263. あれ?なんで私を見るの?
戴冠式当日の朝となりました。
快晴です。そもそもこの辺りに雨は降らないけれど、とにかく快晴です。
「とても可愛らしいね、姫」
「凄くお似合いですよ、主殿」
「主さん、綺麗」
「あにあとっ。みんにゃも、たっといい♪」
昨夜、アースィファさんが部屋まで届けてくれたのはこの国の正装。
数日前にサイズを測ったんだけれど、こんなに早く出来上がるとは。きっとお針子さん達が頑張ってくれたに違いない。ありがとう!
着替えは鳳蝶丸とミスティルがしてくれた。
民族衣裳なのでちょっと時間がかかっちゃった。
白い布とシフォンのような透けている白い生地を使ったお洋服で、銀糸の刺繍が施されている。
「これを頭に着けるそうです」
女の子の正式な衣装としてシフォンのベールを着け、小さなピンで留める。
この衣装は私にプレゼントしてくれるそうです。
とっても綺麗なので嬉しいな♪
鳳蝶丸達6人は同じデザインの白い衣装を着ていて、透けていない白い生地の頭巾を被り、ずれないように白い布製の輪で固定していた。
民族衣裳の皆、滅茶苦茶カッコいいよ!
従者さんから案内された場所はモスクに似た大きい建物だった。
「こちらはメルテール神と創造神の教会にございます」
中は広い講堂のような壁も床も白い部屋。
ところどころシフォンっぽい生地が天井から下がっていた。
真っ直ぐ突き当りには、とても大きな太陽の像と、その下に頭を垂れた稲穂の像があり、祭壇には現存している全ての聖杯と稲穂(多分ドライフラワー的なもの)が供えてある。
そして部屋の真ん中、祭壇の前には真っ白いラグが敷かれてあった。
両脇には椅子がたくさん置かれ、すでに人々が着席している。
おそらく要人の皆さんだろう。それぞれ違う民族衣裳だった。
私達は真ん中をゆっくり歩き、祭壇近くの椅子に座る。
着席していた人々は、一番最後に来た私達を不思議そうに目で追っていた。
私達が着席すると教会の扉が全て開く。
そこには広場で寝泊まりしていたであろう国民の皆さんが立っていて、固唾を飲んで静まり返っていた。
♪〜♪
聖歌隊が厳かに歌い始めると、先頭に……多分現国王と王妃。
次にラエドさん。その後ろには恐らく側妃さん。それからラエドさんの御兄妹と思われる人々が祭壇に向かって歩いてきた。
御兄妹の中にはリーフさん、サラーブさん、アースィファさんもいる。
いや兄妹多っ!
小さい子供も含め、15、6人いるよ。
皆さん公爵一派に軟禁されていたんだね。
ラエドさんが無事勝利して良かった。
現国王と王妃がラエドさんの横に立ち、ラエドさんが跪く。
御兄妹達はその後ろに男性は胡座、女性は片膝を立てて座った。
神父が聖杯に近付き聖杯に似た形の小さなカップを掲げると、他の神父がカップに水を注ぐ。
『あれは城の下に湧く水です。聖水とされていますがそんな効力はありません。ただの地下水ですから』
メルテール様ったら夢も希望も無いことを……。
神父が地下……、聖水をラエドさんの口元に持ってくると、少しだけ口に含んで飲む。
お腹大丈夫?
ハラハラしたのでお水を鑑定。普通に飲用水なのね。……はあ、良かった。
次に神父さんがコップの水を指につけ、ラエドさんの額に何かを書きながら祝詞を始める。
ラ・フェリローラル王国でも聞いた古代語で、今までの国王が引退し新しい国王に代わるから、神よ。どうかお認めください。と言うような内容だった。
次に、神父さんがコップの水を指につけ、現国王と王妃の額に何かを書きながら祝詞を続ける。
貴方達は国王、王妃と言う役目を終えた。今後は新しい国王の力となるように。神はご覧になっている。と言う内容だった。
すると現国王だったラエドさんのお父さんと王妃だったお母さんが跪き、ラエドさんが立ち上がる。
神は貴方を新国王とお認めになるだろう。
健やかにこの国の力となるように。と言う内容を伝えると、ラエドさんが静かに頷く。
『そろそろです』
メルテール様から連絡が来たので、映像を映し出すため結界の神力を送る。
その間にハルパが立ち上がり、ラエドさんのところに歩いて行った。
「小さき神の使いより、そなたに新たなる神器を与える」
ハルパが手をかざすと、大きな魔石剣が姿を現す。
突然出現したので少しどよめく会場。
………マジックバッグから出しただけなんだけれど。
恭しく魔石剣を受け取ったラエドさん。
ゆっくりと鞘から剣を抜き、皆に見えるよう高々と持ち上げた。
「我はこれより国王として、皆を良き国へと導くと約束しよう!」
わあーーー!
あちらこちらから歓声があがる。
要人達も拍手をして新国王を迎え入れた。
『御神子さん、よろしくお願いします』
はいっ、了解です。
この間撮影した映像のプロジェクター魔法を、メルテール様に送る。
まずは稲穂の像がキラキラと輝き出す。
プロジェクター映像を直接当てて、輝いているような演出です。
人々がどよめき、ラエドさんが振り返る。神父さん達は慌てて跪いた。
スクリーン用結界にフワリ映るはメルテールレーヴァ。
またしても凝りに凝ったエフェクトで、輪郭がぼやけ顔は見えず、そしてキラキラと輝いていた。
我が地に住まう子らよ。
これから未来、聖杯を悪しきものごとに使用することを禁じます。
今後は良き世を築くよう努力なさい。
私は皆を見守っておりますよ。
私の口を借りて言葉を紡ぐメルテール様。どこかママ味がある優しい口調だった。
そして、あの違和感を思い出して口と喉付近がモヤモヤする私だった。
神からの映像と声は、サハラタル王国とメルテール様が守る周辺の国々まで届く。
メルテール様のメッセージを聞き、お姿を目撃した皆は跪き祈っている。
それはラ・フェリローラルの時と同じように、驚き、涙し、感動に震えている姿であった。
ラエドさん達は祈りを捧げたあと、私の方に顔を向ける。
ゆ・き・ど・の・?
困惑した表情で、声には出さす唇が動く。
なんで私の顔を見るの?
イタズラじゃないよっ。ちゃんとメルテール様からのメッセージだよっ。
困惑しながらも立ち上がったラエドさん。
深呼吸をして、キリッとした顔つきになる。そして再び魔石剣を掲げると、大きな声で言葉を紡ぐ。
「我が名はラエド・タクス・アミール・サハラタル。尊きメルテール神の御言葉に従い、改めて良き世へ導くことをここに誓おう!国民皆も力添えを!サハラタル王国に住まう我ら一同、創造神ウルトラウス神と豊穣の神メルテール神の見守りしこの地を豊かにし、皆で愛してゆこう!」
うおおおぉぉぉー!
貴族達も、近隣国の要人達も、そして国民も皆喜びの声をあげた。
ようやく戦が終わったんだね。
ラエドさん、リーフさん、サラーブさん、アースィファさん。そして国民の皆さん。心よりお祝い申し上げます。
おめでとう!
無事戴冠式も終わり、食事会開始までの休憩に入りました。
ラエドさん達がなにか言いたそうにこちらを見ていたけれど、側近さん達に促されて次の準備に向かって行く。
私達は晩餐会以外の食事は必要ないと事前にお断りしてあったので、少しの間自由に過ごします。
「ひよば、いちたい」
「広場…平民が寝泊まりしている場所だな?」
「うん」
一旦普段着に着替えたあと、鳳蝶丸達に広場に連れて行って欲しいとお願いする。皆はもちろん行こうと快く引き受けてくれた。
「いぱーい!」
広場には沢山のテントと兵士と国民の皆さんがいた。
皆興奮冷めやらぬ様子で、神の言葉を聞いた!と話している。
「あえ?」
突然地図が開く。
多くの人は白点で、その中に一箇所、青点が固まっていた。
「行ってみるか」
「うん」
青点スポットに行ってみると、なんだか見たことのある顔がチラホラ……。
あっ!マブルクさん!
青点スポットにいたのは、サハルラマルの皆さんでした。
「マブユユ、しゃーん!」
「ん?あっ!ゆき殿!」
街にいた人達も私達に気が付き、嬉しそうに手を振っている。
「だったん、たいたんちち、おめっと」
「国の奪還と戴冠式、おめでとうだそうだ」
「ありがとうございます。皆が心配なく戦えたのはゆき殿のおかげです。心より感謝申し上げます」
「皆、だんばった」
「お嬢は皆で頑張ったからだと言っている」
いやいや、と言いながらも、皆さん笑顔を浮かべていた。
「マブユユ、しゃん、やいしん、しちゅ?」
「貴殿は来賓室に泊まらないのか?」
「はい。お誘いは受けましたが、私は皆とともに滞在したいと辞退しました」
ラエドさんに全面協力したけれど、マブルクさんは元大商人であって貴族ではないからと言うことらしい。
「昼は食べましたかな?皆さんは城の午餐会では?」
「昼はまだだな。晩餐会は出席するが、午餐会は辞退した」
「そうですか。それならば、あちらのテントに軽食が用意されておりますよ」
いえいえ。皆さんのご飯を取るわけには行きません。私達はあとで食べます、と言いつつ、メニューが気になるので覗かせてもらった。
ヨーグルトのサラダ、ひよこ豆料理、クスクス、シシケバブ、タジン鍋、ムサカ、トマトたっぷり野菜スープ…っポイこちらの料理がたくさん並んでいる。美味しそう!
夜は同じメニューにひよこ豆のコロッケとサンドルッフの塩唐揚げ(ハーブの揚げ焼き)、サンドサーモンなどが出るらしい。
ちなみに国賓用の食事は国民用のメニューとほぼ同じだけれど、品質の良い材料で調理されたものだって。
皆さんの昼食を覗いた私。気になるのはムサカとシシケバブかな。
ちょっと食べてみたいなあ。
私がジーッと見ていると、給仕の人が微笑みながら取り分けてくれる。
「あにあと!」
「いえ、どうぞごゆっくり」
マブルクさん達のところへ行って、一緒に食べさせてもらおう。
サハルラマルの街人達も私達のことを覚えていて、皆さん歓迎してくれました。
「おいちいね!」
「飲み物は何が良い?」
「こーひ」
ムサカ風とシシケバブ風を少しずつ口に入れてもらう。
シシケバブ風はちょっぴりお肉にクセがある香辛料を使った肉料理。ムサカ風はベシャメルソース使ってないからムサカとは違ったよ。お肉を野菜で挟んだミルフィーユ的な料理でなかなか美味しかった。
ここにいる皆さんのご飯なのにもらっちゃってごめんなさい。
お礼したほうが良い?
会場責任者さんがどの人か教えてもらい、商業ギルドカードを見せてからお祝いに焼き菓子を提供したいと申し出る。
「ゆっ優秀商のサクラフブキッ!あの、カラアゲの?!」
何故か唐揚げ提供者が私達だと知っている責任者さん。
「ご提供いただいて良いのでしょうか?」
「あいあい」
とても嬉しそうに、テント会場ど真ん中のテーブルを空けてくれました。
いや、ご飯がど真ん中じゃなくていいの?
「もしよろしければ、こちらに」
「了解。用意ができたら並べていく」
「はい。よろしくお願いいたします」
では、用意するよ!
無限収納内で可愛い紙箱(6個入/1箱)を再構築・再構成する。
同じく無限収納内で、日本にいた時作ったバターが香るプレーン、チョコ、バナナ、煮リンゴ、オレンジジャム、イチゴジャムのマフィン6種類を再構築する。
紙のカップは再構成で桜吹雪マークを入れました。
レーヴァの共有に紙箱と複製したマフィンを入れると空いたテーブルに出して手袋をはめ、マフィンを綺麗に並べてくれた。
これで6種類/1箱のマフィンセット完成です。
その間、ミスティルに日持ちしないから1、2日中に食べてねと書いてもらい、箱に入れておく。
マフィンセットはレーヴァのマジックバッグ(共有)に一時仕舞っておいてもらう。
「何人?」
「何人分用意すれば良いかい?」
「はっはい。ここには約500名ほどおります」
了解です。
働いている人を含めて800箱くらいで良いかな?
そして小型の黒板看板に日持ちしない旨をハルパに書いてもらい、テーブル左右に設置。あとはテーブル前にゴミ箱を2つ置いて地面の中まで結界を張り、盗難および転倒防止しておくよ。
会場責任者さんにも文字が読めない人には日持ちのことを伝えて欲しい。
箱がいらない場合は潰してゴミ箱に入れるようお願いする。
「看板とゴミ箱はあとで回収しにくる」
「承知いたしました」
さて。この国の皆さんがマフィンを見たことあるかわからないから、まずは試食してもらおうかな!




