なしって変な感じ…。でもゆきちゃんのテントならば大丈夫なんだろう」
【虹の翼】のお姉さん達は少しだけ困惑していた。
「それと旅に出る前伝えたが、食事とテントはお嬢が提供する」
「とてもありがたい話ですが、本当に良いのですか?」
「問題ない」
オークション参加が本格的に決まった時点で旅程を任せて欲しいこと、食事、テントの提供のことはすでにお知らせしてあった。
本来であれば旅の間の衣服や食料、消耗品などの多くはクライアントが用意しなければならない。移動資金は商業ギルド・総本部から支給されるので諸々を調達するのは問題ない。
問題は荷物の量である。
貸し出したマジックバッグとダガー君、フィガロギルマスとエクレールお姉さんの特殊スキル[アイテムボックス]はあるが、3、4か月分の荷となると流石に商隊を組むなどしなければ難しい。
でも私達から食料と飲料、テントなどを提供してもらえるならば、最低限の荷物で済むからありがたいとのこと。
「貸し出し料はいかほどでしょう?」
商人であるフィガロギルマスとしては、私と借用契約を交わし、お支払いをしたいと言う。
でも私の気ままな旅程に付き合ってもらうんだし、食べることと休む場所に関しては無償提供したい。
「わたち、いちたい、ちゅちあって、もやう。ごあん、テント、むよう、しゅゆ」
「主の行きたい旅路に付き合っていただきます。その代わりに移動手段、食事、テント、シャワーなど水回りの貸し出しは無償とします」
「……。そのお申し出、大いに有り難くお受けいたします。野営地での食事やテントはゆき殿に甘えるとして、そうですね……。…こうしましょう。各地の名物料理やお土産で、ゆき殿が食べたい若しくは欲しいと思った物があればおっしゃってください。私がお支払いします」
おお!それいいね!
もちろん全て無償でいいんだけれど、商人であるフィガロギルマスの矜持があるだろうし、今の案が落としどころってところだろう。
「あにあと!しょえで」
「それで良いそうです」
「はい、ではそれで。旅程に関しては期限内にたどり着ければどこをどう通ってもかまいませんし、楽しそうなので、何処なりともお供します!」
フィガロギルマスとはこれで決定ね。
「ゆきちゃん、とてもありがたいけど私達までいいの?」
「うん。だいじょぶ。お姉しゃん、泊まて」
時々お姉さん達のところで女子限定おしゃべりパーティーをさせてもらえると嬉しいな♪だから無償提供のことは気にしないで。
「ありがとう。改めて、遠慮なくお借りする。旅程も任せるよ」
時々私達のテントでお茶会をしよう。あ、君達は心配しないように。私達が全力で守るからとお姉さん達が笑顔を浮かべる。
鳳蝶丸達は少し困った表情で頷いていた。
たまには伝説の武器達ものんびりした日を過ごさなきゃね?




